《BL》転生令息は悪役よりも壁志望、もしくは天井でも可!

神谷レイン

文字の大きさ
58 / 180
第三章「キスは不意打ちに!」

16 沙汰

しおりを挟む
「キトリー様、連れてきましたよ」
「お待たせしました」

 やって来たのはフェルとヒューゴ、そして一人の若い女の子だった。だが彼女を見た途端、おばさんの表情が変わる。

「うむ。では、まずあなたが誰なのか皆に教えてくれるかな?」

 俺が尋ねれば女の子は涙ぐみながら頷き、答えた。

「わ、私、エリカって言います。普段はジェレミー王子付きの使用人をさせて頂いてます」
「ではエリカさん。あなたがミス・ラナーにされた事を教えてもらえるかな? この前、俺に教えてくれたように」

 俺が言えばエリカは少し間を置いた後、意を決したように声を上げた。

「はい。……あれは私がジェレミー王子付きの使用人になりたての頃です。ミス・ラナーが私に小瓶を渡されました。そして、それをジェレミー王子の飲み物に入れる様に言われたんです、薬だって言われて。でも、飲み物に混ぜる度にジェレミー王子の具合が悪くなるばかりで……私、小瓶の液体を調べて。そしたら小瓶に入っていたものが毒だってわかったんです。でもそれをミス・ラナーに告げたら、毒を盛った私も同罪だって脅されて。私、今まで誰にも言えなくてっ。申し訳ございませんでした!」

 女の子は泣きながら陛下とジェレミーに頭を下げた。
 そう、ただの使用人だった彼女はミス・ラナーに脅されて、毒を飲ませる様に強要させられたのだ。そしてたった一人の弟を養っている彼女は罪を誰にも告げられなかった。だが俺は彼女を見つけ出し、事情を聞いて保護、しばらく仕事を休む様にした。

 このおばさんが自分の手を汚すであろう決定的瞬間を作る為に。

「もうこれ以上の言い逃れはできないぞ。それでもまだ何か申すか?」

 俺がおばさんに問いかければ、とうとう観念したようだった。だが信じられないようなものを見る目で俺を見つめる。

「そ、んな、こんな事って……お前は、一体何者なの!?」

 おばさんは俺を見て問いかけたが、答えたのはお爺だった。

「ほっほっほ、何者ですか。……ミス・ラナーとやら、貴方はさきほどのマナー講座で一つ間違いをしておられましたよ」

 突然、先程のマナー講座の間違いを告げられておばさんはお爺に振り向く。

「な、何が間違いだって言うのよ?! 一体、何の話をしているの!?」

 おばさんは戸惑うが、お爺は構わずに笑いながら話を続けた。

「格調高いお茶会では、身分の高い方からお茶を飲んでいくのが決まりです。ですが貴方は飲む順番を間違えられた」
「順番? ジェレミー王子の次は私で合ってるでしょッ!」
「それが間違いというものです。坊ちゃん、よろしいですかな?」

 お爺に尋ねられて、俺はウム! と頷く。そうすればお爺は懐から懐中時計を取り出した。懐中時計には公爵家の花の家紋が彫られている。

「その、家紋は!」

 おばさんはハッと今まで黙っていた父様に視線を向け、そうすれば父様は笑みを見せた。

「その子は私の息子だ」
「ま、まさか!」
「冗談ではございません。こちらの御方はポブラット公爵家ご当主・エヴァンス様のご次男キトリー様でございます」
「……王家の盾のッ!」

 おばさんは口をあんぐりと開けて俺を見た。
 ポブラット家は王家に次ぐ家格だし、母様は隣国の王族なので身分はこのおばさんより俺の方が上なのだ。つまりおばさんはマナー違反をし、お爺はその事を指摘した。

 ……きっと俺の事を貴族でも男爵ぐらい、それか庶民だと思ってたんだろーな。まあ、そういう風に演じましたけど。正直お茶を飲む順番なんてどーでもいいと思ってるけど、こちとら母様から厳しくみっちりと扱かれとるわい!(涙)

「そんな……ポブラット家が出てくるなんて」

 おばさんはすっかり魂が抜かれたように意気消沈し、俺は突っ立ったままの近衛騎士達に指示を出す。

「騎士さん達、この者を連れてってくださいな。ミス・ラナー、お主は自分のしたことを牢にてよくよく反省し、沙汰を待つが良い!」

 俺がビシィッと指をさして告げれば、近衛騎士達はお爺からおばさんを引き取り、すぐさま連行していった。そしておばさんは「こ、こんなはずじゃ」と呟きつつも大人しく騎士達についていった。まあ、もう言い逃れできないしな。

 ……やれやれ、これにて一件落着。……と言いたいところだが。

 俺はちらりと使用人エリカを見て、俺は陛下に頭を下げた。

「陛下。彼女は毒を盛ったのは事実でも、それは強要されやった事。どうか寛大な処置をお願いします」

 俺が頭を下げて真摯に頼むと、陛下はエリカを一瞥し「ああ」と頷いた。それを聞いて俺はフェルとヒューゴに視線を向ける。そうすれば二人は泣くばかりの使用人エリカを連れて出て行った。きっと二人がうまいこと彼女をケアするだろう。陛下の言質も取ったし、悪いようにはならない筈。

 そして部屋には静寂が訪れ、俺はふぅっと一息を吐く。だが……。

「き、キトリー」

 後ろで全て聞いてたジェレミーが戸惑いながら俺に声をかけた。

「ね、今のは一体……?」
「ジェレミー、驚かせてごめん。事前にこの事を教えて、お前がうまく演技できるかどうかわからなかったから言わないで事を進めた。騙したみたいで、すまない」

 俺が正直に謝れば、ジェレミーは首を横に振った。

「う、ううん! そんな事、どうでもいいよ! ただボク、驚いて……まさかミス・ラナーが毒なんて」

 ジェレミーは信じられないと言う顔で呟いた。まだ六歳には重い事実だろう……だが。

「ジェレミー。きっと今後もこういう事は起こりうるだろう、普通に生きていたって突然人の悪意にさらされることはある。だからな、約束するよ。何かあったら今回みたいに助けるって」

 俺はジェレミーの手をぎゅっと握って言う。するとジェレミーは不思議そうな顔をして俺を見た。

「どうして、そんな……ボクの為に」
「どうしてって。ジェレミー、良い奴じゃん。それに友達を守るのは当然だろ?」

 俺が答えるとジェレミーは嬉しそうに笑った。その笑顔は今日も今日とてキラキラと眩しい、誰かサングラス下さい。

 だが、俺は眩しい笑顔を受けつつ後ろにいる人物に声をかけた。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ※第33話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

秘匿された第十王子は悪態をつく

なこ
BL
ユーリアス帝国には十人の王子が存在する。 第一、第二、第三と王子が産まれるたびに国は湧いたが、第五、六と続くにつれ存在感は薄れ、第十までくるとその興味関心を得られることはほとんどなくなっていた。 第十王子の姿を知る者はほとんどいない。 後宮の奥深く、ひっそりと囲われていることを知る者はほんの一握り。 秘匿された第十王子のノア。黒髪、薄紫色の瞳、いわゆる綺麗可愛(きれかわ)。 ノアの護衛ユリウス。黒みかがった茶色の短髪、寡黙で堅物。塩顔。 少しずつユリウスへ想いを募らせるノアと、頑なにそれを否定するユリウス。 ノアが秘匿される理由。 十人の妃。 ユリウスを知る渡り人のマホ。 二人が想いを通じ合わせるまでの、長い話しです。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

天啓によると殿下の婚約者ではなくなります

ふゆきまゆ
BL
この国に生きる者は必ず受けなければいけない「天啓の儀」。それはその者が未来で最も大きく人生が動く時を見せる。 フィルニース国の貴族令息、アレンシカ・リリーベルは天啓の儀で未来を見た。きっと殿下との結婚式が映されると信じて。しかし悲しくも映ったのは殿下から婚約破棄される未来だった。腕の中に別の人を抱きながら。自分には冷たい殿下がそんなに愛している人ならば、自分は穏便に身を引いて二人を祝福しましょう。そうして一年後、学園に入学後に出会った友人になった将来の殿下の想い人をそれとなく応援しようと思ったら…。 ●婚約破棄ものですが主人公に悪役令息、転生転移、回帰の要素はありません。 性表現は一切出てきません。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

腐男子♥異世界転生

よしの こひな
BL
ある日、腐男子で新卒サラリーマン・伊丹トキヤの自室にトラックが突っ込む。 目覚めたトキヤがそこで目にしたのは、彼が長年追い続けていたBL小説の世界――。しかも、なんとトキヤは彼が最推しするスパダリ攻め『黒の騎士』ことアルチュール・ド・シルエットの文武のライバルであり、恋のライバルでもあるサブキャラの「当て馬」セレスタン・ギレヌ・コルベールに転生してしまっていた。 トキヤは、「すぐそばで推しの2人を愛でられる!」と思っていたのに、次々と原作とは異なる展開が……。 ※なろうさん、Caitaさん、PIXIVさんでも掲載しています。

ブレスレットが運んできたもの

mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。 そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。 血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。 これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。 俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。 そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?

処理中です...