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60 翌日
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57話の投稿予約を間違えてました。失礼しました(;・ω・)汗
*********
翌朝、隊長室のドアが開き、部屋の中にいたロニーは視線を向けた。
「おはよー、ロニー」
そこに現れたのはシュリだった。
「シュリさん、おはようございます。昨日は大丈夫でしたか?」
ロニーに尋ねられ、シュリは頭を掻いた。
「うん。昨日、倒れた後、寝ちゃったみたいで気が付いたら朝だったよ。起きたら『先に出る』っていうアレクシスの置手紙があってさ」
シュリは何も覚えておらず、けろっとした顔で言った。だが、そんなシュリにロニーは尋ねた。
「それなんですけど……シュリさん、昨日、本当に何もなかったんですか?」
「へ? 何もって? 俺、起きたら朝だったけど?」
シュリは首を傾げた。そんなシュリにロニーはいぶかし気な顔を見せる。
「それならいいんですけど……媚薬の効果は出なかったのかな。でも、そうしたらなんで?」
ロニーはうーんと考え込むように腕を組んだ。
「何かあったの?」
「いやー、それが隊長……朝来たら、もう仕事を始めてて、なーんかいつもと違う雰囲気だったんですよねぇ。猛烈な速さで書類整理を終わらせちゃうと、第二部隊の訓練に付き合ってくる! とか言って、勢いよく出て行っちゃって……もしかして昨日何かあったのかと。でも何もないなら、なんでだろうって」
「そうなのか? アレクシス……どうしたんだろう?」
すっかり昨日の事を忘れているシュリは不思議そうな顔をした。
なのでアレクシスが荒れている原因が自分であることも、当然わかるはずもなかった。
「遅い! たるんでいるぞ!」
訓練場のグラウンドに俺の怒号が響いていた。グラウンドには走り込みを終えた、第二部隊の騎士たちがぜぇぜぇっと息を切らして、死屍累々と転がっている。
しかし、それも当然だ。グラウンドの端から端まで全力疾走で五回も往復させ、しかも走らせる前には、腕立て伏せ百回、腹筋百回、うさぎ跳びや反復飛びもやらせてからの走り込みだ。
普段鍛えている騎士達でもへばるのは当たり前だった。
でも、そんな鬼のような特訓を敷いている俺に対してもネイレンはいつも通りだった。
「鬼教官な兄さんもかっこいい……!」
ネイレンは俺の後ろに控えながらぽつりと呟いたが、俺は無視した。
そしてグラウンドに寝転がっている騎士達は。
「なんか今日のアレクシス隊長、厳しくないか?」
「お前らが、シュリさんに変なもん食べさせたからだろ」
「え、もしかして何かあったのかな、媚薬の効果とか」
なんて息を切らしながらも話している。その会話さえも俺はイラっとしてしまう。
あの媚薬のせいで、どんな目に遭ったのか。
「お前達! 話している暇があったら」
「アレクシスー!」
走り込み追加だ! と言いかけようとした俺の元にシュリの呼ぶ声が聞こえ、俺はむぐっと口を閉じた。振り返るとシュリがロニーと一緒にこちらに向かっている。
それを見て、ぴきっと俺の動きが固まる。
だがシュリは俺の気持ちなんて構わず、俺の前までやってくると、にこっと笑った。
「おはよう、アレクシス」
シュリはいつもと変わらない様子で俺に挨拶し、後を追いかけてきた文官系のロニーはちょっと息切れ起こしていた。
「はぁ、シュリさん、一人で行かないでください。すみません、隊長。見に行くって聞かなくて」
「別にいいだろ?」
シュリはへへっと笑って言った。その様子に昨日の事を覚えている素振りはない。
「シュリ……何も覚えていないのか?」
「へ? なにが?」
俺が尋ねるとシュリは素っ頓狂な返事をした。
どうやら本当に昨日の事は覚えていないようだ。俺はほっと息を吐く。
……まあ昨日の事を覚えていたら、こんな風には話しかけてこないだろう。……たぶん。いやシュリなら、けろっと話してくる可能性も……。
そう疑り深く見ていたが、シュリは本当に覚えていないのか、グラウンドに倒れこんでいる騎士達に視線を向けた。
「それにしても、今日は第二部隊の訓練に付き合ってるのか? ……なんか、みんな疲れ切ってるなぁ」
シュリは少し顔を引きつらせながら、グラウンドで死屍累々となっている騎士達を見て言った。
まさか、昨日のことで八つ当たりのように訓練をしていた、なんて思ってもないだろう。
こうなったのは、お前のせいなんだぞ。お前が昨日、あんな風に俺を誘うからっ。
俺は声に出せない声を心の中で呟き、シュリをじっと見た。するとシュリは俺の視線を感じてか「アレクシス?」と首を傾げて、俺を見た。
シュリの白い髪がさらりっと揺れ、俺の脳裏に昨日の事が浮かびあがる。
『アレクシスぅ、気持ちぃ』
そう俺に甘えるシュリの姿がハッキリ浮かんで、俺はカアアァァーーッと顔が熱くなった。
乱れて腰を振っていた、あの姿までもが目の前に浮かぶ。
「アレクシス? どうしたんだ?」
シュリは心配そうに俺に尋ねたが、俺は耐え切れなくなって「訓練は終了だ!」と叫ぶと、その場から逃げるように立ち去った。
「え!? アレクシス!?」
俺に置いて行かれたシュリは驚いた声を上げたが、俺を追いかけてくるよりも前に転がっていたはずの騎士達に捕まり、その場で足止めを食らった。
「シュリさん! 昨日、アレクシス隊長と何かあったんですか?!」
「もしかして媚薬の効果があったとか!?」
「どうなんですか!?」
「えっ? えっ? 何?! ……あ、アレクシスー!」
若い騎士たちがシュリに聞きまくり、シュリは驚いて俺を呼んだ。
だが俺は無視して一人で隊長室に戻った。
ダダダダダッ! バタンッ!
駆け込んで隊長室の部屋を勢いよく閉め切ると、俺は煩悩を消し去るように、ゴンッ!と閉めたドアに頭を打ち付けた。
……忘れろ忘れろ、シュリは忘れているんだから!
俺は自分に呪いのように言い聞かせた。けれど、どんなに言い聞かせてもシュリの甘えた声と淫らな体が思い浮かぶ。それだけで俺の体は勝手に熱くなる。
……あーーーーーっ、思い出すな!
ゴンゴンッ! と頭を打ち付けていると、急に後ろから声がした。
「アレクシス、何やってるんだ? ドアが壊れるぞ?」
突然後ろから声がして俺は「ぎゃっ!」と驚き、振り返るとすぐ傍にシュリが立っていた。
「シュリッ!」
「あー、ほら。おでこが赤くなってる。一体、一人で何やってたんだ?」
シュリに尋ねられて、まさか煩悩を排除しようとしていました。なんて言えなかった。
俺は黙り込み、何も答えられなくなる。そんな俺を見てシュリは小さく息を吐いた。
「なぁ……もしかして昨日、俺は何かしたのか?」
妖艶に迫って俺と肌を触れ合わせました、なんて口が裂けても言えない。だから、また黙ってしまう。そんな俺を見て、シュリは不安そうな顔をする。
「もしかして……俺はアレクシスが嫌がるような事をしたのか?」
「いや、そんなことは!」
戸惑ったが、嫌ではなかったのは事実だ。いや、むしろ楽しかったとも言える。でもシュリは信じずに「本当か?」と尋ねてきた。
でも俺は何をしたか、なんて言えないから、子供みたいに、こくこくっと頷いた。
けど、そんな俺を見て、シュリはほっと安堵の笑顔を見せた。
「そうか。なら、よかった。アレクシスだけは傷つけたくないからな」
シュリは笑って言い、俺はドキリとする。シュリはドキッとするようなことを言うから心臓に悪い。特にシュリを好きだとわかった今では。
しかし、シュリはこの話は終わりにして、話題を変えた。きっと俺に気を遣ってくれたのだろう。
「そういえば……ずっと気になっていた事があるんだけど、第一部隊ってアレクシスとロニーとエルサードだっけ? 他の隊員はどこにいるの? 見たことないけど、まさか三人ってことはないよな?」
シュリはずっと疑問に思っていたのか、尋ねてきた。
「他の隊員は遠征している。留学中の王子達の護衛としてついて行ったり、各国境にある要塞や離れた領地の視察に行ったり、今はちょうど人がいない時期なんだ」
俺が答えると、シュリは「そうなのかぁ」と納得するように言い、それから俺を見た。
「なら、俺はラッキーだな。アレクシスがいて」
シュリは裏も、計算もなく言うから、本当に困りものだ。どれだけシュリの言葉が俺に届いているのかわかっていない。
「ああ、そうだな」
エルサードには悪いが。俺の方こそ、シュリに会えてよかったと心から思う。このままずっと、シュリがいてくれたなら……。
思わずそう願った瞬間。
カタカタカタッと壁に掛けられていた鏡が揺れ、ピカッと光った。
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翌朝、隊長室のドアが開き、部屋の中にいたロニーは視線を向けた。
「おはよー、ロニー」
そこに現れたのはシュリだった。
「シュリさん、おはようございます。昨日は大丈夫でしたか?」
ロニーに尋ねられ、シュリは頭を掻いた。
「うん。昨日、倒れた後、寝ちゃったみたいで気が付いたら朝だったよ。起きたら『先に出る』っていうアレクシスの置手紙があってさ」
シュリは何も覚えておらず、けろっとした顔で言った。だが、そんなシュリにロニーは尋ねた。
「それなんですけど……シュリさん、昨日、本当に何もなかったんですか?」
「へ? 何もって? 俺、起きたら朝だったけど?」
シュリは首を傾げた。そんなシュリにロニーはいぶかし気な顔を見せる。
「それならいいんですけど……媚薬の効果は出なかったのかな。でも、そうしたらなんで?」
ロニーはうーんと考え込むように腕を組んだ。
「何かあったの?」
「いやー、それが隊長……朝来たら、もう仕事を始めてて、なーんかいつもと違う雰囲気だったんですよねぇ。猛烈な速さで書類整理を終わらせちゃうと、第二部隊の訓練に付き合ってくる! とか言って、勢いよく出て行っちゃって……もしかして昨日何かあったのかと。でも何もないなら、なんでだろうって」
「そうなのか? アレクシス……どうしたんだろう?」
すっかり昨日の事を忘れているシュリは不思議そうな顔をした。
なのでアレクシスが荒れている原因が自分であることも、当然わかるはずもなかった。
「遅い! たるんでいるぞ!」
訓練場のグラウンドに俺の怒号が響いていた。グラウンドには走り込みを終えた、第二部隊の騎士たちがぜぇぜぇっと息を切らして、死屍累々と転がっている。
しかし、それも当然だ。グラウンドの端から端まで全力疾走で五回も往復させ、しかも走らせる前には、腕立て伏せ百回、腹筋百回、うさぎ跳びや反復飛びもやらせてからの走り込みだ。
普段鍛えている騎士達でもへばるのは当たり前だった。
でも、そんな鬼のような特訓を敷いている俺に対してもネイレンはいつも通りだった。
「鬼教官な兄さんもかっこいい……!」
ネイレンは俺の後ろに控えながらぽつりと呟いたが、俺は無視した。
そしてグラウンドに寝転がっている騎士達は。
「なんか今日のアレクシス隊長、厳しくないか?」
「お前らが、シュリさんに変なもん食べさせたからだろ」
「え、もしかして何かあったのかな、媚薬の効果とか」
なんて息を切らしながらも話している。その会話さえも俺はイラっとしてしまう。
あの媚薬のせいで、どんな目に遭ったのか。
「お前達! 話している暇があったら」
「アレクシスー!」
走り込み追加だ! と言いかけようとした俺の元にシュリの呼ぶ声が聞こえ、俺はむぐっと口を閉じた。振り返るとシュリがロニーと一緒にこちらに向かっている。
それを見て、ぴきっと俺の動きが固まる。
だがシュリは俺の気持ちなんて構わず、俺の前までやってくると、にこっと笑った。
「おはよう、アレクシス」
シュリはいつもと変わらない様子で俺に挨拶し、後を追いかけてきた文官系のロニーはちょっと息切れ起こしていた。
「はぁ、シュリさん、一人で行かないでください。すみません、隊長。見に行くって聞かなくて」
「別にいいだろ?」
シュリはへへっと笑って言った。その様子に昨日の事を覚えている素振りはない。
「シュリ……何も覚えていないのか?」
「へ? なにが?」
俺が尋ねるとシュリは素っ頓狂な返事をした。
どうやら本当に昨日の事は覚えていないようだ。俺はほっと息を吐く。
……まあ昨日の事を覚えていたら、こんな風には話しかけてこないだろう。……たぶん。いやシュリなら、けろっと話してくる可能性も……。
そう疑り深く見ていたが、シュリは本当に覚えていないのか、グラウンドに倒れこんでいる騎士達に視線を向けた。
「それにしても、今日は第二部隊の訓練に付き合ってるのか? ……なんか、みんな疲れ切ってるなぁ」
シュリは少し顔を引きつらせながら、グラウンドで死屍累々となっている騎士達を見て言った。
まさか、昨日のことで八つ当たりのように訓練をしていた、なんて思ってもないだろう。
こうなったのは、お前のせいなんだぞ。お前が昨日、あんな風に俺を誘うからっ。
俺は声に出せない声を心の中で呟き、シュリをじっと見た。するとシュリは俺の視線を感じてか「アレクシス?」と首を傾げて、俺を見た。
シュリの白い髪がさらりっと揺れ、俺の脳裏に昨日の事が浮かびあがる。
『アレクシスぅ、気持ちぃ』
そう俺に甘えるシュリの姿がハッキリ浮かんで、俺はカアアァァーーッと顔が熱くなった。
乱れて腰を振っていた、あの姿までもが目の前に浮かぶ。
「アレクシス? どうしたんだ?」
シュリは心配そうに俺に尋ねたが、俺は耐え切れなくなって「訓練は終了だ!」と叫ぶと、その場から逃げるように立ち去った。
「え!? アレクシス!?」
俺に置いて行かれたシュリは驚いた声を上げたが、俺を追いかけてくるよりも前に転がっていたはずの騎士達に捕まり、その場で足止めを食らった。
「シュリさん! 昨日、アレクシス隊長と何かあったんですか?!」
「もしかして媚薬の効果があったとか!?」
「どうなんですか!?」
「えっ? えっ? 何?! ……あ、アレクシスー!」
若い騎士たちがシュリに聞きまくり、シュリは驚いて俺を呼んだ。
だが俺は無視して一人で隊長室に戻った。
ダダダダダッ! バタンッ!
駆け込んで隊長室の部屋を勢いよく閉め切ると、俺は煩悩を消し去るように、ゴンッ!と閉めたドアに頭を打ち付けた。
……忘れろ忘れろ、シュリは忘れているんだから!
俺は自分に呪いのように言い聞かせた。けれど、どんなに言い聞かせてもシュリの甘えた声と淫らな体が思い浮かぶ。それだけで俺の体は勝手に熱くなる。
……あーーーーーっ、思い出すな!
ゴンゴンッ! と頭を打ち付けていると、急に後ろから声がした。
「アレクシス、何やってるんだ? ドアが壊れるぞ?」
突然後ろから声がして俺は「ぎゃっ!」と驚き、振り返るとすぐ傍にシュリが立っていた。
「シュリッ!」
「あー、ほら。おでこが赤くなってる。一体、一人で何やってたんだ?」
シュリに尋ねられて、まさか煩悩を排除しようとしていました。なんて言えなかった。
俺は黙り込み、何も答えられなくなる。そんな俺を見てシュリは小さく息を吐いた。
「なぁ……もしかして昨日、俺は何かしたのか?」
妖艶に迫って俺と肌を触れ合わせました、なんて口が裂けても言えない。だから、また黙ってしまう。そんな俺を見て、シュリは不安そうな顔をする。
「もしかして……俺はアレクシスが嫌がるような事をしたのか?」
「いや、そんなことは!」
戸惑ったが、嫌ではなかったのは事実だ。いや、むしろ楽しかったとも言える。でもシュリは信じずに「本当か?」と尋ねてきた。
でも俺は何をしたか、なんて言えないから、子供みたいに、こくこくっと頷いた。
けど、そんな俺を見て、シュリはほっと安堵の笑顔を見せた。
「そうか。なら、よかった。アレクシスだけは傷つけたくないからな」
シュリは笑って言い、俺はドキリとする。シュリはドキッとするようなことを言うから心臓に悪い。特にシュリを好きだとわかった今では。
しかし、シュリはこの話は終わりにして、話題を変えた。きっと俺に気を遣ってくれたのだろう。
「そういえば……ずっと気になっていた事があるんだけど、第一部隊ってアレクシスとロニーとエルサードだっけ? 他の隊員はどこにいるの? 見たことないけど、まさか三人ってことはないよな?」
シュリはずっと疑問に思っていたのか、尋ねてきた。
「他の隊員は遠征している。留学中の王子達の護衛としてついて行ったり、各国境にある要塞や離れた領地の視察に行ったり、今はちょうど人がいない時期なんだ」
俺が答えると、シュリは「そうなのかぁ」と納得するように言い、それから俺を見た。
「なら、俺はラッキーだな。アレクシスがいて」
シュリは裏も、計算もなく言うから、本当に困りものだ。どれだけシュリの言葉が俺に届いているのかわかっていない。
「ああ、そうだな」
エルサードには悪いが。俺の方こそ、シュリに会えてよかったと心から思う。このままずっと、シュリがいてくれたなら……。
思わずそう願った瞬間。
カタカタカタッと壁に掛けられていた鏡が揺れ、ピカッと光った。
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