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二十四、
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駒若丸を追い駆けた勝蔵が辿り着いたのは、山の中だった。
小牧山城から、大人の足ならそれほど離れていない距離――しかし、子どもである勝蔵にとっては、国を超えるほど遠く離れた場所に位置している。山頂がようやく見えて来た時には、もう日がほとんど沈み切って、足元がぼんやり薄暗くなってきていた。
(早く、戻らねえと……)
本当にこんな山の中に、於泉はいるのだろうか。虫に刺された腕を掻き毟り、草で切られた指先を舐めながら、勝蔵は於泉の気配を探った。
「於泉、どこにいる――」
呼びかけても、返事はない。しかし、駒若丸は迷うことなく進んで行く。
犬の鼻は、人の鼻よりずっと優れている。勝蔵には感じ取れなくても、駒若丸には感じ取れるものがあるのかもしれない。というか、そうであってほしかった。
(頼むから、見慣れぬ外の景色に興奮したついでに、山の中で野に帰るんじゃないぞ……)
疲労に重ね合わせるように、腹も減ってきた。ようやく山頂に辿り着いた時、勝蔵はその場にへたり込みそうになった。
「おお……」
疲れただけではない。辺り一面に広がる、黄金の芒に感動を覚えたのだ。
まだ太陽の気配を感じる月夜の光を浴びた芒は、幻想的であった。かの清少納言は「秋は夕暮れがいっとう美しい」と語ったが、
於泉の姿は、見えない。しかし、この景色を見ることができたのなら、可成から後で拳を5、6発喰らったとしても、まあいいか、と思える程度には、芒の景色に目を奪われた。
弟妹に何本か土産として持って帰ってやってもいいかもしれない。月見には少し遅いが、家で勝手に行う分には誰に咎められるわけでもないのだから。
(……咎め……か)
勝蔵は、ぼんやり奇妙丸のことを想った。
『来るな!!!!!』
獣のような咆哮とともに、勝蔵を痛めつけた、主君の姿が瞼の裏に張り付いて離れない。
奇妙丸になにがあったのか――勝蔵には分からない。しかし、想像できないほど、痛くてつらい体験をしたのは分かった。
しばらく来るなと言われてから、勝蔵は奇妙丸のところに行っていない。果たして本当にそれで良かったのだろうか? という懸念が今更沸き起こる。
家臣ならば、たとえ嫌がられても、嫌われても、主君の痛みに無理やり寄り添うべきだったのではないだろうか。たった1度拒まれたくらいで、奇妙丸を一人にするべきではなかったのに。自分の痛みばかり気にして、勝蔵は奇妙丸のことを本当に思ってあげられていなかった。
(俺、家臣失格じゃん……)
ずずっ、と鼻を啜る。芒に手を伸ばしながら、心の中でなんども詫びた。
ふと気が付くと、駒若丸がまた走り出していた。まだ興奮冷めやらぬ――ということだろうか。しかし、そろそろ帰る時間である。遠吠えする駒若丸に苦笑していると、はたと勝蔵は気が付いた。
『良いですか、勝蔵』
えいの言葉を、思い出した。
『山には、不用意に立ち入ってはなりませぬ。必ず、誰かを連れて行きなさい。思いがけず足を踏み外してしまうことだってあるのですから――』
「だ……っれか……」
小石が崩れ落ちる音に交じって、微かな悲鳴が聞こえた。呆けていたら、あっさり聞き流してしまうであろうほど、か細い声音だった。
そして、勝蔵はこの声を知っている。
(そこか!)
老犬が必死で尻尾を振っている。勝蔵は手に持っていた芒を投げ捨てると、暗闇に駆け寄って手を伸ばした。
***
勢いがつき過ぎた。腕が岩に擦れ、皮が裂けたのを感じる。しかし、確かな手応えを感じた。
「あ、に上……?」
暗闇に呑まれかけた於泉が、目線を上げる。そして驚いたように、「勝蔵……!!」と唇を震わせた。
「無事だな!」
勝蔵は叫んだ。於泉は目を潤ませながら、頷いた。勝蔵はほっとしながら、
「今、引っ張り上げてやる!」
と再び叫ぶ。於泉に返事をする暇も与えず、一気に引き上げる。そのまま於泉ごと、背中に倒れ込んだ。
肩を上下に揺らす勝蔵は、汗でぐっしょりと濡れていた。駒若丸は「よくやった」と労うように、勝蔵の顔面をべろべろと舐め回した。
「駒若丸! お前、どうしてここに……」
「駒若丸が、案内してくれたんだ」
「あ……」
於泉の顔が急に歪んだ。ぽろぽろと涙を零している。
(あ……そっか。この様子だと、於泉は黙って屋敷を抜けて来たんだな)
その上、崖から落ちそうになったのだ。年端もいかない少女からすれば、大層恐ろしかったことだろう。
「あ、安心しろよ」
勝蔵は、若干どもりながら於泉の顔を覗き込んだ。
「池田殿には、俺が連れ出したって言ってやるから。勝九郎にはばれるだろうけど、あんまり怒られないように、俺も一緒に怒られてやるから……」
…」
「……違う~~~!」
キンキンと高い声を発しながら、於泉は勝蔵の胸に顔を埋めて来た。
一瞬、勝蔵は驚いて固まった。こういう時、どうすべきか――思い出すのは、ぐずる妹・うめをなだめる、兄・可隆の姿だった。勝蔵は、恐る恐る於泉の頭に掌を乗せ、そっと動かした。
(あったけぇな……)
大嫌いなはずだった。それなのに、於泉になにかあったのかと思った時には背筋が凍り付いたし、無事に助けられた時は、胸を撫で下ろした。
元結をなくして、ぼさぼさになった髪を撫でながら、勝蔵は目を閉じた。
(俺が、助けた命だ命だ)
泣き濡れる於泉のこと案じながら、勝蔵はそっと確信した。
***
崖から落ちた拍子に足を挫いたらしい、於泉を背に負ぶう。最初は「勝蔵殿も怪我してるじゃん」と固辞していたが、大丈夫だと言い聞かせ、無理やり背負った。
「お前、なんでこんな山奥に来てたんだ?」
勝蔵は、なるべく優しい声を心がけながら、於泉の重さを感じ取った。
「芒を、取りに来たの」
「芒?」
「若が京に行かれる前……お月見をしようって、約束をしたの。……でも、さっき落とした表紙に、芒全部落としちゃったし。しかも、勝蔵殿にも迷惑かけて……ごめんなさい」
「そっか」
納得が行った。
「於泉は約束を守りたかったんだな」
確かに武家の姫君が、供も付けずに無断で屋敷を抜け出すなんていけないことだ。しかし、於泉の気持ちはなんとなく理解できた。
勝蔵は、於泉を岩の上に座らせた。
「少し待ってろ」
目の届く範囲に離れ、数本、芒を摘む。芒は、油断していると葉で指を切ることがある。勝蔵は持っていた小刀で葉を落とすと、於泉の下に戻った。
「帰るぞ。若に、届けるんだろう。ちゃんと自分で持てよ」
於泉に芒を持たせる。そして芒を持つのとは反対の手に向かって、掌を差し出した。
於泉を背負い直し、ゆっくりと歩く。急いで帰らなければ説教が長引くことになるのは分かっていたが、体中が痛くて流石に走る余力はない。
「一緒に怒られような」
「勝蔵殿、悪くないのに」
「俺はいいんだ。いっつも怒られて、慣れてるから」
それに、と勝蔵が振り向いた。
「怒られても、俺と於泉で分かられるんだ。一人で怒られるのは怖くても、二人でだったら少しはマシだろ?」
もっともらしいことを言いながら、小さく振り返って笑って見せる。於泉は「うん」と何回も相槌を繰り返していた。
駒若丸を追い駆けた勝蔵が辿り着いたのは、山の中だった。
小牧山城から、大人の足ならそれほど離れていない距離――しかし、子どもである勝蔵にとっては、国を超えるほど遠く離れた場所に位置している。山頂がようやく見えて来た時には、もう日がほとんど沈み切って、足元がぼんやり薄暗くなってきていた。
(早く、戻らねえと……)
本当にこんな山の中に、於泉はいるのだろうか。虫に刺された腕を掻き毟り、草で切られた指先を舐めながら、勝蔵は於泉の気配を探った。
「於泉、どこにいる――」
呼びかけても、返事はない。しかし、駒若丸は迷うことなく進んで行く。
犬の鼻は、人の鼻よりずっと優れている。勝蔵には感じ取れなくても、駒若丸には感じ取れるものがあるのかもしれない。というか、そうであってほしかった。
(頼むから、見慣れぬ外の景色に興奮したついでに、山の中で野に帰るんじゃないぞ……)
疲労に重ね合わせるように、腹も減ってきた。ようやく山頂に辿り着いた時、勝蔵はその場にへたり込みそうになった。
「おお……」
疲れただけではない。辺り一面に広がる、黄金の芒に感動を覚えたのだ。
まだ太陽の気配を感じる月夜の光を浴びた芒は、幻想的であった。かの清少納言は「秋は夕暮れがいっとう美しい」と語ったが、
於泉の姿は、見えない。しかし、この景色を見ることができたのなら、可成から後で拳を5、6発喰らったとしても、まあいいか、と思える程度には、芒の景色に目を奪われた。
弟妹に何本か土産として持って帰ってやってもいいかもしれない。月見には少し遅いが、家で勝手に行う分には誰に咎められるわけでもないのだから。
(……咎め……か)
勝蔵は、ぼんやり奇妙丸のことを想った。
『来るな!!!!!』
獣のような咆哮とともに、勝蔵を痛めつけた、主君の姿が瞼の裏に張り付いて離れない。
奇妙丸になにがあったのか――勝蔵には分からない。しかし、想像できないほど、痛くてつらい体験をしたのは分かった。
しばらく来るなと言われてから、勝蔵は奇妙丸のところに行っていない。果たして本当にそれで良かったのだろうか? という懸念が今更沸き起こる。
家臣ならば、たとえ嫌がられても、嫌われても、主君の痛みに無理やり寄り添うべきだったのではないだろうか。たった1度拒まれたくらいで、奇妙丸を一人にするべきではなかったのに。自分の痛みばかり気にして、勝蔵は奇妙丸のことを本当に思ってあげられていなかった。
(俺、家臣失格じゃん……)
ずずっ、と鼻を啜る。芒に手を伸ばしながら、心の中でなんども詫びた。
ふと気が付くと、駒若丸がまた走り出していた。まだ興奮冷めやらぬ――ということだろうか。しかし、そろそろ帰る時間である。遠吠えする駒若丸に苦笑していると、はたと勝蔵は気が付いた。
『良いですか、勝蔵』
えいの言葉を、思い出した。
『山には、不用意に立ち入ってはなりませぬ。必ず、誰かを連れて行きなさい。思いがけず足を踏み外してしまうことだってあるのですから――』
「だ……っれか……」
小石が崩れ落ちる音に交じって、微かな悲鳴が聞こえた。呆けていたら、あっさり聞き流してしまうであろうほど、か細い声音だった。
そして、勝蔵はこの声を知っている。
(そこか!)
老犬が必死で尻尾を振っている。勝蔵は手に持っていた芒を投げ捨てると、暗闇に駆け寄って手を伸ばした。
***
勢いがつき過ぎた。腕が岩に擦れ、皮が裂けたのを感じる。しかし、確かな手応えを感じた。
「あ、に上……?」
暗闇に呑まれかけた於泉が、目線を上げる。そして驚いたように、「勝蔵……!!」と唇を震わせた。
「無事だな!」
勝蔵は叫んだ。於泉は目を潤ませながら、頷いた。勝蔵はほっとしながら、
「今、引っ張り上げてやる!」
と再び叫ぶ。於泉に返事をする暇も与えず、一気に引き上げる。そのまま於泉ごと、背中に倒れ込んだ。
肩を上下に揺らす勝蔵は、汗でぐっしょりと濡れていた。駒若丸は「よくやった」と労うように、勝蔵の顔面をべろべろと舐め回した。
「駒若丸! お前、どうしてここに……」
「駒若丸が、案内してくれたんだ」
「あ……」
於泉の顔が急に歪んだ。ぽろぽろと涙を零している。
(あ……そっか。この様子だと、於泉は黙って屋敷を抜けて来たんだな)
その上、崖から落ちそうになったのだ。年端もいかない少女からすれば、大層恐ろしかったことだろう。
「あ、安心しろよ」
勝蔵は、若干どもりながら於泉の顔を覗き込んだ。
「池田殿には、俺が連れ出したって言ってやるから。勝九郎にはばれるだろうけど、あんまり怒られないように、俺も一緒に怒られてやるから……」
…」
「……違う~~~!」
キンキンと高い声を発しながら、於泉は勝蔵の胸に顔を埋めて来た。
一瞬、勝蔵は驚いて固まった。こういう時、どうすべきか――思い出すのは、ぐずる妹・うめをなだめる、兄・可隆の姿だった。勝蔵は、恐る恐る於泉の頭に掌を乗せ、そっと動かした。
(あったけぇな……)
大嫌いなはずだった。それなのに、於泉になにかあったのかと思った時には背筋が凍り付いたし、無事に助けられた時は、胸を撫で下ろした。
元結をなくして、ぼさぼさになった髪を撫でながら、勝蔵は目を閉じた。
(俺が、助けた命だ命だ)
泣き濡れる於泉のこと案じながら、勝蔵はそっと確信した。
***
崖から落ちた拍子に足を挫いたらしい、於泉を背に負ぶう。最初は「勝蔵殿も怪我してるじゃん」と固辞していたが、大丈夫だと言い聞かせ、無理やり背負った。
「お前、なんでこんな山奥に来てたんだ?」
勝蔵は、なるべく優しい声を心がけながら、於泉の重さを感じ取った。
「芒を、取りに来たの」
「芒?」
「若が京に行かれる前……お月見をしようって、約束をしたの。……でも、さっき落とした表紙に、芒全部落としちゃったし。しかも、勝蔵殿にも迷惑かけて……ごめんなさい」
「そっか」
納得が行った。
「於泉は約束を守りたかったんだな」
確かに武家の姫君が、供も付けずに無断で屋敷を抜け出すなんていけないことだ。しかし、於泉の気持ちはなんとなく理解できた。
勝蔵は、於泉を岩の上に座らせた。
「少し待ってろ」
目の届く範囲に離れ、数本、芒を摘む。芒は、油断していると葉で指を切ることがある。勝蔵は持っていた小刀で葉を落とすと、於泉の下に戻った。
「帰るぞ。若に、届けるんだろう。ちゃんと自分で持てよ」
於泉に芒を持たせる。そして芒を持つのとは反対の手に向かって、掌を差し出した。
於泉を背負い直し、ゆっくりと歩く。急いで帰らなければ説教が長引くことになるのは分かっていたが、体中が痛くて流石に走る余力はない。
「一緒に怒られような」
「勝蔵殿、悪くないのに」
「俺はいいんだ。いっつも怒られて、慣れてるから」
それに、と勝蔵が振り向いた。
「怒られても、俺と於泉で分かられるんだ。一人で怒られるのは怖くても、二人でだったら少しはマシだろ?」
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