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第五章「告白は二人っきりで!」
17 舞台
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―――太陽が真上に登った頃。
馬車を下りた俺はノアさんの先導でレノと共に広場へと駆け、町の中心である広場へたどり着いていた。しかしそこには多くの人が集まり、その視線は大きな鐘のある塔の真下に作られた舞台に向っていた。
なぜならそこには枢機卿達と駆け付けたであろう姉ちゃん(ランネット様)とエンキ様の二人もいたからだ。
「このような事はおやめください!」
姉ちゃんが枢機卿達に詰め寄って言っているのが聞こえた。しかしすぐさま、ある一人の枢機卿が反論する。
「ランネット様、これはやむ負えないことなのです。このままでは長く続いた皇族の歴史が潰えてしまうのですぞ!」
「ジルド枢機卿、だからってエンキ様が望んでいない事を無理に進めることが許されるとでも!?」
姉ちゃんが言うとその肩をエンキ様が掴んだ。
「ランネット、ありがとう。ここからは私が話そう」
落ち着いた声でエンキ様は言うとジルド枢機卿の前に立った。
「ジルド枢機卿、貴方が言いたい事はわかる。これまでの歴史を重んじたい気持ちも。しかし私は誰の娘も娶る気はない。……この際だ、皆も聞いてくれ。私は世襲制を廃止し、これからは男女や年齢関係なく、能力がある者がこの国を治める制度を作りたいと思っている!」
エンキ様は舞台の上で民衆にハッキリと告げ、どよめきの声があがる。そして当然反論が出た。ジルド枢機卿とは別の枢機卿だ。
「何を馬鹿なことを! エンキ様、そのような事は認められませんぞ!」
「エルダー枢機卿。認めないと言っても、私の後がいなければそうなるしかないのだ。そして私の後にはナギを推薦する」
エンキ様は後ろに控えていたナギさんを見て言い、ナギさんは聞いていなかったのか驚いた表情を見せた。
「エンキ様、何を!」
「大神殿の中にいる者の中で、ナギが一番適任だ。皆をまとめられるだけの力もある。それにすでに私の仕事をほとんど任せているお前ならやれるだろう」
「エンキ様、私はそのようなっ!」
ナギさんは断ろうとした。しかしそこにうら若い声があがる。
「お待ちください! エンキ様がそのように思っていても、私がおります!」
そう言ったのは例の、皇女の娘を名乗っている女の子だった。けれど、それには誰よりも早くジルド枢機卿が反発した。
「何を! 貴方の身元はまだはっきりしていない。皇女様の娘であることはハッキリとしない内は認められません! エンキ様、貴方のお話もですぞ! 皇族を廃すなど、初代様が聞けば何と思われるかッ!!」
「だからってエンキ様の気持ちを蔑ろにしていいと!? それこそ認められない話だわ!」
姉ちゃんが声を荒げて言うが、枢機卿達は聞く耳を持たなかった。
「ジルド枢機卿!」
姉ちゃんは抗議を続けようとしたが、後ろからエンキ様に腕を掴まれた。そしてエンキ様は姉ちゃんの耳元でぼそぼそっと呟く。恐らく『ここで話をしても仕方がない。これ以上、みんなを混乱させては……』とでも言ったのだろう。
姉ちゃんは口を閉じ、舞台の上から広場に集まった市民に視線を向ける。広場に集まった人々は困惑と不安、驚きにそれぞれが顔を険しくし、不穏な空気が辺りを包んでいた。
なので姉ちゃんはそれ以上、何も言わなかった。いや言えなかった。
そんな姉ちゃんを見て俺はレノに声をかける。
「レノ、ランネット様の元へ行こう」
舞台の傍まで来ていた俺は背後に立つレノに言った。
「ええ。ですがキトリー様、約束を忘れないでください」
レノに再度言われて俺は『ああ』と答えようとした。けれど終わったかのように見えた騒動は終わっていなかった。なぜなら、大きな音が後方から響いたから。
――ドシンッ、ドシンッ。
突然何か巨大なものが近づいてくる音が聞こえ、地面が振動に揺れる。当然その場に居た誰もが『何の音だ?』と首を傾げ、不安げに辺りを見回した。
でもその場に居た数名だけが、この異変の原因に気がついていた。それは俺も。
「……この感じ、まさかッ!」
俺は正体に気がつき思わず叫んだ。けれど、同時に広場の端で悲鳴が上がって辺りが騒然とした。それもそうだろう、なぜなら町の中心地に大きな魔獣が現れたのだから。
禍々しいその体は大人がゆうに見上げなければならないほど大きく、太い四肢に紫がかった黒い鬣。羊のような二本の角の生え、人を簡単にかみ砕けそうな大きな牙は鋭かった。
そして魔獣はその存在を知らしめるかのように大きな口を開けて、咆哮した。その声はビリビリと俺の肌まで届く。
……くそっ、こんなところに魔獣が現れるなんてッ!!
だが、誰もが呆然としている中でたった一人だけが声を上げた。
「皆、この場から退避しろッ! 騎士達は市民を守り、神官達は市民の誘導を!」
叫んだのはエンキ様だった。
そしてその声をきっかけに広場にいた人たちが一斉に雪崩のように逃げ始める。パニックになった群衆は先を急ぎ、そんな彼らをエンキ様の指示通り神官達が誘導し、騎士達は剣を構えて魔獣に立ち向った。
そんな中、舞台の上も慌ただしくなる。
「ランネット、ナギと共に逃げなさい!」
「エンキ様は?!」
「私はどうにか奴をここで食い止める手立てを打ちます」
「それなら私も!」
「駄目です。ランネットは治癒が使える。その力を失うことはできない。ナギ、ランネットを頼みます」
「ですが!」
「ナギ、頼みます」
反論するナギさんに、エンキ様は有無を言わせなかった。
そして同じ舞台に立っていた筈の自称皇女の娘や枢機卿達も我さきへと逃げるように舞台から下りようとする。
けれど魔獣はもう一度咆哮すると囲んでいた騎士達を押しのけて、舞台へと一直線に走った。そうなれば舞台に逃げ場はない。騎士や神官達の叫び声が響く。
その騒動の中、俺はレノに振り返って告げた。
「ごめんな、レノ。俺、約束破るわ」
そう言った俺の髪は端から金色に染まり始めていた――――。
馬車を下りた俺はノアさんの先導でレノと共に広場へと駆け、町の中心である広場へたどり着いていた。しかしそこには多くの人が集まり、その視線は大きな鐘のある塔の真下に作られた舞台に向っていた。
なぜならそこには枢機卿達と駆け付けたであろう姉ちゃん(ランネット様)とエンキ様の二人もいたからだ。
「このような事はおやめください!」
姉ちゃんが枢機卿達に詰め寄って言っているのが聞こえた。しかしすぐさま、ある一人の枢機卿が反論する。
「ランネット様、これはやむ負えないことなのです。このままでは長く続いた皇族の歴史が潰えてしまうのですぞ!」
「ジルド枢機卿、だからってエンキ様が望んでいない事を無理に進めることが許されるとでも!?」
姉ちゃんが言うとその肩をエンキ様が掴んだ。
「ランネット、ありがとう。ここからは私が話そう」
落ち着いた声でエンキ様は言うとジルド枢機卿の前に立った。
「ジルド枢機卿、貴方が言いたい事はわかる。これまでの歴史を重んじたい気持ちも。しかし私は誰の娘も娶る気はない。……この際だ、皆も聞いてくれ。私は世襲制を廃止し、これからは男女や年齢関係なく、能力がある者がこの国を治める制度を作りたいと思っている!」
エンキ様は舞台の上で民衆にハッキリと告げ、どよめきの声があがる。そして当然反論が出た。ジルド枢機卿とは別の枢機卿だ。
「何を馬鹿なことを! エンキ様、そのような事は認められませんぞ!」
「エルダー枢機卿。認めないと言っても、私の後がいなければそうなるしかないのだ。そして私の後にはナギを推薦する」
エンキ様は後ろに控えていたナギさんを見て言い、ナギさんは聞いていなかったのか驚いた表情を見せた。
「エンキ様、何を!」
「大神殿の中にいる者の中で、ナギが一番適任だ。皆をまとめられるだけの力もある。それにすでに私の仕事をほとんど任せているお前ならやれるだろう」
「エンキ様、私はそのようなっ!」
ナギさんは断ろうとした。しかしそこにうら若い声があがる。
「お待ちください! エンキ様がそのように思っていても、私がおります!」
そう言ったのは例の、皇女の娘を名乗っている女の子だった。けれど、それには誰よりも早くジルド枢機卿が反発した。
「何を! 貴方の身元はまだはっきりしていない。皇女様の娘であることはハッキリとしない内は認められません! エンキ様、貴方のお話もですぞ! 皇族を廃すなど、初代様が聞けば何と思われるかッ!!」
「だからってエンキ様の気持ちを蔑ろにしていいと!? それこそ認められない話だわ!」
姉ちゃんが声を荒げて言うが、枢機卿達は聞く耳を持たなかった。
「ジルド枢機卿!」
姉ちゃんは抗議を続けようとしたが、後ろからエンキ様に腕を掴まれた。そしてエンキ様は姉ちゃんの耳元でぼそぼそっと呟く。恐らく『ここで話をしても仕方がない。これ以上、みんなを混乱させては……』とでも言ったのだろう。
姉ちゃんは口を閉じ、舞台の上から広場に集まった市民に視線を向ける。広場に集まった人々は困惑と不安、驚きにそれぞれが顔を険しくし、不穏な空気が辺りを包んでいた。
なので姉ちゃんはそれ以上、何も言わなかった。いや言えなかった。
そんな姉ちゃんを見て俺はレノに声をかける。
「レノ、ランネット様の元へ行こう」
舞台の傍まで来ていた俺は背後に立つレノに言った。
「ええ。ですがキトリー様、約束を忘れないでください」
レノに再度言われて俺は『ああ』と答えようとした。けれど終わったかのように見えた騒動は終わっていなかった。なぜなら、大きな音が後方から響いたから。
――ドシンッ、ドシンッ。
突然何か巨大なものが近づいてくる音が聞こえ、地面が振動に揺れる。当然その場に居た誰もが『何の音だ?』と首を傾げ、不安げに辺りを見回した。
でもその場に居た数名だけが、この異変の原因に気がついていた。それは俺も。
「……この感じ、まさかッ!」
俺は正体に気がつき思わず叫んだ。けれど、同時に広場の端で悲鳴が上がって辺りが騒然とした。それもそうだろう、なぜなら町の中心地に大きな魔獣が現れたのだから。
禍々しいその体は大人がゆうに見上げなければならないほど大きく、太い四肢に紫がかった黒い鬣。羊のような二本の角の生え、人を簡単にかみ砕けそうな大きな牙は鋭かった。
そして魔獣はその存在を知らしめるかのように大きな口を開けて、咆哮した。その声はビリビリと俺の肌まで届く。
……くそっ、こんなところに魔獣が現れるなんてッ!!
だが、誰もが呆然としている中でたった一人だけが声を上げた。
「皆、この場から退避しろッ! 騎士達は市民を守り、神官達は市民の誘導を!」
叫んだのはエンキ様だった。
そしてその声をきっかけに広場にいた人たちが一斉に雪崩のように逃げ始める。パニックになった群衆は先を急ぎ、そんな彼らをエンキ様の指示通り神官達が誘導し、騎士達は剣を構えて魔獣に立ち向った。
そんな中、舞台の上も慌ただしくなる。
「ランネット、ナギと共に逃げなさい!」
「エンキ様は?!」
「私はどうにか奴をここで食い止める手立てを打ちます」
「それなら私も!」
「駄目です。ランネットは治癒が使える。その力を失うことはできない。ナギ、ランネットを頼みます」
「ですが!」
「ナギ、頼みます」
反論するナギさんに、エンキ様は有無を言わせなかった。
そして同じ舞台に立っていた筈の自称皇女の娘や枢機卿達も我さきへと逃げるように舞台から下りようとする。
けれど魔獣はもう一度咆哮すると囲んでいた騎士達を押しのけて、舞台へと一直線に走った。そうなれば舞台に逃げ場はない。騎士や神官達の叫び声が響く。
その騒動の中、俺はレノに振り返って告げた。
「ごめんな、レノ。俺、約束破るわ」
そう言った俺の髪は端から金色に染まり始めていた――――。
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