ふしぎな街

森 go太

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case1

ラヴドール・ラプソディ 後編

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 彼女と一緒にお風呂に入るのは、緊張した。
 何せお風呂どころか、部屋にすら女性を上げた事が無いのだ。その上、今目の前にいるのは天女のような麗しい女性ぃ…っっっっ
 僕の思考回路は彼女の裸体を見た瞬間、ショートしてしまいそうになるが何とか持ち直す。
 結局まともには洗ってあげられなくて、申し訳なさが募ったが…これが僕の限界だった。そして彼女を小刻みに震える手で拭いて、取り敢えず僕のTシャツを着せてあげた。

 汚れた服ではなくなって、彼女は嬉しそうな顔をしていた。
 基本無表情な彼女だけれど、僕には分かるんだ。


~~~~~~


 彼女が家で待ってると思うと、僕は何でも出来る気がした。
 自己紹介以降一言も発言していなかった大学のゼミでは、初めて意見を出した。頭ごなしに否定されると思ったけれど、他の人達は案外親身に僕の意見を聞いてくれた。親方から怒声を浴びせられるので辞めようと思っていたバイトにも、今までとは比較にならないほど熱心に取り組んだ。今まで僕を見る度に嫌そうな顔をしていた親方も、その日は僕を褒めてくれた。
 頑張れば意外と報われる。はじめて気付いた。


~~~~~~


 遅くに家に帰っても、彼女はいつもと変わらずに僕を迎えてくれた。僕はそんな彼女が愛おしくて、愛おしくて堪らなかった。愛おしくて愛おしくて愛おしくてーー気付いた時には、僕は思わず彼女を抱き締めてしまっていた。しかしすぐにはっとして、彼女から離れてしまったがーー彼女は相変わらず全てを受け入れるように、僕をじっと見つめてくれていた。


~~~~~~


 僕は生まれてはじめて、身だしなみに気を遣う事にした。今までは醜い顔立ちに全てを諦め、何も自分磨きをしてこなかったけれど…先日彼女を抱き締めた時に思ったのだ。
 僕は少しでも、彼女に見合う男にならなければいけないと。


~~~~~~


 お洒落な美容院に行って髪を整えてもらい…お洒落な古着屋さんに行って全身をコーディネートして貰った僕は、まるで別人のようだった。勿論、持って生まれた顔はそのままだが…髪型と服装次第で、全く印象が変わる事が分かった。古着屋の店員さんにも格好いいと言って貰えた。格好いい。店員さんからすると、ただのお世辞かもしれないが…僕はそんなキラキラした言葉を言われたのも生まれてはじめてだったので、純粋に嬉しかった。
 そして、これで彼女に少しは近づけたのでは無いかと思った。


~~~~~~


 夕方、僕はその姿のまま家に帰って彼女の前に座った。彼女は相変わらず何も言わなかったけれど、僕は気付いていた。彼女が少しだけ赤面している事に。
 僕は思わず彼女にキスをした。彼女の冷たい唇と僕の唇が触れ合った瞬間、僕の理性は蕩けるように形を失っていった。そして僕達は交わった。愛を確認しあって、お互いを求め合った。
 求め合っているんだ。僕達は今。
 僕は勿論、彼女を狂おしいほどに求めているし…
 彼女もまた、僕を求めてくれている。
 はじめての存在。僕を求めてくれた、はじめての…


~~~~~~


 全てが終わった後、僕は涙を流していた。
 しかし…
 何も実感は無かった。

 「あれ…?」
 僕の前には、少しだけ薄汚れたラヴドールがあった。
 なぜ僕の部屋にこんな汚い人形が置いてあるんだろう。
 いくら考えても、全く心当たりが無かった。
 

~~~~~~


 2週間後の不燃ゴミの日に、僕はその奇妙なラヴドールを捨ててから大学へと向かった。
 こんなもの誰かから貰う訳も無いし、買った記憶も無い。
 いつから僕の部屋にあったのかも、全く思い出せない。
 しかし何故だろう。
 あのラヴドールに関して、何かすごく大事な事を忘れている気がするのは。

 「おーう!」
 大学で同じゼミの奴が話しかけて来たので、僕はラヴドールについて考えるのをやめた。
 そしてそれ以来、僕はラヴドールの事を深く考える事は無かった。

 ーーよっ。


~~~~~~


 「はッ、はッ、はッ…!」
 その日もまた、ゴミ捨て場を掻き分ける男が1人。

 「はッ、はッ…!」
 その男も、心の奥底で愛に飢えていた。
 そして夢中になって、救いを求める。

 「はッ…」
 偽りの愛による救いを。



 たすけて。




 《case1:ラヴドール・ラプソディ 終》
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