エルフェニウムの魔人

神谷レイン

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「教えるって?」
「どうして駄目なのか、ちゃんとわかるまでしっかり教えてやる」
 
 首を傾げるシュリに俺は低い声で呟くと、シュリを包んでいたタオルをシュリからはぎ取った。タオル一枚で隠されていた華奢なシュリの裸がそこに現れる。

 昨日も見た、褐色の滑らかな肌、細い腰、そしてピンク色の乳首と何も生えていない局部。

 教える為だと、自分に言い聞かせても、シュルの裸の前にごくりと喉が鳴る。あまりに無防備で、めちゃくちゃにして泣かせてみたい。なんて不埒な気持ちが一瞬過ぎ去る。
 そして、シュリはこれからされることに何も気が付いていなくて、不思議そうに俺を見つめる。

「アレクシス?」

 シュリは俺の名を呼んだが俺は何も答えず、片膝をソファに乗り上げ、シュリの顔の横に手をついた。そして覆いかぶさるように身を屈め、シュリとの距離をじわじわと縮めていく。するとさすがのシュリも不安げな声を上げる。

「な、なに?」

 その声に止めえてしまおうか? とも思うが、ここで止めてしまってはシュリの為にならない。
 俺は手を伸ばし、するっとシュリの肩に手を置くと腕をさするように撫でた。そしてシュリの首筋に鼻先を擦りつけ、耳の裏を匂う。洗いたての、石鹸のいい匂いが俺の鼻を通っていく。
 頭の中が痺れそうな匂いだ。

「アレク、シス?」

 シュリは不安の中に恐れを抱いた声で俺を呼んだ。でも俺は聞かなかった。
 シュリの腕を撫でていた手はいつの間にかわき腹を、そして太ももを撫でさする。柔らかい感触が堪らない。もっと触りたい。もっともっと、と獰猛な獣が俺の中で叫び始める。
 そして親指を乳首にあてた時、シュリは小さく声を上げた。

「ひゃっ」

 シュリは体をびくっと震えさせ、肩を竦めた。 
 その姿に、俺は自分自身でも気が付かない間に鼻息を荒くしていた。

 このままシュリを押し倒して、この細い首に噛みつきたい。

 獣が顔をちらりと出し、俺は無意識にぺろっとシュリの首筋を舐めていた。

「えっ、ひゃっ! ちょ、あ、アレクシス」

 戸惑うシュリの声が響く。でも俺は無視してシュリの首をぺろぺろと舐め、そして小さく可愛い耳朶を食んだ。するとさすがのシュリも声を上げ、俺の体を両手で押しのけた。

「あ、アレクシス! や、やだっ!」

 その一言で、調子に乗っていた俺はハッと我に返った。
 体を離してシュリを見てみれば、少し涙目になっている。どうやらちょっと行き過ぎてしまったようだ。

「アレクシス、こ、怖いよ」

 シュリは少し怯えた声で言い、俺は怖がられた事にちょっと胸が痛む。けれど、これでシュリもよくわかっただろう。俺はシュリと距離を取り、はぎ取ったタオルをそっと掛けた。

「アレクシス?」
「シュリ、襲われるっていうのは命だけじゃない、こういうこともあるんだ」
「え?」
「風呂場じゃ裸だ。今みたいに誰かに押し倒されたらどうする? 気を付けないと今したみたいに誰かに体を触られるぞ? それでもいいのか?」

 俺が説教のように言うとシュリはちょっと考え込み、それから俺を見た。

「でも俺、昨日アレクシスと一緒に洗いっこした時、全然嫌じゃなかったよ?」

 シュリの言葉に俺は頭を抱える。
 でも嫌じゃなかったと言われてちょっと嬉しい。勿論そんなことは顔には出さないが。

「それは、だな……。俺とシュリは……そう、友達だからだ! でも全く知らない他人に、今みたいにべたべた体を触られたりしたら気持ち悪いだろう?」

 俺は勢いで友達、なんて口走ってしまったが友達でもあんなのは嫌だろう。大体、シュリは俺に友達と言われて嫌じゃないだろうか? と不安に思ったが、シュリは全く気にしていなくて。それよりも誰かに自分の体を触られる想像をしたみたいで、うげぇっと小さく唸って気持ち悪そうに顔をしかめた。

「絶対ヤダ! 誰かに触られるなんて」
「そうだろう? だからエルサルも俺も心配で、シュリには入るな、と言ったんだ。大浴場や銭湯は色んな者達が入る。中には不埒な事をする奴がいないとも限らん。シュリは小柄だし、手を出せるかもって思うやつもいるかもしれん。シュリは魅力的だから気を付けないと」

 説明し終え、俺はやれやれと思うがシュリは俺をじっと見つめ、服の端をくいっと引っ張った。

「俺って魅力的なの?」

 シュリはエルフェニウム色の瞳で俺を見つめ、問いかけた。濡れた唇やちらりと見える胸元、素足がやけに扇情的に見える。これが魅力的でなくて何だと言うのだ。

「うっ! ……それは、その、……そうだ! だから風呂に行くのは禁止!!」

 俺は言った後、すぐさま寝室に行って、シュリの寝間着を手に取って差し出した。

「とにかく服を着ろ!」

 俺が叫ぶように言うとシュリは俺の慌てた様子にくすくすっと笑っていた。さっきまで俺に怯えていたくせに。

「悪かったよ、アレクシス。もう大浴場には行かない、この部屋の風呂で我慢するよ」

 その声には嘘がなかった。きっともうシュリは大浴場に行かないだろう。

「わかればいい。じゃあ……俺は風呂に入るから大人しくしてるんだぞ。部屋から出るんじゃないぞ」
「え、お風呂に入るの!? じゃあ、一緒に風呂に入ろうよ! 俺、まだ髪洗ってないんだ。お風呂に入ってから洗おうと思ってたから。ね?」

 シュリはそう俺に言った。頭が痛い……。

「人の話を聞いてなかったのか?」
「何が? 聞いてたよ。お風呂はここのに入るって言ったじゃん」
「そうじゃない! 誰とでもむやみに入るなって言ってるんだ! 俺ともだ!」

 俺が力一杯言うと、シュリは「なんで?」と首を傾げた。

 なんでじゃない!

「だってアレクシスは友達だって言ってくれただろ? 友達なら、一緒に入ってもいいじゃん」
「どういう理屈だ。とにかく風呂に入りたいなら、シュリが先に入れ」
「えー? 一緒に入ろうよ。また背中、流してやるよ?」

 シュリは小首を傾げて俺を誘惑する。うっと俺は言葉に詰まるが、今の俺にもう冷静になれる自信はなかった。

「今日はいい! ほら、入ってこい!」

 俺はシュリの腕を取って立たせると、その肩を押してバスルームにねじ込むように入れた。

「えー、俺、一緒に入りたいのにぃ」
「いいから、一人で入ってこい」

 俺はそう言うと、ドアを閉めてシュリを中に閉じ込めた。
 するとシュリの「ちぇっ、アレクシスのイジワル」とむくれた声が中から聞こえてきたが、次第にシャワーの音が聞こえて俺はようやくほっと息を吐いた。

 でも、シュリの裸をまた思い出して体が熱くなってくる。
 もしも許されるなら、シュリの体をソファに押し倒して、存分にその体を触ってみたい。そんな淫らな欲求が俺の中に突き上げてくる。

 ……何を考えているんだ、俺は。

 俺は頭を振って、淫らな考えを吹き飛ばす。
 けれどドアの向こうで裸のシュリが風呂に入っているかと思うと。

「はぁ」

 俺はため息交じりに、頭を抱えた。

 ……全く魔人の子守りは大変だ。誰だ、簡単だって言った奴は。

 そう心で自分に悪態をつきながら。

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