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第五章「告白は二人っきりで!」
16 事件の始まり
しおりを挟む「――――全く、いつまで経っても帰ってこないので心配しましたよ。キトリー様」
部屋に戻った俺はレノに早速怒られていた。でもレノのお叱りが身に入らない。
「んー、ごめん」
俺は気もそぞろに、部屋に入って軽く謝る。そしてそんな俺の様子にレノはすぐ気がついた。
「何かありました? エンキ様とご一緒だったようですし」
レノに聞かれ、ベッドの縁に座った俺はレノを見上げる。
「まぁなー」
……レノに言いたいけど、エンキ様は俺だから話してくれたって感じだったからなぁ。レノには言えないな。
「図書室に向かう途中、道に迷っちゃって。その時、エンキ様と出会って案内してくれたんだ」
「皇王代理の方に何をさせてるんですか」
レノは呆れた顔で俺に言ってくるが、俺だって好きで迷子になったわけではない。まあ、俺もエンキ様に道案内させていいのかなー? とは思ったけど。
「まあ、そうなんだけど。その時に少し話しをな」
「一体何の話を?」
「色々と。悪いが言えない」
俺がハッキリ告げるとレノは少しムッとした。
「言えない? どうしてですか」
「今は言えないんだ。その時になったらレノにも教えるよ」
俺が答えると、レノは口を閉じた。でもいつもだったらもう少し食いついてもいいところだ。
……やっぱりレノも何か隠してるから聞きにくいのかな。全く、一体何を隠してるのか。
「とりあえず、この話はここまで。それより俺、腹減って来たよー。今日の夕飯はなんだろな?」
お腹を擦っていつもの俺で言えば、レノは表情を少し柔らかくした。
「そろそろ夕食の時間ですね。厨房へ行って参ります」
「ん、ありがと。よろしく頼むなー」
俺が頼むとレノは頷いて部屋を出て行った。そして部屋を出て行ったレノを見送り俺はふぅっと息を吐く。
……レノの隠し事、か。まあマジでサラおばちゃんが皇女様でも、俺は気にしねーんだけど。一体レノの隠し事ってなんだろなー?
ぼんやりと考えるが、この時の俺には見当もつかなかった。
そして、それからの俺と言えば。
アシュカや姉ちゃんと時折お茶をしつつ数日を過ごし、いつの間にか神聖国に来て一週間が経過。
けれど、ついに事件が起こってしまう――――。
◇◇◇◇
――俺が神聖国へ来てから八日目の昼前。
慌てた様子でノアさんが俺達の元へやって来て、話を聞いた俺は大声を上げていた。
「なんだって!? 街の広場でエンキ様の伴侶をどちらにするか投票を行う!?」
俺が尋ねればノアさんは頷き、困惑の表情で俺に告げた。
「はい。エンキ様がお決めになられないなら、民の声を聞こうと」
……どうして急にそんな事を。まさかッ!
「もしかしてエンキ様は枢機卿達に告げたのですか? 自分の代で皇族を終わらせると」
俺が尋ねるとノアさんは躊躇いながらも頷いた。
「……昨日会議があり、そのようにエンキ様がおっしゃられたそうです。今まではうやむやにしていたのですが昨日ハッキリと言われたようで」
「それで枢機卿達が急にそんなことを……。ランネット様はなんと?」
「ランネット様も先程話を聞かれて、広場へと向かわれました。至急キトリー様にも来て欲しいと」
……姉ちゃんは先に行ったのか。きっと枢機卿達は姉ちゃんには言ってなかったんだろう、反対されることを見越して。
「アシュカ様は?」
「アシュカ様は昨日の朝からリトロール王国へ出かけられています」
……そういえば、そんなことを言っていたな。リトロール王国の知り合いの結婚式に出てくるって。
俺は二日前にアシュカが言っていた事を思い出す。
「キトリー様、馬を用意しています」
「すぐに向かいましょう」
ノアさんに言われ俺は即答する。しかしそんな俺の腕をレノが突然ぎゅっと掴んだ。だから驚いて振り返ると、そこには心配顔のレノがいた。
「レノ?」
「キトリー様、決して無茶はしないと約束してください」
レノは俺をじっと見て言った。その瞳は心配に揺れ、俺に訴えかけている。
まるで俺が何かをすることがわかっているかのように。
「何言ってんだよ、無茶なんてしないよ。それより早く行くぞ!」
「本当ですね?」
レノは確かめるように俺に尋ねた。
「本当だ。約束するよ」
「……わかりました。絶対に無茶はしないでください」
俺が告げるとレノは掴んでいた俺の腕を渋々と離した。
そして俺達はノアさんの案内で広場へと向かう事になったのだが……。
でもこの時、レノは何か感じ取っていたのかもしれない。何かが起こると。そして俺がレノとの約束を破ってしまうことも――――。
◇◇
―――その頃、広場の近くの裏路地ではフードを被っている男達が集まっていた。
「入ってきた情報によると広場に今頃エンキも向かっているらしい。どうやら話が通っていなかったようだ」
「皇王代理のくせに何が起こっているのかも知らなかったのか。お飾りの王め」
「例の皇女の娘も来ているという話だ」
「役者が全員揃うという訳だな。神に選ばれし聖人様を王に据える為、長年神聖国を支配してきた皇族と権力にしがみつく枢機卿達ともども屠るには、またとない好機だ」
「そうだ。これもきっと神の思し召し、我々は神の代わりに奴らに裁きを下すのだ!」
反皇族派の彼らはその強い意志を表すように一斉に腕を上げ、決起した。
「さあ、魔獣を呼び出す準備をしよう」
そうリーダーらしき男は呟いた。
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