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基礎訓練の後。律は楊領主に呼ばれ、大広間を訪ねる。そこには佑鎮もいた。
丸卓の前に集まっており、地図を眺めて難しい顔をしている。
「ちょうどよいところに」
そう言って手招きをする楊領主。
律は床に膝をついて頭をさげてから机に近寄る。佑鎮は、あいかわらず気に食わないといったふうだ。
「一悶着起こしたらしいな」
顔を引きつらせる律。
(まさか、また罰を受けるのか?)
背中を打たれた傷はまだひりひりする。
「男子が元気なのはよいことだ。しかし、ほどほどに頼むぞ」
「はい」
ふん、と佑鎮が鼻を鳴らす。
ちなみに背中を打ったのは佑鎮だ。この借りは必ず返そうと律は心に決めている。
「近頃、峠に賊が出る話は知っているか?」
楊領主が言った。律はうなずく。
その賊のせいで佑鎮を助けることになったのだ。あの川に流れ着く遺体もその賊とやらが手にかけたのだろう。
見つけた遺体は土深くに埋葬したので、獣に掘り返されることはないと思うが、それでも両手では足りない数だった。
「最近は大人しくしていたようだが、また動き始めた。行商が襲われたのだ」
そう言って、楊領主は髭をなでる。佑鎮は悔しそうだ。
「民も不安がっている。我としてもさっさと捕らえたい」
だが軍を送り込むには峠は細く、賊のほうは戦い慣れしているので、うまくいかないらしい。
「お前は山暮らしであの辺りに詳しいだろう。何か手はないか」
律は地図を見る。
「囮を使うのはどうでしょう? 行商に化けるのです」
「それは以前にも試した」
佑鎮の言葉だ。なるほど、と律はうなずく。
「それは峠の途中で正体ばらしたのか?」
「当たり前だ」
「ではもう一度試してみよう。鼠を叩くにはその根本を見つける必要がある」
つまり、本拠地まで行くのだ。
「ふむ」
楊領主は髭をなでる。
「して、どのように? 奴らも阿呆ではない」
「そうですね。女を使うのはどうでしょうか」
「なんだと?」
反応したのは佑鎮だ。
「婦女子を戦場になど連れ出せるものか」
「女装すればよいのです。佑鎮様は顔が整っているので、着飾れば女子に見えるやもしれません」
「はあ!?」
大声をあげたのはもちろん佑鎮である。ちなみに佑鎮の顔は端正だが、身体はごつい。女装などとても似合わないだろう。
「貴様、ふざけるのも大概にしろ」
「いえ、大真面目です」
「うむ」
楊領主はうなずくと、その作戦でいこうと言った。案外、復讐の機会は近かったようだ。
「そんな! どうかお考え直しを!」
「藁にも縋る思いなのだ」
律は睨まれているが、素知らぬふりだ。
「なら、お前もやれ」
「え?」
「俺だけ笑い物にされるのは納得いかん。お前も女装しろ」
楊領主の笑い声が広間に響いた。
丸卓の前に集まっており、地図を眺めて難しい顔をしている。
「ちょうどよいところに」
そう言って手招きをする楊領主。
律は床に膝をついて頭をさげてから机に近寄る。佑鎮は、あいかわらず気に食わないといったふうだ。
「一悶着起こしたらしいな」
顔を引きつらせる律。
(まさか、また罰を受けるのか?)
背中を打たれた傷はまだひりひりする。
「男子が元気なのはよいことだ。しかし、ほどほどに頼むぞ」
「はい」
ふん、と佑鎮が鼻を鳴らす。
ちなみに背中を打ったのは佑鎮だ。この借りは必ず返そうと律は心に決めている。
「近頃、峠に賊が出る話は知っているか?」
楊領主が言った。律はうなずく。
その賊のせいで佑鎮を助けることになったのだ。あの川に流れ着く遺体もその賊とやらが手にかけたのだろう。
見つけた遺体は土深くに埋葬したので、獣に掘り返されることはないと思うが、それでも両手では足りない数だった。
「最近は大人しくしていたようだが、また動き始めた。行商が襲われたのだ」
そう言って、楊領主は髭をなでる。佑鎮は悔しそうだ。
「民も不安がっている。我としてもさっさと捕らえたい」
だが軍を送り込むには峠は細く、賊のほうは戦い慣れしているので、うまくいかないらしい。
「お前は山暮らしであの辺りに詳しいだろう。何か手はないか」
律は地図を見る。
「囮を使うのはどうでしょう? 行商に化けるのです」
「それは以前にも試した」
佑鎮の言葉だ。なるほど、と律はうなずく。
「それは峠の途中で正体ばらしたのか?」
「当たり前だ」
「ではもう一度試してみよう。鼠を叩くにはその根本を見つける必要がある」
つまり、本拠地まで行くのだ。
「ふむ」
楊領主は髭をなでる。
「して、どのように? 奴らも阿呆ではない」
「そうですね。女を使うのはどうでしょうか」
「なんだと?」
反応したのは佑鎮だ。
「婦女子を戦場になど連れ出せるものか」
「女装すればよいのです。佑鎮様は顔が整っているので、着飾れば女子に見えるやもしれません」
「はあ!?」
大声をあげたのはもちろん佑鎮である。ちなみに佑鎮の顔は端正だが、身体はごつい。女装などとても似合わないだろう。
「貴様、ふざけるのも大概にしろ」
「いえ、大真面目です」
「うむ」
楊領主はうなずくと、その作戦でいこうと言った。案外、復讐の機会は近かったようだ。
「そんな! どうかお考え直しを!」
「藁にも縋る思いなのだ」
律は睨まれているが、素知らぬふりだ。
「なら、お前もやれ」
「え?」
「俺だけ笑い物にされるのは納得いかん。お前も女装しろ」
楊領主の笑い声が広間に響いた。
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