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「まぁな。一応用心するに越したことはないしな。それにまたレックスと二人きりになったって知られたら、今度こそ俺の命がない」
「なんの話ですの?」
「いや、なんでもない」
「なによ、もう。いいわ、それよりなにがあったのか教えてちょうだい」
ダヴィドは小声で続ける。
「昨日の夜、突然王子がうちに訪ねて来てさ。『タレ込みがあったから囮をしてくれ』って」
それを聞いてアレクサンドラは頷く。
「私もそこまでは聞いているわ」
「そうか、じゃあ話は早いな。王子に賊が襲ってくる場所を伝えられてたんだが、本当にドンピシャでそこに賊が現れた」
「それだと、その賊の方が罠にはめられたみたいじゃない」
「そうなんだよ。王子は完璧に包囲網を敷いていたから、奴らは一網打尽にされてた」
「なら、本当に命の危険はなかったのね」
「なんだ、そんなこと心配してたのか。あの王子のやることだ、ぬかりなんかないさ」
「それにしても、殿下はだれからそんな情報をもらったのかしら」
「さぁな。賊の奴らが仲間割れでもしたんだろ?」
「でも、なにかおかしいわよ」
それを聞いて、ダヴィドはしばらく考え込んでから諦めたように答える。
「わからん。だが、少なくともあの王子は悪いやつじゃない。心配しても無駄だと思う」
それを聞いてアレクサンドラは、ダヴィドがシルヴァンに丸め込まれていると感じて慌てた。
「そんな、まって。騙されちゃだめよ、殿下は残酷な方なんだから。気をつけなくては」
ダヴィドは不思議そうにアレクサンドラを見つめた。
「なんでそこまで王子を警戒するんだ? 確かに、俺よりはレックスの方があの王子のことを知っているだろうから、理由があるんだろうが。とにかく、お前がそう言うなら気をつけるさ」
「そうしてちょうだい」
「わかったわかった。んじゃ、サロンへ行きますか。あのご令嬢と王子がサロンに来たとき、俺らがそこに居なかったら、それこそなにか疑われそうだからな」
「そうね。あっ、そうだったわダヴィ。言い忘れるところだったわ。土ボタルの洞窟ではよろしくね」
「はいはい、任せておけって」
ダヴィドはそう言って歯を見せて笑った。
そのあとサロンに集まるとゆっくりお茶を飲み、夕食を済ませると旅の疲れからかみんな早々に休んだ。
その翌日も、旅の疲れを取るために遠出はせず、屋敷の近くや庭を案内するにとどめた。なぜなら、土ボタルのいる洞窟は足場の悪い場所を少し歩かなければならず、その時まで体力を温存する必要があったからだ。
特にアリスは、庭で宝探しをしたときですら足が痛いと屋敷へ戻ってしまったぐらいである。もちろん、宝探しのときと違ってそれ相応の靴やドレスの準備はしてある。
だが、今回の旅行計画を立案した者として、なるべく参加者には負担がかからないように配慮する必要があった。事前に手紙で説明し、アリス本人も了承しているとはいえ、このことはアレクサンドラの計画で一番の不安要素であった。
当日、頼んでいたガイドと一緒にアレクサンドラたちは洞窟へ向かった。アレクサンドラやダヴィドは、この洞窟のことは熟知していた。昔遊びに来たことが何度かあったからだ。
ただ、今回は洞窟内でわざとはぐれ、シルヴァンとアリスを二人きりにする計画をダヴィドと立てていたので、わざと洞窟のことはわからないふりをしなければならなかった。
「思っていたより村の近くに洞窟がありますのね!」
シルヴァンのエスコートで洞窟に着くと、アリスは嬉しそうにそう言って微笑んだ。
「そうだな、あまり遠くては君も疲れてしまうだろうし。いい距離かもしれないな」
そんな二人をダヴィドと後ろから眺めつつ、アレクサンドラはこれで自分が消されるようなことにはならないだろうと内心安堵した。
「どうしたレックス。なにか心配なことでもあるのか?」
ダヴィドは心配そうにそう言ってアレクサンドラの顔をのぞき込んだ。
「なんでもありませんわ。ただアリスが疲れてしまわないか心配になっただけ」
「でも、もしものときのために輿の準備をしているんだろう? なら大丈夫さ」
「そうね」
そんな話をしていると、アリスが振り返ってアレクサンドラに話しかけてきた。
「アレクサンドラ様はもちろん土ボタルは見たことがありますのよね? 素敵なんでしょうね」
「そうですわね、幼いころですけれど。とても美しくて感動したのを覚えていますわ」
するとアリスは瞳を輝かせる。
「そうなんですのね? 私も見たことがあるのですけれど、本当に美しいですわよね。しかもそんな美しいものを、こうして大切なかたと見ることができるなんて」
そう言って、潤んだ瞳でシルヴァンを見上げた。シルヴァンはそんなアリスを見つめ返すと言った。
「僕も土ボタルを見るのは初めてではないが、大切な人と美しい景色を見て一緒に感動するのは素晴らしいことだと思う」
そう言うとなぜか、アレクサンドラを見つめた。アレクサンドラはドキリとして思わず視線を逸らした。
そんな一行たちにお構い無しに、ガイドは淡々と危険事項を説明し、各々にランプを手渡すと洞窟内部へと進んでいった。
洞窟の入口は狭く、人が一人やっと通れるぐらいだった。
途中もっと狭い場所もあるが、奥に進むと空間が広がる。その広い場所を抜けると、土ボタルが大量に群生している場所に出る。
だがこの洞窟はあちらこちらに繋がっており、迷路のようになっているので、初めて訪れる者はガイドが必要になるだろう。
ガイドを先頭に、アリス、シルヴァン、アレクサンドラ、ダヴィドの順で洞窟の中に入っていった。
かなり足場が悪く岩を乗り越えたりしながらしばらく進み、洞窟内が少し広くなってきたところでアレクサンドラは左にある横穴へ素早く身を隠した。
そうして足音が聞こえなくなるのを待つと、その横穴のさらに奥へと進み、とても広い空間に出た。
ダヴィドも折を見てここへ来ることになっているので、アレクサンドラは持ってきたハンカチを広げそこに座った。
すると、足音が近づいてくるのに気づきランプを持ち上げその人物の顔を照らした。
「で、殿下?!」
「『殿下』ではなく『シルヴァン』だろ? レックス」
シルヴァンは驚くアレクサンドラにそう言って苦笑した。
「え? えぇ、そうですわね。それよりなぜこちらに殿下が?」
「なぜって、はぐれてしまったからに決まっている。君もだろう?」
そう言われはっとしたアレクサンドラは慌てて頷いた。
「なんの話ですの?」
「いや、なんでもない」
「なによ、もう。いいわ、それよりなにがあったのか教えてちょうだい」
ダヴィドは小声で続ける。
「昨日の夜、突然王子がうちに訪ねて来てさ。『タレ込みがあったから囮をしてくれ』って」
それを聞いてアレクサンドラは頷く。
「私もそこまでは聞いているわ」
「そうか、じゃあ話は早いな。王子に賊が襲ってくる場所を伝えられてたんだが、本当にドンピシャでそこに賊が現れた」
「それだと、その賊の方が罠にはめられたみたいじゃない」
「そうなんだよ。王子は完璧に包囲網を敷いていたから、奴らは一網打尽にされてた」
「なら、本当に命の危険はなかったのね」
「なんだ、そんなこと心配してたのか。あの王子のやることだ、ぬかりなんかないさ」
「それにしても、殿下はだれからそんな情報をもらったのかしら」
「さぁな。賊の奴らが仲間割れでもしたんだろ?」
「でも、なにかおかしいわよ」
それを聞いて、ダヴィドはしばらく考え込んでから諦めたように答える。
「わからん。だが、少なくともあの王子は悪いやつじゃない。心配しても無駄だと思う」
それを聞いてアレクサンドラは、ダヴィドがシルヴァンに丸め込まれていると感じて慌てた。
「そんな、まって。騙されちゃだめよ、殿下は残酷な方なんだから。気をつけなくては」
ダヴィドは不思議そうにアレクサンドラを見つめた。
「なんでそこまで王子を警戒するんだ? 確かに、俺よりはレックスの方があの王子のことを知っているだろうから、理由があるんだろうが。とにかく、お前がそう言うなら気をつけるさ」
「そうしてちょうだい」
「わかったわかった。んじゃ、サロンへ行きますか。あのご令嬢と王子がサロンに来たとき、俺らがそこに居なかったら、それこそなにか疑われそうだからな」
「そうね。あっ、そうだったわダヴィ。言い忘れるところだったわ。土ボタルの洞窟ではよろしくね」
「はいはい、任せておけって」
ダヴィドはそう言って歯を見せて笑った。
そのあとサロンに集まるとゆっくりお茶を飲み、夕食を済ませると旅の疲れからかみんな早々に休んだ。
その翌日も、旅の疲れを取るために遠出はせず、屋敷の近くや庭を案内するにとどめた。なぜなら、土ボタルのいる洞窟は足場の悪い場所を少し歩かなければならず、その時まで体力を温存する必要があったからだ。
特にアリスは、庭で宝探しをしたときですら足が痛いと屋敷へ戻ってしまったぐらいである。もちろん、宝探しのときと違ってそれ相応の靴やドレスの準備はしてある。
だが、今回の旅行計画を立案した者として、なるべく参加者には負担がかからないように配慮する必要があった。事前に手紙で説明し、アリス本人も了承しているとはいえ、このことはアレクサンドラの計画で一番の不安要素であった。
当日、頼んでいたガイドと一緒にアレクサンドラたちは洞窟へ向かった。アレクサンドラやダヴィドは、この洞窟のことは熟知していた。昔遊びに来たことが何度かあったからだ。
ただ、今回は洞窟内でわざとはぐれ、シルヴァンとアリスを二人きりにする計画をダヴィドと立てていたので、わざと洞窟のことはわからないふりをしなければならなかった。
「思っていたより村の近くに洞窟がありますのね!」
シルヴァンのエスコートで洞窟に着くと、アリスは嬉しそうにそう言って微笑んだ。
「そうだな、あまり遠くては君も疲れてしまうだろうし。いい距離かもしれないな」
そんな二人をダヴィドと後ろから眺めつつ、アレクサンドラはこれで自分が消されるようなことにはならないだろうと内心安堵した。
「どうしたレックス。なにか心配なことでもあるのか?」
ダヴィドは心配そうにそう言ってアレクサンドラの顔をのぞき込んだ。
「なんでもありませんわ。ただアリスが疲れてしまわないか心配になっただけ」
「でも、もしものときのために輿の準備をしているんだろう? なら大丈夫さ」
「そうね」
そんな話をしていると、アリスが振り返ってアレクサンドラに話しかけてきた。
「アレクサンドラ様はもちろん土ボタルは見たことがありますのよね? 素敵なんでしょうね」
「そうですわね、幼いころですけれど。とても美しくて感動したのを覚えていますわ」
するとアリスは瞳を輝かせる。
「そうなんですのね? 私も見たことがあるのですけれど、本当に美しいですわよね。しかもそんな美しいものを、こうして大切なかたと見ることができるなんて」
そう言って、潤んだ瞳でシルヴァンを見上げた。シルヴァンはそんなアリスを見つめ返すと言った。
「僕も土ボタルを見るのは初めてではないが、大切な人と美しい景色を見て一緒に感動するのは素晴らしいことだと思う」
そう言うとなぜか、アレクサンドラを見つめた。アレクサンドラはドキリとして思わず視線を逸らした。
そんな一行たちにお構い無しに、ガイドは淡々と危険事項を説明し、各々にランプを手渡すと洞窟内部へと進んでいった。
洞窟の入口は狭く、人が一人やっと通れるぐらいだった。
途中もっと狭い場所もあるが、奥に進むと空間が広がる。その広い場所を抜けると、土ボタルが大量に群生している場所に出る。
だがこの洞窟はあちらこちらに繋がっており、迷路のようになっているので、初めて訪れる者はガイドが必要になるだろう。
ガイドを先頭に、アリス、シルヴァン、アレクサンドラ、ダヴィドの順で洞窟の中に入っていった。
かなり足場が悪く岩を乗り越えたりしながらしばらく進み、洞窟内が少し広くなってきたところでアレクサンドラは左にある横穴へ素早く身を隠した。
そうして足音が聞こえなくなるのを待つと、その横穴のさらに奥へと進み、とても広い空間に出た。
ダヴィドも折を見てここへ来ることになっているので、アレクサンドラは持ってきたハンカチを広げそこに座った。
すると、足音が近づいてくるのに気づきランプを持ち上げその人物の顔を照らした。
「で、殿下?!」
「『殿下』ではなく『シルヴァン』だろ? レックス」
シルヴァンは驚くアレクサンドラにそう言って苦笑した。
「え? えぇ、そうですわね。それよりなぜこちらに殿下が?」
「なぜって、はぐれてしまったからに決まっている。君もだろう?」
そう言われはっとしたアレクサンドラは慌てて頷いた。
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