四季、折々、戀

くるっ🐤ぽ

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 小間物屋こまものやの前を通りかかった。
 前を歩いていた樹生が躊躇いなく小間物屋の中に入って行くと、日傘を閉ざした佳恵も慌ててついてきた。すぐに店員の、愛想の良い声が返ってくる。店の奥からにこやかな顔をした店員が現れて、贈り物をお探しですか、と言う。樹生がよく出入りする小間物屋なので、店員に顔を覚えられているらしかった。
「少し、店の中を見て歩きたいんだ」
 樹生が言うと、店員はかしこまりました、何かご用があればおっしゃってください、ごゆっくり、と言って引き下がった。その目が、チラッと後ろに控える佳恵を見て、愛嬌あいきょうを含んで細まったように見えた。佳恵のことを、樹生の恋人かと思ったのかもしれないが、樹生は店員に、これは妹だと紹介することも、そのことで佳恵をからかうこともなかった。
「樹生お兄さま、贈り物?」
「ん」
 樹生は、否定とも肯定ともつかないような曖昧な返事をして、店の中を歩いた。時々、女物の香水や口紅を手に取って、斜めから眺めてみる。佳恵は樹生の後ろを、ただついて歩いていた。樹生は時々振り返って、佳恵の様子を見た。
 髪飾りの陳列棚の前を通りかかった。樹生は滑らかな生地のリボンに触れ、簪を手に取った。玉に朝顔の絵が描かれた簪と、菊の意匠が施された二本の簪が目についた。
「よしちゃん、どれが良いかな?」
 樹生は佳恵の前に、二本の簪を差し出した。佳恵は首を傾げて愛らしく笑った。
「誰かへの贈り物?」
「さぁどうだろう?」
「恋人?」
「よしちゃんは、どれをもらったら嬉しい?」
「朝顔の簪も可愛らしいけれど、菊ならいつでもつけられると思うわ」
「そうか」
 樹生は菊の簪の他に香水を一つ買って別々に包んでもらった。店を出ると、樹生は早速、簪を佳恵に渡した。佳恵はうろたえた。
「樹生お兄さまの恋人への贈り物じゃないの?」
「僕はそんなことは一言も言っていないよ」
 樹生は平気で言った。そもそも、贈り物を渡すような恋人もいない。
「よしちゃんの、お嫁入りの道具だよ」
「私……」
 佳恵の顔が、日傘の影にありながら日差しを浴びたように赤くなった。色が白いから、顔が赤くなるのがよく分かった。
「兄貴からは、新しい着物をもらったんだろう?」
「ええ……もう充分頂いているのに」
「なら、今さら新しくもらったって同じことさ。遠慮なく頂いておきなさい」
 樹生は佳恵の言葉遣いを真似て「頂く」という言葉を使って明るく笑った。
「母さんからは、お婆さんの代からの手鏡をもらったんでしょう」
「はい」
「父さんからは指輪。勇兄さんからはお着物。なら樹生兄さんからは簪をもらっておきなさい」
「はい……」
 佳恵は涙ぐむような声で言った。涙ぐむようでありながら、表情は笑っていた。樹生は色んな感情が混ざり合った深い色をした目に、佳恵の笑顔を映した。
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