《BL》転生令息は悪役よりも壁志望、もしくは天井でも可!

神谷レイン

文字の大きさ
113 / 180
第五章「告白は二人っきりで!」

17 舞台

しおりを挟む
 ―――太陽が真上に登った頃。
 馬車を下りた俺はノアさんの先導でレノと共に広場へと駆け、町の中心である広場へたどり着いていた。しかしそこには多くの人が集まり、その視線は大きな鐘のある塔の真下に作られた舞台に向っていた。

 なぜならそこには枢機卿達と駆け付けたであろう姉ちゃん(ランネット様)とエンキ様の二人もいたからだ。

「このような事はおやめください!」

 姉ちゃんが枢機卿達に詰め寄って言っているのが聞こえた。しかしすぐさま、ある一人の枢機卿が反論する。

「ランネット様、これはやむ負えないことなのです。このままでは長く続いた皇族の歴史が潰えてしまうのですぞ!」
「ジルド枢機卿、だからってエンキ様が望んでいない事を無理に進めることが許されるとでも!?」

 姉ちゃんが言うとその肩をエンキ様が掴んだ。

「ランネット、ありがとう。ここからは私が話そう」

 落ち着いた声でエンキ様は言うとジルド枢機卿の前に立った。

「ジルド枢機卿、貴方が言いたい事はわかる。これまでの歴史を重んじたい気持ちも。しかし私は誰の娘も娶る気はない。……この際だ、皆も聞いてくれ。私は世襲制を廃止し、これからは男女や年齢関係なく、能力がある者がこの国を治める制度を作りたいと思っている!」

 エンキ様は舞台の上で民衆にハッキリと告げ、どよめきの声があがる。そして当然反論が出た。ジルド枢機卿とは別の枢機卿だ。

「何を馬鹿なことを! エンキ様、そのような事は認められませんぞ!」
「エルダー枢機卿。認めないと言っても、私の後がいなければそうなるしかないのだ。そして私の後にはナギを推薦する」

 エンキ様は後ろに控えていたナギさんを見て言い、ナギさんは聞いていなかったのか驚いた表情を見せた。

「エンキ様、何を!」
「大神殿の中にいる者の中で、ナギが一番適任だ。皆をまとめられるだけの力もある。それにすでに私の仕事をほとんど任せているお前ならやれるだろう」
「エンキ様、私はそのようなっ!」

 ナギさんは断ろうとした。しかしそこにうら若い声があがる。

「お待ちください! エンキ様がそのように思っていても、私がおります!」

 そう言ったのは例の、皇女の娘を名乗っている女の子だった。けれど、それには誰よりも早くジルド枢機卿が反発した。

「何を! 貴方の身元はまだはっきりしていない。皇女様の娘であることはハッキリとしない内は認められません! エンキ様、貴方のお話もですぞ! 皇族を廃すなど、初代様が聞けば何と思われるかッ!!」
「だからってエンキ様の気持ちを蔑ろにしていいと!? それこそ認められない話だわ!」

 姉ちゃんが声を荒げて言うが、枢機卿達は聞く耳を持たなかった。

「ジルド枢機卿!」

 姉ちゃんは抗議を続けようとしたが、後ろからエンキ様に腕を掴まれた。そしてエンキ様は姉ちゃんの耳元でぼそぼそっと呟く。恐らく『ここで話をしても仕方がない。これ以上、みんなを混乱させては……』とでも言ったのだろう。

 姉ちゃんは口を閉じ、舞台の上から広場に集まった市民に視線を向ける。広場に集まった人々は困惑と不安、驚きにそれぞれが顔を険しくし、不穏な空気が辺りを包んでいた。
 なので姉ちゃんはそれ以上、何も言わなかった。いや言えなかった。

 そんな姉ちゃんを見て俺はレノに声をかける。

「レノ、ランネット様の元へ行こう」

 舞台の傍まで来ていた俺は背後に立つレノに言った。

「ええ。ですがキトリー様、約束を忘れないでください」

 レノに再度言われて俺は『ああ』と答えようとした。けれど終わったかのように見えた騒動は終わっていなかった。なぜなら、大きな音が後方から響いたから。

 ――ドシンッ、ドシンッ。

 突然何か巨大なものが近づいてくる音が聞こえ、地面が振動に揺れる。当然その場に居た誰もが『何の音だ?』と首を傾げ、不安げに辺りを見回した。
 でもその場に居た数名だけが、この異変の原因に気がついていた。それは俺も。

「……この感じ、まさかッ!」

 俺は正体に気がつき思わず叫んだ。けれど、同時に広場の端で悲鳴が上がって辺りが騒然とした。それもそうだろう、なぜなら町の中心地に大きな魔獣が現れたのだから。

 禍々しいその体は大人がゆうに見上げなければならないほど大きく、太い四肢に紫がかった黒い鬣。羊のような二本の角の生え、人を簡単にかみ砕けそうな大きな牙は鋭かった。
 そして魔獣はその存在を知らしめるかのように大きな口を開けて、咆哮した。その声はビリビリと俺の肌まで届く。

 ……くそっ、こんなところに魔獣が現れるなんてッ!!

 だが、誰もが呆然としている中でたった一人だけが声を上げた。

「皆、この場から退避しろッ! 騎士達は市民を守り、神官達は市民の誘導を!」

 叫んだのはエンキ様だった。

 そしてその声をきっかけに広場にいた人たちが一斉に雪崩のように逃げ始める。パニックになった群衆は先を急ぎ、そんな彼らをエンキ様の指示通り神官達が誘導し、騎士達は剣を構えて魔獣に立ち向った。
 そんな中、舞台の上も慌ただしくなる。

「ランネット、ナギと共に逃げなさい!」
「エンキ様は?!」
「私はどうにか奴をここで食い止める手立てを打ちます」
「それなら私も!」
「駄目です。ランネットは治癒が使える。その力を失うことはできない。ナギ、ランネットを頼みます」
「ですが!」
「ナギ、頼みます」

 反論するナギさんに、エンキ様は有無を言わせなかった。
 そして同じ舞台に立っていた筈の自称皇女の娘や枢機卿達も我さきへと逃げるように舞台から下りようとする。
 けれど魔獣はもう一度咆哮すると囲んでいた騎士達を押しのけて、舞台へと一直線に走った。そうなれば舞台に逃げ場はない。騎士や神官達の叫び声が響く。

 その騒動の中、俺はレノに振り返って告げた。


「ごめんな、レノ。俺、約束破るわ」


 そう言った俺の髪は端から金色に染まり始めていた――――。

しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ※第33話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

秘匿された第十王子は悪態をつく

なこ
BL
ユーリアス帝国には十人の王子が存在する。 第一、第二、第三と王子が産まれるたびに国は湧いたが、第五、六と続くにつれ存在感は薄れ、第十までくるとその興味関心を得られることはほとんどなくなっていた。 第十王子の姿を知る者はほとんどいない。 後宮の奥深く、ひっそりと囲われていることを知る者はほんの一握り。 秘匿された第十王子のノア。黒髪、薄紫色の瞳、いわゆる綺麗可愛(きれかわ)。 ノアの護衛ユリウス。黒みかがった茶色の短髪、寡黙で堅物。塩顔。 少しずつユリウスへ想いを募らせるノアと、頑なにそれを否定するユリウス。 ノアが秘匿される理由。 十人の妃。 ユリウスを知る渡り人のマホ。 二人が想いを通じ合わせるまでの、長い話しです。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

天啓によると殿下の婚約者ではなくなります

ふゆきまゆ
BL
この国に生きる者は必ず受けなければいけない「天啓の儀」。それはその者が未来で最も大きく人生が動く時を見せる。 フィルニース国の貴族令息、アレンシカ・リリーベルは天啓の儀で未来を見た。きっと殿下との結婚式が映されると信じて。しかし悲しくも映ったのは殿下から婚約破棄される未来だった。腕の中に別の人を抱きながら。自分には冷たい殿下がそんなに愛している人ならば、自分は穏便に身を引いて二人を祝福しましょう。そうして一年後、学園に入学後に出会った友人になった将来の殿下の想い人をそれとなく応援しようと思ったら…。 ●婚約破棄ものですが主人公に悪役令息、転生転移、回帰の要素はありません。 性表現は一切出てきません。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

腐男子♥異世界転生

よしの こひな
BL
ある日、腐男子で新卒サラリーマン・伊丹トキヤの自室にトラックが突っ込む。 目覚めたトキヤがそこで目にしたのは、彼が長年追い続けていたBL小説の世界――。しかも、なんとトキヤは彼が最推しするスパダリ攻め『黒の騎士』ことアルチュール・ド・シルエットの文武のライバルであり、恋のライバルでもあるサブキャラの「当て馬」セレスタン・ギレヌ・コルベールに転生してしまっていた。 トキヤは、「すぐそばで推しの2人を愛でられる!」と思っていたのに、次々と原作とは異なる展開が……。 ※なろうさん、Caitaさん、PIXIVさんでも掲載しています。

ブレスレットが運んできたもの

mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。 そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。 血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。 これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。 俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。 そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?

処理中です...