エルフェニウムの魔人

神谷レイン

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「いや、しかし書類整理もあと少しだし、明日は非番だから今日の内に」
「隊長、やり過ぎるのもいけませんよ。一応、机の上に書類は置いていましたが、後日の採決でも構わないものあったはずです」

 ロニーに言われて、俺はうっと口を閉じる。確かにロニーの言う通り、今日中にしなければいけない書類はもう済ませている。残りはまだ提出に猶予がある書類だ。
 気持ち的には、さっさと片付けてしまいたいが、ちらりとシュリを見れば期待した瞳でこちらを見ている。これは連れて行かなければ、今度こそ拗ねそうだ。

 ……シュリを連れて案内か。まあ仕方ない、後はそうするか。

「わかった、残りは明後日やる。シュリ、行くぞ」

 俺が椅子から立ち上がっていうとシュリは「わーい!」と子供みたいに喜んだ。

「では、僕は処理が終わった書類を各方面に渡してきます。あ、あと隊長。先ほどネイレンさんにケーキを渡してきましたが、少しご機嫌を直されていましたよ」

 ロニーはにっこりと笑って言い、俺は「すまないな」と労った。

「いいえ、これくらい構いませんよ」

 そうロニーは言い、俺が処理した書類を手にし、どの部署に配達しに行く書類なのか確認し始めた。全く優秀な部下だ。

「じゃあ、あとは頼む。シュリ、行こうか」

 俺が声をかけるとロニーは「ごゆっくり」とにこやかに笑って俺とシュリを送り出した。

 そして部屋を出て、食堂に向かってしばらく廊下を歩いていると、黙っていたシュリが唐突に俺に尋ねた。

「なあ、アレクシス。ロニーっていつから補佐官をやってるんだ? まだ若いだろう?」
「ああ。ロニーはまだ十六歳だ。補佐官は一年前からしている」
「一年前? それにしては、なんか手馴れているというか」

 シュリの鋭い指摘に俺は説明を加える。

「ロニーは騎士団に入団する前から、学園に行きながら俺達の手伝いをしていたからな。手馴れて見えるんだろう」
「入団する前?」
「ああ、十三歳からだ」
「ロニー、そんな時からしてるの? なんで?」

 シュリの問いかけに俺は三年前の事を思い出す。
 
「三年前、俺がエルサードと共に定期視察で北の要塞を見に行った時の事だ。北の要塞では、田舎の少年が小間使いをしていた。その少年は気さくで、頭が良かった。ここでこの才能が埋もれてしまうのは勿体ないと、王都に連れてきた。それがロニーだ」
「え? そうなの? でも……ロニーはすぐ補佐官になるって言ったの?」
「最初は勿論、無理だと言われた。自分は子供だし、家族があるから、と。でもロニーを後押ししたのは、家族だった。こんなところで埋もれるより王都で頑張ってこい、とロニーの両親が送り出したんだ」
「へぇー、いい両親だな」
「ああ。それに王都に来ることはロニーにとっていい事ばかりだ。ここで働けばそれなりにいい給金が貰えて家族に仕送りができるし、色々勉強もできる。……まあ、さすがに義務教育が必要な十五歳までは学園に行ってもらって、本格的に補佐官になったのは去年からだけれどな。それでも、今の内から仕事を覚えたいと言って十三の時から俺達の仕事を手伝ってもらっていた」
「なるほどなぁ、いい話だな。……けど、反感も多かったんじゃないか? ロニーは若すぎるし」
「ま、そうだが。能力に年齢は関係ないだろう。それに部隊の補佐官を決めるのは、隊長と副隊長だ。ロニーは仕事をきっちりこなしているし、誰にも文句は言わせん」

 俺がはっきりと言うと、シュリは両手を叩いて「かっこいい!」となぜだか褒めた。当然の事を言ったのだが……。

「ロニーはいい上司を持ったな。しかし偉いなぁ、家族に仕送りか。若いのに感心だぁ」

 シュリはまるでおじいさんのように言った。年齢的には違いないのだろうが、見た目がロニーとあまり変わらないので、年上ぶっているように見えてならない。
 実際は俺よりもずっと年上なのだとわかってはいるけれど。

「でも……思えば、ロニーは一言も才能とか、そんなこと言ってなかったよな? ここにいるのは特技を持ってるからだって」

 シュリは隣を歩く俺を見上げ、問いかけた。その答えを言う前に思わず俺は少し口を曲げた。

「ロニーは自分自身に対しては過小評価なんだ。俺達は才能を評価して補佐官にしたんだが、本人は自分の珍しい特技があったから選んでもらえたんだ、と思い込んでいる。勿論、その面も評価しての補佐官選抜だったんだが……」

 俺は説明しながら、ふぅと息を吐いた。ロニーにもっと才覚があることを気が付かせたかったが、今の俺にはどう教えてやればいいのかわからなかった。
 だが、そんな俺にシュリは言った。

「そうなのか。……でもまあ、意外と自分の事は自分でわからないものさ。自分がどんな能力を持っているかもね。けれど、いつまでも気が付かないではいられない。そう言うもんだろ? ……俺達大人はあーだこーだ言うより、ただ見守っていればいい。一番大事なのは助けを求められたなら、いつでも手を差し伸べれる状況にしておくことだ。それが大人の役目だよ」

 シュリはにっと笑って言い、俺は思わずその場に足を止めた。シュリの言う通りだと思ったから。

 ……やっぱりシュリは、俺より年上なんだな。

 そう思ってシュリを見れば、ちょっと歩いた先で足を止めた俺に振り返り、首を傾げた。

「どーした? アレクシス。早く飯、食いにいこー。俺、お腹すいたっ!」

 なんて子供みたいに言うから、俺は思わず苦笑してしまった。

 ……大人みたいな、それでいて子供みたいな不思議な奴。

「ああ、悪い」

 そう俺は返事をして、シュリに駆け寄った。

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