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第一章「レノと坊ちゃん」
1 婚約破棄
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「キトリー・ベル・ポブラット! 君との婚約を本日限りで破棄するっ!」
貴族が多く集まる舞踏会の場で、王子の声が高らかに響いた。
言ったのは、この帝国の第一王子であるジェレミー・ルコ・エルブリッド様。
金髪碧眼の、まさに物語に出てくるような王子だ。
そしてそのジェレミー王子の傍には、庇護欲そそる兎獣人の青年がいた。茶髪に琥珀色の瞳、愛くるしい兎耳と尻尾を持つディエリゴ・エイフロー。
しかしディエリゴの服には、真っ赤なワインがべったりと染みついていた。
なぜか? それは俺がワインを彼にぶっかけたからである。
「まさかワインをかけてしまっただけで公爵令息である僕と婚約破棄を?」
俺が尋ねると、ジェレミー王子はハッキリと告げた。
「そうだ。君が私のディーに数々の嫌がらせをしてきたことはもうわかっている! その証拠もあるぞ!」
「ジェレミー、駄目だよ。俺の為にそんなっ」
ディエリゴが困った風に言うと、ジェレミー王子は優しく微笑んだ。
「ディーは優しいね。けれど駄目だよ、私が結婚したいのはディーなんだ。例え、身分差があろうとも」
「ジェレミー……ッ!」
二人は俺を無視して熱い視線を交わす。俺はそれを見て、ツカツカツカッと二人に歩み寄り、手を振り上げた。
「この泥棒猫っ!」
俺は手を振り上げてディエリゴの頬を打とうとしたが、その手をジェレミー王子がパシッと掴んだ。
「ディーを殴ることは許さないぞ!」
ジェレミー王子はキッと俺を睨んで言った。だから俺はその手を強く振り払ってジェレミー王子から離れた。
「そんなにそちらの方と一緒になりたいのでしたら、どうぞ! 謹んで、この婚約破棄を受けさせて頂きます。僕を捨てて、彼を選んだこと……後悔なされるのはジェレミー王子の方ですからね。きっと苦労なさいますよ、一般人との結婚なんて貴族院がきっと許さない!」
俺が捨て台詞のように言うとジェレミー王子は俺を見据えてハッキリと答えた。
「後悔などしない、ディーは私の唯一だ。それに身分差など、私がこれから変えていく」
勇ましく宣言するジェレミー王子に、人々の羨望の眼差しが集まる。そして一方、俺に集まるのは同情の視線。
そんな中、黙っていたディエリゴが口を開いた。
「キトリー様……ごめん。でも俺、ジェレミーを愛してるんだ」
愛の告白に俺はくるりと踵を返した。そして振り返らず二人に言う。
「勝手にしたらいい。もう僕には関係のない事だ!」
俺はそれだけを言って、早々に舞踏会の会場を出た。だって早く誰もいない場所に行きたかったから。
きっと俺がいなくなった今、二人は仲睦まじく見つめ合い、微笑み合っている事だろう。そう思うと、そう思うと……俺はッ!!
ぐっと唇を噛みしめ、足早に人気のない廊下を歩く。
「キトリー様」
俺の後ろから一人の男が駆け寄り、俺の名を呼んだ。
それは俺の従者であるレノだった。
「レノ……ッ」
「大丈夫ですか?」
レノはそう俺に声をかけた。でも俺はそんなレノの腕を掴み、俯いたまま声を震わせて尋ねた。
「みんなは?」
「……まだ会場に」
「誰も俺を追ってきてないのか?」
「はい、私だけです。ですので、もう大丈夫ですよ。表情を崩されても」
レノの優しい言葉を聞いて、俺はすぐに表情を崩した。だって、もう我慢できなかったんだ。
「んふっ……んふふんっ」
「キトリー様」
「フッ……ニャァーーーーハッハッハッハッハッ!!」
俺は耐えきれずに大きな笑い声をあげた。でもそんな俺にレノは表情を変えないまま、少々呆れた視線を向けた。
「キトリー様。表情を崩されても大丈夫ですが、あんまり大きな声を上げますと誰かに気づかれますよ?」
「わ、わかってるけど、おかしくってぇ! だってレノも見てただろー? みんなの顔。俺の迫真の演技に騙されて、プフッ! それに付け加え、ジェレミーとディエリゴの演技! ジェレミーの『ディーを殴ることは許さないぞ!キリリッ』ってした、あの顔ぉ! 演技の才能はあったんだなぁ、あいつ。しかし俺が脚本を書いたとはいえ、こうもうまくいくとは。もう俺、笑い転げそうで大変だったよ。よく我慢したと思わない?」
声を抑えつつ、こみ上げてくる笑いにひーひーっ腹を抱えて言ったがレノは冷静だった。
「本当にこんなことをする必要があったのですか? わざわざ悪役になられて」
「仕方ないだろ? ジェレミーがディエリゴと結婚したいって言ったんだから。幼馴染兼元婚約者としては協力してやらない訳にはいかないし。まあ、俺は悪役より壁からそっと見守る方がよかったんだけど」
俺は腰に手を当てて言ったが、レノはため息を吐きたそうな顔を見せた。
……俺との婚約破棄と、身分差があるジェレミーとディエリゴをくっつかせる為にはこの手段が一番てっとり早かったんだよな~。
実はさきほどの一幕。その全て、俺が仕組んだ茶番劇だった。
事の始まりは、ジェレミーが俺のところに頼みにきたところからなんだが……。
――――それは半年前の事。
『キトリー。好きな子が出来たんだ。だから私との婚約を破棄させて欲しい!』
俺の部屋に突然現れたジェレミーが机に向かって書き物をしていた俺に告げた。俺は手を止めて、ジェレミーを見上げる。
『別にいいよ』
あっさりと答えた俺にジェレミーはパァッと笑顔を見せた。
『本当!?』
『ああ。でも俺達の婚約って家同士の契約みたいなもんだから、俺達だけの気持ちじゃどうにもなんないと思うぞ? それにジェレミーの好きな子って、ディエリゴだろ?』
『なんで、その事を!』
『なんでって、お前とディエリゴを引き合わせたのは俺だろ。それにディエリゴからジェレミーの事、色々聞いてるし』
『な! ディーから?! いや、しかしそうかディーがキトリーに私の話を』
ジェレミーは二へッと嬉しそうな顔を見せた。その顔は実にだらしなく、折角の金髪碧眼、美男子の顔が崩れてもったいない。黙ってたら、本当に王子様なんだけどな。
『ディエリゴ、いい奴だけど兎の獣人だからなぁ。付き合うぐらいならなんとかなるけど……結婚ってなったら難しいと思うぞ』
俺が告げるとジェレミーはショックを受けた顔をして、バンッと机を叩いた。
『どうして!?』
『どうしてって、獣人に対して一部では身分差別があるじゃん。その上第一王子との結婚ってなったら貴族院も黙っちゃいないだろ。ディエリゴは一般人だし』
『そんな!』
ジェレミーは明らかにガーンッとショックを受けていた。ちょっと泣きそうだ、いやちょっと泣いてる。ヘタレめ。
『な、ジェレミー。そんなにディエリゴと結婚したいなら、俺と一芝居打つ?』
『ぐずっ……芝居?』
ちょっと泣きかけのジェレミーは鼻をすすりながら俺に尋ねた。
『そ、芝居。ジェレミーがディエリゴから結婚してもいいって許可を貰えたら、俺との婚約破棄、それとディエリゴと結婚するのに全面協力する』
俺が告げるとジェレミーは目を輝かせた。
『わかった、今すぐディーのところに行ってくる! ありがとう、心の友よ!』
ジェレミーはそう言いながら嵐の如く去って行き、俺は手を振って見送った。
……さぁて、悪役令嬢ならぬ悪役令息になりますかね。
そうして俺が提案したのが、あの一芝居だった。
キャッチコピーは『悪役令息にいじめられた、愛する兎獣人を救う王子!』とでも言ったところだろうか?
舞踏会には大勢の記者達を俺が呼んでいたので、この騒動をいい風に書いてくれるだろう。俺達の婚約破棄は勿論、俺扮する悪役令息から兎獣人を守る王子というドラマティックな展開に、明日の新聞はきっと賑わうはずだ。
古今東西、老若男女、どの時代においても、悪を罰し正義を勝ち取るヒーローとヒロインという王道ストーリーを嫌う奴なんていないのだから。
ついでにこれを機に本当に獣人達への身分差別がなくなったら、まさに御の字だ。ま、そこはヘタレ王子のジェレミーに頑張って貰おう。賢いディエリゴも手伝ってくれるだろうしな!
……しかし、ここまでうまくいくとは思わなかったよなぁ~。
俺が腕を組みながら思っているとレノが呆れた声で尋ねてきた。
「しかし、途中の『泥棒猫』は必要だったんですか?」
「いやぁ~、あれは言ってみたくて~」
「そんな事だろうと思いました」
えへっ? と首を傾げれば、呆れた視線をレノに向けられ、俺はむっと口を曲げる。
泥棒猫は昼ドラでは定番のセリフなんだぞ? ……たぶん。
「なんだよ、あれぐらいいだろ? 一度は言ってみたかったんだ。でも泥棒猫じゃなくて泥棒兎って言った方がよかったかな?」
ディエリゴ、兎獣人だし。やっぱり、そこだけミスったかな?
「そういう問題ではないと思いますが……。それに今回の件、ジェレミー殿下に頼まれた、と言っていましたが、全てキトリー様の計画の内でしょう?」
無表情の上、冷たい瞳に見られて俺はドキッとする。勿論、それはときめきではない。いや、マゾヒストだったらときめくかも?
「え? な、何のことかなぁ?」
俺は視線を逸らして答えたが、まさに蛇に睨まれた蛙。蛇獣人であるレノはじっと俺を見つめた。
「正直におっしゃい。ディエリゴさんとジェレミー殿下を会わせたのもキトリー様でしょう。二人がこうなることを見越して、引き合わせたのでは?」
図星をさされ俺はぎくぎくっと肩を震わす。全くもって俺の従者は有能だ。すぐに俺の考えを見抜いてしまう。だからきっと嘘をついてもバレるだけだ。
「あーもう、そうだよ。だって俺、ジェレミーの事は友達としては見れるけど、婚約者としては見れないんだもん。俺、女の子の方が好きだし。それになにより、ジェレミーは王子だぞ!? 王子にはやっぱり見目麗しのヒロイン(男)だろ! それにはディエリゴがちょうどよかったんだよ。ディエリゴ可愛いし、頭もよくて性格もいい奴だし、なによりジェレミーのタイプだったしな。でも俺は二人を引き合わせただけだぞ? まあ、ちょっとはときめきハプニングを用意したり、ラッキースケベ的な機会を設けたけど」
「キトリー様」
「俺は手を貸しただけだ。まあ……他にも色々と思惑はありましたけど」
俺が人差し指同士をツンツンっと合わせながら言うと、レノはふぅっと呆れたため息を吐いた。
「なんだよ。別に悪い事はしてないだろ? 二人はくっついてハッピーエンドじゃないか。めでたし、めでたし!」
「はいはい、そうですね。では、この後はどうなさいますか?」
聞くのを諦めたのか、レノは適当に頷き、尋ねてきた。
あんだよー? 良い事したのに~。と思いつつも、俺は反論するのも面倒なので素直に答えた。
「無事に婚約破棄もできたし、ジェレミーとディエリゴがくっついて俺はお役御免。王子に振られた可哀そうな俺は予定通り、傷心を癒すべく別邸に行くことにする!」
俺がズンッと手を上げてレノに言うと、レノは従者らしく返事をした。
「畏まりました、坊ちゃん」
貴族が多く集まる舞踏会の場で、王子の声が高らかに響いた。
言ったのは、この帝国の第一王子であるジェレミー・ルコ・エルブリッド様。
金髪碧眼の、まさに物語に出てくるような王子だ。
そしてそのジェレミー王子の傍には、庇護欲そそる兎獣人の青年がいた。茶髪に琥珀色の瞳、愛くるしい兎耳と尻尾を持つディエリゴ・エイフロー。
しかしディエリゴの服には、真っ赤なワインがべったりと染みついていた。
なぜか? それは俺がワインを彼にぶっかけたからである。
「まさかワインをかけてしまっただけで公爵令息である僕と婚約破棄を?」
俺が尋ねると、ジェレミー王子はハッキリと告げた。
「そうだ。君が私のディーに数々の嫌がらせをしてきたことはもうわかっている! その証拠もあるぞ!」
「ジェレミー、駄目だよ。俺の為にそんなっ」
ディエリゴが困った風に言うと、ジェレミー王子は優しく微笑んだ。
「ディーは優しいね。けれど駄目だよ、私が結婚したいのはディーなんだ。例え、身分差があろうとも」
「ジェレミー……ッ!」
二人は俺を無視して熱い視線を交わす。俺はそれを見て、ツカツカツカッと二人に歩み寄り、手を振り上げた。
「この泥棒猫っ!」
俺は手を振り上げてディエリゴの頬を打とうとしたが、その手をジェレミー王子がパシッと掴んだ。
「ディーを殴ることは許さないぞ!」
ジェレミー王子はキッと俺を睨んで言った。だから俺はその手を強く振り払ってジェレミー王子から離れた。
「そんなにそちらの方と一緒になりたいのでしたら、どうぞ! 謹んで、この婚約破棄を受けさせて頂きます。僕を捨てて、彼を選んだこと……後悔なされるのはジェレミー王子の方ですからね。きっと苦労なさいますよ、一般人との結婚なんて貴族院がきっと許さない!」
俺が捨て台詞のように言うとジェレミー王子は俺を見据えてハッキリと答えた。
「後悔などしない、ディーは私の唯一だ。それに身分差など、私がこれから変えていく」
勇ましく宣言するジェレミー王子に、人々の羨望の眼差しが集まる。そして一方、俺に集まるのは同情の視線。
そんな中、黙っていたディエリゴが口を開いた。
「キトリー様……ごめん。でも俺、ジェレミーを愛してるんだ」
愛の告白に俺はくるりと踵を返した。そして振り返らず二人に言う。
「勝手にしたらいい。もう僕には関係のない事だ!」
俺はそれだけを言って、早々に舞踏会の会場を出た。だって早く誰もいない場所に行きたかったから。
きっと俺がいなくなった今、二人は仲睦まじく見つめ合い、微笑み合っている事だろう。そう思うと、そう思うと……俺はッ!!
ぐっと唇を噛みしめ、足早に人気のない廊下を歩く。
「キトリー様」
俺の後ろから一人の男が駆け寄り、俺の名を呼んだ。
それは俺の従者であるレノだった。
「レノ……ッ」
「大丈夫ですか?」
レノはそう俺に声をかけた。でも俺はそんなレノの腕を掴み、俯いたまま声を震わせて尋ねた。
「みんなは?」
「……まだ会場に」
「誰も俺を追ってきてないのか?」
「はい、私だけです。ですので、もう大丈夫ですよ。表情を崩されても」
レノの優しい言葉を聞いて、俺はすぐに表情を崩した。だって、もう我慢できなかったんだ。
「んふっ……んふふんっ」
「キトリー様」
「フッ……ニャァーーーーハッハッハッハッハッ!!」
俺は耐えきれずに大きな笑い声をあげた。でもそんな俺にレノは表情を変えないまま、少々呆れた視線を向けた。
「キトリー様。表情を崩されても大丈夫ですが、あんまり大きな声を上げますと誰かに気づかれますよ?」
「わ、わかってるけど、おかしくってぇ! だってレノも見てただろー? みんなの顔。俺の迫真の演技に騙されて、プフッ! それに付け加え、ジェレミーとディエリゴの演技! ジェレミーの『ディーを殴ることは許さないぞ!キリリッ』ってした、あの顔ぉ! 演技の才能はあったんだなぁ、あいつ。しかし俺が脚本を書いたとはいえ、こうもうまくいくとは。もう俺、笑い転げそうで大変だったよ。よく我慢したと思わない?」
声を抑えつつ、こみ上げてくる笑いにひーひーっ腹を抱えて言ったがレノは冷静だった。
「本当にこんなことをする必要があったのですか? わざわざ悪役になられて」
「仕方ないだろ? ジェレミーがディエリゴと結婚したいって言ったんだから。幼馴染兼元婚約者としては協力してやらない訳にはいかないし。まあ、俺は悪役より壁からそっと見守る方がよかったんだけど」
俺は腰に手を当てて言ったが、レノはため息を吐きたそうな顔を見せた。
……俺との婚約破棄と、身分差があるジェレミーとディエリゴをくっつかせる為にはこの手段が一番てっとり早かったんだよな~。
実はさきほどの一幕。その全て、俺が仕組んだ茶番劇だった。
事の始まりは、ジェレミーが俺のところに頼みにきたところからなんだが……。
――――それは半年前の事。
『キトリー。好きな子が出来たんだ。だから私との婚約を破棄させて欲しい!』
俺の部屋に突然現れたジェレミーが机に向かって書き物をしていた俺に告げた。俺は手を止めて、ジェレミーを見上げる。
『別にいいよ』
あっさりと答えた俺にジェレミーはパァッと笑顔を見せた。
『本当!?』
『ああ。でも俺達の婚約って家同士の契約みたいなもんだから、俺達だけの気持ちじゃどうにもなんないと思うぞ? それにジェレミーの好きな子って、ディエリゴだろ?』
『なんで、その事を!』
『なんでって、お前とディエリゴを引き合わせたのは俺だろ。それにディエリゴからジェレミーの事、色々聞いてるし』
『な! ディーから?! いや、しかしそうかディーがキトリーに私の話を』
ジェレミーは二へッと嬉しそうな顔を見せた。その顔は実にだらしなく、折角の金髪碧眼、美男子の顔が崩れてもったいない。黙ってたら、本当に王子様なんだけどな。
『ディエリゴ、いい奴だけど兎の獣人だからなぁ。付き合うぐらいならなんとかなるけど……結婚ってなったら難しいと思うぞ』
俺が告げるとジェレミーはショックを受けた顔をして、バンッと机を叩いた。
『どうして!?』
『どうしてって、獣人に対して一部では身分差別があるじゃん。その上第一王子との結婚ってなったら貴族院も黙っちゃいないだろ。ディエリゴは一般人だし』
『そんな!』
ジェレミーは明らかにガーンッとショックを受けていた。ちょっと泣きそうだ、いやちょっと泣いてる。ヘタレめ。
『な、ジェレミー。そんなにディエリゴと結婚したいなら、俺と一芝居打つ?』
『ぐずっ……芝居?』
ちょっと泣きかけのジェレミーは鼻をすすりながら俺に尋ねた。
『そ、芝居。ジェレミーがディエリゴから結婚してもいいって許可を貰えたら、俺との婚約破棄、それとディエリゴと結婚するのに全面協力する』
俺が告げるとジェレミーは目を輝かせた。
『わかった、今すぐディーのところに行ってくる! ありがとう、心の友よ!』
ジェレミーはそう言いながら嵐の如く去って行き、俺は手を振って見送った。
……さぁて、悪役令嬢ならぬ悪役令息になりますかね。
そうして俺が提案したのが、あの一芝居だった。
キャッチコピーは『悪役令息にいじめられた、愛する兎獣人を救う王子!』とでも言ったところだろうか?
舞踏会には大勢の記者達を俺が呼んでいたので、この騒動をいい風に書いてくれるだろう。俺達の婚約破棄は勿論、俺扮する悪役令息から兎獣人を守る王子というドラマティックな展開に、明日の新聞はきっと賑わうはずだ。
古今東西、老若男女、どの時代においても、悪を罰し正義を勝ち取るヒーローとヒロインという王道ストーリーを嫌う奴なんていないのだから。
ついでにこれを機に本当に獣人達への身分差別がなくなったら、まさに御の字だ。ま、そこはヘタレ王子のジェレミーに頑張って貰おう。賢いディエリゴも手伝ってくれるだろうしな!
……しかし、ここまでうまくいくとは思わなかったよなぁ~。
俺が腕を組みながら思っているとレノが呆れた声で尋ねてきた。
「しかし、途中の『泥棒猫』は必要だったんですか?」
「いやぁ~、あれは言ってみたくて~」
「そんな事だろうと思いました」
えへっ? と首を傾げれば、呆れた視線をレノに向けられ、俺はむっと口を曲げる。
泥棒猫は昼ドラでは定番のセリフなんだぞ? ……たぶん。
「なんだよ、あれぐらいいだろ? 一度は言ってみたかったんだ。でも泥棒猫じゃなくて泥棒兎って言った方がよかったかな?」
ディエリゴ、兎獣人だし。やっぱり、そこだけミスったかな?
「そういう問題ではないと思いますが……。それに今回の件、ジェレミー殿下に頼まれた、と言っていましたが、全てキトリー様の計画の内でしょう?」
無表情の上、冷たい瞳に見られて俺はドキッとする。勿論、それはときめきではない。いや、マゾヒストだったらときめくかも?
「え? な、何のことかなぁ?」
俺は視線を逸らして答えたが、まさに蛇に睨まれた蛙。蛇獣人であるレノはじっと俺を見つめた。
「正直におっしゃい。ディエリゴさんとジェレミー殿下を会わせたのもキトリー様でしょう。二人がこうなることを見越して、引き合わせたのでは?」
図星をさされ俺はぎくぎくっと肩を震わす。全くもって俺の従者は有能だ。すぐに俺の考えを見抜いてしまう。だからきっと嘘をついてもバレるだけだ。
「あーもう、そうだよ。だって俺、ジェレミーの事は友達としては見れるけど、婚約者としては見れないんだもん。俺、女の子の方が好きだし。それになにより、ジェレミーは王子だぞ!? 王子にはやっぱり見目麗しのヒロイン(男)だろ! それにはディエリゴがちょうどよかったんだよ。ディエリゴ可愛いし、頭もよくて性格もいい奴だし、なによりジェレミーのタイプだったしな。でも俺は二人を引き合わせただけだぞ? まあ、ちょっとはときめきハプニングを用意したり、ラッキースケベ的な機会を設けたけど」
「キトリー様」
「俺は手を貸しただけだ。まあ……他にも色々と思惑はありましたけど」
俺が人差し指同士をツンツンっと合わせながら言うと、レノはふぅっと呆れたため息を吐いた。
「なんだよ。別に悪い事はしてないだろ? 二人はくっついてハッピーエンドじゃないか。めでたし、めでたし!」
「はいはい、そうですね。では、この後はどうなさいますか?」
聞くのを諦めたのか、レノは適当に頷き、尋ねてきた。
あんだよー? 良い事したのに~。と思いつつも、俺は反論するのも面倒なので素直に答えた。
「無事に婚約破棄もできたし、ジェレミーとディエリゴがくっついて俺はお役御免。王子に振られた可哀そうな俺は予定通り、傷心を癒すべく別邸に行くことにする!」
俺がズンッと手を上げてレノに言うと、レノは従者らしく返事をした。
「畏まりました、坊ちゃん」
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