70 / 81
70 エルサルからの通信2
しおりを挟むそれからルクナ隊長にシュリを診てもらい、異常なしと診断された後。シュリには事件のあらましを教え、全員捕縛できたことを伝えた。
「そうか、あいつは……イーゲルは今度こそ改心してくれるといいがな」
「それは本人次第だ。周りがどれだけ言っても自分が気が付かなければ、変われないこともある」
俺が言うとシュリは、はたと俺を見た。
「まるで知ってるかのような口ぶりだな」
「実体験したからな」
俺は言いながら笑った。
俺は今まで獣人の姿を自分自身嫌っていた。でももうそんな必要はないと気が付いた。それはシュリのおかげだ。もう俺はこの姿を嫌わない。むしろ、誇りに思っている。
「そうか……アレクシスはいい顔をするようになったな」
シュリはにかっと笑った。でもシュリにそんな風に褒められると照れてしまう。でも、そんな俺にシュリは尋ねた。
「なあ、それより俺はいつまでここにいなきゃいけないんだ? 早く、アレクシスの部屋に帰りたい」
シュリは俺の服をくいくいっと引っ張って、ねだるように言った。俺の部屋に帰りたいと言われるのは嬉しい。
「シュリの体調が良ければ、いつでもいいとルクナ隊長は言っていた」
「なら、もう帰ろう。ここ、落ち着かないよ。それに体が臭い気がする」
「まあ、三日も風呂に入っていないからな」
「だからか。……でも三日も風呂に入ってない割には綺麗な気がするな」
シュリは不思議そうに首を傾げた。
それもそうだろう。シュリが眠っている間、俺が濡れたタオルでシュリの体を拭いていたからだ。第十部隊の看護係が代わりを申し出てくれたが、俺はそれを断った。誰にもシュリを触らせたくなかったから。
でも、その事は何となく俺が恥ずかしいので黙っておく。
「とりあえず、風呂に入りたいなぁ」
シュリは呟き、俺は本当に元気になったシュリを見て、心からほっと安心する。でも、まだ聞いていないことが一つある。それはシュリが男になってしまった理由だ。
シュリの体を綺麗にする為に、タオルでシュリの体を拭いていたが、服を脱がせるたびに、シュリの男に目がいってしまった。
シュリが無事である事、それが一番だが、気にならないとはいえない。
シュリ、どうして男になってしまったんだ?
俺はそう尋ねようか、どうしようか迷った。でもその間にカタカタカタッと隣のベットのサイドテーブルに置かれていた手鏡が揺れた。
『シュリ―、いるかー』
その声は以前、聞いた声だった。俺はドキリとしつつも、まだベッドの上にいるシュリの代わりに俺は手鏡を手に取った。
そして鏡に映った俺を見て、エルサルは『シュリはいるか?』と尋ねた。
「ちょっと待ってください。ほら、シュリ」
俺はシュリに手鏡を渡した。
「エルサル、久しぶり」
『ああ。早速だが、この前言っていた転移魔術の日取りだ』
エルサルは挨拶もなく、シュリに言った。そしてエルサルの言葉に俺だけじゃない、シュリの顔も強張る。
『なんだ、あまり嬉しそうじゃないな?』
「な、そんなことないよ! いつなの?」
シュリは魔術が解けたようにパッと笑顔を見せてエルサルに尋ねた。でもエルサルの言葉は俺にとっては非情な宣告だった。
『明日だ』
「えっ!? 明日! 本当に明日?!」
『ああ、そうだ。この前、転移してきた所と同じところに飛ばすからそこで待っていろ。ちょうど昼の十二時に転移魔術を発動させる。……アレクシスだったか?』
エルサルは鏡越しに俺の名前を呼んだ。俺の名前は教えていないはずなのに。
シュリはくりっと手首を捻って、俺に鏡を見せてくれる。そこには麗しの美人が映っていた。見ているだけで、なんだかこっちが恥ずかしくなってくる。
だがエルサルは真面目な顔して、俺にお礼を言った。
『俺の弟が世話になった。明日、そちらにエルサードを送り返す。今回は色々と済まなかったな』
「あ、いや」
美人に言われて俺は思わず言葉に詰まり、シュリはそんな俺を見て、むすっとした顔をした。そして、すぐに鏡を自分の方に向けた。
「エルサル、あとは分かった。他に用はないな」
『ああ。……明日はちゃんとこちらに戻ってくる準備をしておけよ。シュリ……』
エルサルはそれだけ言うと、通信を切った。でもその後、シュリはむっとした顔のまま俺を見た。
「アレクシス。エルサルは美人でいい奴だけど、恋しちゃだめだぞ!」
シュリは突然俺に言い聞かせるように言い、俺は一瞬ぽかんっとしてしまった。何の話だ?
「は? 俺がエルサルに?」
「エルサルは美人だから目が合っただけで、みんなエルサルを好きになっちゃうんだ」
シュリは心配そうに俺を見て言った。その目は真剣だ。だから俺はすぐにシュリの言う通り、きっと、そういうことが何度かあったのだろう、とわかった。
確かにあの美しさだ。一目惚れをする輩も多いだろう。でも俺は違う。
「好きにならないよ」
俺は笑って言い、シュリの頭にぽんっと手を置いた。
……俺が好きなのはシュリだ。シュリだけが好きなんだ。
俺はその言葉を飲み込んで、シュリの頭を撫でる。
「本当か?」
「ああ」
俺が頷くとシュリは安心したように、へへっと嬉しそうに笑った。その笑顔を見るだけで、胸が熱くなる。いつまでも見ていたい笑顔だ。
けれど、俺はすぐにエルサルの言葉を思い出す。
シュリがこの世界にいられるのは明日まで。時間は限り少ない。
「シュリ……俺の部屋に戻るか?」
俺が尋ねると、シュリは「うん」と小さく返事をした。
0
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
【完結】第三王子、ただいま輸送中。理由は多分、大臣です
ナポ
BL
ラクス王子、目覚めたら馬車の中。
理由は不明、手紙一通とパン一個。
どうやら「王宮の空気を乱したため、左遷」だそうです。
そんな理由でいいのか!?
でもなぜか辺境での暮らしが思いのほか快適!
自由だし、食事は美味しいし、うるさい兄たちもいない!
……と思いきや、襲撃事件に巻き込まれたり、何かの教祖にされたり、ドタバタと騒がしい!!
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
騎士は魔石に跪く
叶崎みお
BL
森の中の小さな家でひとりぼっちで暮らしていたセオドアは、ある日全身傷だらけの男を拾う。ヒューゴと名乗った男は、魔女一族の村の唯一の男であり落ちこぼれの自分に優しく寄り添ってくれるようになった。ヒューゴを大事な存在だと思う気持ちを強くしていくセオドアだが、様々な理由から恋をするのに躊躇いがあり──一方ヒューゴもセオドアに言えない事情を抱えていた。
魔力にまつわる特殊体質騎士と力を失った青年が互いに存在を支えに前を向いていくお話です。
他サイト様でも投稿しています。
憎くて恋しい君にだけは、絶対会いたくなかったのに。
Q矢(Q.➽)
BL
愛する人達を守る為に、俺は戦いに出たのに。
満身創痍ながらも生き残り、帰還してみれば、とっくの昔に彼は俺を諦めていたらしい。
よし、じゃあ、もう死のうかな…から始まる転生物語。
愛しすぎて愛が枯渇してしまった俺は、もう誰も愛する気力は無い。
だから生まれ変わっても君には会いたく無いって願ったんだ。
それなのに転生先にはまんまと彼が。
でも、どっち?
判別のつかないままの二人の彼の愛と執着に溺死寸前の主人公君。
今世は幸せになりに来ました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる