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11話

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「よーし、まずはここだ」

寝床まで案内と言っていたのに、どうやら宿舎全体を案内する気のようで、僕を抱えてすぐに歩みは止まった。

「ここの扉は多分閉じてるだろうが、もし開いてても絶対にはいるんじゃないぞ」

ボスは食堂から最も近い扉の前に立って言う。にゃぁと分かったふりをする。ふりというのはそのままの意味で、もしここが開いてたら真っ先に入るという意味だ。人間が隠しているものを明かすのは、きっといいことだろうし、隠すということはきっと弱点があるということだ。
人間の弱点はどれだけ知れてもいい。

「よしよし。偉いぞ。次に行くか」

ボスは了承の意味でとらえたようだ。しめしめとほほ笑む。ボスはそれを見てまた僕を優しく撫でる。悪いことを考えて優しくされるのは、悪い気もするが相手が勝手にしたことなのでよいことにする。

次はとどんどんと紹介をしてくれるが、残りは大体知っているところだった。護衛の部屋のある騎士達の寝床、風呂とかいう体を洗う場所、どうやら外に出たらまたあの拷問が待ってるらしく、出ないように言われたが、言われずともあんなことされるなら出る気はない。
知らない場所も大体と想像がつく物が多かった。備品倉庫、これは遠くからしか見せてくれなかったが訓練場。後は雨天の時に使う訓練場。規模はそこそこ大きくて20か30人ほどは収容されてるだろう。こんなに人間がいたら覚えるのは苦労するだろうなと思うのでここではボスと護衛だけ覚えておけばいいだろうと勝手に決める。
さてさて次はどこかなと思っているとまた食堂に戻ってきた。見て回るのにさほど時間もくってないのでお腹はまだいっぱいだが、食べれるなら食べたいところだなと思ったのだが、食堂にはどうやら入らないようで、すっと横の道にそれる。こっちは確かに来たことがないが、建物の構造上そこまで大きな部屋ではないはずだ。
まだ紹介が続くのかと少し落胆したが、そこにはより大きな落胆が横たわっていた。

「ここが寝床だ。俺と同じ部屋だし、食堂も近い。いい場所だろ?今寝床を準備してやるからな、少し待ってろな」

そう言って僕を部屋の中において出て行ってしまった。きちんと扉は閉めていて、抜かりのないことだ。
きょろきょろと周りを見回す。ここはどうなってるのだ。ボスの部屋にしては狭すぎる。護衛の部屋の半分もないかもしれない。それに暗い部屋だろうというイメージとは違って明るいし小奇麗だ。ボスの見た目に反してかわいいくらいなものだ。
むうと頭を傾げる。まあ、考えてもわからないものは諦めよう。ぴょんとベッドの上に乗る。くるっと体を巻いてボスを待つ。いいベッドだ。質は護衛よりいいらしい。いい心地だと目を瞑る。
少しするとボスが帰ってきた。手には枕が3つと毛布が2つだ。
床に枕を設置し、毛布で巻く。そして最後に身体にかけるように毛布を置いてある。

「ほら、お前のベッドだぞ。俺はまだ起きてるが寝たかったら寝ていいからな」

そういって作ったベッドをぽんぽんと叩く。一応乗って寝心地を試してみるが、ボスのベッドの方が柔らかくていい。それにそもそもこの枕とやらは固すぎる。これでは床とほぼ変わらない。にゃぁと抗議の声をあげる。

「気に入ったか。よしよし」

そう言って頭を撫でる。僕は首を振って否定するが、なでられてるせいでうまく伝わらない。こうなったら仕方ないとボスのベッドに飛び乗り先に寝てやることにする。
先に寝ればいかにボスでも僕を動かしてまであのベッドにはやらないだろう。何事も先手必勝。先に寝たもの勝ちだ。そう思ってベッドに乗り先に眠りに入った。
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