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10 ルークが竜国に?
しおりを挟む「はぁー」
レイは店のカウンターで頬杖をつきながら、憂鬱そうに大きなため息を吐いた。
……俺が悩んだ日々は何だったんだろう。
レイはもう一度、ため息を吐いた。あれから、ルークは竜国の宰相に度々呼び出され、朝早くに出て、帰りはいつも遅くなった。そしてレイに対するよそよそしい態度も変わらなかった。まるで、それはレイを避けるかのように。
……やっぱり俺の体を見て嫌気がさしたんだろうな。どうやっても俺は三十七歳のおっさんだし。
そうレイは思うが、今まで、ワンコよろしく懐いていた息子が急に冷たくなって、レイは寂しさを抱えていた。
……いやいや、これが本来の親子関係ってもんだろ。俺だって親父とは、会ったら話す程度だったし。
そう何度も自分を納得させようとするが、やはり胸がもやもやした。だが、そこへ小さな来客が。
「レイ、こんにちは! この本の続き、ある?」
元気のいい挨拶と共にやってきたのはリックだった。
「ああリック、こんにちは。この本の続きね。ちょっと待って」
レイはすぐに笑顔を顔に張り付け、リックから本を受け取って続巻を探す。リックは本をよく読む子で、今はまた違うシリーズの本を読んでいる。今度は魔法使いと王女様の恋物語だ。
「はいよ、これだろ?」
レイは本を探し当てリックに見せると、リックはぱっと笑顔を見せる。
「うん、それ! レイ、また十日間、借りれる?」
「ああ、いいぞ」
レイはそう返事をしてカウンターに戻り、いつものように本に挟んでいるカードに日付と名前を書く。そしてリックはポケットから貸本代を出そうとしたが、それをレイは止めた。
「今日はお代はいいよ」
「え? なんで?」
まだ子供のリックは不思議そうにレイを見上げる。そんなリックの頭をレイは撫でた。
「いつも借りてくれる常連さんだから、今回はサービスだ。それにお小遣い、そんなにたくさんは貰ってないんだろう? 大事にとっとけ」
レイが言うとリックは嬉しそうに笑った。
「ありがと、レイ!」
「どういたしまして」
レイはそう言って、リックに本を渡した。リックは嬉しそうに本を受け取り、そしてレイを見ると、何気なくレイに尋ねた。
「ね、レイ。ルークは竜国に行くの?」
突然の質問にレイは驚いた。
「え? なんで、そんな事」
「昨日、ポール兄ちゃんが竜国へ来るようにルークが誘われてるみたいだってお父さんと話してるの聞いたから」
リックは素直に答えた。ポールとリックは年の離れた兄弟だ。
「ポールがそう言っていたのか?」
「うん。だからルークは竜国に行っちゃうのかなぁって。ね、どうなの?」
リックに聞かれても初めて聞く話に、レイは当然何も答えられない。むしろ、どういう話なのかルークに問いただしたいくらいだった。
「いや……わからないから、聞いておくよ。他に何かポールは言ってなかったか?」
「ポール兄ちゃん? うーん……そういえば、竜国から来た竜人の人がすっごい綺麗な人だって言ってたよ」
「綺麗な人……そっか、わかった。色々と教えてくれてありがとう、リック」
レイがお礼を言うと、リックは「どういたしまして!」と礼儀正しく言い、それからお店から出て行った。それを見送り、レイは一人思う。
竜国に誘われてて、来訪した竜人は綺麗……。もしかして、その人に心変わりしたのか?
竜人が来訪した日からルークはよそよそしくなった。もしかしたら同じ竜人に心奪われたのかもしれない。なら、それは仕方ない事だ。
そう思うのに胸がざわついて、イラついて、何とも言えない黒い気持ちが胸に渦巻いた。
◇◇◇◇
――――夜遅く、夜空に星が瞬く中。
「ただいま、レイ」
帰ってきたルークは裏口玄関から入り、靴を脱いだ。今日も遅い帰りだ。しかしダイニングにいるレイを見てルークは目を丸くした。
「レイ……お酒を飲むなんて珍しいね」
テーブルにはお酒のボトルが何本か転がっていた。恐らく夕方から飲んでいたのだろう。レイはテーブルに突っ伏していた。だがルークが帰ってきたことに気が付き、顔を上げた。
「よぉ、ルーク、おかぁりぃ」
真っ赤な顔をしたレイはへらっと笑って言ったが、ルークはそんなレイに顔を顰めさせる。お酒の匂いをプンプンさせ、呂律が回ってない。見事なまでの酔っぱらいだ。
「レイ、お酒弱いのに。……もう飲んじゃ駄目だよ」
ルークはまだお酒を飲もうとするレイからグラスを奪った。
「あぁ~っ、なにすんだよぉ! 酒、よこせぇー!」
酔っぱらって舌ったらずな可愛いレイにルーク思わず怯む。
「っ……可愛い……けど、駄目だよ。ほら、明日もあるんだから、寝室に行くよ」
ルークはレイの体を起こそうとして手を伸ばしたが、その手をレイはぺしっと払った。
「俺に触んなぁ! 俺なんか、どーでもいいって思ってんだろー?!」
顔を真っ赤にして、目を据えて言った。まるで拗ねた子供だ。
「何言ってるの。ほら、わがまま言わないで寝室に行くよ」
「嘘だぁ! 竜国から来た竜人に心惹かれてるくせにぃ!」
「……なんで、そうなるの」
「毎朝早く出て、帰りは遅い。しかも、来てる竜人はすっごい美人なんだろぉー? 同じ竜人同士だし、好きになったんじゃないのかぁー?!」
レイがキッと睨んで言うと、ルークは呆れたため息を吐いた。
「そんな訳ないだろう。レイ、飲みすぎだよ」
「うるさぃ! 俺なんかどうでもよくなって、竜国に行くつもりなんだろッ! 俺に求婚したくせに、俺を好きじゃなくなったんだッ! ……俺に、俺に……あんなことしたのにッ!」
むすぅっとした表情で、その上ちょっと涙目で言ったレイを見て、ルークは天を仰いだ。
「はぁーッ。レイって、本当……無自覚に僕を誘うよね。……小悪魔なの? それとも俺の自制心を試す天使なの?」
ルークは小言のように言うと、ぐいっとレイを引っ張り上げ、椅子から立たせるとそのままひょいっとレイを軽々と抱きかかえた。
「うわぁっ! ルークッ、下ろせぇ!」
「寝室でね」
ルークはそう言うとレイを担いだまま階段を上がり、寝室に入ってベッドの上にレイをそっと下ろした。だがルークはレイを下ろしただけじゃなく、レイの眼鏡をすっと外すと、そのまま体を押し倒し、レイの両手首を抑えて上から覆いかぶさった。
「レイ。僕が構わなかったから、寂しかったの?」
上から見下ろすように水色の瞳を向けられて、レイはドキリとする。いつからルークはこんな風に男の顔をするようになったのだろうか?
「別に、寂しくなんかっ」
ふいっと顔を背けてレイが言うと、ルークはレイの赤みがかった頬にキスをした。そこはほんのりと熱い。しかし、レイはほっぺにキスをされて口を戦慄かせる。
「な、何すんだっ」
「可愛い、レイ。泣かなくても、僕はここにいるよ」
「俺は別に泣いてなんかっ」
「ここ数日、構えなくてごめんね。ちょっと竜国の人と話し合いがうまく行かなくて……その事で頭が一杯だったんだ。でも、ちょっとそっけなかったね、ごめん」
ルークに言われてレイはちらりと視線を向ける。
「……話し合い?」
「そう。彼らは僕に竜国に来て欲しいって誘われてて。でも僕は行きたくないから、その事で話し合いをしていたんだ。けど、それも明日までだから」
ルークに言われて、レイは目を丸くする。
「そうなのか?」
「うん。だから明日までは我慢して。……明日からはまたレイに構うから、今まで以上にね」
ルークはくいっと腰をレイの腰に合わせた。服越しに互いのものが擦れる。
あの日の猛ったルークの下半身を思い出してレイの心臓はドキリと跳ね上がる。
「る、ルーク!」
「ふふっ、レイが嫌がることはしないよ。今は」
ルークはレイの瞼にキスをすると、レイをぎゅっと抱きしめてベッドにレイと共に寝転んだ。
「レイ、大好きだよ。世界で一番、レイが好き」
ルークの甘い声がレイの心の奥に沁みていく。
イライラとモヤモヤを消すためにお酒を飲んで、それでも消えなかったのにルークの一言で胸のそれらがあっさりと消えていく。レイはルークの服をぎゅっと握って、暖かい体温にいつの間にかうとうとっと眠ってしまった。
◇◇
その頃、王城の宛がわれた一室で、エルマンは頭を抱えていた。
「……彼がこうも頑なだとは」
エルマンは堪らずといった様子でため息交じりに言い、一人暗い部屋の中で椅子に座る。そして考え込むように目を瞑り、次に目を開けた時、青い瞳をすっと細めた。
「こうなれば、仕方ありませんね」
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