猫扱いされても生きていたい。

来佳

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1章

5話

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しばらくすると遠くの方からかなり大きな人間がやってきた。大きさで言うと今まで見た人間の中ではウォルターが一番大きかったが、それより僕を頭に3匹乗せてやっと同じくらいになるほどだ。
これはこの人が2番手かもなと当たりを付ける。

「お嬢様。お待たせしました」

「大丈夫よ。話は聞いたかしら?」

「はい。私にお任せください。その子がそうですか?」

「そうよ。数日で迎えに行けると思うわ。ラクエル、それまでよろしくね」

「はい。それでは失礼します」

そう言ってラクエルと呼ばれた人間は僕を抱えて、歩き始めた。

「お前。魔物って聞いてたけど、ほんとただの猫みたいだな」

人間の世界では猫と思われる方がよっぽどいい。にゃぁと答えてやり過ごす。

「かわいい奴だな。ちょっと急ぐぞ」

そう言うともの凄い速力で走り始めた。毛並みがすべて後ろに流れて、目を開けてるのが少ししんどいほどだ。僕はすぐに目を瞑って、早く着かないかと祈る。

「着いたぞ。まずは洗ってやらないとな」

どうやらついたようだ。不審な言葉が聞こえたがとりあえず聞こえなかったことにして、目を開けて周りを眺めた。
邸宅に比べると大分と質素な見た目で、無駄に思える石もない。家本体も木で出来てる部分が多く、自然に近い。匂いは少々臭いが我慢できないほどではない。

ラクエルは僕を抱えながら宿舎に入って行った。そのまま僕を降ろすことなくどんどんと進んでいく。
そして髭や毛が少し重くなって、湿気を訴えるところにきた。これはまさかと本当にするのかとにゃぁと問いかける。

「楽しみか?そうかそうか」

とラクエルはあからさまな勘違いをする。

「ついでに俺も入るか」

そう言って服を脱ぎ始め、ああこれは間違いないなと確信する。人間の悲しい所の1番にあげてもいいくらいだが、人間は身体を自分で洗わないとだめになると言うのは本当だったようだ。そのために変な機関を作っているらしい。今から行くところはきっとそこなのだろう。
人間は知らないようだが、僕達魔物は体を洗う必要がない。人間のように器用な腕がないので、そんな無駄なことをしないでいいようにできてるのだ。
だがしかしもうここまで来たら止まってはくれないだろう。仕方ないのでラクエルが脱ぎ終わるまで待つ。

「よーし。いくぞ」

やっと脱ぎ終えると僕を抱き機関へと進んでいく。中はつるつるとした石が張られており。外よりももっと湿気がある。べたべたとして少し気持ち悪い。何本かの棒が規則正しく並べてあり、大きな四角い穴もある。ラクエルはまず僕を何本かある棒の前に連れて行き。

「まずはお前からだ」

と言って僕に温水をかけ始める。僕の大量の毛が水を含んで重くなる。ただ暖かい水は少し気持ちがいい。濡らした部分を手で優しくすいてくれるので、少しかゆいところを手に当たるように動くとラクエルは変な動きをするなと笑う。なかなかいいと思ったのはここまでで次からが厄介だった。

「もっと白くしてやるからな」

と不気味なことを言うと手に何やら怪しい物を握って僕の体を擦り始めた。
最初は何も感じなかったが、だんだんと何かが大きくなって、膨らんでいくのを感じる。そして何やら変な匂いもする。なんだろうとさっと振り向くと突然目に激痛が走る。なんだこれは攻撃かとにゃぁといううめき声と共に転げる。目を開けられない。咄嗟に手で目を守る。

「おい。ああ目に入ったのか。擦ったら悪くなるぞ」

そう言っても痛いので仕方ない。顔を入念に擦っているとついに両の手を捕まえられた。

「痛いよなーごめんよ。今かけてやるから少し頑張って目をあけるんだ」

と顔に優しく水がかけられてるのがわかる。こんな状態で目を開けるなんてと思ったが、ここでは何もわからないことだらけだ。仕方がないので痛みをこらえてさっと開ける。水が入ってまた少し痛む。

「偉いぞ。もう一回だ」

と催促される。そうやって何度か繰り返すと特有の痛みが消えて、水の痛みだけになった。
よかったと胸をなでおろし、目を瞑ったまま転げた体を起こして力なく座る。
それをみてラクエルも安心したのか体のもこもこを洗い流してくれた。
こうして僕の初めての洗浄機関での拷問は終わったのである。
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