婚約破棄から始まるジョブチェンジ〜私、悪役令嬢を卒業します!〜

空飛ぶパンダ

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36.騎士団長、苦悩する

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「…ねぇ?私、二人の共通点を一つ見つけたわ。私は前世の記憶がないから確認のしようもないけど、二人ともな女性だったのね。」


「「あ。」」

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎


ローゼリア達三人が微妙な空気に包まれている頃、フェンリルは焦っていた。


(なんなんだ、なぜ、なぜ自分は…)


、ローゼリアの無事にホッとした自分が、




から離れたら、正気に戻る事ができるが、の近くにいると惑わされてしまう。自分の部下は違和感にすら気付いていない。


今はそれから離れて自分に与えられた客室にいる。故に正気を保っていられる。
客室の椅子に座り、机に両肘をついて頭を抱える。


なぜだっ!!
本物のリアはどこにいるんだ!?


ドンっ!!!


強い焦燥に思わず机を叩く手に力が入る。


トントントン。「……はい。」


「お客様?大きな音がしましたが、どうかなさいまして?」


扉の向こうから、女の声が聞こえてきた。いつも世話をしてくれる使用人の声ではない。


……誰だ?


「……いえ、なにも。ところで、貴女は?」


「まぁ!名乗りもせず失礼いたしました。わたくしはクリスと申します。お客様と同じく、伯爵様の許しを得て、こちらの屋敷に滞在している者ですわ。

……扉越しでは話しづらいわ。入ってもよろしくて?」


……クリス、報告にあった女か。

自分がを見失う前に、この女とリアがお茶会をしたと部下が言っていたな。

入室の許可を出さず、自分から部屋の扉を開けた。女はいきなり開いた扉に驚いたのか「きゃっ!」と小さな悲鳴を上げる。


…彼女は恐らく伯爵の妾だろう。
それなのに、自分のところに一人できたのか?近くに使用人の姿が見当たらない。


「貴女のことを伯爵からは聞いていないが……」


自分が胡乱げな眼差しで見ていることに気付いただろうに、彼女は気にした風もなく、その場で話を続ける。


「まぁ、伯爵様ったら。……でも、仕方ありませんわ。わたくしはお客様の様な貴きお方に紹介されるような身分ではありませんもの。」


そういうと、少し困った様な悲しげな顔を作る女は、俺の眼にはにしか映らない。


「…そう、自分を卑下するものではない。ところで、先程、自分の婚約者をお茶に招いてくれたとか。彼女も暇を持て余していたから、喜んでいた。感謝する。」


「まぁ、ローゼリア様が?私もお話相手をして頂けて無聊が慰められましたわ。感謝するのはこちらの方です。ローゼリア様は嫉妬する気も起きないほどお美しい方でしょう?なのに、わたくしのような者にも優しくて気さくに接してくださって…まさに天使の様な女性ですわ。

……伯爵様も、彼女のそんなところを気に入られたのかしらね。彼がローゼリア様のために最高品質の魔石をわざわざご自分で探されていると聞いて、最初は嫌味の一つや二つ、言ってやろうと思っておりましたのに…そんな気も晴れましたわ」と儚げに微笑む。


…この女、何かを隠しているな。
隠し事をする人間は、聞かれてもいないことをよく話す傾向にある。


騎士団長としての勘が告げる。
この女は"黒"だ、と。


しかし、証拠がない。なにより、が、何食わぬ顔で存在している以上、自分が騒いだところで良い結果にはならないだろう。に近付けば、その瞬間に自分も惑わされてしまう。


そんなこと、理性では、わかっている。
だがっ!

今こうしている間にも、愛しいリアの身が危険に晒されているかと思うと、身を切り裂かれるような痛みを感じる。


ーー本能に任せて、女を締め上げて、リアの居場所を吐かせたい!


ーー自分は、騎士団長として、冷静に判断し、行動せねばならない。



相反する思いに苦悩するフェンリル。
結局、本能のままに行動してもリアは見つからないだろうと判断した理性が勝ち、女とは当たり障りのない会話をして別れた。
体の力が抜け、そのまま閉めた扉に背をつけもたれ掛かる。片手で前髪をクシャッと乱して、今にも叫び出したいほどの衝動を落ち着ける努力をする。


ーーリア、どこにいるんだ?無事で、無事でいてくれっ


✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎


伯爵邸の一室。薄暗い部屋の中、はいた。
周囲に他の生き物の気配はしない。


『………おかしい。』


……なにが?なにが、おかしい?


『………異国から嫁いできた娘たち。それに、あの侍女。お前達の術が効かない……なぜ?』


………それは、たましい、ちがうから


『魂?……わからない。しかも、お前達とは別の妖精が助力までしていたね?妖精は人に関わらないのではなかったか?』


………しかたない、ひかれあうから


『惹かれ合う?お前達妖精と、あの三人が?……まさかっ"聖女"か?!』


………。


『沈黙は肯定とみなすよ?しかし、そうか。聖女なら術が効かないのも納得。確かに清浄な空気を纏っていた。魔の性質を帯びたこの国の者にとって、聖女は愛さずにはおれぬ存在。そんな存在が同じ時、同じ場所に、三人も……』


ーー何か、上位者の意志を感じる。


『ふん、そうだとしても関係ない。神など既に見限った。…遠い昔に。』


ーーどうせ、聖女も、王族も、同じだ。かつて、私を絶望させた奴らと。だから……


『もっと、苦しめっ!そして、絶望しろっ!!こんな国、滅びてしまえばいい!!!』


怨嗟の叫びが闇の中でこだまする。
周囲の空気が歪み、闇の中から人の形をしたものが産み出される。


「………。」


は、静かに歩き出す。
自らが求める目的を達成するためにーー






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