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第ハ十三話 幻覚を見た

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 エラリィは嘘をつくときに、同じことを繰り返し言ったり、頭の向きを急に変える癖があるのをアルメリアは知っていた。これはなにかあるのだろうと思ったが、なんの証拠もなしに追求してしまえば、エラリィは口をつぐんでしまうかもしれず、その場での追求を諦めた。

「そうなんですの、それは寂しいですわね。わたくしも、農園内で子どもたちの声がしないのは寂しいですわ」

 そう言って笑顔を作ると

「農園は問題ないみたいですから、わたくし他のところも見て回りますわね」

 そう言って、みんなと挨拶と交わしながら、その場を後にした。他にも情報を得るために、町の方へ寄ることにした。
 以前から町へはよく出掛けていたので、町民たちはアルメリアのことを知っていた。
 町内を歩いていると、ここでも顔見知りの町民に笑顔で声をかけられる。

「お久しぶりです。帰ってらしたんですね、おかわりないようで」

 そうやって一番最初に声をかけてきたのは、野菜農園を営んでいるモリスだった。モリスは野菜の入った木箱を抱えて、アルメリアに満面の笑みを向け立っていた。

「久しぶりね、モリス。貴男も変わりないようで安心しましたわ」

 モリスは嬉しそうにアルメリアに訊く。

「また、以前のようにこちらにずっと滞在されるのですか? それなら嬉しいのですが」

 アルメリアは、申し訳なく思いながら答える。

「ごめんなさいね、こちらにいられるのはどれぐらいかわかりませんの。たぶん、そう長くはいられそうにはありませんわ」

「そうですか……。でも少しの間でもお嬢様のお顔を拝見できて、私は嬉しいですよ」

 アルメリアは山賊について早速訊くことにした。

「モリス、最近山賊が出たって聞きましたわ、貴男のところではなにか問題はありまして?」

 モリスは少し考えたのち答える。

「お嬢様、そりゃあ三ヶ月前ぐらいの話ですよ。城下とフヒラは離れていますから、情報が遅れたんでしょうね。最近ではめっきり山賊の話を聞きません」

 そう答えると、持っていた木箱に視線を落とす。

「すみません、もう行かないと。では、ゆっくり過ごしていって下さい!」

 モリスは忙しいのか、そう言うと木箱に積めた野菜を担いで足早に去っていった。

 その様子は以前会ったときと何ら変わりなかった。後ろ姿を見ながら、アルメリアは不思議に思う。モリスは三ヶ月前の話と言ったが、そんなに古い情報をペルシックが寄越すはずはない。だが、モリスが嘘をついているとも思いたくなかった。

 その後も何人かの町民に会って話を聞いたが、モリスと同じく最近は山賊は出ていないとのことで、同じ内容の話しか聞くことはできなかった。

 屋敷へ戻ると、三ヶ月前に町に現れたという山賊の事件を調べるために執務室へ戻った。すると、机の上にはすでにその事件の書類が揃えられていた。ペルシックが先回りして揃えてくれたのだろう。アルメリアは改めてその書類に目を通す。

 事件の概要はこうだ。夜中に雑貨屋のジョルジュが物音で目を覚まし、暗闇の中目を凝らし周囲を見回すとすでに数人の賊に取り囲まれていた。口をおおわれナイフを突きつけられたジョルジュは、賊の言った通りに金目の物がある場所を伝え素直に現金も渡すと、満足したのか賊は去っていったそうだ。
 そのとき、賊が仲間内では知らない言葉で話していたことから帝国の人間ではないかと思ったそうだが、あとから考えると訛が強くそう聞こえたのかもしれないと証言しているとのことだった。

 元々国境沿いに山賊がいるようだと行商人からの目撃情報はあったようだが、特に被害はでていなかった。彼らが町に降りてきて略奪行為をしたのはこの事件が初めてだったそうで、なぜリスクを犯してまで町へ降りできたのかは不明だったし、行き交う行商人を狙わず、直接町に降りてくるのも不可解だった。

 その後山賊が町に来たという報告は上がっていない。アルメリアは、改めてエドガーに話を聞かなければならないと思った。それに、エラリィが嘘をついていたことも少し気がかりだった。

「爺、農園のエラリィとヴァンについて、特にエラリィの娘のドロシーについて調べてちょうだい。凄く嫌な予感がしますの。それと、誰にも知られないように、明日エドガーを直接屋敷へ呼び出して欲しいの」

「承知いたしました」

 アルメリアは大きくため息をついた。そして誰にともなく呟く。

「もっと早くに戻って来るべきでしたわ」



 次の日も同じく見回りをした。農園にも寄ったが当たり障りのないことだけ話し、挨拶をすませると農園を後にした。ペルシックがエラリィやヴァンのことを調べてくれている間は、アルメリアは動くことはせずにゆっくり待つことにした。
 農園を出ると、昔のことを思い出した。シルやルク、マニとルフスそしてアンジー。この五人で遊んでいた頃のことを。
 檸檬農園を開業したりインフラ整備をしたことによって、フヒラは当時遊んでいた頃とはだいぶ景色が変わってしまったが、それでもフヒラに戻って来ると当時のことが思い出された。
 そんなことを考えているうちに、気がつけばルクと花の冠を作ったあの場所に来ていた。

「ここはまったく変わらないんですのね」

 そう言って、まだなにも知らなかったあの頃を思い出す。すると、遠くの方に成長したルクが立っているように見えた。アルメリアは驚いて瞬きをし、もう一度目を凝らしてその青年を見ようとしたが、その青年の姿はもうどこにもなかった。

 昔のことを考えていたから、幻覚を見てしまったのだろう。そう思いながら、屋敷に戻った。

 屋敷に戻ると、エドガーが待っていた。外套を脱ぎながらアルメリアは恐縮しきりで棒立ちになっているエドガーに優しく声をかけた。

「エドガー、農園が忙しいですのに呼び出したりしてごめんなさいね。どうぞ、そこのソファに座ってくつろいでちょうだい」

「は、はい。あの、私なにかしてしまったでしょうか?」

 アルメリアは安心させるため、わざと声を出して笑った。

「まさか、貴男は本当によくやってくれていますわ。今日は仕事のことで呼んだわけではありませんの」

 すると、エドガーは少しほっとした様子になり微笑むとソファに腰掛けた。

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