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50 休憩
しおりを挟むそれから昼の式典が行われ、陛下はラーナ様とミクシオン王子を連れて、城の四階にある踊り場で城の庭に集まった民に言葉を述べた。
集まった人たちは陛下の言葉に喝采と拍手を送り、そして陛下の合図でシュリが魔術を使うと大人から子供まで空から降ってくる不思議なピンク色の雪に大いにはしゃいだ。
今までなかったサプライズに誰もが驚き、魔術を使ったシュリも皆が喜ぶ姿を嬉しそうに眺めていた。
そして式典は無事に終わり、陛下達は奥に下がって休憩が入った。陛下達は夕方から賓客を招いたパーティーがあるからだ、休憩はその前の小休止。誕生日なのに陛下はいつも以上に忙しい。
でも休憩の間は、せめて家族で、と俺達警護は部屋の外で待機する。いつもはそうだった。
けれど、今回ばかりはラーナ様のご希望で、なぜか俺とシュリは陛下とラーナ様とミクシオン王子と一緒のテーブルでお茶とお菓子を楽しんでいた……なぜなんだ。
◇◇◇◇
「あら、シュリは今アレクシスと一緒に暮らしているの?」
「うん、そうだぞ」
「ならきっと楽しい毎日でしょうね。アレクシスは優しいし」
「それがそうでもないぞ。アレクシスは意外に怒りっぽいところもあるんだ。一緒に風呂」
言いかけたシュリの口をスパーンと俺は手で塞ぎ「シュリ」と名前を呼んで、目で圧力をかける。するとシュリは眉間に皺を寄せたけど、わかったよ、と言うような顔をした。
その顔を見て、そっと手を離す。けれどおしゃべりなシュリの口はまたすぐに開いた。
「ほらな、こうやって俺が何か言いそうになると、すぐに怒るんだ」
シュリは余計なことは言わなかったものの、愚痴るように言い、俺はそれはそれでむっとした。でも、ここで何か言ったらまた怒りっぽいと言われてしまうので、ぐっと我慢する。
そんな俺達のやり取りを見て、ラーナ様は微笑んだ。
「ふふ、でもシュリとアレクシスは仲がいいのね。それにアレクシスの表情が明るくなったみたい。シュリのおかげかしら」
ラーナ様に言われて俺は驚く。
「俺の表情、ですか?」
「なんだ、気が付いていなかったのか? アレクシス」
陛下はライオンのぬいぐるみを抱きしめながら、いつの間にかすやすやと眠ってしまったミクシオン王子を膝の上に座らせ、腕に抱きながら俺に言った。
「前よりずっと明るくなったぞ。表情も豊かになったしな」
「陛下、それは人種化しているからじゃ……」
「それだけじゃないぞ。気が付かぬは本人ばかりとは、このことだな」
「本当ですわね」
陛下とラーナ様は笑って言ったが、俺は何となく納得できなかった。別に表情が豊かになった記憶はない。いや、むしろ怒ることは多くなった気もしないが……。
「それにしても、陛下も見られました? 私たちが踊り場に出る前に、ちらりとアレクシスが出た時のみんなのどよめき! ふふ、みんな驚いていたわね」
ラーナ様に言われて、俺も思い出す。
警備の一環で陛下達が踊り場に出る前に、一応周囲を確認する必要がある。その為、俺だけが先に踊り場に出て、何もないことを確認したのだが……その時、民の声がどよめいた。本当にどよめいたのだ。
毎年、獣人である俺が出ていたのに見たこともない男が出たからか、もしくは人種化した話を聞いた人々が、本当に人種化した俺の姿を見て驚いたのだろう。
……しかしそれにしたって、あんなに驚くことないじゃないか。
俺はあのどよめきを思い出して、少し不貞腐れる。勿論、顔には出さないが。
「これで明日は、ううん、今だって陛下よりも町の中はアレクシスの話題で持ちきりなんじゃないかしら?」
ラーナ様は楽し気に言った。だが俺にとっては冗談じゃない。獣人に戻るまでは街には絶対下りないでおこう、と俺は心の中で密かに誓った。
わざわざ話のネタになりにいくつもりはない。俺の目指すところは平穏静かな日々なのだから……現実、シュリが来てから更にほど遠くなってしまったが。
「そういえば、アレクシス。その姿、ネイズにも見せたのだろう? ネイズの反応はどうだった?」
「……自分に似てるって騒いでいました」
俺が正直に答えると陛下もラーナ様も笑った。
「あら、やっぱり!」
「ハハッ、それはそうだろうなぁ! ネイズのことだ、簡単に想像がつくよ」
二人とも騎士総長である父さんの事はよく知っている。俺と違い、仕事柄、父さんと陛下やラーナ様は週に一度は顔を合わす仲だ。だから俺に何と言ったのかも、ある程度予想できるのだろう。
「ネイレンもそれは騒ぎ立てただろうな」
陛下は今は席を外しているネイレンを思い浮かべて言い、またくくっと笑った。
「はい、まぁ」
「大変だな」
陛下はそう言いつつも笑った。
……笑い過ぎじゃないですかね、陛下。
そう俺は思わず心の中で愚痴る。だが、黙っていたシュリが思い出したように陛下に突然尋ねた。
「そういえばルサディア。ミクシオンは第三王子だと言っていたな、上二人はどこにいるんだ?」
そう陛下に尋ねた。きっと俺とネイレンの兄弟の話をしたから思い出したのだろう。
「ああ、上の二人の子は国外に留学中だ。他国に行くのも勉強になるからな」
「そうなのか、それはいいな。他の国に行くのはいい勉強になる、色々と面白いものもあるし」
まるで他国を見てきたことのあるような口ぶりに俺は驚く。
「シュリは他国を旅した経験でもあるのか?」
俺が尋ねれば、シュリは「ああ」と答えた。
「俺がまだ若い頃、エルサルと二人で旅をした。途中、仲間ができて一緒に回ったりもしたな。あれは楽しかった。だが今はもう行った国も大分変っている事だろうな」
シュリは遠い過去を思い出しながら、呟くように言った。
シュリは見かけは若いが、やはり百一年の時を生きているのだ。
……シュリがエルサルと旅を……。やっぱり俺より色んな経験をしているんだな。シュリの事を知った気でいたが、俺はまだまだ知らない。
これだけ一緒にいても、結局シュリとは一週間と少しの関係しかないのだ。そしてシュリはいつか過去に帰る。そう考えると胸がずきりと痛んだ。
「アレクシス? どうかしたか?」
シュリは心配げな顔をして俺に尋ねたが、俺は「いや」と答えなかった。胸の痛みの答えを俺はまだ気づけていなかったから。
それから陛下達と少し話をした後。
俺とシュリは頃合いを見て退席し、軽く昼食と休憩を取って、夕方からの護衛に務めることになった。
空がオレンジ色に染まり始め、街の明かりもつき始めた頃。
王城の一番広い会場は煌びやかに飾られ、多くの賓客と共にパーティーが始まった。
そして始まるや否や会場に集まった賓客達はお酒の入ったグラスを片手に持ち、それぞれ楽し気に談笑をし始める。
その中で俺とシュリは陛下の傍、と言うよりは広場の壁、陛下の席が用意されているすぐ横でシュリと並んで立っていた。
そして賓客と話している陛下とラーナ様、ミクシオン王子の傍にはネイレンと第二部隊のリーツ隊長が傍にいる。
リーツ隊長は目元涼やかな、魔術が得意な魔人種の美女だ。だが彼女の外見は金髪に鮮やかな水色の瞳と、その外見は人種そのものだった。
そしてその美女はこちらにちらりと視線を向けると、ふっと笑顔を向けた。
その笑みには『まあ、頑張って壁の花でもやってるんだな。アレクシス』と語っていた。その視線に俺は思わずむっとしてしまう。
……くそ、こんな姿になっていなければ、本来は俺の役目だったのに。
リーツ隊長の笑みもあって、顔には出さないがついつい心の中で悔しく呟く。
今回は人種化したという事で、話題に上ってしまい、その上、珍しい生粋の魔人をつれているという事でさすがにパーティーでの身辺警護は外されたのだ。その代わり、今回は壁の花になり広場を警護することになった。
だが、それはそれでチクチクと貴族の令嬢たちの興味本位な視線が痛いほど刺さっていた。
……はぁ。
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