私は彼に選ばれなかった令嬢。なら、自分の思う通りに生きますわ

みゅー

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 ダヴィドは話を聞くとしばらく動きを止め、ゆっくりとアレクサンドラの方へ向き直り顔をまじまじと見つめた。

「レックス、それ、本気で言ってるのか?」

「本気も本気。大真面目な話ですわ」

「でも、王子は……。いや、なんでもない。だが、なんでまたそのご令嬢と殿下を?」

 そう言って出されたお茶に手をつける。

 アレクサンドラは一瞬ダヴィドに全て話してしまおうか迷ったが、首を振ってその考えを打ち消す。

 ダヴィドをそこまで巻き込みたくなかった。

「実は、殿下とシャトリエ侯爵令嬢はお互いに想い合っていらっしゃるの」

 それを聞いたダヴィドは、口に含んでいたお茶を思い切り噴き出した。

「はぁ?! 王子が?!」

「ちょっと、汚いわね。ん、もう。それにしても、ダヴィドはこういうことに疎いのね。でも、殿下ご自身もまだ、その気持ちに気づいていらっしゃらないみたいだけど」

 ダヴィドは頭を抱えた。

「なんでそんなことになってるんだ?」

「ダヴィド? そんなに心配しなくても、なにかあったときはわたくしが殿下に説明するから大丈夫よ。それに、きっとあとで感謝されることになるわよ」

 ダヴィドは、自信満々でそう答えるアレクサンドラをじっと見つめるとため息をついた。

「まったく、わかった。協力する。その代わりなにか計画するときは、事細かに嘘偽りなく俺にもその計画の内容を教えること。じゃないと協力できないからな」

「はいはい、わかってますわ。じゃあ早速なんだけど、シャトリエ侯爵令嬢を呼んで殿下とお茶会をする予定なの。そこで余興として宝探しをするつもり」

「ふ~ん、宝探しねぇ」

「そうよ、幸いこの屋敷の庭はとても広いもの。できると思うわ」

「で、その宝探しでなにをするんだ?」

「それはね……」

 そう言ってアレクサンドラは計画の詳細を話した。

「なるほどな、わかった。協力する。だが、こんなの一回きりにしてくれよ?」

「ダヴィったら、そんなこと言わないでよ。できれば、二人がお互いの気持ちに気づくまでは協力して?」

「なに言ってんだよ。勘弁してくれ。じゃあ俺はもう帰るからな。お茶会とやらの日付が決まったら連絡してくれ」

 そう言ってダヴィドはドアをゆっくり開けると、廊下に誰もいないか注意深く確認したあと、そっと部屋を出ていった。

「なにもあんなに警戒しなくていいのに……」

 アレクサンドラはそう呟くと、お茶会の手筈を整えるべくさっそく動いた。

 各々に招待状を送ると、アリスはすぐに参加するとの返事を寄越し、シルヴァンも二つ返事でこれを受けた。

 お茶会当日、アレクサンドラが鼻歌を歌いながら最終確認をしていると、シルヴァンから声をかけられる。

「アレクサンドラ、楽しそうだね」

「殿下、はい。たまには息抜きもいいものですわ」

「そうだな。く言う僕も今日のお茶会を楽しみにしていた」   

 そう言って嬉しそうに微笑むシルヴァンを見て、アレクサンドラはこれはいい兆しかもしれないと思った。

「そうなんですの? それはよかったですわ。催し物をする予定もありますから、楽しみにしていてくださいませ」

 そう言って微笑み返すと、サロンへ案内しシルヴァンには座って待つようにお願いした。

 エントランスホールで、ダヴィドを慌てて捕まえるとアレクサンドラは耳打ちした。

「ダヴィ、今日はよろしくね」

 すると、ダヴィドはサッとアレクサンドラから離れ周囲を見渡し小声で返す。

「わかった、わかったからそんなに近づくな」

「はいはい、承知しました。なんなのよ」

 そこでセバスチャンがアリスが来たことを知らせ、アレクサンドラは慌ててアリスを出迎える。

「ようこそ、お待ちしていましたわシャトリエ侯爵令嬢」

「デュカス公爵令嬢、こちらこそ本日はお招きいただきありがとうございます」

 そう挨拶をすると、アリスは周囲を見渡し不思議そうにアレクサンドラに尋ねる。

「あの、殿下は?」

「えっ? あ、殿下はサロンでお待ちいただいてますの。今案内いたしますわね」

 そう答えると、アリスは少し残念そうな顔をしたが気を取り直したように言った。

「そうですの。では、改めてよろしくお願いいたします」 

「こちらこそ」

 アレクサンドラはそう返すと歩き出す。

 途中アリスがアレクサンドラに尋ねた。

「デュカス公爵令嬢、社交界では殿下とデュカス公爵令嬢が、その、婚約されるとの噂でもちきりでしたわ。お二人は婚約されますの?」

 アレクサンドラは驚いて振り向くと、慌てて首を横に振った。

「まさか、わたくしと殿下がだなんてありえませんわ。どこからそのような噂が流れたんでしょう」

「そうなんですの? それは残念ですわ。お二人はとてもお似合いですのに」

 アリスはそう答えて複雑な表情をした。

「そんなことありませんわ、他のかたでお似合いのかたはいくらでもいらっしゃいますもの」

「そうでしょうか?」

 そんなやり取りを経てサロンに入ると、シルヴァンは腕を組みソファに深く腰かけマイペースにくつろいでいる。

 対してダヴィドは、ソファに申し訳なさそうに腰掛けていた。が、アリスを見つけるとすぐに立ち上がり頭を下げた。

 アリスはまずシルヴァンに挨拶をし、次にダヴィドの方へ向き直り小首をかしげた。

 アレクサンドラはそこでダヴィドをアリスに紹介する。

「彼の名前はダヴィド。わたくしたち、今とても大きな計画に取り組んでいるのですけれど、彼はその計画の要ですわ」

 その説明を聞いてアリスは目を見開くと、ダヴィドを見つめ優しく微笑んだ。

「ごきげんよう、ダヴィド。わたくし、アリスと申しますわ」

 すると、ダヴィドは緊張した面持ちで答える。

「は、はい。私はダヴィドと申します。モイズ村で大工家業を営んでおります」

「そうなんですのね、素敵ですわ。それにしても殿下やデュカス公爵令嬢と肩を並べていらっしゃるなんて、なかなかできることではありません。そんなかたとご一緒できるなんて、わたくしも本当に光栄ですわ」

 ダヴィドはそう言われ、照れくさそうに微笑んだ。

 その様子を見て、アレクサンドラはアリスとダヴィドが仲良くできそうでほっとした。
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