竜人息子の溺愛!

神谷レイン

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番外編

1 イサールの手紙

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 ――――初夏の日曜日。
 まだ朝の十時も過ぎてないというのに、外を歩けば、じわじわと暑さで汗が滲み出る季節。

 そんな中、カランカランッとベルの音が鳴り響き、ドアを開けて何かがとことこっと店の中に入った。

「ふぇーちゃん、おっはよー!」

 ぴょいっと片手を上げて元気よく挨拶をしたのはルイだった。

「あら~、いらっしゃい。ルイちゃん、おはよう」

 この店の店主でもあり、王配でもあるフェインが笑顔で出迎えた。

「外は暑かったでしょう?」
「うん。だからね、ルー、あいすココア飲みたい!」
「アイスココアね、わかったわぁ」

 そう答えた後、フェインはドアの前に立つもう一人に優しく声をかけた。

「イサールさんもいらっしゃい」
「おはようございます、フェインさん」

 そうイサールは返事をした。


 ◇◇



「はい、アイスココアね」

 カウンター席に座るイサールの膝の上の乗るルイにフェインは冷たいドリンクを差し出した。

「わぁーい! ありがと、ふぇーちゃん!」

 イサールの膝の上にちょこんっと座るルイはドリンクを貰うなり、ストローをパクッと咥えるとごくごくとおいしそうに飲み始めた。それを微笑ましく見た後、フェインはイサールに尋ねる。

「イサールさんもドリンク、どう?」
「いえ、私は大丈夫です」

 イサールはそう言って断り、顔に付けているマスクに手を伸ばした。
 イサールは昔、顔に酷い怪我を負っており、今は右目辺りしか見えないほどマスクで顔を覆い隠している。飲食をするときは勿論マスクを外すが、できればあまり外したくないと思っていた。
 特に小さな子供の前では。
 そんなイサールの気持ちを汲んでか、フェインはそれ以上は尋ねなかった。

「そう? それにしてもイサールさん、すっかり子守りが板について来たわね~。まあ、どうせ今日もルークちゃんに押し付けられたんでしょう?」

 フェインに図星をさされて、イサールは「はは」と困り顔で笑うしかなかった。



 ◇◇



 ―――――それは小一時間前のことだった。
 イサールはルークから呼びだされ、コールソン書店に足を運んでいた。

 そして呼ばれた理由がわかっていたイサールはやれやれという面持ちでドアの前に立ち、ドアをノックした。するとすぐさまルークが出てくる。その腕にはルイを抱えていた。
 先週の日曜日も見た光景だ。

「やぁ、朝早くに呼んですまないね」
「いえ。ルーク様、ルイ様、おはようございます」

 イサールは護衛官らしく、礼儀正しく挨拶をした。するとルイもすぐに挨拶を返す。

「おはよ! イサちゃん」

 ぴょいっと片手を上げて、ルイは元気よく言った。そんなルイに、ルークは親らしく「ルイ、おはよ。じゃなくて、おはようございます、だろ?」と問いかけると、素直なルイは言い直した。

「おはよーごじゃいます!」

 三歳らしいまだ舌ったらずな言葉が可愛い。
 イサールは思わず手が伸びてルイの頭を撫でた。

「ちゃんと言えて偉いですね、ルイ様」

 イサールが言うとルイは丸いほっぺを両手に当てて、嬉しそうに「へへへ~っ」と微笑んだ。
 でれでれと照れる、とてつもなく可愛い生き物にイサールは胸が痛くなる。
 しかし、そんなルイをゆっくり地面に下ろすとルークはにっこりとイサールに笑顔を見せた。

「イサール、実は今日も一日、ルイを預かって欲しいんだ」

 先週も聞いた同じセリフにイサールは少々呆れた視線を向ける。

「構いませんが……またですか」
「ああ、またレイが寝込んでね」

 そう言ったがルークの顔はツヤツヤと活力に溢れ、笑顔が絶えない。それを見て、レイが病気ではなく、別の理由で寝込んでいるのだとイサールは聞かなくてもわかった。
 なので堪らずイサールはルークに忠告した。

「ルーク様、なにが、とは言いませんが、ほどほどになさってくださいね」

 そうルークに忠告したが「わかってる、わかってる」と軽く返されてしまった。そしてルークはルイに視線を合わせて屈むと、その柔らかいほっぺを撫でた。

「ルイ、今日もイサールの言う事をちゃんと聞いて、一緒にいるんだよ? いいね」
「はーい! ぱぱもれーちゃんと仲良くね!」
「勿論、わかってるよ」

 そんな会話をした後、ルークはちゅっとルイの頬にキスをしてから立ち上がった。

「夕方には迎えに行くから、それまでよろしくお願いします」

 ルークに笑顔で言われ、イサールはやれやれと思いつつ「わかりました」と答えた。

「じゃあ、また後でね。二人共」

 ルークはそう言うと、早々にパタンっとドアを閉めた。
 愛すべき人の元に戻ったのだろう。竜人は力が強い者ほど、大事なものにより執着する。その対象が人でも。

 ……レイ様は大丈夫だろうか。日曜日はお店が定休日だからと、土曜日の夜から貪られてるのでは。

 そう心配になったが、ルークの事だから無理はさせてないだろう、とイサールは思い直し、そして自分も昔はレイと同じ立場にあったことを思い出した。

 ……本当、変なところはあの人に似たな。

 思わずくすりと思い出し笑いをすると、足元にいるルイがくいくいっとズボンの裾を引っ張った。

「イサちゃん、どちたの?」

 ルイに不思議そうな顔で尋ねられ、イサールは笑顔を返した。

「いいえ、何でもありませんよ」
「そぉー?」
「はい。……しかし今日一日、どうしましょうか。とりあえずフェインさんのお店に行って考えましょうか」

 イサールが提案するとルイは「はいはぁーい! ルー、ふぇーちゃんのとこ、いくー!」とぴょいぴょいっと片手を元気に上げ、体もぴょんぴょんっと飛び跳ねさせた。その愛らしい姿にイサールはまた目尻が下がってしまう。

 ……元気の塊みたいだな。ふふ。

「はい。じゃあ、行きましょうか」

 イサールが言うと、ルイはにっこり笑顔で返事をした。

「うんっ!」







 ――――――そうしてイサールはルイと共にフェインの元に来たのだが……。

「ルークちゃんも飽きないわねぇ」

 フェインは呆れたように言った。だが、その言葉にはイサールも同感だ。

「でもルイちゃん、もしかしたらこれは本当にすぐ弟か妹ができるかもしれないわよ~!」
「えー! ほんとーっ?!」

 フェインの言葉にルイは嬉しそうに目を輝かせた。意味を分かっているのだろうか、とイサークは思ったが、何も言わずに口を噤んだ。

「ところで、二人はこの後どうするの?」

 フェインに尋ねられ、イサークは顎に手を当てる。
 いつもは公園に行って遊ぶのだが、ちらりとルイを見ると『また公園?』という視線を向けてくる。確かに公園は楽しいが、毎回だと飽きるだろう。
 かと言って、まだ土地勘がないイサールにはどこに行けばいいかわからない。

「そうですね……」

 イサールは顎に手を当てて考え込む。
 しかしそんな折、カランカランッとドアのベルが鳴り、誰かが入ってきた。

 イサールが振り向くとそこには二人の青年がいて、ルイはその青年達を見るなりパァッと目を輝かせた。


「ぽーる! しおちゃん!」
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