《BL》転生令息は悪役よりも壁志望、もしくは天井でも可!

神谷レイン

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閑話

1 ミカリーとジェット

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昨日で終わったと見せかけての閑話に入ります(笑)

この閑話はジェレミーの両親、ジェットとミカリーのお話です。本編とはあまり関わりないので、ペラっと読んでいただければ幸いです( ´ ω ` )

本当は三話ぐらいにしたかったのですが、結局全五話になってしまいました。

 ***************


 ――それはまだジェットが十歳の頃。


 城の庭園を歩いていると、花が咲く噴水の縁に一人の美少女が座っていた。
 サラサラの金糸の長い髪が風に揺られ、青い瞳は空を写したかのよう。肌は色白で、まるで花の妖精みたいだった。
 だからジェットはその姿にすっかり一目惚れしてしまって、その子に駆け寄るなり、出会い頭からとんでもないことを口走った。

「俺と結婚してくれ!」

 この時のジェットは、この国ただ一人の王子だったこともあり、チヤホヤされて育ったせいで少々横柄な性格をしていた。そして横柄なジェットは自分の誘いを、断る人間なんていないと思っていた。
 むしろ、自分にこう言われて光栄だろう! とさえ思っていたのだ。しかし返ってきたのは……。

「ハァッ? 話しかけんな。このトンチキ野郎」

 息をするのを忘れるほどの辛辣な言葉で。
 でも、これがジェットとミカリーの初めて出会いだった。




 ◇◇◇◇




 ――それから七年後。
 十七歳になったジェットは放課後、学生服のままミカリーの屋敷に遊びに来ていた。手には花束を持って。

「ミカ、俺と結婚しよう」

 ジェットは花束を差し出して、ベッドに座るミカリーに言った。
 そして求婚されたミカリーは、今も金糸のような長い髪に青い瞳を持ち、十七歳の青年になってもその美しさは健在、いや幼い頃より更に磨きがかかっていた。その姿はまるで深窓の令嬢のよう。
 だが姿とは裏腹な性格も健在、いやもっと激しくなっていた。

「うるせぇ、誰がテメーと結婚するか。同じことを何べんも言わせんな、このトンチキ野郎」

 ミカリーは寝巻姿でベッドに座りながらも中指を立ててジェットに言った。でも、こんなのはジェットにとってもう挨拶みたいなものだ。

「フフ、そんな辛辣な言葉も最近は癖になって来たよ」
「どMか、お前は! おいエヴァンス。笑ってないで、さっさとこいつを引き取って帰れ!!」

 ミカリーはジェットの後ろに立つ友人エヴァンスに声をかけた。

「それは無理。私が王子に命令できるわけないだろう?」
「よく言うぜ、都合の悪い時はいつもそうやって逃げやがって」

 ミカリーはギロッと睨むが、エヴァンスは笑って肩を竦めるだけだった。

「それよりミカ、今日は調子よさそうだ。顔色もいい」

 ジェットがベッド脇のサイドテーブルに花束を置きながら言うと、ミカリーはフンッと鼻を鳴らした。

「お前が来るまで、もっと調子が良かったよ。大体、毎度毎度王子様が気軽に遊びに来るな」
「ミカの顔が見たいから仕方がないじゃないか」

 ニコニコして言うジェットにミカリーはうんざり顔を見せる。

「俺はお前の顔を見ない方が幸せだ。全く、こんなところで油売ってていいのか?」
「いいの、いいの。ここは俺のオアシスだから」
「あのさぁ。お前、それ自分で言ってて恥ずかしくなんねーの?」
「事実だから」

 呆れた顔で言うミカリーに対してジェットはニコニコと笑顔で返し、その後ろで二人のやり取りに耐えきれなくなったエヴァンスはプッと笑った。

「エヴァンス、笑い事じゃねーぞ」
「悪い悪い、ついね」
「全く、揃いもそろって。次期王と宰相候補がこんなんで大丈夫かよ」

 ミカリーは呆れたように言ったが、エヴァンスはにっこりと笑った。

「さあ、どうかな? 多分大丈夫なんじゃない?」
「大丈夫、大丈夫。心配しなくてもなんとかなるでしょ」

 ノリの軽い二人にミカリーはますます呆れた視線を向ける。

「心配しかない」

 頭を抱えて言うミカリーにジェットは笑顔を見せる。

「そんなに心配なら、俺と結婚して近くで見守るって言うのはどぉ?」
「お断りだって言ってんだろーがッ! 大体、出会ってから七年。ずーっと求婚しやがって、そろそろ諦めろ!」
「ヤダなぁ、まだ七年じゃないか~」
「……お前は俺の具合を悪くしたいのか?」

 ミカリーはとうとうキレて、ジェットの両頬をぎゅっと摘まんで横に引っ張った。しかしジェットは「アテテテッ」と痛がっているが、どこか嬉しそうだ。

「本当に仲がいいね」
「誰が!」

 エヴァンスの言葉にミカリーはすぐに反論した。
 だがそこへ、コンコンッとドアがノックされる。

「失礼しますよ」

 一言声がかかり、ドアが開く。三人が視線を向ければ、そこにはメイド服を着た恰幅のおいおばさんがカートを押していた。彼女はこの屋敷のメイド長であり、ミカリーの世話係のサリアだ。

「あらあらミカリー様、殿下にそのような事をしてはなりませんよ」
「サリア! こいつらにお茶なんて必要ないっていつも言ってるだろ!」

 ミカリーはジェットから手を離して、言い放つ。しかしサリアは首を横に振った。

「何をおっしゃいます。わざわざ遊びに来てくださったのに、おもてなしをせずにいられますか。それに今日は殿下がミカリー様の好きなチーズケーキを持ってきてくださったんですよ?」
「フンッ、いつもタダでお茶していくんだから、それぐらい当たり前だ」
「そんな言い方をしてはいけません、ミカリー様」

 サリアの眼鏡の奥の優しい瞳がキラリと光ると、ミカリーはうっと口を閉じた。子供の頃からの世話係であるサリアにミカリーは弱いのだ。
 なので、お前のせいで怒られたぞ! と言う視線をジェットに向けたが……。

「そんなに熱く見つめられると照れるなぁ」
「見つめてんじゃない、睨んでんだ。いつの間にかサリアを懐柔しやがって」

 ミカリーが恨みがましく言うと、ジェットはにこりと笑った。

「将を射んとする者はまず馬を射よ、って言うからね」

 ジェットの言葉にミカリーはチッと舌打ちをする。でも、その間にサリアはお茶を淹れ、その横でエヴァンスは好青年の如くチーズケーキを切り分け、手伝っている。

「全く、人の家でくつろぎ過ぎなんだよ。お前らは」
「言っただろ? ここはオアシスなんだ」

 ジェットの答えに、ミカリーは返事代わりに大きなため息を吐いた。
 しかし結局は三人でチーズケーキを食べ、ジェットとエヴァンスは更に一時間ほど滞在して、帰り際までジェットはミカリーに求婚するのだった。


 ――だが、それから日も暮れかけの頃。
 屋敷を出る馬車が一台、ミカリーはその馬車を自室の窓辺から見送っていた。

「本当に殿下とエヴァンス様は楽しい方々ですね、ミカリー様」

 サリアはティーカップを片づけながらミカリーに話しかける。だがミカリーは振り返らずに「ああ」と答えただけだった。そんなミカリーの後姿を眺めて、サリアは問いかける。

「ミカリー様、殿下の申し出を受け入れたらどうですか? もう七年です。こうして屋敷に通われて」

 サリアが告げると、ミカリーは金の髪を揺らしながら振り返った。

「サリア、それはできない。わかってるだろう? 俺じゃダメなんだよ。俺じゃ」

 ミカリーは口元は笑っていても、少し寂し気な顔をして言った。そんなミカリーにサリアは言葉に詰まらせる。
「ですがっ」
「サリア、ダメなものは駄目だ。だから、そろそろ俺も動こうと思う」
「ミカリー様?」

 何も知らされていないサリアは首を傾げた。でも、ミカリーは優しく微笑むだけだった。


 ◇◇


 ――そしてジェットとエヴァンスの二人も、何も知らないまま馬車に揺られていた。

「ミカリー、最近は随分と体調がいいみたいでよかったですね」
「ああ。まあ、油断はできないけどな」

 エヴァンスの言葉にジェットは馬車の外を眺めながら答えた。でも外を見ながらも頭の中にあるのはミカリーの事だろうとエヴァンスは察する。

 ミカリーは生まれながらに病弱で、特に心臓や気管が悪い。なので、ミカリーが学園に通えたのは両手で数えられる程度、ほとんどはあの伯爵家の屋敷で一日を過ごしている。最近は体調がよく、起きている事も多いが、それでも元気とは言い切れない。

 そして、そういった理由でジェットがミカリーに求婚し続けることに難色を見せる貴族や大臣は多かった。

 時期王であるジェットと結婚することになれば、その伴侶は王妃となる。そうなれば多忙な公務と責任が伴い、それを病弱なミカリーが担うには無理だという意見が多かったからだ。
 でも、それを無視してもジェットはずっとミカリーに求婚し続けていた。

「求婚も七年。諦めが悪いと言うか、一途と言うか」

 呆れたようにいうエヴァンスにジェットは視線を向けた。

「俺は一途だ。それにエヴァンス、お前は俺の伴侶がミカ以外に務まるなんて思ってるのか?」

 ジェットに問いかけられて、エヴァンスはフッと笑った。

「思わないですねぇ。この大国であるバルト帝国のたった一人の王子にトンチキ野郎なんて言えるのは世界広しと言えどミカリーだけです」
「そうだろ? だから何度だって求婚するさ。それにミカリーのあの性格なら、嫌だったら俺と顔を合わせる事もしないだろう。でも会ってくれているという事は、ミカも悪い気はしてないってことだ」
「ポジティブ~。でもミカリーが変な事を考えなきゃいいけど」
「変な事? 何をだ?」
「さぁ? 何となくそう思うだけですよ」
「変な事、ね」

 ジェットは小さく呟いた。
 しかし翌週、エヴァンスの言った事が本当になるとは、この時のジェットは知る由もなかった。
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