《BL》転生令息は悪役よりも壁志望、もしくは天井でも可!

神谷レイン

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第三章「キスは不意打ちに!」

17 一件落着

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「ところで陛下、ジェレミーに何かいう事があるんじゃないんですか?」

 俺が後ろを振り返れば、立ち尽くしている陛下は泣きそうな顔でジェレミーを見つめていた。

「ジェレミー」
「……父上」

 ジェレミーが呟くと陛下はしゃがみ、膝を床に付けた。

「ジェレミー、すまなかった。俺はお前が苦しんでいるのに何も気がつかず、あんな人物を教育係に……親として失格だな。本当にすまない。ミカにお前の事を頼まれたのに、俺は」

 陛下は拳を握り、悔しそうに呟いた。そんな父親にジェレミーは戸惑う。だから俺は声をかけた。

「ジェレミー。もしかしてこんなことを起こして、また陛下に迷惑をかけたとか思ってる?」
「き、キトリ―ッ!」

 どうして言っちゃうの?! と言う顔をして俺を見たが、その横で陛下は荒げた声を出した。

「迷惑!? どうして迷惑なんて!!」
「ジェレミーが具合が悪い時、陛下に会いたくないって言ったのは忙しい陛下の時間を自分に割いて迷惑だと思われたくなかったからですよ」
「そんな、迷惑だなんて思う訳がないだろう! てっきりジェレミーが俺に会いたくないと言ったのは俺の事を嫌いだと!」
「ち、違う! ボク、父上の事、嫌いなんかじゃッ!」
「じゃあ、どうして……」

 陛下が尋ねればジェレミーは次第に瞳に涙を溜めて、とうとう告白した。

「だって、だって、もう嫌われたくなかったんだもん。……父様が死んじゃったの、ボクのせいだからっ」
「ジェレミー。どうしてミカが死んだのがお前のせいになる? ミカが死んだのは元々生まれつき体が弱かったからだ。ジェレミーのせいじゃない」
「でもボクが生まれなかったら父様はきっと長生きできた!」

 ジェレミーがぽろぽろと泣きながら言うと、陛下は首を横に振った。

「違うジェレミー、そうじゃない。ジェレミーの事を誰よりも望んだのは、ミカ本人だ。そして俺もお前が生まれるのを望んだ。だからジェレミーのせいじゃないんだ」

 陛下はそう言うと泣くジェレミーをそっと抱き締めた。

「ミカは出産で自分の寿命が縮まるのもわかっていた。それでもミカはジェレミー、お前を望んだんだ。そしてジェレミーが生まれてからは毎日が幸せだと言っていた。ジェレミーだって覚えているだろう? だから自分のせいだとか思うんじゃない。ミカが悲しむし、俺も悲しい」
「で、でも、ボクはっ、父上の大好きな父様を奪っちゃったんだよ?」

 ジェレミーはえずきながら言ったが、陛下はハッキリと否定した。

「奪ってなんかない、ミカは俺にお前を残してくれたんだ」

 陛下が告げるとジェレミーはとうとう大泣きをし始め、ぎゅっと父親の体に抱き着いた。その二人の姿はまるでずっと会っていなかった親子のよう。
 そして何とも感動的な光景に俺の涙腺も崩壊する。

「うっ、うっ、ええ話やぁ!」

 ……これはもう全米、いや全世界が泣いちゃうやつぅッ! 号泣必死!!

「坊ちゃん、鼻水が」

 俺がだばーっと泣くと、隣からレノがハンカチを持って俺の顔を拭いてくれた。なので俺は遠慮なくチーンッと鼻をかむ、レノは嫌な顔をしたが。

「ふぅ、ちゅっきりした。それよりレノ、本当に体は何ともないのか?」
「言ったでしょう。私は毒耐性がありますから大丈夫ですって」
「だけどぉ」

 俺は心配げにレノを見る。

 ……うーん、レノってば具合が悪いのをすぐに隠そうとするからなぁ。

 俺はじぃーっとレノを見るが、具合が悪そうなところは今のところない。たぶん、本当にレノは大丈夫なんだろう。もしこの後具合が悪くなりでもすれば、俺が嘘を吐いたことに怒るのを知っているから。

「本当に大丈夫です」

 レノは念押しする様に俺に言った。

 ……まあ、そこまで言うなら信じるか。

 でも俺はちらりとレノの尖った八重歯が見る。なんでもレノの八重歯は毒牙で、強烈な毒液を持っているらしい。なので、その毒の耐性がある為かレノには他の毒が効かないんだって。

 ……毒蛇かよ。でもレノって銀髪だし、どっちかって言うと白蛇? 神様の御使い的な感じだよなー。ケッ、イケメンめ。

「なんですか?」
「にゃんでもにゃいです」

 しかしそんな会話をしている間にジェレミーの涙は落ち着いたようだ。

「大丈夫か? ジェレミー」
「はい、父上」
「そうか……。しかし幼い頃からミカの傍にべったりだったから、ジェレミーはてっきり俺の事が嫌いかと思っていた」
「ち、違う。ボク、その」

 ジェレミーが言い淀むと黙っていた父様が口を開いた。 

「ジェレミー様は病弱なミカリー様を放っておけなくて、いつも傍にいたのですよね? それに陛下の事が好きで喋るのが恥ずかしかった。そうじゃありません?」
「そうなのか?」

 陛下が驚いた顔でジェレミーに尋ねれば「うん」と小さく答えた。そうすれば陛下は柔らかく微笑む。

「そうか。……でも俺はジェレミーといっぱい話したい。これからは話しかけてもいいか?」

 ジェレミーは陛下に聞かれて顔を染めながらも、何度も頷いた。どうやら親子の絆も完全修復されたようだ。そんな二人を見て、俺は腰に手を当てる。

「うむうむ、これにて本当に一件落着ぅ! ニャーハッハッハッ!」

 これを言わないと、どうもスッキリしない。レノは少々呆れた顔で俺を見ているが……。
 そして高らかに笑う俺は、父様とお爺がこそこそ話している事に気がついていなかった。

「全くうちの息子はとんでもないな」
「ほっほっほ、そのようで。……でも旦那様もこの件については気がついていらっしゃったのでは?」
「まあね。でも私は警戒されていたから、キトリーが証拠を掴んでくれてよかったよ。爺、これからもキトリーの事をよろしくお願いするよ」
「ほっほっ、私で良ければお任せください」

 なんて二人が話している事は……。
 そして、ひとしきり笑った俺に陛下が声をかけた。

「キトリー、今回はありがとう。俺は見誤って大事な息子を亡くすところだった」

 そう情けなく言う陛下はただ一人の親で男だった。
 そしてその姿は、前世時の優しいけどヘタレな親戚のおっちゃんのようで。だから俺はついつい言ってしまった。

「いいって事よ、おっちゃん! ……あ」

 ……やべ! 陛下についついおっちゃんって言っちゃった!!

「おっちゃん?」
「あ、その、それはぁ! ご、ごめんなちゃい!」

 陛下は驚いた顔をし、俺は慌てて謝り、噛んだ。だが陛下は俺に笑って見せる。

「いや、おっちゃんで構わん。そーか、おっちゃんか。陛下と言われるよりずっといいな」

 陛下は顎をさすりながらあっけらかんと言い、俺は声を上げる。

「へ? あの、陛下??」
「キトリー、これから俺のことはおっちゃんと呼びなさい。息子の友人に陛下と言われるのも変だからな」
「あ、いや、あのー?」

 ……いや、今さっきのはつい勢いで言っちゃったんですけど! というか陛下におっちゃん呼びはなかなかハードルが高いと申しますかね? え、ちょっと??

「フム、おっちゃんか。なかなかいい響きだな」

 何か知らんが、陛下は満足げな顔をしている。もう陛下と呼ばせてもらえない雰囲気。

「ちょ、あのー? フニャッ」

 俺が呼びかけようとすると父様が俺の頭にぽんっと手を置いた。

「キトリー、陛下がいいと言っているのだからいいのだよ」

 ……いや父様、陛下がいいからって駄目でしょ!! 不敬罪でしょっ引かれたくないんですがー!? 

「坊ちゃん、諦めてください」
「ほっほっほっ、そうですぞ」
「父上がいいって言ってるから、いいんじゃないかな?」

 レノとお爺、ジェレミーにまで諭され、俺の味方は一人もいなかった。

 ……いや、誰か止めなさいよぉぉぉっ!

 その心の叫びは誰にも届かず、結局俺のおっちゃん呼びはこの時決定したのだった。

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