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第百七十八話 反撃

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「私は名で呼ばれることを君に許可した覚えはない。君が勝手に許可なく私の名で呼び始めた。そのままにした私の責任でもあるから、今までの無礼は許そう。だが、良い機会だから言っておこう。とても不愉快だ、今後はやめてもらう。それに、公爵令嬢や他の貴族令息に対しての君の振る舞いも明らかに問題が多すぎる。気をつけたまえ」

 信じられないものを見るようにダチュラはムスカリの顔を見上げる。

「は? え?」

 戸惑うダチュラを他所にアルメリアは話を続ける。

「殿下、重ね重ねありがとうございます。ではまず最初に、わたくしの我が儘で城内に執務室を用意させたとのことですけれど、その根拠はありますの?」

 それを聞いて、ダチュラは気を取りなおすと嬉しそうに答える。

「もちろんありますわ、証人がいますの。リアム、そうでしょう?」

 リアムは一歩前に出ると言った。

「はい、私がアルメリアに騎士団の相談役を頼みました。最初は断られたのですが、強くお願いして引き受けていただきました。ですが結局、城内全体の相談役となってしまい苦労されたのではないかと思います」

 するとダチュラは優しく微笑むと諭すようにリアムに言った。

「リアムったら、もうそんな優しい嘘をつく必要はありませんわ。本当のことを言っていいんですのよ?」

 リアムは心底呆れた顔をした。

「私は最初から真実しか言っていません。貴女が信じようとしなかっただけです」

 ダチュラはリアムを憐憫の眼差しで見つめた。

「可哀想に、アルメリアに洗脳されてしまっているんですわ。パウエル侯爵、彼のことはわたくしが責任をもって更生させて見せますわ!」

 パウエル侯爵は失笑すると答える。

「ならば私もイキシア騎士団も貴女に更生を手伝ってもらわなければなりませんな。恥ずかしながらイキシア騎士団の編制について、クンシラン公爵令嬢にはだいぶ助言をいただいてますから」

 すると周囲の貴族たちからどっと笑いが起こった。
 ダチュラがパウエル侯爵を睨むと、パウエル侯爵は鼻で笑った。

「おぉ、怖い。真実を突きつけられて怒ってしまわれたかな?」

 そこでアルメリアは慌てて口を挟む。

「パウエル侯爵、流石にそこまで言ってしまうのはダチュラが可哀想ですわ。これ以上はいじめになってしまいますからこの話はここまでにしましょう」

 パウエル侯爵は頭を下げた。

「申し訳ありません。クンシラン公爵令嬢が貶められて少々頭に血が上ってしまったようです。今のは確かに大人げなかったですな」

「でも、証言してくれたことにはとても感謝していますわ」

 アルメリアがそう言って微笑むと、パウエル侯爵は微笑み返した。

 その会話を見ていたダチュラは、悔しそうに奥歯を噛んだ。

 アルメリアはダチュラに話しかける。

「それでは話を続けさせていただきますわね。貴女はわたくしの執務室に入れ替わり立ち替わり貴族令息がきて、まるで如何わしいことでもしていたように仰いましたけれど」

 ダチュラが叫ぶ。

「それは事実でしょう! しかも周囲に知られないようにお忍びでこそこそ通っていた令息もいるらしいじゃない!!」

 ムスカリはすっと手を上げると口を開いた。

「それは私のことかな?」

 驚いてダチュラはムスカリの顔をじっと見つめる。そんなダチュラを無視してムスカリは続ける。

「確かに公には隠して、アルメリアの執務室に通っていたのは事実だ認めよう。だが国の重要なことも相談していたから、公にしていなかっただけだ。こうなるなら堂々と相談に通えばよかったかな?」

 ダチュラはじっとムスカリを見つめたあと、なにかを閃いたように言った。

「でも未婚の男女が二人きりで会うなんて、非常識でしょう?!」

 ムスカリはため息をつく。

「残念なことに私はアルメリアと二人きりで会っていたわけではない。リカオンやペルシックが目を光らせていたからね。それにアルメリアに助言を求めるものは絶えなかったから、二人きりで会うなんてことは事実上不可能だった。本音を謂えば二人きりで会瀬を重ねたかったのは事実だが」

「殿下! なにを仰ってますの?!」

 慌ててアルメリアがそう返すと、今度はムスカリの背後で護衛をしていたスパルタカスが手を上げ口を開いた。

「私にも発言をお許しください」

 ムスカリはそれに黙って頷いて返すと、スパルタカスはムスカリに頭を下げダチュラに向きなおる。

「貴女は先ほど閣下が、いやクンシラン公爵令嬢が城内を闊歩し色目をどうのと、令嬢らしくなくとても下卑た発想をされてました。が、もちろんクンシラン公爵令嬢がそのようなことをされたことは一度もありません。確かに、クンシラン公爵令嬢に思いを寄せるものは大勢いましたが、残念ながら私も含め誰も相手にすらされておりません」

 アルメリアは思わず叫ぶ。

「スパルタカス?!」

「本当のことです」

 周囲のものたちがそのやり取りを聞いて、クスクスと笑った。アルメリアは恥ずかしくなり、思い切り咳払いをして本題に戻す。

「モーガン一派のことですけれど」

 すると今度は背後から人並みを掻き分けながら、ヘンリーが前に出た。

「お嬢ちゃん、それに関しては俺も弁明させてほしい。みなさん、お初にお目にかかります私はヘンリー・モーガン。僭越ながら国王よりナイトの称号を賜り、現在はアドニスと共に海上を守る役割をいただいております」

 それにダチュラが反応する。

「はぁ? 貴男、大丈夫? 変な夢でも見たんじゃないの? 海賊ごときが称号をもらえるわけないじゃない。嘘をつくとしてももっとまともなことを言いなさい! それとも妄想かしら? アルメリアもこんな連中しか仲間がいないなんて可哀想ね」

 ヘンリーは残念そうな顔でダチュラを見つめた。そこで、横からアドニスが口を挟む。

「彼が言ったことはすべて本当のことですよ」

 ダチュラはアドニスを見つめる。

「アドニス、貴男まで? アルメリアはあれでも公爵令嬢ですものね。逆らえずにアルメリアの味方のふりをしてるんでしょう? もうそんなことしなくてもいいんですよ? それに敵対している海賊と組んでいるなんて、そんな不名誉なことを言われて黙っている必要はありません!」

「逆らうもなにも、私とアルメリアは仲間であり、親友であり、私の想い人です。上下関係はありません。だからそもそも『味方のふり』などする必要がないのです」

 ダチュラはそう言われ、押し黙った。
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