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捜査一課の凸凹コンビ
富澤勝夫・志摩祐介③
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一等地に建つ高級マンションということもあって、猫矢の部屋はかなりの広さだ。
二十畳はあろうかという広々としたリビングダイニングを中心に、寝室・応接室・和室が、それを取り囲むように配置されている。
まずは玄関から見て左手にある寝室へ入る。
十畳ほどの洋室のど真ん中にダブルサイズのベットが置かれた、至ってシンプルな寝室だ。
枕元に数冊の文庫本が置いてある程度で、クローゼットの中も覗いてみるが特に気になるものは無さそうだった。
次に、玄関からリビングを抜けて正面に位置し、猫矢がカウンセリングを行っていた応接室へと進む。
広々とした部屋の中央にガラス製の大きなテーブルがあり、手前にはゆったりとしたソファ、奥には社長室にありそうな皮張りのチェアが配置されていた。
手前に客が座り、猫矢は奥のチェアで相手をしていたのだろう。
富澤は壁側にあるキャビネットから、顧客名簿と思われるファイルを取り出し、パラパラとめくった。
志摩もぼうっと立っているわけにはいかず、部屋の中をウロウロとしてみる。
「なんだか、霊能力者って呼ばれてる割には、それっぽいものがありませんね……」
「次、行くぞ」
志摩の言葉に耳を貸さず、富澤は部屋を出て行ってしまった。
その後を慌てて追いかけようとしたその時、部屋の隅から「ニャオ……」という小さな鳴き声が聞こえた。
よく見ると、キャビネットと部屋の角にわずかな隙間があり、そこに黒い猫がうずくまっている。
真っ黒な体毛が影と同化していて、部屋に入った時には気づかなかったのだ。
志摩が近づいてしゃがみ込むと、黒猫は警戒しながらも鼻をスンスンと鳴らしてヒザのあたりを嗅いできた。
「お前、猫矢ノアの飼い猫なのか?」
志摩がそう尋ねると、黒猫は彼の顔を見上げて両眼をキュッと閉じた。
事件の一報を受け、警察が到着して以降は常に誰かがこの部屋に居たはずだ。野良猫が入り込んだとはちょっと考えにくい。
この部屋もすでに鑑識が調べているはずなのだが、物陰でじっと息をひそめていたのだろうか。
「富澤さん! ちょっといいですか、猫が……」
リビング左手の和室を見終わった富澤へ志摩が声をかけると、黒猫は後を付いて来ていた。
「なんだぁ? このマンションはペットOKなのか?」
「そうなんでしょうか……被害者が飼っていた猫のようですね」
富澤は首を傾げた。
一通り部屋を見て回ったが、ペット用のトイレやエサの容器などは見当たらず、動物を飼っている様には思えなかったのだ。
コイツは安心だと判断したのか、黒猫は志摩の後ろにピッタリとくっついて離れようとしない。
「ど、どうするんですか? この猫」
「お前、実家暮らしだっただろ? 被害者の親族が見つかるまで預かっておけよ」
「ええっ、僕が連れて帰るんですか? いきなりそんな……」
「このまま置いておく訳にもいかんだろう。それに、殺害現場を目撃している可能性もある。ついでに証言を聞き出しておけ」
本気か冗談かわからない富澤の言葉はさておき、確かにこのままに放置しておいたら、恐らくこの猫は殺処分となってしまうだろう。
部屋から逃げ出したとしても、野良猫となって車に轢かれるのがオチだ。
「はぁ、仕方ないか……しばらく俺の部屋に置いてやるから、壁を引っ掻いたりするなよ?」
富澤の言う通り、志摩は実家で両親と暮らしている。
ずいぶんと前に犬を飼っていたこともあり、しばらく猫を預かるくらいなら文句は言われないだろう。
「とりあえずここは引き上げるぞ、俺は監察医の所へ顔を出してくる。お前はその猫を連れて帰ったら、先に聞き込みに回れ」
「わかりました……」
富澤を見送り、ひとまず実家へ連れて帰るために黒猫を恐るおそる抱き上げるが、引っ掻いたり暴れたりすることなく、大人しくしている。
「なんだかお前、変な猫だな」
殺人現場から猫を抱きかかえて出てくる刑事を、所轄の警察官が奇異の目で見つめる。
そんな事などお構いなしに、志摩は先程の事を思い出していた。
この猫がキュッと目を瞑った時、何かを訴えかけてきたような気がするのだ。
二十畳はあろうかという広々としたリビングダイニングを中心に、寝室・応接室・和室が、それを取り囲むように配置されている。
まずは玄関から見て左手にある寝室へ入る。
十畳ほどの洋室のど真ん中にダブルサイズのベットが置かれた、至ってシンプルな寝室だ。
枕元に数冊の文庫本が置いてある程度で、クローゼットの中も覗いてみるが特に気になるものは無さそうだった。
次に、玄関からリビングを抜けて正面に位置し、猫矢がカウンセリングを行っていた応接室へと進む。
広々とした部屋の中央にガラス製の大きなテーブルがあり、手前にはゆったりとしたソファ、奥には社長室にありそうな皮張りのチェアが配置されていた。
手前に客が座り、猫矢は奥のチェアで相手をしていたのだろう。
富澤は壁側にあるキャビネットから、顧客名簿と思われるファイルを取り出し、パラパラとめくった。
志摩もぼうっと立っているわけにはいかず、部屋の中をウロウロとしてみる。
「なんだか、霊能力者って呼ばれてる割には、それっぽいものがありませんね……」
「次、行くぞ」
志摩の言葉に耳を貸さず、富澤は部屋を出て行ってしまった。
その後を慌てて追いかけようとしたその時、部屋の隅から「ニャオ……」という小さな鳴き声が聞こえた。
よく見ると、キャビネットと部屋の角にわずかな隙間があり、そこに黒い猫がうずくまっている。
真っ黒な体毛が影と同化していて、部屋に入った時には気づかなかったのだ。
志摩が近づいてしゃがみ込むと、黒猫は警戒しながらも鼻をスンスンと鳴らしてヒザのあたりを嗅いできた。
「お前、猫矢ノアの飼い猫なのか?」
志摩がそう尋ねると、黒猫は彼の顔を見上げて両眼をキュッと閉じた。
事件の一報を受け、警察が到着して以降は常に誰かがこの部屋に居たはずだ。野良猫が入り込んだとはちょっと考えにくい。
この部屋もすでに鑑識が調べているはずなのだが、物陰でじっと息をひそめていたのだろうか。
「富澤さん! ちょっといいですか、猫が……」
リビング左手の和室を見終わった富澤へ志摩が声をかけると、黒猫は後を付いて来ていた。
「なんだぁ? このマンションはペットOKなのか?」
「そうなんでしょうか……被害者が飼っていた猫のようですね」
富澤は首を傾げた。
一通り部屋を見て回ったが、ペット用のトイレやエサの容器などは見当たらず、動物を飼っている様には思えなかったのだ。
コイツは安心だと判断したのか、黒猫は志摩の後ろにピッタリとくっついて離れようとしない。
「ど、どうするんですか? この猫」
「お前、実家暮らしだっただろ? 被害者の親族が見つかるまで預かっておけよ」
「ええっ、僕が連れて帰るんですか? いきなりそんな……」
「このまま置いておく訳にもいかんだろう。それに、殺害現場を目撃している可能性もある。ついでに証言を聞き出しておけ」
本気か冗談かわからない富澤の言葉はさておき、確かにこのままに放置しておいたら、恐らくこの猫は殺処分となってしまうだろう。
部屋から逃げ出したとしても、野良猫となって車に轢かれるのがオチだ。
「はぁ、仕方ないか……しばらく俺の部屋に置いてやるから、壁を引っ掻いたりするなよ?」
富澤の言う通り、志摩は実家で両親と暮らしている。
ずいぶんと前に犬を飼っていたこともあり、しばらく猫を預かるくらいなら文句は言われないだろう。
「とりあえずここは引き上げるぞ、俺は監察医の所へ顔を出してくる。お前はその猫を連れて帰ったら、先に聞き込みに回れ」
「わかりました……」
富澤を見送り、ひとまず実家へ連れて帰るために黒猫を恐るおそる抱き上げるが、引っ掻いたり暴れたりすることなく、大人しくしている。
「なんだかお前、変な猫だな」
殺人現場から猫を抱きかかえて出てくる刑事を、所轄の警察官が奇異の目で見つめる。
そんな事などお構いなしに、志摩は先程の事を思い出していた。
この猫がキュッと目を瞑った時、何かを訴えかけてきたような気がするのだ。
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