《BL》転生令息は悪役よりも壁志望、もしくは天井でも可!

神谷レイン

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第一章「レノと坊ちゃん」

21 焼肉パーチー

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「坊ちゃんッ!」

 レノは思わず叫んだ。
 だが、その時どこからともなく駆け上がる男の足元に花瓶が投げられ、階段を上っている最中にバランスを崩して転倒。男は悲鳴と共に階段を転げ落ちた。

「うああああっ!」

 男はゴロゴロゴロッと派手に階段を落ち、一階の床に転がった。そして「ううっ」と唸りながら起き上がった時には、フェルナンドとヒューゴに剣先を向けられていた。

「大人しくしろ」
「出なければ斬る」

 二人は言い放ち、男は「わ、わかった!」と怯えた様子で答えた。そして目の前にいる二人の騎士を見上げて問いかけた。

「お、お前達は一体なんなんだ?! こんな事、許されないッ。私は男爵だぞ!? う、訴えてやるからな!」

 男は負け惜しみの様に言ったが、そこへ警備騎士団と呼ばれる町の見回り騎士達が次々と屋敷内に入ってきた。そして団長と思われる太眉の、体格の良い騎士が現れると、現場を見て驚いた表情を見せた。

「これは……!」
「だ、団長さん! 助けてくださいっ、こいつらがいきなり家に押しかけてッ!」

 男は助かったという表情で団長に言った。しかし団長は険しい顔を男に向けると後ろにいる部下に大きな声で告げた。

「伸びている奴ら、全員詰所にしょっ引け!」

 団長の言葉に部下はすぐに動いて伸びているごろつき達を回収し始め、男は驚きに満ちた表情で団長を見つめた。

「な、どういうことだ! こっちは被害者だぞ!」

 男は怒りに満ちた顔で喚いた。しかし団長は動じることなく、懐から一枚の紙を取り出し、男に突きつけた。

「男爵、貴殿を幼児誘拐で逮捕する。大人しくついてきてもらおう!」
「な、なんなんだと!?」

 男が驚きに声を上げるが、その横でいつの間にか二階から一階におりていたキトリーがフェルナンドの元に駆け寄り、その足元で泣いた。

「あぁーんっ、ふぇるぅ~! ひゅーごぉぉぉっ! 怖かったよぉぉぉ! えーんっ」
「坊ちゃん、もう大丈夫ですよ」

 キトリーは肩を震わせ、その背中をしゃがんだフェルナンドがぽんぽんと優しく撫でた。まさにその様子は誘拐されていた子供と助けに来た騎士。

 だがここ一カ月、傍に仕えていたレノにはキトリーのそれが嘘泣きであることに、すぐ気がついた。キトリーの本気泣きはもっと激しいから。
 でも何も知らない団長はそうは思わなかったらしい。

「このような状況でも言い逃れするつもりか?」

 団長の言葉に男は顔を青ざめさせた。

「し、知らない! 私は知らないぞ! あの子供はいつの間にかここに!」
「あのような小さな子供が一人で家に侵入したとでもいうつもりか!? 見苦しい言い訳だぞ!」

 団長はカッと目を見開いて告げ、そして男に言い放った。

「それに貴殿には、違法高利契約に違法労働、贈賄、脅迫、詐欺など。他にも多数容疑があり、匿名で情報も寄せられている! その部分もしっかり詰所で聞かせてもらう!」
「なっ、一体誰がッ!?」

 男が呟いた時、フェルナンドに抱き上げられたキトリーがニタリと笑ったのが見えた。それを目撃した男は瞠目し、声を上げた。

「まさか……っ! その子供を寄越せ!!」

 男は声を上げて、キトリーに襲い掛かろうとした。だが団長が男を軽く捻り上げた。

「この期に及んで、何をするつもりだ! ……全く。この方を誘拐し、危害まで加えようとは恐れ知らずな!」

 団長は呆れた様子で言い、男は眉間に皺を寄せた。

「この方……? こいつらが一体なんだって?」
「なんだ、どなたかも知らずに誘拐したのか?」

 団長が告げると、フェルナンドにだっこされているキトリーがヒューゴに声をかけた。

「ヒューゴ」
「はい、坊ちゃん」

 ヒューゴはそう言うと胸元から懐中時計を取り出し、それを男に見せつけた。そこには花の紋章が彫られており、男はその紋章を見て口をあんぐりと開けた。

「そ、それはポブラット公爵家の紋章……まさかっ!」
「こちらにおられる御方は、ポブラット公爵家ご次男のキトリー・ベル・ポブラット様だ」

 ヒューゴはキトリーの正体を告げ、男は言葉を失くした。
 ポブラット公爵家は『王家の盾』と呼ばれるほど王家や貴族からの信頼も高く、その地位は王家に次ぐと言われているほどの名家だ。

 その家の子供を誘拐したとなれば、今後この帝国では生きていけない。
 男は顔を蒼白にし、キトリーを見つめた。しかしその時間は短く。

「連れていけ!」

 団長は部下に引き渡し、男を連れて行った。これで色々な罪がこれから暴かれていくことだろう。

「では、我々もこれで失礼します」

 太眉団長は礼儀正しく言い、キトリー達に軽くお辞儀をして去って行った。そして屋敷に残ったのはキトリー達だけとなり……。

「ふむっ。こりぇにちぇ、いっけんらくちゃぁーく! ニャーハッハッハッ!」

 キトリーは満足そうに笑った。だが、付き合わされたフェルナンドとヒューゴは呆れた顔でキトリーを見つめた。

「もうこんな無茶は駄目ですよ、坊ちゃん」
「そうですよ。ハラハラしましたよ」

 二人に言われて、キトリーは「へへへっ」と笑ってごまかした。
 だがそんな中、レノがキトリーに声をかけた。

「あ、あの、坊ちゃん。どうしてここに? なんで……っ」

 それは率直な疑問だった。どうして坊ちゃんがこんなところにいるのか?
 でもレノが問いかけると、フェルナンドにだっこされているキトリーはにっこりと笑うと、レノの疑問に答える前に懐から少しくしゃくしゃによれた紙を取り出した。

「はい、レノ」

 ……なんだ? 紙切れをどうして。

 そう思ったが、その紙の内容を見て驚いた。それはサラが交わした契約書だったからだ。

「「これ!」」

 レノと後ろからその紙を覗いたサラも同時に声を上げた。でもキトリーは。

「こんど、しょれで火をちゅけて庭でBBQ……やきにきゅパーチーでもしよ?」

 そうキトリーはにまっと笑って言った。だからレノはわかってしまった。
 キトリーがわざわざ自分を助けに来て、迎えに来てくれたんだんだと……。

 だから、レノは嬉しくなって涙が出そうになった。でもぐっと堪えて、レノは返事をした。

「はい! お任せください!」








 その後、焼肉パーティーをして契約書は灰になり。男は様々な罪が明るみに出て、爵位と全財産を没収。北の刑務所送りになった。

 そしてレノとサラは平穏な日々をまた送れるようになり、サラはお爺と共に本邸の使用人として、レノはお目付け役としてまた仕えるようになった。

『坊ちゃんに助けてもらった恩を忘れずにお仕えしよう!』

 そう誠心誠意仕えようと決めた。

 だがその想いは、いつの間にか恋心に変わっていき、レノの中でキトリーの存在は特別なものになっていった。


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