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アレクサンドラの返答に、イライザはしばらくその顔を見つめ、大きくため息をついた。
「本当に信じられませんわ。あなた、仮にも婚姻前の公爵家の令嬢ですのよ? こんなところで暮らせるはずありませんでしょ? 本当に世間知らずね。まぁ、私としては、邪魔なあなたが消えてくださるのはありがたいことですけれど」
そんな嫌味を受け流していたとき、遠くから聞き覚えのある声が聞こえた。
「お姉様──!」
まさかと思いながら声のする方を目を凝らして見ると、エクトルが満面の笑みでこちらに駆け寄って来るのが見えた。
アレクサンドラは思わず手の中のカップを落としそうになり、慌ててソーサーに戻して立ち上がった。
「エクトル? あなたどうしてここに?!」
「僕、ちゃんとお父様のお許しをもらって来ました」
そう言うと、アレクサンドラに抱きついた。
「お姉様、会いたかった!」
「エクトル?! お客様の前よ!」
そう答えて、恐る恐るイライザの方に視線を向けると、イライザは呆れたような顔をして言った。
「まぁ、麗しき姉弟愛ですこと」
するとエクトルはアレクサンドラを抱きしめたままイライザを一瞥した。
「これは失礼いたしました、デュバル公爵令嬢。いらしたのですね、まったく気づきませんでした。それにここはモイズ村の小さな屋敷です。あなたのようなご令嬢が押しかけているなんて、思いもしませんでしたので」
「いいから、とにかく離しなさい、エクトル!」
「でも、久しぶりに会えたのに……」
「いいから!」
そう言うとエクトルは渋々といった感じでアレクサンドラを離した。
「イライザ、弟が失礼しましたわ」
「よろしいのではなくて? デュカス家のシスコンぶりは有名ですもの。久しぶりに会えたんでしょう? 私にも少しは気持ちがわかりますわ。それに、もしかしたら今生の別れになるかもしれませんわよ」
その台詞にエクトルがイライザを睨みつけた。
「デュバル公爵令嬢、それは一体どういう意味ですか?」
イライザはエクトルに睨まれ、その視線を正面から受けると、不敵に笑って答えた。
「どういう意味もなにも、言ったとおりの意味よ。あぁ、なんだか白けたわ。私失礼するわね」
イライザはそう言うとカップを置いてその場を去っていった。その後ろ姿をみつめエクトルが呟く。
「なんだか彼女、不穏だな……」
そしてアレクサンドラを見つめた。
「お姉様、彼女なんだか嫌な感じがする。あまり屋敷に招き入れない方がいいと思います」
「わかっているわ。でも、殿下がいらっしゃるから毎日のように押しかけて来るのよ。無下にはできないわ」
「不在とでも伝えればよろしいのです。お姉様は少し真面目すぎます」
そう言ったあと、不思議そうな顔をしてアレクサンドラを見つめた。
「どうしたの?」
「いえ、今お姉様は殿下がこの屋敷にいらっしゃると?」
そこで、アレクサンドラはこの件をエクトルに知らせていなかったことを思い出した。
「えっと、そうなのよ。殿下がこちらに滞在されていれば警護も増えますし、部屋も多く空いていますもの。使わないほうがもったいないでしょう?」
それを聞いてエクトルはムッとした顔をして答える。
「そんな話、僕は初耳です。どうして知らせてくれなかったのですか?」
「色々あって急に滞在することになったのよ。それより、なぜあなたはここに?」
「お姉様がいるからに決まってます。こんなことなら最初から着いてくればよかったと、今後悔しているところですけどね」
「それにしても、お父様がよくお許しになったわね」
そう言うと、エクトルはにっこりと微笑んだ。
「お父様に社交シーズンで集まった貴族たちと挨拶し、顔を覚えてもらったらモイズに行ってもいいと言われたのです」
「そう……って、あなたまさかこの短期間に挨拶も全て済ませたということ?」
「もちろんです。お姉様のところへ少しでも早く駆けつけたかったので。さすがに僕も、令嬢たち一人ひとりに挨拶をするのは骨が折れましたけど」
アレクサンドラは信じられないものを見るようにエクトルを見つめた。
社交シーズンに集まる貴族たちは男爵家だけでもゆうに六百人を超える。その全てに挨拶をし、尚且つ顔を覚えてもらおうとすれば途方もなく時間がかかるはずだ。
「よくこの短期間でできたわね」
「でしょう? もっと褒めてください」
アレクサンドラは思わず苦笑した。
「本当に、しょうのない子ね。いつまでもお姉様にばかり構っていてはだめよ」
そのとき、アレクサンドラの視界にセバスチャンが入って来た。
「どうしたの、セバスチャン」
「はい、ダヴィド様がいらしておいでです」
「わかったわ、ここへ通してちょうだい」
セバスチャンが去って行くと、すぐにエクトルがアレクサンドラに問い詰めるように質問する。
「お姉様、ダヴィドって誰?」
「大切な親友なの。あなたにも紹介するわ」
アレクサンドラがそう答えたところにちょうどダヴィドがやってきた。
「あれ? なんだか邪魔だったか?」
「そんなことないわ。それより紹介するわね。私の弟のエクトルよ。エクトル、彼はダヴィド。モイズでの幼なじみなの」
そう言うとダヴィドは少し緊張した様子で、かぶっていたハンチング帽を取ると頭を下げた。
「ダヴィドと申します。レックス、いやアレクサンドラお嬢様にはお世話になっています。って、レックス。お前弟がいたのか。知らなかったぜ」
するとエクトルがそれに答える。
「一応弟ではあるが、血のつながりはない。僕は養子だからね。それより、ダヴィドと言ったっけ? 僕のお姉様に対してその態度は失礼じゃないのか?」
アレクサンドラは慌ててエクトルを制した。
「エクトル、いいのよ。ダヴィとはそういう堅苦しい付き合いじゃないから。ごめんなさいね、ダヴィ。気にしないでちょうだい。それよりなにか用があったんでしょう? お母様のこと?」
「あぁ、そうだった。おふくろはお陰様でだいぶ調子がいいみたいだ。最近はよくカジムの畑なんかも手伝うようになったんだ。本当に感謝してもしきれないぐらいだ。それで、今日はそれより大切な話があってきたんだ」
「お母様のことより大切なこと?」
「あぁ。この前、組合の話やら交易の話をしただろう?」
「えぇ、あなたがまとめ役って話だったわよね」
「そう、それでトゥルーシュタットと交易をしているうちに、トゥルーシュタットの商人連中もその組織の話に乗り気になってさ。思っていた以上に大きな組織を作ることになりそうだ」
「本当に信じられませんわ。あなた、仮にも婚姻前の公爵家の令嬢ですのよ? こんなところで暮らせるはずありませんでしょ? 本当に世間知らずね。まぁ、私としては、邪魔なあなたが消えてくださるのはありがたいことですけれど」
そんな嫌味を受け流していたとき、遠くから聞き覚えのある声が聞こえた。
「お姉様──!」
まさかと思いながら声のする方を目を凝らして見ると、エクトルが満面の笑みでこちらに駆け寄って来るのが見えた。
アレクサンドラは思わず手の中のカップを落としそうになり、慌ててソーサーに戻して立ち上がった。
「エクトル? あなたどうしてここに?!」
「僕、ちゃんとお父様のお許しをもらって来ました」
そう言うと、アレクサンドラに抱きついた。
「お姉様、会いたかった!」
「エクトル?! お客様の前よ!」
そう答えて、恐る恐るイライザの方に視線を向けると、イライザは呆れたような顔をして言った。
「まぁ、麗しき姉弟愛ですこと」
するとエクトルはアレクサンドラを抱きしめたままイライザを一瞥した。
「これは失礼いたしました、デュバル公爵令嬢。いらしたのですね、まったく気づきませんでした。それにここはモイズ村の小さな屋敷です。あなたのようなご令嬢が押しかけているなんて、思いもしませんでしたので」
「いいから、とにかく離しなさい、エクトル!」
「でも、久しぶりに会えたのに……」
「いいから!」
そう言うとエクトルは渋々といった感じでアレクサンドラを離した。
「イライザ、弟が失礼しましたわ」
「よろしいのではなくて? デュカス家のシスコンぶりは有名ですもの。久しぶりに会えたんでしょう? 私にも少しは気持ちがわかりますわ。それに、もしかしたら今生の別れになるかもしれませんわよ」
その台詞にエクトルがイライザを睨みつけた。
「デュバル公爵令嬢、それは一体どういう意味ですか?」
イライザはエクトルに睨まれ、その視線を正面から受けると、不敵に笑って答えた。
「どういう意味もなにも、言ったとおりの意味よ。あぁ、なんだか白けたわ。私失礼するわね」
イライザはそう言うとカップを置いてその場を去っていった。その後ろ姿をみつめエクトルが呟く。
「なんだか彼女、不穏だな……」
そしてアレクサンドラを見つめた。
「お姉様、彼女なんだか嫌な感じがする。あまり屋敷に招き入れない方がいいと思います」
「わかっているわ。でも、殿下がいらっしゃるから毎日のように押しかけて来るのよ。無下にはできないわ」
「不在とでも伝えればよろしいのです。お姉様は少し真面目すぎます」
そう言ったあと、不思議そうな顔をしてアレクサンドラを見つめた。
「どうしたの?」
「いえ、今お姉様は殿下がこの屋敷にいらっしゃると?」
そこで、アレクサンドラはこの件をエクトルに知らせていなかったことを思い出した。
「えっと、そうなのよ。殿下がこちらに滞在されていれば警護も増えますし、部屋も多く空いていますもの。使わないほうがもったいないでしょう?」
それを聞いてエクトルはムッとした顔をして答える。
「そんな話、僕は初耳です。どうして知らせてくれなかったのですか?」
「色々あって急に滞在することになったのよ。それより、なぜあなたはここに?」
「お姉様がいるからに決まってます。こんなことなら最初から着いてくればよかったと、今後悔しているところですけどね」
「それにしても、お父様がよくお許しになったわね」
そう言うと、エクトルはにっこりと微笑んだ。
「お父様に社交シーズンで集まった貴族たちと挨拶し、顔を覚えてもらったらモイズに行ってもいいと言われたのです」
「そう……って、あなたまさかこの短期間に挨拶も全て済ませたということ?」
「もちろんです。お姉様のところへ少しでも早く駆けつけたかったので。さすがに僕も、令嬢たち一人ひとりに挨拶をするのは骨が折れましたけど」
アレクサンドラは信じられないものを見るようにエクトルを見つめた。
社交シーズンに集まる貴族たちは男爵家だけでもゆうに六百人を超える。その全てに挨拶をし、尚且つ顔を覚えてもらおうとすれば途方もなく時間がかかるはずだ。
「よくこの短期間でできたわね」
「でしょう? もっと褒めてください」
アレクサンドラは思わず苦笑した。
「本当に、しょうのない子ね。いつまでもお姉様にばかり構っていてはだめよ」
そのとき、アレクサンドラの視界にセバスチャンが入って来た。
「どうしたの、セバスチャン」
「はい、ダヴィド様がいらしておいでです」
「わかったわ、ここへ通してちょうだい」
セバスチャンが去って行くと、すぐにエクトルがアレクサンドラに問い詰めるように質問する。
「お姉様、ダヴィドって誰?」
「大切な親友なの。あなたにも紹介するわ」
アレクサンドラがそう答えたところにちょうどダヴィドがやってきた。
「あれ? なんだか邪魔だったか?」
「そんなことないわ。それより紹介するわね。私の弟のエクトルよ。エクトル、彼はダヴィド。モイズでの幼なじみなの」
そう言うとダヴィドは少し緊張した様子で、かぶっていたハンチング帽を取ると頭を下げた。
「ダヴィドと申します。レックス、いやアレクサンドラお嬢様にはお世話になっています。って、レックス。お前弟がいたのか。知らなかったぜ」
するとエクトルがそれに答える。
「一応弟ではあるが、血のつながりはない。僕は養子だからね。それより、ダヴィドと言ったっけ? 僕のお姉様に対してその態度は失礼じゃないのか?」
アレクサンドラは慌ててエクトルを制した。
「エクトル、いいのよ。ダヴィとはそういう堅苦しい付き合いじゃないから。ごめんなさいね、ダヴィ。気にしないでちょうだい。それよりなにか用があったんでしょう? お母様のこと?」
「あぁ、そうだった。おふくろはお陰様でだいぶ調子がいいみたいだ。最近はよくカジムの畑なんかも手伝うようになったんだ。本当に感謝してもしきれないぐらいだ。それで、今日はそれより大切な話があってきたんだ」
「お母様のことより大切なこと?」
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