《BL》転生令息は悪役よりも壁志望、もしくは天井でも可!

神谷レイン

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第二章「デートはお手柔らかに!」

12 帰り道

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 ――――その後。
 ドーナツを仲良く食べ、俺達はそのままサラおばちゃんの誕生会を開催した。レノの手料理と俺の誕生日プレゼントに、サラおばちゃんは大喜び。嬉しさのあまり、ちょっぴり泣いてた。

 ……やっぱりプレゼントは喜んで欲しいからな、レノと一緒に買いに行って良かった~。

 俺は内心ほっとしつつも、和気あいあいとした楽しい時間を過ごし、気がつけばもう辺りはすっかり暗くなっていた。
 居心地のいい時間と言うのは、なぜかすぐに過ぎ去ってしまうものだ。

「じゃあサラおばちゃん、お邪魔しました」

 俺は仕方なく、帰る準備をして玄関先に立っていた。

「はい、今日はありがとうございました。気を付けて帰ってくださいね」
「うん。また明日、本邸でね」
「はい、キトリー坊ちゃん」

 本邸のメイドとして働いているサラおばちゃんとはまた明日も会う事になるだろう。そして、レノが上着を羽織ってやってきた。帝都の夜は夏と言えど、少し冷えるからな。もうすぐ秋になるし。

「お待たせしました」
「なあ、家まで歩いて十分だぞ? 一人で帰れるんだけど」
「駄目です」

 レノはきっぱりと断った。こういう時のレノは絶対に譲らない。

 ……家まで十分なのに、送られる俺って、子供か?

「じゃあ母さん、キトリー様を送ってくるから」
「ええ、しっかりと本邸まで送るのよ」

 サラおばちゃんはレノに託すように言った。
 レノは頷き「行きますよ。キトリー様」と俺に声をかける。

「ああ、じゃあね」
「はい」

 そうサラおばちゃんは俺に手を振った。でもその時、一人残るサラおばちゃんの姿がなんだか寂しそうに見えて。

 ……今日は俺を送るだけで帰ってくるけど、明後日には俺達は別邸に帰ってしまう。そうなったら今度はいつ帰ってくるか。サラおばちゃんは一人だし、やっぱりレノがいなくて寂しいよな。うーむ。

 街灯の明かりの中、それでも薄暗い夜道をレノと歩きながら俺は一人考える。そして俺はチラッとレノに視線を向けた。

 ……レノ、一人息子だしなぁ。やっぱりレノはこっちにいた方が。

「私はキトリー様から離れるつもりはありませんからね」

 何も言っていないのに返事をされて俺は驚く。

「ぬぉっ!? ちょ、人の心を読むの止めてくんない!?」
「顔に出てるんですよ」

 ……え?! そんなに顔に出てるかしら?!

 俺は両手で顔を抑える。だが、そんな俺にレノはふぅっと小さく息を吐いた。

「母には納得してもらってます。だからキトリー様がそんなに気になさることではありません」
「いや、でもレノは一人息子じゃん? やっぱりサラおばちゃんの傍にいた方がなにかと」
「私がいなくても母は大丈夫ですよ。アパートには仲のいい仕事仲間のメイド達もいますし、楽しく過ごしています。でもキトリー様は私がいなくて大丈夫ですか?」
「うっ、それを言われるとぉ」

 ……めちゃくちゃ困る未来が見える。実際、領地経営はレノのアドバイスとかで成り立ってるところがあるしぃ。

「それにですね」

 レノはそう言うと、予告もなく俺の手をぎゅっと握った。

「にゃっ!」

 ……おまっ、昨日から握りすぎだ! お触り料を貰うぞッ!?

 俺は思わず声に出して言おうとしたが、その声はレノの言葉を聞いて引っ込んだ。

「私は坊ちゃんが傍にいて下さらないと駄目なんです」

 レノは俺に想いを伝える様にぎゅうっと強く手を握り、そして急な愛の告白に俺はドキッとする。

 ……お、俺が傍にいないと駄目ってなんだよ。今までずっと傍にいんだろーがぁ! てか、なんだか昨日から。

「俺へのラブコール、すごくないッ?!」
「休日の時ぐらいしか、こんな風に言えませんからね。仕事中にこんなことをいう訳にもいかないでしょう?」
「いや、まあ、そうかもしれないけどぉ」

 ……押しがすごいよ! けど、確かに仕事中に愛を囁かれても困るし。でもなんか、面と向かって言われると気恥ずかしいというか。今までは幼馴染のレノとして見てたのに、ここまでハッキリと言われてしまうと意識してしまう。レノって本当に俺の事が好きなんだな、って。けど、子供の頃に助けたから刷り込みでって気もしなくもないし。うぅーん。

「また変な事考えてるでしょう?」
「なっ、別に変な事なんて……ただ、子供の頃からずっと一緒にいるから、それは刷り込みじゃないかって」
「坊ちゃん、好きです。刷り込みでも何でも。……だからこれからも坊ちゃんの傍にいさせてください」

 レノは立ち止まると少し振り返って俺を見た。街灯の明かりでレノの顔がハッキリと見える。レノはとても優しい顔で微笑んでいた。まるで愛おしいものを見るかのように。

「ッ!」

 ……ギャーギャーギャァーッ! もぉーっ、なんなのぉーッ!?

 イケメンの微笑みに俺の心は叫び声を上げる。というか心臓に悪い。
 俺はドキドキする胸を押さえて、ひーひーっと息を吐く。でもそんな俺の顔にレノは手を添えると、ゆっくりと持ち上げた。見上げればすぐそこにレノの美しい顔がある。

「坊ちゃん」

 ……むっ!?

 俺はビクッと肩を揺らす。でもレノは構わず俺の額に柔らかい唇をふにっと落とした。

「今はまだここにしておきます」

 レノはふふっと笑って俺に言った。その微笑みったら! アピャァーッ!!
 けれどその時、ある人物の声が辺りに響く。

「キトリー!」
「ロディオン様、お久しぶりです」

 レノは本邸からやってきたロディオンににこやかに挨拶をした。そして気がつかぬ間に俺は家の門前に辿り着いていたらしい。

「ああレノ、久しぶりだな。キトリーを送ってくれたのか?」

 ロディオンは俺がデコチューされているところは見ていなかったのか、普通にレノに話しかけ、そしてレノも何食わぬ顔で頷いた。

「はい。でももう遅いので私はここで帰ります。ロディオン様、キトリー様をよろしくお願いいたします」

 レノはロディオンに頭を下げて頼み、そしてその後ちらりと俺を見た。

「ではキトリー様、おやすみなさい」

 レノはにっこり笑って言うと踵を返し、今来たばかりの暗い夜道を帰って行った。レノの背が遠くなっていく。

「さ、キトリー。私達も中に戻ろう」

 レノが大分見えなくなったところでロディオンはそう俺に言った。だが、俺の脳はすでにオーバーヒートを起こしていた。

「ぷっしゅぅぅーっ!」

 俺は堪らず息を吐き、ロディオンに寄りかかるように倒れた。

「キトリー!?」

 ロディオンは俺を咄嗟に支え、名前を呼ぶ。だが俺の耳には何も入ってこない。

 ……レ、レノにデコチューされた! あばばばばっ。

「キトリー、どうしたんだ!?」

 ロディオンは心配そうな顔で俺に尋ねたが、俺に答える力はなかった。
 そして、結局この日もレノのせいで俺は寝付けない夜を過ごすことになったのだった。

 ……レノのばかーーッ!
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