男装少女の武勲譚

窓見景色

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【1】

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『人間と関わるな』

 それはリツが幼い頃から、養父に言い聞かされた言葉である。
 何故、今そんなことを思い出すのかといえば。

 山中を流れる川。その川縁に倒れた男を見つけたからであった。

 律は草木の影から目を凝らす。

(また死体か?)

 しばらく様子を伺っていたが、男はぴくりともしない。
 最近、やたらとこの辺りに人間の死体が流れ着くので、きっと今回もそうに違いない。

 律は持っていた水桶を河原に置くと、ゆっくりと男に近づき、その顔を覗き込んだ。

ツノはないか)

 ということは、やはり人間である。

 その時、男の手がぴくりと動いた。

「!」

 おもわず、後ろに飛び跳ねる。
 
(まだ生きてる)

 養父以外の人を見るのはこれが初めてのことで、律の瞳が好奇心に満ちる。

 とはいえ、今はまだ冬があけたばかり。
 昼間であっても山の気温は低く、川の水は凍えるような冷たさだ。その証拠に男の顔は真っ青だった。

(放っておけば死んでしまう)

 言いつけは守るべきだと頭ではわかっている。
 だが、見捨てるのはあまりにも夢見が悪い。

 それに養父といえば、旅に出ると言ってここ数年家に帰ってきていない。きっと今日もそうだろう。

(よし、決めた)

 律は、自分の背丈よりも大きな男を軽々担ぐと、我が家へと足を向けるのだった。
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