男装少女の武勲譚

窓見景色

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【8】

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 それから数日後、作戦は行われた。

 すでに都付近の宿場町には、通行止めの令を出している。最後に賊が現れた日から計算すると、そろそろ食糧が切れる頃合いだろう。

 律は荷馬車に揺られながら、となりに座る女を見た。笑いそうになるのをぐっとこらえる。

「貴様、いま失礼なことを考えただろう」

 と、野太い声が聞こえた。

 女は女装した佑鎮であった。

「別になにも」
「言っておくが、貴様のほうが――」

 佑鎮はなにを考えたのか首をぶんぶんと横にふっている。
 ちなみに律たちは隣町に嫁ぐ娘で相乗りさせてもらっている、という役どころだ。
 馬車には律と佑鎮、それから数人の護衛役しかいない。御者も兵士だ。

 がたごとと馬車は揺れる。もうかなり時間が経っている。今日は収穫なしかもしれないと思ったとき。

「そこの馬車、止まれ!!」

 男の怒号が響いた。

「命が惜しければ荷を手放せ」

 行商のふりをしている兵士たちは、抵抗する素振りもなく、荷馬車を引き渡した。 

「女連れとは珍しい」
「なんかこいつでかいし、ごつくないか?」
「育ちが良いんだろう」

 佑鎮は顔を真っ赤にしていたが、賊はそれを照れていると勘違いしたようだった。

「よし、女と荷はもらっていく。お前らは後始末をしておけ」

 頭領らしき大男が言った。

 律たちは、賊に包囲されながら山へ入っていく。兵士たちはあとをついてくる手筈になっている。

 着いた先は洞穴に木を継ぎ足したような場所だった。とても家と呼べるような場所ではない。

「俺はこっちをもらう」

 そう言って大男が律の顎を持った。獣臭に顔を背けると、佑鎮が接吻されそうになっているのが見えて、

「おえっ」

 おもわずえずいてしまった。

 あたりがしんと静まり返る。佑鎮は助かったという表情をしていた。

 しかし、自分が侮辱されたと勘違いした大男が、律の髪を引っ張り上げた。

「髪は女の命だと聞くが」

 と、言って腰につけていた剣を引き抜くと、律の髪を切り捨てた。地面にばさりと黒い束が落ちる。

(耳が見える!)

 律はあわてて髪の毛を抑える。髪などまた伸びる。それよりも耳が見えることのほうがよっぽど問題だった。

 というか、助けはいつ来るのだろう。視線を彷徨わせていると、

「お前たちの護衛なら今ごろ川底に沈んでいるだろう」

 と、大男が言った。

(なんだと?)

 手をひとまとめに拘束され、服の中に手が入れられた。足を撫でられる。男の顔が目前に迫ったところで。

「ふん!」
「ゔがっ!」

 律は男の顔に頭突きを喰らわせた。拘束が緩んだ隙にその顎に向かって拳を振るった。男はよろめき、地面に膝をつく。

(待つ必要がないなら打って出るまでだ)

 佑鎮も我慢の限界がきたのか、空拳で賊をつぎつぎ落としていた。

「女ァ! 調子に乗りやがって!!」

 頭領は熊のように図体がでかいこともあり、殴っただけではあまり効いていないようだった。
 おまけ剣を振り回しており、とても間合いに飛び込めたものではない。
 身をのけぞらせて躱すが、別の賊が加勢にきて、足を斬りつけられる。

 律が体勢を崩したそのとき。

「悪鬼!」

 剣が投げてよこされる。律はそれを受け取り、大男を斬り捨てた。

「はあはあ」

 大男が倒れ、地面に血が広がる。頭領が倒されたのに気づき、他の賊たちは覇気を失ったようで。
 それから佑鎮と二人で拠点を制圧するまで時間はかからなかった。

 すべてが終わった頃、ようやく救援が到着する。足止めをされていたらしく、突破するのに手間取ったらしい。

 佑鎮が部下に指示を出してから律のもとへやってくる。

「貴様、さっさと手当をしておけ」
「問題ない。かすり傷だ」

 足をぶらぶらさせる律。兵士の中で浮いている律は薬すらもらえるか怪しかった。
 その証拠に棒叩きで受けた傷に塗る軟膏をもらおうとした時は門前払いだった。

「ふん。勝手にしろ」

 そう言って佑鎮は去って行った。

 その後、楊領主から褒美をもらえることになった。
 山へ帰っていいか訊ねると、それには武勲が足りないといわれ肩を落とす。

 他の望みを聞かれたので、ひとり部屋が欲しいと伝えると、与えられたのは佑鎮の隣の部屋だった。雑魚寝よりはましである。

(疲れた)

 人を斬ったの初めてのことだった。

 生きるために動物を猟るのとは違う。手に感触が残る。

 殺さなければ、殺される状況だった。仕方のないこととはいえ、できればもうしたくないと思った。



 翌日。部屋の前に軟膏が置いてあり、律は首をかしげるのだった。
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