私は彼に選ばれなかった令嬢。なら、自分の思う通りに生きますわ

みゅー

文字の大きさ
31 / 46

31

しおりを挟む
「まぁ、そうなの? 心強いじゃない。よかったわ。それでやっぱりダヴィがまとめ役なの?」

 するとダヴィドは少し照れくさそうに頭をかきながら言った。

「さすがに大きな組織のトップがこの俺じゃ格好がつかないと思って、最初は断ろうとしたんだ」

「そんな、わたくしはダヴィこそ相応しいと思うわ。だって、その組織を作ろうって立案したのだってダヴィなんでしょう?」

「そう、そうなんだよな。それで、王子にも相談したら、王子も俺がトップをやるべきだって。それで、そのとき王子から宮廷の建築士にならないかって言われて、そうすればトップとして格好がつくだろうって……」

「それ、本当なの?!」

「あぁ。ダムの設計やら色々王子と話していて、どうやら気に入ってもらえたらしい」

「すごいじゃない! 夢が叶ったのね!」

 アレクサンドラは嬉しさのあまり駆け寄り、ダヴィドの両手を握った。  
 ダヴィドは照れながら続ける。

「いや、これもお前が勉強の機会をくれたり、王子に会わせてくれたおかげだ。ありがとう」

「そんなことないわ。実力がなければ殿下も声をかけたりしないもの!」

「まだまだ勉強不足だから、王子のところで学ばせてもらうことになってる。礼儀なんかもな」

「そうなの、あなたならできるわ」

「俺も、もらったチャンスをしっかり生かすよ。俺は……いや、私は明日からオディロン協会の会長、ダヴィド・ディ・ル・ヴォーだ。弟の名に恥じないように頑張ります!」

 “ディ”という言葉を聞いて、アレクサンドラは息を呑んだ。

「“ディ”は弟の名から取ったのね」

「ん? あぁ、そうだ。弟のことを忘れないようにな。協会のみんなにもディって呼んでもらおうと思ってるんだ。レックスは今までどおりダヴィって呼んでくれよな」

 ダヴィドが嬉しそうに語るその横顔を、アレクサンドラはしばらく見つめていた。  
 ふと、言葉が漏れる。

「ダヴィ、あなただったのね。わたくしを逃がそうとしてくれたのは……」

「ん? なんの話だ? 逃がすって、いつのことだ? 子どもの頃か?」

「いいえ、なんでもないの」

 そのとき、エクトルが駆け寄り、二人の手を引き離してアレクサンドラの手を取った。

「お姉様、婚姻前の令嬢がいつまでも男性の手を握っているのはよろしくありません」

「そ、そうだったわね。あまりに嬉しくてつい……」

 エクトルは面白くなさそうに言った。

「それよりお姉様、せっかく僕がモイズまで来たんです。案内してくださいますか?」

「もう、エクトルったら。わたくしはまだダヴィと話していたのに」

 ダヴィドはそんな二人の様子を見て苦笑した。

「いや、俺の話はもう終わったから構わない。せっかく久々に会ったんだろう? 色々と積もる話もあるだろうさ。俺はダムのことでトゥーサンのところへ用があるから」

「ごめんなさい、ダヴィ。でも、今度お祝いをさせてね」

「あぁ、ありがとう。それにしても、こりゃ王子も大変だ」

「殿下がどうされたの?」

「いや、なんでもない。んじゃ、またな」

 そう言ってダヴィドは軽く手を挙げて去っていった。  
 その後ろ姿を見つめ、アレクサンドラはダヴィドと一緒にいれば今後誘拐されることはないだろうなどと考えていた。

 けれど、ただの協会がなぜ反乱を起こすことになったのか、まったく理解できなかった。  
 さらに言えば、あのダヴィドが国に反旗を翻すなど、想像すらできないことである。

「お姉様?」

 エクトルがアレクサンドラの顔を覗き込んできたので、我に返ると思考をやめ、この屋敷に初めて来たエクトルのために屋敷内を案内して歩いた。

 エクトルはデュカス公爵家の跡取りである。

 父親に言われた条件をクリアしモイズへ来る許可をもらったとは言うものの、なにかしら理由がなければそれすら絶対に許されることではなかっただろう。

 そう思ったものの、アレクサンドラはシルヴァンが自分を亡き者にしようとした人物ではないかもしれないことや、ダヴィドがディだったという事実を知り、それらについて考えることが多すぎて、その話題には触れなかった。

 翌日、今度は町中をエクトルに案内している途中、アリスが世話になっている屋敷の前を通りかかり、この際なのでエクトルにアリスを紹介しようと足を止めた。

「エクトル、ここに今シャトリエ侯爵令嬢がいらしてるの。少し挨拶していきましょう」

「うーん、僕は別に会いたくないな。今度どこかですれ違ったときにでも挨拶すればいいんじゃないかな」

「あら、どうして? とても可愛らしいかたよ? 会いたいと思わない?」

 するとエクトルはしばらくなにか考えたような顔をしたあと言った。

「可愛い? そうかなぁ。僕はそう思わないけど」

「エクトル様?! ごきげんよう!」

 その声に驚いて振り向くと、アリスが立っていた。

「あら、シャトリエ侯爵令嬢。ごきげんよう。今ご挨拶をと話していたところですの」

「ごきげんよう。そうでしたの。わたくしも外を眺めていたらお二人が見えたので挨拶をしようと思って出てきたところですわ」

 アリスはそう言うと、エクトルをきらきらした眼差しで見つめた。  
 一方のエクトルは、仕方ないといった諦めたような顔で答える。

「ごきげんよう、シャトリエ侯爵令嬢。久しぶりだね。こっちに来てるなんて知らなかったよ」

 抑揚のない、淡々とした言い方だった。

「本当にお久しぶりですわね。エクトル様もこちらにいらしているなんて、すごい偶然ですわ。デュカス公爵令嬢と殿下には大変お世話になっていますの。とても親しくしていただいて……」

「そうなんですか。お姉様は誰にでも親切だからね」

 アレクサンドラはその言い方に驚き、肘でエクトルをつつき小声で言った。

「エクトル、なんなのその言い方は!」

 アリスはクスクスと笑った。

「デュカス公爵令嬢、いいんですの。わたくし全然気にしてませんわ。本当に仲がよろしいんですね」

「ごめんなさい、エクトルったら疲れているみたいですの。また改めて挨拶にきますわ」

「はい、お待ちしてますわ」

 アリスはそう言うと屋敷へ戻っていった。  
 それを見届けるとアレクサンドラはエクトルに向かって言った。

「どうしたのよ、エクトル。あなたらしくありませんわ」

「そうですか? でも僕、シャトリエ侯爵令嬢のことが嫌いなんです。仕方がないでしょう。もういいじゃないですか、挨拶も済んだし、早く行きましょう」

 エクトルはアレクサンドラの腰に手を回すと、歩き始めた。

「もう、強引ね!」

 そう言ってアレクサンドラは案内を再開した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

殺された伯爵夫人の六年と七時間のやりなおし

さき
恋愛
愛のない結婚と冷遇生活の末、六年目の結婚記念日に夫に殺されたプリシラ。 だが目を覚ました彼女は結婚した日の夜に戻っていた。 魔女が行った『六年間の時戻し』、それに巻き込まれたプリシラは、同じ人生は歩まないと決めて再び六年間に挑む。 変わらず横暴な夫、今度の人生では慕ってくれる継子。前回の人生では得られなかった味方。 二度目の人生を少しずつ変えていく中、プリシラは前回の人生では現れなかった青年オリバーと出会い……。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

本日、貴方を愛するのをやめます~王妃と不倫した貴方が悪いのですよ?~

なか
恋愛
 私は本日、貴方と離婚します。  愛するのは、終わりだ。    ◇◇◇  アーシアの夫––レジェスは王妃の護衛騎士の任についた途端、妻である彼女を冷遇する。  初めは優しくしてくれていた彼の変貌ぶりに、アーシアは戸惑いつつも、再び振り向いてもらうため献身的に尽くした。  しかし、玄関先に置かれていた見知らぬ本に、謎の日本語が書かれているのを見つける。  それを読んだ瞬間、前世の記憶を思い出し……彼女は知った。  この世界が、前世の記憶で読んだ小説であること。   レジェスとの結婚は、彼が愛する王妃と密通を交わすためのものであり……アーシアは王妃暗殺を目論んだ悪女というキャラで、このままでは断罪される宿命にあると。    全てを思い出したアーシアは覚悟を決める。  彼と離婚するため三年間の準備を整えて、断罪の未来から逃れてみせると……  この物語は、彼女の決意から三年が経ち。  離婚する日から始まっていく  戻ってこいと言われても、彼女に戻る気はなかった。  ◇◇◇  設定は甘めです。  読んでくださると嬉しいです。

戦場から帰らぬ夫は、隣国の姫君に恋文を送っていました

Mag_Mel
恋愛
しばらく床に臥せていたエルマが久方ぶりに参加した祝宴で、隣国の姫君ルーシアは戦地にいるはずの夫ジェイミーの名を口にした。 「彼から恋文をもらっていますの」。 二年もの間、自分には便りひとつ届かなかったのに? 真実を確かめるため、エルマは姫君の茶会へと足を運ぶ。 そこで待っていたのは「身を引いて欲しい」と別れを迫る、ルーシアの取り巻きたちだった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

ご安心を、2度とその手を求める事はありません

ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・ それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望

クズ男と決別した私の未来は輝いている。

カシスサワー
恋愛
五年間、幸は彼を信じ、支え続けてきた。 「会社が成功したら、祖父に紹介するつもりだ。それまで俺を支えて待っていてほしい。必ず幸と結婚するから」 そう、圭吾は約束した。 けれど――すべてが順調に進んでいるはずの今、幸が目にしたのは、圭吾の婚約の報せ。 問い詰めた幸に、圭吾は冷たく言い放つ。 「結婚相手は、それなりの家柄じゃないと祖父が納得しない。だから幸とは結婚できない。でも……愛人としてなら、そばに置いてやってもいい」 その瞬間、幸の中で、なにかがプチッと切れた。

白い結婚の行方

宵森みなと
恋愛
「この結婚は、形式だけ。三年経ったら、離縁して養子縁組みをして欲しい。」 そう告げられたのは、まだ十二歳だった。 名門マイラス侯爵家の跡取りと、書面上だけの「夫婦」になるという取り決め。 愛もなく、未来も誓わず、ただ家と家の都合で交わされた契約だが、彼女にも目的はあった。 この白い結婚の意味を誰より彼女は、知っていた。自らの運命をどう選択するのか、彼女自身に委ねられていた。 冷静で、理知的で、どこか人を寄せつけない彼女。 誰もが「大人びている」と評した少女の胸の奥には、小さな祈りが宿っていた。 結婚に興味などなかったはずの青年も、少女との出会いと別れ、後悔を経て、再び運命を掴もうと足掻く。 これは、名ばかりの「夫婦」から始まった二人の物語。 偽りの契りが、やがて確かな絆へと変わるまで。 交差する記憶、巻き戻る時間、二度目の選択――。 真実の愛とは何かを、問いかける静かなる運命の物語。 ──三年後、彼女の選択は、彼らは本当に“夫婦”になれるのだろうか?  

旦那様に学園時代の隠し子!? 娘のためフローレンスは笑う-昔の女は引っ込んでなさい!

恋せよ恋
恋愛
結婚五年目。 誰もが羨む夫婦──フローレンスとジョシュアの平穏は、 三歳の娘がつぶやいた“たった一言”で崩れ落ちた。 「キャ...ス...といっしょ?」 キャス……? その名を知るはずのない我が子が、どうして? 胸騒ぎはやがて確信へと変わる。 夫が隠し続けていた“女の影”が、 じわりと家族の中に染み出していた。 だがそれは、いま目の前の裏切りではない。 学園卒業の夜──婚約前の学園時代の“あの過ち”。 その一夜の結果は、静かに、確実に、 フローレンスの家族を壊しはじめていた。 愛しているのに疑ってしまう。 信じたいのに、信じられない。 夫は嘘をつき続け、女は影のように フローレンスの生活に忍び寄る。 ──私は、この結婚を守れるの? ──それとも、すべてを捨ててしまうべきなの? 秘密、裏切り、嫉妬、そして母としての戦い。 真実が暴かれたとき、愛は修復か、崩壊か──。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 いいね❤️励みになります!ありがとうございます!

処理中です...