悪役令嬢は救国したいだけなのに、いつの間にか攻略対象と皇帝に溺愛されてました

みゅー

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第八十五話 緊張?

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 そうしてじっと見つめられ、アルメリアは眩暈におそわれながらもなんとか返事をする。

「はい、わかりました」

 あまりの緊張に心臓が強く打ち、アルメリアの身体は鼓動に合わせて前後に揺れた。アウルスはそんなアルメリアを愛おしそうに見つめる。

「良かった。私もこれからは君のことをアンジーとよばせてもらってもかまわないか?」

 思わずアルメリアはアウルスの顔をまじまじと見つめた。アウルスにアンジーと呼ばれると、まるでルクに呼ばれているような気がした。

「どうした? その名で呼ばれるのはいやなのか?」

「いいえ、その名で呼んでいただいて問題ありません。ただ、昔のことなのですけれど、大切な人がその名でわたくしを呼んでいたものですから、驚いてしまいました」

「そうか、それで自分の店にアンジーのお店と名付けているのか。思い出の名なのだな」

 聞かれてアルメリアは昔を思い出しながら答える。

「はい、とても」

「そうか」

 しばらくお互いに見つめ合った。そして、アルメリアは、はっとして口を開いた。

「申し訳ございません。話がそれてしまいました。それで、ご用件はなんでしょうか?」

「うん、そうか。それでは本題に入るが、今日は他でもない、国境沿いにいる帝国からきた山賊のことで話がある」

「ご存知だったのですね!?」

 驚いてアルメリアがそう言うと、アウルスは眉間に皺をよせて答える。

「もちろんだ。どうやら私の国の者が、君の領地に迷惑をかけているようだね。私はそれをなんとかしたいと思っている」

 アルメリアは大きく頷く。

「皇帝陛下、ありがとうございます。ですが、少し込み入った事情がありまして、介入は少し待っていて欲しいのです」

 すると、アウルスはアルメリアの手を少し強く握ると、顔を近づけて言った。

「アズルだ」

 アルメリアは、アウルスとの距離の近さに驚いて少しパニックになった。そして、アウルスがなんのことを言っているのか、理解が追い付かなくなった。

「はい。あの、なんでしょうか?」

「わざとなのかな? 君は今、私を皇帝と呼んだね」

「も、申し訳ございませんでした」

 アウルスの気分を害してしまったのだと思い、慌てて頭を下げる。すると、アウルスは優しく言った。

「謝ってほしいわけじゃない。ただ、君にはアズルと呼んでほしいだけだ。ほら、顔を上げて」

 そう言ってじっとアルメリアを見つめる。アルメリアは顔を上げアウルスを見つめ返すと、呟くように言った。

「アズル……」

 名前を呼ばれ、アウルスは嬉しそうにアルメリアを見つめる。

「そう、それでいい。で、なぜ介入を待ってほしいと?」

 あまりにもじっと見つめてくるので、アルメリアは恥ずかしくなり視線をそらして言った。

「まだ確たる証拠があるわけではありませんが、彼らの蛮行は、略奪行為だけではないようなのです」

 しばらく間を置いて、アウルスは口を開く。

「もしかしてそれは、誘拐のことか?」

 驚いて、アウルスの顔を見た。

「ご存知なんですの!?」

「奴らを調べていたからな。奴らが領民の家に押し入り、子どもや女性たちを誘拐し、監禁しているのは確認した。しかし、誘拐した目的がわかっていなかった」

「では、子どもたちはまだ生きているんですのね!」

 思わずアルメリアは、アウルスの上着の端を掴んだ。アウルスは、服を掴むその手を取ると、指先にキスをして優しく微笑んで言った。

「大丈夫だ、安心していい。みんな生きているのは確認している」 

「良かったですわ! 最悪の事態も想定していましたから、それはわたくしにとって一番の朗報ですわ」

「そうか、それは良かった」

 嬉しくて思わず少し興奮気味になってしまったアルメリアを、アウルスはじっと見守っていた。アルメリアはそれに気づくと、思わず慌ててキスされた手を引っ込め、頭を下げた。

「申し訳ありません。大変失礼な物言いをしてしまいました。それに、アズル……の上着を掴むなんて、とてもはしたないことをしてしまいました」

「なぜ? 私の上着を少しつまんで引っ張り喜んでいる君は、とても可愛らしかったのに」

 アルメリアはドキリとした。緊張していることもあり、今日は終始アウルスのペースになってしまっている。アルメリアは、無理に話を本題に戻すことにした。

「いいえ、すみませんでした。ところで、これまでの詳しい経緯はご存知ですか?」

「少しは調べて知っているが、できれば君の考えも聞かせてほしい」

 そう言われ、居住まいを正すと話し始めた。

「ではなるべく簡潔にお話しさせていただきます。アンジーのお店の、発酵塩レモンという商品の模造品が売られるようになったと報告がありましたの。報告の内容からたんなる模造品ではなく、レシピか品物自体が流出しているのではないかと考えました。その結果、疑われるのは従業員です。そんなことは考えたくもないことでしたけれど。仕方なく従業員にも話を聞いてみることにしたんですわ。すると、従業員は山賊の事件に関して嘘をついて、山賊やその事件のことを妙に隠したのです。なにより不自然だったのは、従業員たちの子どもや妻の姿が消えていたことでした」

「それで誘拐されたのでは? と、考えたわけか」

 アルメリアは頷く。

「彼らは妻や子どもを盾に脅され、うちの商品の廃棄分を横流ししているのではないかと思いますわ。ただ、まだ証拠も子どもたちがどこにいるのかもわかりませんから、手出しができませんでした」

 アウルスは、しばらくの沈黙ののち口を開いた。

「私の調べた結果ともほぼ一致している。話を総合すると、奴らの一番の目的は君の店のレシピだろう。売れば大金にもなる。だが、人質が無事なところを見ると、まだレシピは奴らに渡ってはいないにちがいない。ただ一つ、君のその情報に足りないのは、山賊の情報だろうな。彼らは帝国から逃げ出した脱走兵だ。ただ、このことはロベリア国には伝えていないことだから、君は当然知るよしもなかっただろう。それにしても、できれば事が大きくなる前に事態を収集したかったのだが、こうなってはそれも無理だろうな」

 そう言うと苦笑した。

「そういったことでしたのね。こちらも、山賊が帝国の人間ではないかといった噂を少しは聞いていましたから、捕えるにしても外交問題をどうするか考えていたところでしたの。その、アズル……が」

 どうしてもアウルスの名前を敬称なしで呼ぶのは慣れず、アルメリアは急に恥ずかしくなった。だがなんとか気を取り直して、話を続ける。

「アズルがわたくしの屋敷にいらせられて、お話しくださって本当によかったですわ」

「いや、私も君の協力は必要不可欠だと思っている。人質を無事に奪還するためにも、領民の協力は不可欠だ。その点君は彼らからの信頼も厚い」

 アルメリアは、そう言われ微笑んで返した。
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