エルフェニウムの魔人

神谷レイン

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70 エルサルからの通信2

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 それからルクナ隊長にシュリを診てもらい、異常なしと診断された後。シュリには事件のあらましを教え、全員捕縛できたことを伝えた。

「そうか、あいつは……イーゲルは今度こそ改心してくれるといいがな」
「それは本人次第だ。周りがどれだけ言っても自分が気が付かなければ、変われないこともある」

 俺が言うとシュリは、はたと俺を見た。

「まるで知ってるかのような口ぶりだな」
「実体験したからな」

 俺は言いながら笑った。
 俺は今まで獣人の姿を自分自身嫌っていた。でももうそんな必要はないと気が付いた。それはシュリのおかげだ。もう俺はこの姿を嫌わない。むしろ、誇りに思っている。

「そうか……アレクシスはいい顔をするようになったな」

 シュリはにかっと笑った。でもシュリにそんな風に褒められると照れてしまう。でも、そんな俺にシュリは尋ねた。

「なあ、それより俺はいつまでここにいなきゃいけないんだ? 早く、アレクシスの部屋に帰りたい」

 シュリは俺の服をくいくいっと引っ張って、ねだるように言った。俺の部屋に帰りたいと言われるのは嬉しい。

「シュリの体調が良ければ、いつでもいいとルクナ隊長は言っていた」
「なら、もう帰ろう。ここ、落ち着かないよ。それに体が臭い気がする」
「まあ、三日も風呂に入っていないからな」
「だからか。……でも三日も風呂に入ってない割には綺麗な気がするな」

 シュリは不思議そうに首を傾げた。
 それもそうだろう。シュリが眠っている間、俺が濡れたタオルでシュリの体を拭いていたからだ。第十部隊の看護係が代わりを申し出てくれたが、俺はそれを断った。誰にもシュリを触らせたくなかったから。
 でも、その事は何となく俺が恥ずかしいので黙っておく。

「とりあえず、風呂に入りたいなぁ」

 シュリは呟き、俺は本当に元気になったシュリを見て、心からほっと安心する。でも、まだ聞いていないことが一つある。それはシュリが男になってしまった理由だ。
 シュリの体を綺麗にする為に、タオルでシュリの体を拭いていたが、服を脱がせるたびに、シュリの男に目がいってしまった。
 シュリが無事である事、それが一番だが、気にならないとはいえない。

 シュリ、どうして男になってしまったんだ?

 俺はそう尋ねようか、どうしようか迷った。でもその間にカタカタカタッと隣のベットのサイドテーブルに置かれていた手鏡が揺れた。

『シュリ―、いるかー』

 その声は以前、聞いた声だった。俺はドキリとしつつも、まだベッドの上にいるシュリの代わりに俺は手鏡を手に取った。
 そして鏡に映った俺を見て、エルサルは『シュリはいるか?』と尋ねた。

「ちょっと待ってください。ほら、シュリ」

 俺はシュリに手鏡を渡した。

「エルサル、久しぶり」
『ああ。早速だが、この前言っていた転移魔術の日取りだ』

 エルサルは挨拶もなく、シュリに言った。そしてエルサルの言葉に俺だけじゃない、シュリの顔も強張る。

『なんだ、あまり嬉しそうじゃないな?』
「な、そんなことないよ! いつなの?」

 シュリは魔術が解けたようにパッと笑顔を見せてエルサルに尋ねた。でもエルサルの言葉は俺にとっては非情な宣告だった。

『明日だ』
「えっ!? 明日! 本当に明日?!」
『ああ、そうだ。この前、転移してきた所と同じところに飛ばすからそこで待っていろ。ちょうど昼の十二時に転移魔術を発動させる。……アレクシスだったか?』

 エルサルは鏡越しに俺の名前を呼んだ。俺の名前は教えていないはずなのに。

 シュリはくりっと手首を捻って、俺に鏡を見せてくれる。そこには麗しの美人が映っていた。見ているだけで、なんだかこっちが恥ずかしくなってくる。
 だがエルサルは真面目な顔して、俺にお礼を言った。

『俺の弟が世話になった。明日、そちらにエルサードを送り返す。今回は色々と済まなかったな』
「あ、いや」

 美人に言われて俺は思わず言葉に詰まり、シュリはそんな俺を見て、むすっとした顔をした。そして、すぐに鏡を自分の方に向けた。

「エルサル、あとは分かった。他に用はないな」
『ああ。……明日はちゃんとこちらに戻ってくる準備をしておけよ。シュリ……』

 エルサルはそれだけ言うと、通信を切った。でもその後、シュリはむっとした顔のまま俺を見た。

「アレクシス。エルサルは美人でいい奴だけど、恋しちゃだめだぞ!」

 シュリは突然俺に言い聞かせるように言い、俺は一瞬ぽかんっとしてしまった。何の話だ?

「は? 俺がエルサルに?」
「エルサルは美人だから目が合っただけで、みんなエルサルを好きになっちゃうんだ」

 シュリは心配そうに俺を見て言った。その目は真剣だ。だから俺はすぐにシュリの言う通り、きっと、そういうことが何度かあったのだろう、とわかった。
 確かにあの美しさだ。一目惚れをする輩も多いだろう。でも俺は違う。

「好きにならないよ」

 俺は笑って言い、シュリの頭にぽんっと手を置いた。

 ……俺が好きなのはシュリだ。シュリだけが好きなんだ。

 俺はその言葉を飲み込んで、シュリの頭を撫でる。

「本当か?」
「ああ」

 俺が頷くとシュリは安心したように、へへっと嬉しそうに笑った。その笑顔を見るだけで、胸が熱くなる。いつまでも見ていたい笑顔だ。

 けれど、俺はすぐにエルサルの言葉を思い出す。
 シュリがこの世界にいられるのは明日まで。時間は限り少ない。

「シュリ……俺の部屋に戻るか?」

 俺が尋ねると、シュリは「うん」と小さく返事をした。


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