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28 お説教
しおりを挟むシュリが部屋から消え、どこに行ったのか気が付いた俺はすぐさま騎士達が使う大浴場へ駆け走った。
大浴場は基本的に夕方から夜、朝の数時間と、寮にいる騎士ならいつでも入っていいことになっている。だが、今の時間は若い騎士たちが入っている時間帯だろう。
若い騎士たちの目にシュリのあの裸が目に入ってしまうのかと、怒りと焦りで俺の足はどんどん加速していく。そして男湯の脱衣所に入り、すぐに声を上げた。
「シュリッ!」
名前を呼んで、脱衣所の中を見渡す。けれど、そこにシュリの姿はない。あるのは俺が来たことに驚いた騎士達の顔だけだ。
「シュリ! いないのか!?」
俺が叫ぶと、騎士の一人が俺に声をかけてくれた。
「あ、あの、アレクシス隊長。例の方なら、今、風呂場の中に……」
若い騎士は俺に告げながら風呂場を指さした。俺は言われた方に視線を向け、ガラス戸の向こう、大浴場にシュリがいるのを確認した。
もうすでに裸になり、腰には心もとなくタオル一枚だけを巻いている。まだ巻いている事にほっと息を吐くが、シュリは風呂の中に片足を入れ、ゆっくりともう一方の足を入れた。
そしてそっと腰に手をかけ、その先の行動を読んだ俺はガラス戸に駆け寄り、すぐさま開けて力いっぱい叫んだ。
「全員、目を瞑れッ!」
俺の怒声は浴室内に反響するように響き、俺の声に驚いた若い騎士達はすぐさま目を瞑って、その場に固まる。
指示にすぐ従ったのは日頃の訓練の賜物だろう。だが、訓練を受けていないシュリだけは目を瞑らず、外したタオルを手に素っ裸のまま俺にそろりっと振り返った。
「あ、アレクシス……」
俺の名前を呼ぶ声は気まずそうだ。まるで悪戯が見つかった子供のように。まあ、当然の反応だろう。
俺は怒りを抱えながらも、近くに置いてある大きいバスタオルをむんずっと手に取り、靴のまま大浴場の中に入った。
シュリはそんな俺を見て風呂から上がり、俺が傍まで寄るとその場に立ち尽くした。
「あー、アレクシス。お、怒ってるぅ?」
俺と目を合わさずにシュリは頬をぽりぽりと掻いて罰悪そうに尋ねた。
ああ、怒っているとも! 俺の言う事を聞かなかったことにな! とでも言ってやりたかったが、今は一刻も早くこの場からシュリを連れ出したかった。
俺は持っていたタオルを広げるとシュリをそのタオルですっぽりと包むと、有無を言わさずに肩にひょいっと担いだ。
「わひゃ! ちょ、ちょっとアレクシスッ!?」
丸太のように担がれたシュリは俺の肩の上で暴れたが、力で俺に敵うはずもない。足だけをバタバタと動かした。
でも俺は無視して、シュリを肩に抱えたまま「皆、目を開けていいぞ」と目を瞑ったままの騎士達に言い、目を開けた騎士達は呆然した顔で俺とシュリを見た。でもそれも無視して、踵を返して大浴場を出る。
脱衣所にいた騎士たちは心配げに俺とシュリに視線を向けたが、俺は「邪魔した。悪かったな」と一言言うと、すぐに脱衣所を出た。
それからはぎゃーぎゃー騒ぐシュリを肩に担いだまま部屋に戻り、部屋の鍵をしっかりかけるとシュリをソファの上に下ろした。
シュリは肩から下ろされた事でようやくほっとしたのか、騒いでいた口を閉じた。でも暴れたせいか、頭の上でまとめていた髪がすっかりほどけ、華奢な肩に滑り落ちていた。
「あんな運び方されたの初めてだ。俺、ちゃんと歩けるのに。……アレクシス、怒ってるのか? 悪かったよ、勝手に入りに行って。でも、別になんともなかったぞ。……あともうちょっとで、お湯に浸かれたのに」
シュリは謝りながらも、あまり反省していないようだった。文句を言った後、口をつんっと尖らせてる。そんなシュリを見て俺は腕を組み、はぁっと大きくため息を吐く。怒りと呆れが俺の中に渦巻く。
でも俺の怒りは、シュリが俺の言葉を聞かなかった、というよりも、あの場にいた若い騎士達がシュリの裸を見たのだいう事に向けられていた。
この美しい体を見た。
それだけで怒りが湧いてくる。願わくば、シュリの大事なところは見ていないで欲しいと思う。なのにシュリは人の気持ちも知らないで「お風呂、入りたかったな」などと呟く。
「シュリ、俺は駄目だと言ったよな?」
俺は両腕を組んでシュリの前に立ち、見下ろして言った。そんな俺を見て、シュリは目を逸らす。
「……そうだけど」
「なら、どうして行ったんだ」
「だって大浴場に行ってみたかったんだもん」
まるで子供みたいな言い方に、俺は親のように尋ねる。
「どうしてだ? お前はそんなに風呂好きなのか?」
「お風呂は好きだけど、大きなお風呂に入ったことないから」
「そうなのか? 五百年前には銭湯はなかったのか?」
「……あったけど、まだ俺が十歳にもならない頃にエルサルに言われたんだ。銭湯はダメだって、襲われたくなかったら大人しく家の風呂に入ってろって。……でも、ここにはエルサルがいないから」
「だから、ここならいいって?」
俺が忍耐強く尋ねると、シュリは不貞腐れながらもこくりと頷いた。だが、俺はそれを聞いて心の中でため息をまた吐く。
……エルサルに忠告されていたのに、どうして風呂場に行くんだ。
そう思わず呆れ、そしてシュリに変な事を教えていたが、常識も教えていた常識人らしい。と俺の中で大魔術師エルサルへの認識が変わる。
……だが、教え方が足りなかったようだぞ。エルサル。
そう俺は会ったこともないエルサルに文句を言う。
「銭湯なんて、みんな武器なんか持ってないから襲われる危険性なんてないのにさ! エルサルは絶対ダメだっていうんだ。今日だって入ってみたけど、別になんともなかったぞ!」
シュリは完全に命が狙われる方の襲われるで勘違いしてて、俺は思わず頭を抱えた。これはエルサルも大変だっただろうな、と労いの気持ちさえ生まれてくる。
「シュリ。エルサルが言ったのは、そういう意味の襲われる、じゃない」
「じゃあ、何が襲われるっていうんだよ?」
シュリは本当にわかっていないようで首を傾げた。
ここまで無知だとは。いや、シュリはそういう点では子供なのだ。これでは例え口で説明したとしても、埒が明かないだろう。そう思えて、俺は今後の為にらしくない強硬手段に出た。
「なら、教えてやる」
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