気が付いたけど、人間を襲う必要ってあるのかな?

来佳

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3章

25話

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壁に近づくと一層臭いが強くなってくる。だが壁を目前にしてかなりおかしいことに気付いた。壁は目の前にあり、質感もあるのに、臭いは壁の奥から感じるのだ。臭気が壁を貫通して感じるにしては、しっかりと感じる。
とりあえず少し壁を叩いてみる。とんとんとん、普通の壁と同じ音がする。

そこで僕はこれは所謂魔法だなと当たりをつける。
もし魔法ならこんな風に正攻法でいっても出入口を見つけることはできないだろう。目を瞑り鼻にだけ集中して、耳をパタパタさせて、視覚に頼らずに探っていく。
するとさっきまで感じていた壁の部分に綻びがあることに気付くことができた。ここだなとまだ目を瞑ってその部分に身体を擦りつけ、無理矢理にでも入ろうと試みる。ぼろぼろと脆い部分を削りつつ探っているとついに右足が穴の一部に引っかかった。
よしよしと目を開けて確認すると僕の当たりを付けていた付近の壁に僕の手がめり込んでいる。僕はその入り込んだ右手を頼りに左手を入れる場所を探り、そして最後に頭を入れた。

穴は思ったよりも広く、僕の全身が簡単に入るほどだった。このねずみもとい恐らく魔物だが、この魔物はかなりのサイズのようだ。
勿論サイズだけが勝敗を左右するわけではないとわかってはいるが、ここは相手の領地で、ここから先どんな風になってるかもわからない。ここで何も考えずに突撃すれば、手痛い反撃を喰らうかもしれないと少し考える。
ここは一旦撤退して、ボスでもつれて制圧した方がいいのじゃないかと思い、穴から出ようとすると不意に声をかけられた。

「おめえはだれだ。仲間か?」

穴の奥から聞こえる。話し方からみて、どうやら近縁種のようだ。僕達魔物は魔物同士であれば言葉は大体通じる。そして、種が近ければ近いほどよりはっきりとわかるのだ。これはよかったと胸をなでおろす。そして僕はにゃぁと答えた。

「僕はここに住む魔物だ」

「なんだ、おめえ人間に飼われてるのか?」

そう言ってのしのしと近づいてくる。デカいねずみだ。僕の半分以上はある。

「そうだ。この魔法は君が使ってるのかい?」

と聞いてみる

「ああ。おいらの魔法さ」

と少し誇らしげに右のほっぺを撫でている。

「人間どもはばかだからこんな風に隠してやりゃあおいらに気付かないって寸法さ。ところでなんでおめえはここに来たんだ?人間に頼まれたのか?」

「いや違う。ただ、食料を食い荒らす奴がいるって聞いたから探しに来てみただけだ」

「そうかいそうかい。じゃあおいらを人間に差し出すつもりか?」

ねずみは少し体を上げて大きく見せる。臨戦態勢だ。はてどうしようか。ここでそんなつもりはないと言っても信じてはくれないだろう。それにあの魔法を見るになかなかに強敵だ。攻撃を仕掛ければ怪我は避けられないだろう。とりあえずお茶を濁すことにした。

「そんなつもりはないよ。僕たちは同士じゃないか」
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