《BL》転生令息は悪役よりも壁志望、もしくは天井でも可!

神谷レイン

文字の大きさ
108 / 180
第五章「告白は二人っきりで!」

12 ナギさん

しおりを挟む

 ……あれ? エンキ様が腕につけてる組紐、どっかで見たような?

 エンキ様の腕には赤と黄色で作られた組紐があり、それとよく似たものをどこかで見たような気がした。けれど、どこで見たのか思い出せない。

 ……どこで見たんだろ? なんか身近なところで見たような?

 俺は妙な既視感を感じながら見つめる。そうすればエンキ様はにこっと微笑んだ。

「しかし、あのローラさんにこんな大きな息子さんがいるなんて感慨深いよ。子供の頃はローラさんに連れられて、姉と一緒にこの大神殿を抜け出して遊びまわったものだから」

 エンキ様は懐かしそうに笑って言った。その表情を見るからに、本当に母様とは仲が良かったんだろう。
 だから、ちょっと母様の子供時代を聞こうとしたのだけれど――。

「エンキ様! またここにいたのですか!」

 突然若い男の声が飛んできて、その声に振り向けば、俺が迷路の出口だと思った場所にこげ茶に短髪の神官が立っていた。年齢は二十代半ばくらいだろうか。なんだかプンプン怒っている。
 しかしエンキ様はにこやかに彼の名前を呼んだ。

「ああ、ナギ」
「ああナギ、じゃありませんよ! 皆、エンキ様を探していますよ。朝には会議が入っていると申しましたが!?」
「私がいなくても会議は回る。それにナギがいれば、大丈夫だろう?」

 エンキ様が笑って答えると、ナギと呼ばれた神官は頭を抱えた。

「そういう問題ではありません。エンキ様が参加している、という事が大事なのです!」
「それはやっぱり私がいなくてもいいという事じゃないか」
「我儘を言わないでください」
「やれやれ。仕方ないね」

 エンキ様はため息交じりにそう言うと、やり取りを眺めていた俺に視線を向けた。

「キトリー君、失礼したね。このプンプン怒ってるのは私の世話係をしているナギだ。ナギ、こちらの青年はバルト帝国のポブラット公爵家のご令息キトリー君だ」

 エンキ様が俺の正体を教えるとナギさんは驚いた顔を見せた。

「ポブラット家というと、あの王家の盾と言われる!? これは失礼いたしました、大変お見苦しい所をっ」

 ナギさんは慌てて頭を下げた。どうやらナギさんもポブラット家の事を知っているようだ。

 ……まあ一応、我が家は王家に次ぐって言われてるからなぁ。

「さて、キトリー君。申し訳ないがナギが来てしまったので私は行かなければならない。また午後にお会いしよう」

 エンキ様は重い腰を上げて言い、俺は頷いた。

「はい、また午後に。それまでお待ちしております」
「ありがとう。ではナギ、行こうか」

 エンキ様が告げるとナギさんは頷き、そしてもう一度俺に頭を下げてエンキ様と共に庭園を出て行った。
 その後姿を眺め、レノが俺に声をかける。

「エンキ様、なかなか物腰柔らかな方でしたね」
「うん、そーねぇ。あんなセクシー系とは思わなかったなぁ」

 俺はコロコロとキャンディを舐めながら返事をした。

 ……母様の事も聞きたいけど、午後はどうやってエンキ様に今後の事を聞くかな~。

 俺はそんな風に思った。でもこの日俺がもう一度エンキ様に会うことは叶わなかった。

 ――――なぜなら、孤児院を慰問していたアシュカが皇女様の娘を名乗る少女と出会い、連れ帰ったから。




 ◇◇◇◇



 その日の夕方。

「もー、この国はどーなってんのよぉーっ!!」
「まさか、このタイミングで皇女様の娘が現れるとは思いませんでしたね。とりあえず、お茶を飲んで落ち着いてください」

 レノは客室で頭を抱えながら呟く俺に、紅茶を淹れたティーカップを渡してくれた。

「ミルクと砂糖をたっぷり入れてます」
「んー、ありがと~」

 こういう時は糖分を取るのが一番である。なので俺はレノが淹れてくれたミルクティー(どっしり甘め)をくぴりと飲む。ホッと安堵できるおいしさだ。

「はぁ、おいしい」
「それはようございました」

 レノはそう言いつつ、自身も自分で淹れた紅茶を飲む。

「んー。……ところでレノはどう思う? 現れた娘、会ってないけど本当に皇女様の娘だと思う?」

 俺が意見を求めるとティーカップを片手にレノは真面目な顔を見せた。

「確証がない内はなんとも申せません、本当に失踪された皇女様の娘かもしれませんし」
「そーだよなぁ」

 ……まあ、本当に皇女様の娘なら跡継ぎ問題も解決で、アシュカや姉ちゃんもこの問題から解放されるんだろうけど。でも、現れた娘は皇女である母親を亡くして、証明できるものは母親が書いた手紙だけって話らしいし(神官達が話してるのを立ち聞いた)。大分怪しいよなぁ。

 俺は顎に手を当てて、ふぅっと息を吐く。するとレノが俺に言った。

「ただ、私の勘ですが……現れたのは皇女様の娘ではないと思います」

 ハッキリと言うレノに俺は『なんで?』と視線を向ける。

「さきほどお茶セットを貰いに行った際に神官の方々に聞き込みをしましたが、どうやら皇女様が失踪された理由は望まない結婚を迫られたからのようです。そう言った理由で出て行かれた方の娘が戻ってくるでしょうか」
「望まない結婚?」

 ……てか、お茶セットを貰いに行っただけなのに情報を得てくるとは……やるな。

「どうやらエンキ様に自分の娘を、と言っている二人の枢機卿の方々が、その当時、皇女様に結婚を迫っていたようです。ですが皇女様にはどうやら恋人がいたらしく」
「じゃあ、それが嫌になって皇女様は失踪を? もしかして枢機卿達は自分たちが結婚できなかったから、娘をエンキ様に??」
「話を聞く限りでは、恐らく。……しかし、皇女の娘も現れたことで派閥が三つになりそうですね。枢機卿の娘を押す者達と皇女様の娘を押す者達とに」

 レノに頭の痛い事を言われ、俺は「うぅ~」と再び頭を抱える。

 ……三つの派閥による権力争いか。まあ、皇女様の娘が本物ならすぐに収集はつくかもだけど。……でも皇女様と同じ茶髪に琥珀色の瞳を持っている娘を用意するのは難しくないし。こっちの世界じゃ、結構いるもんな~。レノの母親のサラおばちゃんだって、茶髪に琥珀の瞳だし。

 俺はレノの母親であるサラおばちゃんを思い出す。

 ……けど、そういやサラおばちゃんって年齢も失踪した皇女様と同い年くらいだっけ? ……んー、もしサラおばちゃんが皇女様ならレノが跡取り? ……なんてな。

 俺は心の中で冗談を呟き、ちらりとレノを見る。

「何か?」
「うんにゃ」

 俺はもう一口ミルクティーを飲む。

 ……サラおばちゃんが皇女様なわけないよな。でも、レノが家に来る前の話って知らないし、あの悪徳貴族に仕えてたけど、それ以前の事は……聞いた事ないな?

 俺はもう一度レノを見る。

「何です?」
「違うよな?」
「何がです?」

 俺は「いや」と答えて、ズズズッとミルクティーを飲み切った。






 ――そしてその頃、サラと言えば。
 深刻な顔で神聖国から送られてきた手紙をぎゅっと握りしめていた。

「レノ、どうか気を付けて」

 そう小さく呟いた。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ※第33話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

秘匿された第十王子は悪態をつく

なこ
BL
ユーリアス帝国には十人の王子が存在する。 第一、第二、第三と王子が産まれるたびに国は湧いたが、第五、六と続くにつれ存在感は薄れ、第十までくるとその興味関心を得られることはほとんどなくなっていた。 第十王子の姿を知る者はほとんどいない。 後宮の奥深く、ひっそりと囲われていることを知る者はほんの一握り。 秘匿された第十王子のノア。黒髪、薄紫色の瞳、いわゆる綺麗可愛(きれかわ)。 ノアの護衛ユリウス。黒みかがった茶色の短髪、寡黙で堅物。塩顔。 少しずつユリウスへ想いを募らせるノアと、頑なにそれを否定するユリウス。 ノアが秘匿される理由。 十人の妃。 ユリウスを知る渡り人のマホ。 二人が想いを通じ合わせるまでの、長い話しです。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

天啓によると殿下の婚約者ではなくなります

ふゆきまゆ
BL
この国に生きる者は必ず受けなければいけない「天啓の儀」。それはその者が未来で最も大きく人生が動く時を見せる。 フィルニース国の貴族令息、アレンシカ・リリーベルは天啓の儀で未来を見た。きっと殿下との結婚式が映されると信じて。しかし悲しくも映ったのは殿下から婚約破棄される未来だった。腕の中に別の人を抱きながら。自分には冷たい殿下がそんなに愛している人ならば、自分は穏便に身を引いて二人を祝福しましょう。そうして一年後、学園に入学後に出会った友人になった将来の殿下の想い人をそれとなく応援しようと思ったら…。 ●婚約破棄ものですが主人公に悪役令息、転生転移、回帰の要素はありません。 性表現は一切出てきません。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

腐男子♥異世界転生

よしの こひな
BL
ある日、腐男子で新卒サラリーマン・伊丹トキヤの自室にトラックが突っ込む。 目覚めたトキヤがそこで目にしたのは、彼が長年追い続けていたBL小説の世界――。しかも、なんとトキヤは彼が最推しするスパダリ攻め『黒の騎士』ことアルチュール・ド・シルエットの文武のライバルであり、恋のライバルでもあるサブキャラの「当て馬」セレスタン・ギレヌ・コルベールに転生してしまっていた。 トキヤは、「すぐそばで推しの2人を愛でられる!」と思っていたのに、次々と原作とは異なる展開が……。 ※なろうさん、Caitaさん、PIXIVさんでも掲載しています。

ブレスレットが運んできたもの

mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。 そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。 血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。 これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。 俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。 そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?

処理中です...