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茨州は混乱の真っ只中だった。
突然、北方民族が攻めてきたのである。
平野にて、すでに戦は始まっていた。
敵はいつのまにか国境にある砦をすり抜け、茨州に侵入していたのである。砦が破られた形跡もないので、本当に突然のことだった。
「増援はまだか」
佑鎮が言った。
「すでに勇州へ早馬を出しております」
「よりによってあいつを頼らなければならんとは」
膠着状態で互いに出方を伺っていた。しかし、軍は少しずつ後ろに押されている。戦況は芳しくなかった。
「佑鎮様!」
伝令が駆け込んでくる。
「勇州から兵士が来たのですが……」
「どうした」
「お、鬼が混じっています」
伝令はさらに衝撃の事実を告げる。
「勇州の増援は、北方に加勢しています」
「なんだと!」
罠にはめられたことを知る佑鎮。
「お伝えします」
「今度はなんだ!」
「敵陣に単騎で駆けていく者が――」
律は戦場を馬で駆け抜け叫ぶ。
「鬼たちよ、人質は解放した!」
四方八方から刀身や矢が飛んでくる。身をかがめ、時に刀で打ち払いなんとかよける。
矢がいくつかで体をかすめて痛みに顔をしかめるが、それでも律は伝えるために叫ぶ。
「もう黒蟒に従う必要はない! 彼らは鴟梟と共に安全な場所にいる!!」
「女たちが無事という証拠は!?」
話を聞きつけ、戦っていた鬼たちがこちらによってくる。
律は、鴟梟から受け取った首飾りを見せる。
「これは長の……」
「鴟梟から預かったものだ。どうか信じてほしい」
「……」
「そして未来のため今だけその力を貸してくれないか」
鬼たちは顔を見合わせると頷いた。律は声を張り上げる。
「敵は黒蟒率いる勇州と北方の連合軍だ!」「おおっ!」
茨州に加勢する鬼たち。そこへ佑鎮がやってくる。
「これは、どういうことだ」
「彼らは黒蟒に操られていたんだ」
いまは味方だと律が話す。佑鎮は律に疑いの目を向けた。
「ということは、やはりお前は鬼だったのか」
律は友に呼びかける。
「佑鎮」
「……」
「わたしを。彼らを信じてくれ」
佑鎮は逡巡したのち、
「お前を信じよう」
と言った。
「……ありがとう」
黒蟒軍は突然鬼たちに反旗を翻され、動揺が広がる。それは兵から兵に伝播していき、またたく間に総崩れとなった。
そこへさらに鬼と茨州軍が追撃をしかけ、戦いの決着はついた。
律たちの勝利である。
その後。黒蟒は捕まり、牢へ入れられた。今回の共謀とかつて勇州にしたことの調書を取るためだ。
それが終わったあとどうなるかは捕らえている楊領主次第だろう。
そして、今日。勇州の新たな領主が就任する。律は佑鎮を見る。
「おめでとう」
「……ああ」
佑鎮が深く礼をして返す。
「お前は山に帰るのか」
「いいや。あそこには戻らない」
「なぜだ?」
「こっちにも色々あるんだよ」
律は兵役から解放されたのでそう思うのも当然だろう。
新たな長に、という声もあったが、混血であることを理由に断った。鴟梟という律よりも適任な者がいたのだ。
これは戦のあとに知ったが、鬼の里は勇州の領地内であった。
「ところで佑鎮。兵士を募集していたりしないか?」
佑鎮が訝しげにこちらを見る。律は続けて話す。
「お前は鬼が山に棲むことを許してくれただろう? だが人間と鬼の溝はまだ深い」
だから橋渡し役になりたいと律が語る。
「どう思う?」
「……まあ、ちょうど信頼できる部下が欲しかったところだ」
「ははっ、よかった」
二人は互いに手を差し出し握手を交わすのだった。
後日。鴟梟が訪ねてきて「うちの娘をよろしくお願いします」と言って、佑鎮の叫び声が響いたのはまた別の話。
突然、北方民族が攻めてきたのである。
平野にて、すでに戦は始まっていた。
敵はいつのまにか国境にある砦をすり抜け、茨州に侵入していたのである。砦が破られた形跡もないので、本当に突然のことだった。
「増援はまだか」
佑鎮が言った。
「すでに勇州へ早馬を出しております」
「よりによってあいつを頼らなければならんとは」
膠着状態で互いに出方を伺っていた。しかし、軍は少しずつ後ろに押されている。戦況は芳しくなかった。
「佑鎮様!」
伝令が駆け込んでくる。
「勇州から兵士が来たのですが……」
「どうした」
「お、鬼が混じっています」
伝令はさらに衝撃の事実を告げる。
「勇州の増援は、北方に加勢しています」
「なんだと!」
罠にはめられたことを知る佑鎮。
「お伝えします」
「今度はなんだ!」
「敵陣に単騎で駆けていく者が――」
律は戦場を馬で駆け抜け叫ぶ。
「鬼たちよ、人質は解放した!」
四方八方から刀身や矢が飛んでくる。身をかがめ、時に刀で打ち払いなんとかよける。
矢がいくつかで体をかすめて痛みに顔をしかめるが、それでも律は伝えるために叫ぶ。
「もう黒蟒に従う必要はない! 彼らは鴟梟と共に安全な場所にいる!!」
「女たちが無事という証拠は!?」
話を聞きつけ、戦っていた鬼たちがこちらによってくる。
律は、鴟梟から受け取った首飾りを見せる。
「これは長の……」
「鴟梟から預かったものだ。どうか信じてほしい」
「……」
「そして未来のため今だけその力を貸してくれないか」
鬼たちは顔を見合わせると頷いた。律は声を張り上げる。
「敵は黒蟒率いる勇州と北方の連合軍だ!」「おおっ!」
茨州に加勢する鬼たち。そこへ佑鎮がやってくる。
「これは、どういうことだ」
「彼らは黒蟒に操られていたんだ」
いまは味方だと律が話す。佑鎮は律に疑いの目を向けた。
「ということは、やはりお前は鬼だったのか」
律は友に呼びかける。
「佑鎮」
「……」
「わたしを。彼らを信じてくれ」
佑鎮は逡巡したのち、
「お前を信じよう」
と言った。
「……ありがとう」
黒蟒軍は突然鬼たちに反旗を翻され、動揺が広がる。それは兵から兵に伝播していき、またたく間に総崩れとなった。
そこへさらに鬼と茨州軍が追撃をしかけ、戦いの決着はついた。
律たちの勝利である。
その後。黒蟒は捕まり、牢へ入れられた。今回の共謀とかつて勇州にしたことの調書を取るためだ。
それが終わったあとどうなるかは捕らえている楊領主次第だろう。
そして、今日。勇州の新たな領主が就任する。律は佑鎮を見る。
「おめでとう」
「……ああ」
佑鎮が深く礼をして返す。
「お前は山に帰るのか」
「いいや。あそこには戻らない」
「なぜだ?」
「こっちにも色々あるんだよ」
律は兵役から解放されたのでそう思うのも当然だろう。
新たな長に、という声もあったが、混血であることを理由に断った。鴟梟という律よりも適任な者がいたのだ。
これは戦のあとに知ったが、鬼の里は勇州の領地内であった。
「ところで佑鎮。兵士を募集していたりしないか?」
佑鎮が訝しげにこちらを見る。律は続けて話す。
「お前は鬼が山に棲むことを許してくれただろう? だが人間と鬼の溝はまだ深い」
だから橋渡し役になりたいと律が語る。
「どう思う?」
「……まあ、ちょうど信頼できる部下が欲しかったところだ」
「ははっ、よかった」
二人は互いに手を差し出し握手を交わすのだった。
後日。鴟梟が訪ねてきて「うちの娘をよろしくお願いします」と言って、佑鎮の叫び声が響いたのはまた別の話。
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