残虐王

神谷レイン

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花の名を君に

4 ロベルトの婚姻

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「王になる儀式に僕の力を貸して欲しい?」

 ロベルトは僕にそう言った。

「ああ、必要ないと言った手前、申し訳ないが」
「僕は構わないよ。でも……どうしてなのか聞いてもいい?」

 僕が尋ねるとロベルトは頷き、教えてくれた。

「俺を疑う者がいてな。神の力など宿していない、と。まあ、その方が事実なのだが、俺が王になり、これから国を作っていくには確固たるみんなの団結が必要だと思っている。だから疑いは消しておきたい。その為に、少しだけ力を貸して欲しい」
「いいよ」

 僕はすぐに返事をした。そんな僕にロベルトは苦笑する。

「お前がそう答えるのはわかっていたが……そんなにすぐに返事をするものじゃないぞ、レスカチア」
「どうして?」
「俺がお前の力を悪用したらどうするつもりだ」
「ロベルトはそんなことしないでしょ」

 僕がはっきりと言うと、ロベルトはますます困った顔をした。でもロベルトは困った顔から、真剣な、少し言いにくそうな顔をして僕をじっとみた。

「あと、もう一つ……お前に報告がある」

 その声は酷く低いものだった。僕はどうしたんだろう? とロベルトの顔を覗く。その顔は少し辛そうだった。

「ロベルト?」
「……王になった後、俺は婚姻を結ぶことになった」
「こんいん?」

 聞きなれない言葉に僕は首を傾げる。

「人間の女と番になるという事だ」

 ロベルトはわかりやすく教えてくれて、僕は目をぱちくりした。

「ロベルトが!?」
「……ああ」

 ロベルトの声は全然嬉しそうじゃなかった。でも僕はロベルトが番を作るという驚きの方が大きくて、その事に触れなかった。

「そっかぁ、ロベルトも番を作るのかぁ。どんな子なの? 大きい? 綺麗?」

 僕は能天気にもロベルトに尋ねた。

 僕は婚姻がどういう事なのかは、本当にはわかっていなかった。ただ動物は番を作って子供を得て、育てていく。それが自然の事で、ロベルトもそうなるのだと、ただ思っただけだったのだ。
 そしてロベルトは好奇心で尋ねた僕の質問に、少し傷ついた顔を見せた。でも、ちゃんと僕の質問に答えた。

「そう、だな。綺麗な娘だ。器量もいいと聞く。国の結束の為の婚姻だが、いいものになるだろう」
「そっかぁ。いい番になれるといいね!」

 僕はニコニコ笑ってロベルトにそう告げた。それがロベルトを傷つけているとも知らないで。
 ロベルトは泣きそうな顔で僕をじっと見て、僕の手を掴んだ。ぎゅっと掴まれた手は痛くて、そしてロベルトの手は熱かった。

「レスカ、俺はッ! 俺は本当は!」

 そこまで言って、ロベルトはぐっと押し黙った。

「ロベルト、どうしたの?」

 僕はきょとんっとして、首を傾げた。ロベルトは眉間に皺を寄せて僕をじっと見たけれど、最後は小さく呟いた。

「なんでもない。……なんでもないよ、レスカ」

 その声は泣き出しそうな声だった。

 そしてその日以降、ロベルトは僕に口づけをしなくなった。













 それから、ロベルトに頼まれた王になる儀式に僕は顔を出した。
 とはいっても、ロベルトが口上を述べた後、指定された場所に花を咲かせるだけだたのだけれど。僕はロベルトの合図を待って、花を咲かせた。すると、その場にいた人々が声を上げた。
 その瞬間、誰もがロベルトを王として認め、その場に傅いた。

 人間も動物も不思議だなぁ。同じ生き物なのに、その中で上とか下とかを作って。

 僕はその様子を見ながら、率直に思った。
 でも、その中には一人、若い娘もいた。人間の雌だ。

 もしかして、あの人間がロベルトの番になる雌だろうか? 今度会った時に、聞いてみよう。

 僕はそう思いつつ、頼まれごとを終えた僕は勝手に森に帰った。
 人間が多いところはやっぱり苦手だったから。













 その後、ロベルトは王になって忙しくなり、本当に会いに来る回数が減った。

 そして僕に会いに来るときのロベルトは心底疲れている時ばかりだった。だからロベルトは前みたいに僕と遊んでくれなくなった。

 僕の膝に頭を乗せて、すうすうと顔色の悪い顔で眠るだけ。
 僕はそんなロベルトにもっと会いに来い、とか、もっと遊んで、とは言えなかった。

 ただ、そっと寝かせてあげるしか。

 そうして一年が過ぎていき、番を持ったロベルトには子供が生まれた。
 僕はそれを鳥たちに教えて貰って、ロベルトの子供を見たくなった。

 一体、どんな子なんだろう?

 僕は能天気にもそう思って、わざわざ人間の領域に入り、以前と同じようにロベルトの家を訪れた。

 ロベルトは僕が現れたことに、また驚いた顔をするかな。ふふふ。

 僕はほくそ笑みながら、そう思った。
 でもそんな僕の耳に子供の笑い声が聞こえた。

 中庭の方には、ロベルトとロベルトと番になった人間の雌。そして小さな小さな赤ん坊がいた。ロベルトとは違う母親と同じ髪と色を持つ子供。

 その赤ん坊をロベルトは抱き上げ、その傍でロベルトの番は嬉しそうに微笑んでいた。

 僕はそれを見た途端、胸が張り裂けるんじゃないかってぐらい苦しくなった。
 僕は胸をぎゅううっと抑えて、その場から逃げるように立ち去った。
 本当はロベルトに『会いに来たよ』って言って驚かせて、赤ん坊を見せて貰うつもりだったのに、見ていられなかった。

 僕はねぐらに帰って、膝を抱えて丸まって眠った。でもどれだけ寝ても胸の痛みは消えない。辛くて悲しくて、何もかもが嫌になるぐらい。胸の奥の一番柔らかいところに棘が刺さったみたいに痛かった。

 その僕の感情に引きずられるように、天候は悪化し、何日も大雨を降らせた。

 ロベルトが僕に会いに来たけれど、僕は初めてロベルトと会う事から逃げた。















 ロベルトと会う事を拒否した後も雨は止むことはなかった。
 そして雨は一ヶ月も降り続き、川の水は溢れかえって、多くの人が死んだ。作物は水腐れを起こし、今年の冬は越せないかもしれないという危機的状況にまで陥っていた。
 でも僕は構わなかった。僕は胸が痛くて、一人、ねぐらでのたうち回っていたから。

 けれど、そんな僕の元に声が届く。

「レスカチア! いないのか!? レスカチアッ! お願いだ、出てきてくれ!」

 雨が降る中、ロベルトが僕を呼ぶ。
 湖でロベルトが僕を必死に呼んでいる事に気が付いた。そしてロベルトの顔は憔悴していた。それでも僕はロベルトに会えなかった。

 だってロベルトとあの番の姿を思い出すと、胸やけをしたみたいに気持ちが悪い。人間の食べ物をたくさん食べた時よりもずっと。

 だからロベルトに会いたくなかった。会ったら、絶対に思い出してしまうから。
 でも、そう思う一方で、僕はロベルトにすごく会いたかった。傍に駆け寄って抱き着きたいほど。

 けれど、会いたい気持ちと会いたくない気持ちが胸の中を行き交って、僕はそれだけで疲れてしまって結局ロベルトには会わなかった。
 ロベルトは会いに来てくれてるのに無視するなんて、いけない事だとわかっていても。
 僕はどうすればこの胸のモヤモヤが消えるのかわからなかった。


 けれどそんな時、僕の前に魔女が現れた。



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