エルフェニウムの魔人

神谷レイン

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21 食堂

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 ――――それから。
 執務室を出て歩き、俺達は食堂に入った。

 そこには寮と同じぐらいの大きな食堂があり、注文を受けるカウンターの奥には厨房、食事場所には長机と長椅子がずらりと並んでいる。昼食時になるとこの広い食堂が騎士たちで一杯になり、込み合う場所だ。
 まぁ、今はもう昼も過ぎて食堂はガラガラだが。

 ……計画的ではないにしろ時間をずらしてきて正解だったな。騒ぎにならなくて済む。

「アレクシス、ここが食堂なのか?」

 シュリはくいくいっと俺の服を引っ張って言った。

「ああ、そうだ」

 俺が答えるとシュリは興味深そうに「へぇー、寮と同じつくりなんだなぁ」と食堂を見ながら呟いた。昨晩、寮の食堂に連れて行った時もシュリはどこか物珍しそうだった。

 ……五百年前には、これだけ大きな食堂はなかったのかもしれないな。

 そんな事を思っていると、またシュリがくいっと服を引っ張った。

「なあ、アレクシス。今日も部屋に持っていって食べるのか?」

 シュリは首を傾げて俺を見上げて尋ねた。その姿は子供にしか見えない。

「まあ、いつもなら部屋で食べるが。……今回はここで食べるか」

 俺は食堂を見渡し、そう答えた。昼時をすっかり過ぎてしまった為に、ほとんど人がいない。遠くにちらほらっと座っているだけだ。その上、第一部隊の隊長である俺が来た事によって、くつろいでいた数名の騎士達はしゃきっと立ち上がり、仕事に戻るそぶりで食堂を出ていこうとしている。

  ……別に休憩中なら、休憩していて構わないのだが……。まあ少なければ、シュリも落ち着いて食事ができるだろう。

 そう思ったのだが、シュリ本人が落ち着いていなかった。

「わーい! 俺、こんな大きな食堂で食べるの初めて! ななっ、あの窓側の席に座ろー!」

 シュリは俺の服を引っ張って言った。そう言ってはしゃぐ姿はまるっきり子供だ。さっきの大人なシュリはどこに消えたんだ。

「シュリ、わかったから服を引っ張るな。服が伸びる」

 まあ、硬い生地で作られた隊服は本当は伸びはしないのだが、俺が言うとシュリは「あ、ごめん」と謝り、すぐに手を離した。それは怒られた子供そのものだ、やれやれ。

「とりあえず、料理が先だ。シュリはこの三つの中の何を食べたい?」

 俺は三個並べられた見本の定食を見て尋ねた。するとシュリはその中の一つを指さした。

「俺、煮物定食!」

 シュリが指さしたのは、色合いが地味で体に良さそうなどちらかというと若者向けじゃない定食だった。それ以外の二つの定食は、メインが肉炒めや肉の揚げ物で、子供が好きそうなメニューだ。実際、若い騎士に人気があるのはこちらの二つだろう。俺だって肉炒めを頼むつもりだ。

「シュリは野菜が好きなのか?」

 ……シュリは昨日、寮の食堂コックにシチューに入っている肉は少なめに、野菜を多めに入れてくれ、と頼んでいたよな。肉より野菜派なのだろうか?

 そう思ったのだが、シュリは意外な返答をした。

「ん? 肉も好きだよ。でも若い頃にたくさん食べたからな~。今は野菜の方がいいんだ。肉を食べ過ぎると、胃もたれするし」

 まるで年寄りみたいな答えに俺は呆気にとられ、答えたシュリは俺をそっちのけで受付カウンターにいって元気よく注文をした。

 ……なんだか、シュリが本当に大人なのか子供なのかわからなくなってくる。大体若い頃っていつの話だ。今も十分若いだろう。シュリの若いってなんなんだ??

 俺は頭を抱えながら、シュリの後に肉炒め定食を頼んだ。




 その後、頼んだ定食をトレーにのせて、シュリが言った窓側の席に二人で座って食事をし始める。そしてシュリは注文通りの煮物定食を、年寄りとは思えない勢いで昨日と同じようにぱくぱくと食べていく。
 そんな姿を眺めながらゆっくり食べ進めていると、シュリがちらっと俺を見た。

「ん? なんだ? 俺の顔、何かついてるか?」

 シュリは俺がじっと見ている事に気が付いて、食事していた手を止めた。

「いや」

 まさか食べる姿は子供みたいだな、なんて言えなくて言い淀む。でもそんな俺にシュリはおずおずと尋ねてきた。

「なあ、アレクシス。……あのさ、俺と入れ替わりに消えたエルサードってどんな奴なんだ?」
「エルサード……か?」
「ああ、俺と入れ替わりで五百年前に行っちゃった奴。アレクシスとは友達だったんだろ?」
「ああ。だが、どうして急にエルサードの事」
「その……ずっと聞こうと思ってたけど、なかなか聞くタイミングがなかったし。エルサルのせいで俺と入れ替わりに過去に行っちゃったわけだろ? なんか申し訳なくって。まあ、あっちにはエルサルもウィリアもいるから大丈夫だと思うけど」

 シュリはそう俺に告げた。どうやら自分の兄が起こした騒動を申し訳なく思い、俺に聞きにくかったようだ。シュリも巻き込まれた側なのに。

「もし、エルサードの事を心配してるなら、あいつなら大丈夫だ。過去に飛ばされたからって泣くような奴じゃない」

 俺はハッキリと断言した。
 エルサードの事は正直心配だ。でもエルサードは強い。それは幼馴染の俺が一番よく知っている。きっとエルサードなら大丈夫だ。
 でも俺の言い方が悪くて、シュリは口を尖らした。

「悪かったな、未来に飛ばされたぐらいで泣いて」

 シュリはむすぅっと拗ねた顔をした。

「あ、いや、そういう訳で言ったわけじゃ。すまん、言い方が悪かった」

 俺が謝るとシュリは少しは機嫌を直してくれたようだ。

「まあ泣いたのは本当の事だし、いいよ。でもエルサードはアレクシスと付き合いは長いのか? ロニーが言っていた副隊長の事をエルサードって言ってたよな? エルサードも騎士だったのか?」

 シュリに尋ねられ、俺は正直に答えた。
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