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殿下、何してるんですか!?
4 俺は無防備じゃありません! ※
しおりを挟む「ふぅ」
俺は更衣室で服を着替えて、ほっと息を吐いた。
白い服は濡れたらキスマークが透けて見えるなんて……今度から気を付けよう。
俺は深く心に刻んだ。
……しかし、あのセシル様の反応。あの外見にしては、なんだかすごく初心というか。百戦錬磨みたいな顔しててあんな風に顔を赤くするなんて。まあ俺も人のを見たら、あんな反応になるけど。
俺はセシル様の反応を思い出しながら思った。
でも、セシル様ってノース王国の末子だったよな。なーんか、忘れているような?
そう思ったが、俺はやっぱりこの時も思い出せなかった。
だが俺はこの後、普通に仕事に戻り、あれよあれよと時間は過ぎて夕暮れ時。
「セス、お迎えが来てるぞ」
薬長に言われて、顔を上げると薬科室の出入り口にはレオナルド殿下が待っていた。
「殿下っ!」
「セス、今日はもういいから帰りなさい」
薬長に言われて、俺は「え」と困惑する。だが、薬長は呆れたように俺を見た。
「え、じゃないよ。たまには定時に帰りなさい」
薬長は壁掛け時計を指さした。もう終業時刻だ。
「仕事もほとんど終わりかけているんだろう? あとは私がしておこう。ほら、殿下をお待たせしてはいけないよ」
「すみません」
俺は薬長の言葉に甘えて、珍しく早く上がる事にした。鞄に仕事道具やらを詰めて、すぐに出入り口で待ってくれているレオナルド殿下の元に駆け寄る。
「レオナルド殿下!」
「セス、お疲れ様。早く仕事が終わったから、迎えに来てしまったが……悪かったかな?」
レオナルド殿下は申し訳なさそうに俺に言った。俺はぶんぶんっと顔を横に振って「そんなことありません!」と答えた。
突然な事に驚いたけれど、迎えに来てくれたことは素直に嬉しかった。
「じゃあ、帰ろうか」
「はい」
俺は返事をして、最後に薬長にぺこっと頭を下げて挨拶をしてレオナルド殿下と共に部屋へと向かった。まあ向かうって言っても薬科室は王宮にあるし、レオナルド殿下の部屋は結構近くにあるので歩いて五分もかからないのだが。
けれど歩き出して数歩後、レオナルド殿下が立ち止まった。
「セス」
「はい?」
俺が返事をして顔を上げると、レオナルド殿下は何も言わずに俺の膝を持ち上げるとお姫様抱っこで抱き上げた。
「ひゃわ!! な、なに!?」
俺は驚いて声を上げたが、レオナルド殿下は何も答えずに俺を抱き上げたまま部屋へ向かった。
な、なんだーッ!? と驚いた俺だが、廊下ですれ違う使用人達も驚いた顔をしている。
いや、そんな驚いた顔で見られても、俺も驚いてるから!
心の中で使用人達に語り掛けるが、その内に部屋に着き、レオナルド殿下は俺をベッドの上にそっと下ろしてくれた。
ちらりと視線をレオナルド殿下に向けると、その美しい顔は険しい表情をしていた。
え? なぜ?? 俺、何かしました?
「セス、どうして下着を履いてないのかな?」
「へ? ど、どうしてその事」
わかるの!? 俺がノーパンだって、見た目じゃわからないよなッ?!
俺は服は着替えたが、さすがに下着の替えは置いていなかったので、制服のズボンを直履きしていた。
下着を履いていなくても誰も気が付かないだろ~。と能天気に思っていたが、ここに気付く人物がいるとは……恐るべし、レオナルド殿下の観察眼。
って、感心している場合じゃなかった。下着を履かない趣味があると思われちゃ、困る!
「じ、実は今日、外で作業していたんですけど噴水に落ちちゃって下着も濡れちゃったんです。制服は替えがあったから着替えたんですけど、下着はなくて」
「取りにくればよかっただろう?」
「まあ、そうなんですけど……」
面倒くさかったんだよね。
「面倒くさがったね?」
心を読まれて俺は「うっ」と小さく唸った。そんな俺にレオナルド殿下は呆れたように、小さくため息を吐いた。
「セス、ダメだよ。そんなに無防備にいたら」
「別に無防備なんて」
誰も俺が下着履いてるか履いていないかなんて、どうでもいいと思うけど。……あ、レオナルド殿下はすぐに気が付いたか。
「セスは無防備だよ」
レオナルド殿下はそう言うと、俺の頬にちゅっとキスをした。
「ひゃ」
「ほらね? すぐにキスできてしまう。それにここも……すぐに触れられてしまうよ?」
レオナルド殿下はズボン越しに俺の股間をもみもみ触ってきた。俺はぎゅっと足を閉じたけど、レオナルド殿下はそれでももみもみしてくる。びくっと腰が揺れる。
「んっ、俺っ、むぼ、び、じゃない」
「こんな風に触られてるのに?」
レオナルド殿下はそう言うと、今度は俺の耳に顔を寄せ、事もあろうか耳の中を舐め始めた。ぬるぬるとした舌に耳を責められ、くちゅくちゅした音がいやらしく響く。
「んっ、殿下っ」
「セスは私にこんなにされて、無防備じゃないか」
「そ、れはっ、レオナルド殿下だからっ」
俺は誰でもこんな風に接近を許したりしない。そう言いたかったけれど、レオナルド殿下の舌が俺の耳から離れ、今度はむちゅっと俺の唇を肉厚な唇が塞いだ。
「んっ……」
レオナルド殿下の唇は俺の唇を優しく食むと、ぺろっと舐めて唇を離した。同時に俺の股間からも。
そして鼻先が触れ合う距離で、俺を見つめた。
「レオ、だろ? セス」
ベッドの上ではそう言う約束をしただろ? と言うようにサファイアの瞳が俺を見る。
「ん、レオ……」
綺麗な瞳に吸い込まれそうになる。俺は引き込まれるようにレオナルド殿下に顔を寄せようとしたが、次の言葉で俺の頭は我に返った。
「ところで、どうして噴水に落ちたんだい?」
にこりと笑ってレオナルド殿下に聞かれ、俺は「あ、それは」と口を開こうとした。だが、思い直して口をむぎゅっと閉じる。
だって、これはちょっとした外交問題になってしまうかもしれない。俺ってば、一応、たぶん、いや、名前だけだけど、王族になってしまったから。
他国の王族が、王族に連なってしまった俺を噴水に落としたなんてわかったら……。
「あ、それは、その……俺の不注意で」
「本当に?」
レオナルド殿下が鋭く俺を見てくるけれど、俺はこくこくっと頷いた。
「そう……。でも気を付けてね、セス。セスに何かあったら、私は泣いてしまうよ」
レオナルド殿下は俺の手を握って、その手の甲にキスをした。その瞳には不安がちらついている。俺の事を本当に心配してくれている目だ。
「大丈夫ですよ。レオが心配するような事はないですから」
俺が安心させるように言うと、レオナルド殿下はやっと微笑んでくれた。
「セス、約束だよ?」
「ええ」
俺が頷くとレオナルド殿下は微笑んだまま俺の後頭部に手を回して、そっと顔を寄せた。
あ、キス……。
そう思って目を閉じかけたが、タイミング悪く俺の腹がぐううううううっと大きな声を上げた。
実はあの後、お昼ご飯を食べる時間がなくて俺は昼飯抜きだったのだ。しかし。
ぎゃーーっ! なんでこのタイミングッ!?
「ごめん、お腹が空いたね。夕飯を一緒に摂ろうか」
優しいレオナルド殿下はくすっと笑いながら言い、俺は腹を抱えて「は、はぃっ」と答えた。
うう~、こんなところで鳴るなよ! 俺の腹―っ!
しかし、その翌日から俺は地味な嫌がらせを受けるようになった。
呪いの手紙が俺の仕事机に置かれていたり(随分と拙い字で『リコンしないと、祝ってやる!』と書かれていた。たぶん祝うと呪うを間違えて書いたモノ)
どこからかカエルを投げつけられたり(このカエルはきちんと野生に戻しました)
俺の物がなくなっていたり(俺の穴のあいた靴下。捨てる予定だったので問題なし)
その他もろもろ。
とても地味で微妙な嫌がらせを受けている。
まあ、それが誰なのかはわかっているし、今も影からじっと俺を見ている視線をモロに感じている。
バッと振り返れば、向こうも慌てて隠れるので鬼ごっこをしている気分だ。
……でもなあ、なんだろうな? この感じ……。俺、何か忘れてるような???
俺は首を傾げつつ、それからも日々を過ごした。
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