《BL》転生令息は悪役よりも壁志望、もしくは天井でも可!

神谷レイン

文字の大きさ
22 / 180
第一章「レノと坊ちゃん」

22 ふわふわかき氷

しおりを挟む
「ふわぁ~……。ん? あれぇ、レノ?」

 寝ていた俺は目を覚まし、いつの間にか隣に座っているレノに気がつき、視線を向けた。

「目が覚めましたか」
「うん。もしかして、俺が起きるまで待っててくれたの?」

 俺は体を起こしてレノに尋ねた。

「気持ちよく寝ていましたので」
「それは悪い事したな。起こしてくれてもよかったのに」
「いえ、昔の事を思い出してましたので」
「昔の事?」
「私がキトリー様に仕えるようになった頃の事です。悪徳貴族に捕まって、違法労働させられようとしていた時の事ですよ」

 レノは自分の事のくせに淡々と答えた。

「あー、あのオッサンね~」

 ……めっちゃ悪代官っぽいオッサンだったよなぁ。ま、だから俺も正義のヒーロー的な事をしたんですけど。いやー、だって一度はああいうのしてみたいじゃん? 俺、結構身分あるし。

「あの時はキトリー様がいきなり現れて本当に驚きました」
「あー、あれね」

 俺はぼんやりと思い出しながら答えた。

 ……あれって確か。レノを助ける為と屋敷に入り込んで契約書を盗みに入る為。ついでに、あのオッサンに幼児誘拐の容疑も付け加える為に忍び入ったんだよな~。なにせあのオッサン、相当あくどい事してたのに隠蔽工作がうまくて、警備騎士団も目を付けてたのに検挙できなくて手をこまねいていたからな……。でも俺が誘拐されたってことになれば、捜索の為に屋敷内に入ることができて、なおかつ現行犯逮捕が可能。実際あの後、屋敷内を調べたら証拠がわんさか出て、余罪が一杯ついたんだよな。……うんうん、あれも我ながらいい作戦だったな!

 俺は思い出しながら、一人頷いた。

「あの頃から、キトリー様は変わらないなと思いまして」
「そーかぁ?」

 ……俺、大分大人になってると思うんだけど。今や俺の精神年齢は前世も合わせたら五十歳ヨ? 半世紀ヨ? 精神的にはナイスミドルだと思うんだけど?

「ええ。無鉄砲、無防備。およそ貴族らしくないですね」
「ズケズケと失礼だな」
「褒めてるんですよ?」

 レノはにっこり笑って言った。しかしどう考えてもけなされている風にしか聞こえん。

「まあ、いいけど。俺とお前の仲だし」

 俺が何気なく言うと、レノも何気に俺に言ってきた。

「坊ちゃん、好きですよ」
「ふぁああぁっ!?」

 突然の告白に俺は奇声を上げるしかない。しかし、レノは微笑むだけでそれ以上は何も言わなかった。

 ……くぅー、このイケメンめ。恥ずかしい台詞をサラッと言いよってぇぇ!

 俺は思わず赤面してしまう。

「キトリー様、忘れないでくださいね。もうノエル君を差し向けてもダメですよ?」

 ……うっ、そうなんだよなぁ。結局ノエルはザックといい感じになったみたいだからな。……ん? てことは俺はカップルを一組作ったって事かな? それはそれでグッジョブ俺!

 そんなことを思っている内にレノがおもむろに立ち上がった。

「どこに行くんだ?」
「厨房でおやつの用意をして参ります。すぐに来てくださいね」
「……わかった」

 俺が答えるとレノは颯爽と屋敷の中に戻って行った。俺はそれを見送り、ふぅっと息を吐く。

 ……レノへの返事、どうしよう。付き合う気がないって言いたいけど、レノが居なくなるのは嫌だしなぁ。

「うーむ」

 一人で腕を組んで唸っていると、どこからともなく「ほっほっほっ」と声が聞こえてきた。驚いて振り返ってみれば、そこにはお爺がいた。

「いやはや、若いですなぁ~」

 ほのぼのと言うお爺に俺はジト目を向ける。

「いつからいたの、お爺」
「坊ちゃんがお目を覚さます前からですかね? ほっほっほっ」

 それ最初からじゃん。しかしレノにも気取られずに背後を取るとは……。

「ねぇ、前から思ってたけどお爺って何者?」
「私はただのジジイですよ」

 お爺はにっこり笑って言ったが、ただ者ではないのは確かだった。
 それこそレノを助ける為に屋敷に入った時、実はあの時お爺も一緒だったのだ。さすがに三歳児が屋敷に侵入することは無理だし、契約書が入った金庫を俺が開けられるわけがないからな。
 だから俺は計画を立てた後、スーパー執事に相談したのだ。

『ねね、おじぃ。わるいひちょ、ちゅかまえたいの。だかりゃ、ちかりゃをかちてくりぇまちぇんか?』

 幼子のいたいけな相談に、お爺は困った顔をしつつも『仕方ありませんね』と快く答えてくれた。
 まあ、この時の俺はお爺にいい人材を紹介して貰いたいってだけで相談したんだが、まさかお爺本人が手助けしてくれるとは……。
 当時五十代だったとはいえ、お爺は俺を抱えて軽々と侵入し、あざやかな手つきで鍵を開けてくれた。
 ちなみに、あの貴族のオッサンが俺をめがけて階段を上がってきた時、花瓶を陰から投げたのもお爺だ。

「……ただのお爺さんとは思えないだけど」
「買い被りですよ、坊ちゃん」

 お爺は笑顔のまま、それ以上は答えなかった。

 ……うーん、本当にお爺って何者なんだろ。でも、これ以上聞いても教えてくれなさそう。今はそっとしておこう、うん。

 俺は疑問を胸の奥に仕舞っておくことにした。

「ところで坊ちゃん。つかぬ事、お伺いしますが。レノへの返事はいかがなさるおつもりですかな?」
「うっ、それはぁ」
「どんなお答えを出しても構いませんが、年長者から一つだけアドバイスを」
「なに?」
「あんまり先延ばしにしていると、何もかも失ってしまいますよ」
「うぐっ」

 耳に痛い言葉に思わず唸ってしまう。
 けれどお爺はそれ以上、その件に関しては俺に何かをいう事はなかった。

「それより坊ちゃん。そろそろ早く厨房へ行った方が良いかと。ヒューゴが今日は坊ちゃんに頼まれたおやつを作ると言っていましたよ? 確か氷で作る冷たいものだと……」

 お爺に言われて俺はびょんっと立ち上がった。

「マジ!? それなら早く行かなくちゃ! お爺も一緒に行こ!」
「私はあとで参りますから、お先にどうぞ」
「ホント? 早く来るんだよ!」

 俺はそう告げて、駆け足で厨房へと向かった。
 だが、駆け足でその場を立ち去った俺は知らなかった。俺の後ろ姿を眺めながら、お爺がぽつりと呟いた言葉なんて。

「ほっほっほっ、若いですなぁ」


 ◇◇◇◇


 それから厨房に駆け込むとレノがいた。

「キトリー様、ようやく来ましたね。ヒューゴさん、お願いします」
「あいよ!」

 ヒューゴはそう言うとガリガリガリッと何かを削り始め、俺はレノが用意してくれていた厨房の末席に座り、おやつを今か今かと待つ。
 そして五分も経たない内にヒューゴはガラスの器をトレーに乗せて持ってきてくれた。そこにはキラキラと輝く美しき氷の山に、たっぷりとかけられた白い練乳、冷凍の果物が色とりどり飾り付けられていた。

「うわーっ、かき氷だ!」

 しかもこれは前世で食べた事のあるかき氷に近い。そう、南国で。

「坊ちゃんのご要望にお応えできましたかね?」

 ヒューゴはパチッとウインクして俺に尋ねた。

「俺の要望以上だよぉ! 俺、大好きなんだッ! いっただきまーす!」

 俺は添えられていたスプーンを手に一口、ぱくっと食べてみた。甘くて冷たくて、今日みたいなちょっと暑い日にはちょうどいい!

「んんんーっ! うまい!」

 ふわふわの氷が美味しくて、俺はついついパクパクッと食べてしまう。

 ……さっすがヒューゴ、俺の要望通りに作ってくれるなんて。騎士を辞めて、料理人になったのはある意味正解だったかもしれないな!

 俺はかき氷を食べながら、俺の様子を伺っているヒューゴを見た。
 ヒューゴとフェルナンドは元々騎士だったが、フェルナンドが怪我を負ったことによって騎士を引退。ヒューゴもそれに続くように辞めた。そして二人は庭師と料理人と言う新たな職に就いたのだが、その活躍は前職を凌ぐ勢いだ。

 ……まあ、騎士の時もかっこよかったけどね~。 

 しかし、そんな事を思っている内に、かき氷の食べ過ぎで頭がキーンとしてきた。咄嗟に頭を押さえる。

「いててて」
「急いで食べるからですよ」
「だって美味しくて、つい」

 急いで食べたら頭キーンってなるのはわかっているのに、なぜか食べてしまう。もうこれはもはや人間の悲しい性なのだ。

 ……かき氷・冷たさ響く・うまさかな。

 心の中で一句詠み、まあまあの出来栄えに俺はにたっと笑う。

「なに、ニヤニヤしてるんですか」
「うんにゃ、なんでもなーい」

 俺は頭の痛みが落ち着いてきたところでもう一口、冷たいかき氷をパクリと食べたのだった。


************

あと残り二話!明日、明後日と投稿していきます。
お楽しみに!(*‘ω‘ *)
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ※第33話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

秘匿された第十王子は悪態をつく

なこ
BL
ユーリアス帝国には十人の王子が存在する。 第一、第二、第三と王子が産まれるたびに国は湧いたが、第五、六と続くにつれ存在感は薄れ、第十までくるとその興味関心を得られることはほとんどなくなっていた。 第十王子の姿を知る者はほとんどいない。 後宮の奥深く、ひっそりと囲われていることを知る者はほんの一握り。 秘匿された第十王子のノア。黒髪、薄紫色の瞳、いわゆる綺麗可愛(きれかわ)。 ノアの護衛ユリウス。黒みかがった茶色の短髪、寡黙で堅物。塩顔。 少しずつユリウスへ想いを募らせるノアと、頑なにそれを否定するユリウス。 ノアが秘匿される理由。 十人の妃。 ユリウスを知る渡り人のマホ。 二人が想いを通じ合わせるまでの、長い話しです。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

天啓によると殿下の婚約者ではなくなります

ふゆきまゆ
BL
この国に生きる者は必ず受けなければいけない「天啓の儀」。それはその者が未来で最も大きく人生が動く時を見せる。 フィルニース国の貴族令息、アレンシカ・リリーベルは天啓の儀で未来を見た。きっと殿下との結婚式が映されると信じて。しかし悲しくも映ったのは殿下から婚約破棄される未来だった。腕の中に別の人を抱きながら。自分には冷たい殿下がそんなに愛している人ならば、自分は穏便に身を引いて二人を祝福しましょう。そうして一年後、学園に入学後に出会った友人になった将来の殿下の想い人をそれとなく応援しようと思ったら…。 ●婚約破棄ものですが主人公に悪役令息、転生転移、回帰の要素はありません。 性表現は一切出てきません。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

腐男子♥異世界転生

よしの こひな
BL
ある日、腐男子で新卒サラリーマン・伊丹トキヤの自室にトラックが突っ込む。 目覚めたトキヤがそこで目にしたのは、彼が長年追い続けていたBL小説の世界――。しかも、なんとトキヤは彼が最推しするスパダリ攻め『黒の騎士』ことアルチュール・ド・シルエットの文武のライバルであり、恋のライバルでもあるサブキャラの「当て馬」セレスタン・ギレヌ・コルベールに転生してしまっていた。 トキヤは、「すぐそばで推しの2人を愛でられる!」と思っていたのに、次々と原作とは異なる展開が……。 ※なろうさん、Caitaさん、PIXIVさんでも掲載しています。

ブレスレットが運んできたもの

mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。 そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。 血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。 これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。 俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。 そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?

処理中です...