四季、折々、戀

くるっ🐤ぽ

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 チリーン……と耳を涼やかに打つような風鈴の音だった。民家の葦簀よしずの前には朝顔が咲いている。紫、青、白、薄紅色の雫が落ちて、染みたような可憐な花だった。風鈴の音は、この朝顔の家から聞こえてくるらしい。
 佳恵は朝顔の家の前で、ふと足を止めた。風鈴の音に耳を澄ましているのか、朝顔を見ているのか。樹生は佳恵のすぐ傍に立って、朝顔に触れようとする手つきをした。夕方には萎む花である。
「綺麗だね」
 樹生は言った。
「お家の人に頼んで、一輪分けてもらえないかな。源氏物語の夕顔のように……すぐに萎んでしまうだろうけれど」
 佳恵は日傘の下で微笑んだ。
「押し花にすれば、永遠ですわ」
「よし、それじゃあ一声おかけしよう。すみません」
「嫌ですわ、樹生お兄さま」
 佳恵はパタパタと、朝顔と風鈴の家の前を通り過ぎた。樹生も、その後をついていく。たったの数歩で、追いついた。
「どうして嫌なの?」
 樹生は笑いながら、佳恵の顔を覗き込んだ。佳恵は染まった頰を隠そうとするように、顔をそむけた。
「朝顔が欲しかったんじゃありません」
「風鈴の音に聴き入っていたの?」
「いいえ、ただ……」
 佳恵の言葉は半分で、半ば切れた。少し間を置いて、「ただ……」の後が続いた。
「懐かしかったのです。昔、ご奉公していたお家で、朝顔を育てていて」
 ああ、と樹生は思った。佳恵が、父に連れられて家に来る前のことだ。
「その頃は、よしちゃんのお母さんもまだご健在だったんだね」
「はい。小さいからって、そこの女中さんが……おことさんという方なんですけれど、その方が私を随分と可愛がって下さって、私が寂しがって泣いたりすると、一緒のお布団に入れて寝かせてくれたりして頂きました」
 今では、そのお琴という女中とも、日傘を差す佳恵は身分違いなのである。
「よしちゃんは昔から可愛い子だったからね。ただ可愛いというだけではない、愛されて育った可愛らしさだったよ。僕は珠のように清らかな子が来たと思って、驚いた」
「まぁ、樹生お兄さま」
「本当さ」
 佳恵は恥じらいながらもどこか素直に嬉しそうに、クスクスと笑った。樹生は佳恵の背中に触れようとしてやめた。嫁に行く身の妹である。
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