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27 お風呂
しおりを挟むそれから二十分後。
途中、他の部隊の騎士に声をかけられたりして遅くなってしまったが、俺はリネン室で洗われたタオルと、ついでに洗い終わっていた隊服を抱えてようやく部屋に戻った。
「シュリ、先に風呂に入るか? それとも飯にするか?」
俺は部屋のドアを開けて、中に声をかける。だが返事が返ってこない。
はたっと部屋を見渡すとそこにはシュリの姿がない。すんっと匂いを嗅いでも、シュリの匂いがない。
……どこにもいない? どうして……どこに行ったっていうんだ?
俺は疑問に首を傾げるが、すぐにシュリがどこに行ったのか思い当たった。
……まさかっ!!
俺はハッとし、持っていたタオルをバサバサっと床に落とした。
◇◇◇◇
その頃のシュリと言えば、ちょっと迷って見つけた共同の大浴場の脱衣所の中に入っていた。
……おっふろ~、おっふろ~♪
シュリは心の中で歌いながら、肩の高さまである棚の前でぺろっと服を脱いでいた。
棚は区切られ、中には服を入れるカゴと大小のタオルがそれぞれ置いてある。棚はずらりと並び、シュリは一番端の棚を使っていた。周りに人はおらず、後ろは壁だ。気兼ねなく服を脱ぐ。
……アレクシスは入るなって言ってたけど、別にいいよな? ちゃちゃっと入って、さくっと戻ろう。
そうシュリは安易に考え、脱いだ上着をぽいっとカゴの中に入れた。ちょっとした罪悪感がシュリの胸に刺さるが、今は無視する。
……何か言われたら謝ろう。……だって大きな風呂って入ったことないんだもん!
心の中で言い訳をし、そしてズボンを脱ごうとする。でもチクチクと刺さる視線にシュリはようやく気が付いて、ん? と顔を上げて周りを見回した。
すると棚越しに騎士たちが驚いた顔をしたまま、突然現れたシュリを見て固まっている。中途半端に服を脱いだ騎士も、服を脱いで風呂に入ろうとしていた騎士も腰にタオルをつけたまま距離を取って、シュリを見ていた。
……俺って、警戒されてる?
シュリはそう思い、誰かに声をかけようとした。だが誰も視線を合わせようとしない。
……なんだ? 新参者の俺が急に入ってきたからかな?
シュリはそう思って、特に気にも止めずにズボンも脱いだ。そしてすっぽんぽんになったシュリはそのままお風呂に行こうとしたが、みんな腰にタオルを巻いていたので、同じようにタオルを腰に巻いておいた。
……腰に巻くのがマナーかもしれないからな。これでいいだろ!
そして準備ができたシュリは濡れないように長い髪をうまい具合に頭の上に丸めて、ずんずんと大浴場の中に向かう。だがその際、後ろから囁き声が聞こえた。
「おい、本当に入る気か?」
「誰かアレクシス隊長に知らせに行った方が」
その声を聞いてシュリはくるっと振り返った。でも、さっとみんな目を逸らす。
……むむ、なんで俺を見ないんだ? 俺が入っちゃダメなのか?
シュリは一瞬そう思い、遠巻きにいる騎士達をじとっと見る。騎士達は若く十代から二十代と幅広い、みんないい体をしている。鍛えられた胸筋に割れた腹筋、腕の太さはシュリの二倍はありそうだ。
……俺、鍛えてないからかな? 魔人、お断りとか?
ふと考えてみて自分の体を見る。
褐色のまっ平な胸に細い手足、腰の細さなんて女の子みたいだ。でもどっちかというと外見は男寄りだ。だから男風呂に入ったのだが……女風呂の方がよかっただろうか? とシュリは考える。
けれど女風呂に行ったら、脱衣所ですぐに追い出される気がした。
……うーん、両性の難しいところだなぁ。混浴があれば一番いいのに。……俺はどっちでもいいけど、みんなが困るんだよなぁ。
シュリはそう思ったが、混浴はないので仕方がない。
……ま、本当に駄目なら誰かが止めるだろう。このままでいるのも寒いし、さっさと入っちゃおーっと。
結局考えた末、お気楽なシュリはやっぱり気にせず大浴場に入ることにした。
脱衣所と大浴場を隔てるのは、一枚のガラス戸だ。ドアに手をかけ、ガラッと開ける。
すると、すぐにもあもあとした温かい湯気と石鹸の匂いがシュリを襲う。その湯気と匂いにシュリは大きく呼吸をして大浴場の雰囲気を味わった。
……あー、いい匂い。湯気もあったかーい!
シュリはうきうきして、ドアを閉め、中に入る。そして目の前に広がる大きな大浴場を見渡した。
壁側にはいくつものシャワーが付いている洗い場があり、そこには椅子に座った騎士たちが腰を掛けて体を洗っている。そして奥には大きな石造りの浴槽が見えた。
……うわー! あんな大きなお風呂、初めてッ!
シュリは思わず心の中で叫んだ。だがシュリが入ると同時に、シュリの存在に気が付いた騎士たちの視線が一斉にシュリに集まる。
「お、おい! あれ!」
「あれってアレクシス隊長が面倒見てるっていう!」
「こんなところに入ってきていいのか?!」
そんなこそこそ声が聞こえてくる。
なので一瞬、その声を聞いてシュリの足は立ち止まる。だが中に入ったばかりで、すぐ脱衣所に戻るのも嫌だし、目と鼻の先には大きなお風呂がある。
……みんなの視線が気になるけど。ここまで来たら諦めきれない!
だから、シュリは気にしていないフリをして更に奥に入った。
ペタペタッとタイル張りの濡れた床を歩き、人がいない隅の洗い場の椅子に腰を下ろす。そして赤と青のしるしがついた、赤い方の蛇口をひねる。
するとざあああっっと勢いよくシャワーヘッドからお湯が出てきて、体に温かいお湯がかかる。途端、シュリの顔はほわぁっと緩んだ。
……ああ~、気持ちいいなぁ。
シュリはしばらくお湯を楽しんだ後、すぐに洗い場の各所に置かれている石鹸を手に取って泡立てた。そして手で体を洗う。
……さっさと体を洗って、中に入ろう! お風呂が俺を待っているッ!
シュリは心の中で呟き、体をよく洗った後お湯で泡を洗い流すと、良し! と椅子から立ち上がって、数名の騎士が入っている大きな浴槽に向かった。
浴槽は百人は入れそうなぐらい大きなもので、疲れを癒す為かハーブの束がお湯に浮かんでいた。浴槽から匂ういい匂いはこのハーブからしているのだろう。
……んーっいい匂いだなぁ。ハーブのお風呂なんで気持ちよさそう!
シュリはワクワクしながら、そっと足をつけてみる。思ったより熱くなく、程よい温かさにシュリはまたほっと息を吐き、もう片方の足も入れた。
足を入れただけでポカポカと体があったまってくるのを感じ、シュリは期待を胸に、体を温かなお湯の中に沈めようとした。
……こんなおっきな風呂に入るの、初めてだ!
そうお湯に浸かろうと、腰に巻いていたタオルを外そうとした。
だがその瞬間。
「全員、目を瞑れッ!!!!」
びりびりと、怒号のような声が大浴場の中に響いた。
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