男装少女の武勲譚

窓見景色

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「よっこいしょ」

 律は男を家へ連れ帰ると、寝床へ横たわらせた。

(軟膏どこだっけな)

 男は怪我をしていた。

 胸から腹にかけて縦一閃に傷があり、他にも腕や足に切り傷があった。
 幸い、それほど傷は深くはない。血もほぼ止まっているようだ。

「お、あったあった」

 木棚から小さな壺を取り出す。

 山暮らしは生傷が絶えないため、傷に効く軟膏を常備してあるのだ。
 作り方は養父に教わっており、他にも簡単な風邪薬なら材料さえあればつくれる。

(あとは消毒用の酒がほしい)

 律は、床下の倉庫から養父の酒を拝借する。匂いを嗅いでみて一番酒精がきつそうなものを選んだ。

 男の服を脱がせる。

(ずいぶんと手触りが良い布だな)

 水で濡れていたが、それでも充分なめらかだった。律の服とは大違いである。

 そんなことを考えつつ、消毒のために黙々と手を動かした。

 酒を傷口へ注ぐ。しみるのだろう。時折、男が苦悶の声をあげたが、無視して進めた。
 すべての傷の消毒を終えると、ちょうど酒壺が空になった。

 つぎに軟膏を塗る。止血と鎮痛の効果があるので、そのうち痛みもひくはずだ。
 こちらも空になってしまったので、またつくらなければならない。

 最後にさらしをぐるぐると巻きつけ、応急処置は終わりだ。
 大雑把ではあるが、これが今できる限界である。あとは本人の回復を待つのみだ。

 律は男に獣皮の掛け物をかけると、その顔をじっと眺めた。

(うーん)

 養父曰く。鬼と人は相容れぬ存在で、目が合っただけで殺し合いが始まるそうだが、見た目はそう変わらないと律は思う。

 鬼は額に角が生えており、耳が大きく尖っている。対して人間にはそのどちらの特徴もない。
 だが、違いといえばそのくらいだった。

 律は自分の額に触れる。

 鬼と人の混血児である律には角がない。耳は尖っているが、その大きさは人並みである。

 それゆえ混血の忌み子として鬼の里から捨てられたらしいが。
 物心ついたときには、養父と山奥で二人暮らしをしていたので、特に思うところはない。

 ちなみに養父は鬼である。梟の羽角のような角を持つことから、名を鴟梟シキョウという。

(今なにをしてるやら)
 
 律はくたびれた男を思い出して、会いたいなと思いつつ、でも帰ってくるなら数日後にしてくれよと念じた。

(ああ、そうだ。頭巾しないと)

 律には角はないが耳は尖っている。目が覚めたとき、それで大騒ぎされても困るし、用心するに越したことはないはずだ。

 手頃な大きさの布を手に取ると、頭できゅっと結んだ。

(さて、後片付けするか)

 律は空の酒壺にたっぷり水を注ぐと、倉庫の一番奥のほうへしまった。
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