エルフェニウムの魔人

神谷レイン

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26 シュリとお話2

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「働いてないよ」

 シュリはあっさりと答えた。

「え? じゃあ、どうやって」
「食べ物もみんなが恵んでくれたし、服とかは友達が作ってくれたり、エルサルがくれるから。それにお前は一人で服を買うなって言われてたし」
「え、でもお金が必要な時もあっただろう」

 俺が尋ねるとシュリは首を横に振った。

「全然。みんなよくしてくれるから困らなかったよ。外にもよく食べに連れてって貰えたし、新しい料理の新作の味見してくれって頼まれたりして。……プレゼントだって俺は魔術しかないから今日見せたような魔術を使うんだけど、いつもみんなそれでいいって。だからお金は持ってなかった。エルサルにお金を持つなって言われてたし。……だから、もしお金を持つようなことがあれば、そう言うのはいつも孤児院に寄付してた。でも、そうしたら今度は子供達がお菓子とか持ってきてくれて……。だから、とりあえず飯と住む場所と服には困ってなかったなぁ~」

 シュリはそう言うと、ずずーっとお茶を飲んだ。
 だが俺はシュリの生き方に驚いてしまった。働かずして生きていけるなんて。

 ……いや、でもシュリならあり得るのかもしれない。シュリの性格を見ていれば、周りが放っておかなかったのだろう。

「じゃあ、ずっとそういう生き方を? 魔術を使って生きていこうと思わなかったのか?」

  俺が尋ねるとシュリは眉間に皺を寄せ、難しい顔をした。

「うーん、それがな。……昔、エルサルが俺の魔力を量って以来、魔術を多用しないようにって禁止されたんだ」

 ……魔術を多用しないように禁止? エルサルが? 一体どうしてそんなことを。

「なんでなんだ?」
「んー? なんか、エルサル曰く。俺の魔力はエルサルよりも上だから、魔術を使いすぎて俺が暴走したら町ひとつが吹っ飛ぶからってー」

 シュリは何でもないように言い、俺は思わず口をぽかんっと開けた。

「マチガフキトブ……。しゅ、シュリはエルサルよりも魔力が上なのか?」
「エルサルが言うにはな。だから、あんまり魔力を使うなって。今日みたいな小さな魔術だったらいいけど大きいのは駄目だって。でもズルいと思わないか? エルサルはバンバン使うのに俺は駄目だって」

 シュリはむすっとしながら言った。魔術を思う存分使えないことに不満を持っているのだろう。
 だが、俺はそんな事よりも重要な事を聞いてしまった、とたらりと汗を流す。

 大魔術師エルサルは色々な魔術式を考案した大天才だったが、エルサルを有名にしたのはその魔力量もあったからだ。文献には、エルサルの魔力量は通常の魔人の二倍の量があったとされている。それは誰にも、今現在、現存している純血種の魔人達にも破られていない記録なのだ。
 それを上回る魔力をシュリが持っているかもしれないの……。俺は未知の生物が目の前にいる気分になってきた。
 けれどシュリは俺の戸惑いに気が付かず、無邪気に尋ねてきた。

「あー、話したらイライラしてきた。もー、俺の話はおしまい! 今度はアレクシスの番だ!」
「俺の?」

 急に話を振られ、俺はぱちくりと目を開ける。

「そ、アレクシスの話!」
「俺の話なんか聞いて楽しいのか?」
「聞きたいから、尋ねてるんだろー? な、アレクシスの家族って、両親であるネイズとアレーナ、弟のネイレンだけなのか?」

 シュリは興味深々の顔で俺に聞いてきた。
 俺の家族の話なんて、聞いて楽しいのだろうか? と思いつつも、聞くだけ聞いて自分は話さないのは、なんだかフェアじゃないような気がして、俺は仕方なく話し始めた。

「いや、ネイレンは結婚してるから義理の妹もいる。弟夫婦のところには子供が二人いて、二歳の女の子と一歳になったばかりの男の子だ」
「えーっ、そうなのか! 可愛いだろうなぁ」

 シュリは子供が好きなのか、目尻を下げて言った。

「まあ、あとは郊外に祖父母が暮らしているぐらいかな」
「へぇ、大家族だな。いいな、そういうの憧れるよ。俺の家族はずっとエルサルだけで、ウィリアが家族になったけど、やっぱり違うからさ。俺も俺の家族が欲しい。アレクシスの家族みたいにでっかい家族!」

 シュリはちょっと寂し気な顔をして言った。シュリは赤ん坊の頃からエルサルが親代わりだと言っていた。だが兄弟だけの家族では、やはりちょっと寂しかったのだろう。
 親の愛情を一心に受けて育った俺にはわからない寂しさだ。

「でも、家族がいるのにアレクシスはどうしてここに住んでいるんだ? ネイズが帰って行ったから、家はそう遠くないんだろう?」
「寮の方が騎士集舎が近いからな」

 シュリに尋ねられて、俺は誤魔化した。本当は違う理由があるのに。

「そうなのか? アレクシスは真面目だなぁ。……でも、そういやアレクシスっていつから騎士をやってるんだ?」
「十五の時に入団して、それ以来ずっとだ。まあ、昔はこんなちゃんとした部屋じゃなかったがな。エルサードと相部屋で、食堂も風呂も共同だった」

 大変だったが懐かしい思い出だ。あの頃は一人部屋なんて与えられなくて、当然食堂も風呂場も共同。
 最初の方はじろじろと見られて大変だった。でも人というのは慣れるもので、時が経てば同期の騎士仲間達にはじろじろと見られることはなくなっていったが。

 しかし、毎年新しい騎士が入ってくるとやはりじろじろと見られるので、今では食堂も風呂場もあまり近寄らない。好奇な目で見られるのも、怖がられるのも嫌だから。

 だが俺はこの時、うっかりと口を滑らしていた。

「え! 風呂も共同であるのか?! もしかして、大きい風呂とか!?」

 シュリは面白そうだ! という興味津々の目で俺を見た。これは危険な目だ。

「あるが……シュリは入ったら駄目だぞ」

 俺がすぐに許可しないと言えば、シュリは「えー!?」と声を上げた。

「どうしてだよ! 共同風呂なんだろ? おっきいお風呂、俺も入ってみたい!」

 子供のように言ったが、俺は昨晩のシュリの体を思い出す。
 体は華奢で腰も細く、乳首はピンク色であそこがない姿は俺じゃなくたって、若い騎士たちの目にはどう考えても毒だ。というか思い出してきただけでも、顔が熱くなってきた。

「駄目だ。今日も大人しくこの部屋の風呂に入るんだ」

 俺は昨日の残像をかき消そうと椅子から立ち上がった。シュリは「むぅー」と頬を膨らませたが、俺は聞かなかった。

「リネン室からタオルをもらってくるから、大人しくしてるんだぞ」

 俺はそれだけ言うと、逃げるようにちょっと慌ただしく部屋を出た。
 そして部屋の外で、はぁーっと大きく息を吐く。

 ……落ち着け、落ち着け。

 そう勝手に体が熱くなる自分に言い聞かせる。
 そして俺はリネン室に新しいタオルを取りに行った。だが、俺はうっかり鍵をし忘れて部屋を出て行ってしまい。

 その事を後で後悔することになる――――。
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