月のまなざし

水城真以

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五、

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   夕餉の膳を囲みながら、奇妙丸きみょうまるは目を丸くしていた。


「あー!しょうぞうあにうえ!それはらんのー!」
「うっせぇ、早い者勝ちだ!あ、兄上!しれっと自分だけ山盛りよそわせんな!」
「ふん。それこそ『早い者勝ち』であろう、たわけめ」
「ちゃっかり俺のおかずも持って行きやがったな!?於うめも歩くなよ!座ってろ!」


   勝蔵がやかましいのは知っていた。しかし、普段城内で会う伝兵衛でんべえ可隆よしたかや幼い乱丸らんまる、それに妹の於うめまでもがこうだとは。

   それだけではない。家族一緒に膳を囲むという習慣が奇妙丸にはなかった。信長のぶながはおろか帰蝶きちょうとだって食事は別だった。おかずを取り合ったりうるさいほど賑やかさが奇妙丸には不思議に映った。


   隣を見ると、勝九郎が品よく食事を取っている。池田家でも、食事は家族で取るものなのだろうか。


(だとしたら、儂は……)


  急に胸が寒くなった。箸を止めていると、可成に茶碗を奪われた。まだ中身がある飯の上に、更にやまと飯をよそわれる。
   森家の主人自らの行いに奇妙丸は目を丸くした。
  可成は「食べなされ」と、白い歯を見せた。
「ご覧のとおり、当家で生き延びたければまずは自分の膳を片付けることです。なんなら、娘達でさえ兄弟の膳を付け狙っております。主家のお方であろうと客人であろうと関わりありませんよ」

「……なるほど」

    奇妙丸は、ずっしりと重たい飯椀を持った。なるほど、勝蔵が大きく育つのも分かる気がした。

(騒がしい。……が)


   いつもはなんとも思わない食事。ただ生きるため、あるいは外交の術にと出されたものをいただくためであった。
   楽しい、などというふうに感情を持って箸をつけるのは初めてのことであった。
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