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『世界の意思』からの干渉

エルデ、王都へ 怯みなき視線を前に向けて

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 王都ガングレーバスに向かうことに成ってしまった。




 あぁ…… あれほど、避けようとしていた、私が破滅し殺されてしまう地に、なんで今更向かわねば成らないのよ。 ……でも、どんなに『否』を唱えようとも、それは難しいの。

 いいえ、不可能と云えるのよ。 

 だって、王都の大聖堂からの召喚状。 もっと言えば、教皇猊下の思し召しなのよ。 教会で『神籍』を有する、”神官”である者には、絶対に拒否出来ない相手なのよね。 それが、たとえ、お金で買った階位と云われる『第三位修道女』であったとしてもね。

 出立の日を決めて、準備に入るの。

 王都大聖堂からの召喚だから、ちょっと行ってすぐ帰るって事にはならないわ。 何かしらの会談とか、確認とか、色々とあるらしいわ。 心配して下さっている大司教様が色々な『伝手・・』を駆使して、王都大聖堂の状況を探ってくださっているのよ。

 大聖女様からそうお聞きしているわ。 大聖女様にしても、御手回りをお手伝いしていた私が、このアルタマイト聖堂から王都へと行ってしまうと、少々お困りに成られるのかもしれないわ。 だんだんと、元気のなくなっていく大聖女様にどういっていいか、判らなくなったんですもの。



「エル。 王都大聖堂へ行ったとしても、貴女は貴女なのですよ。 その事はよく理解しておきなさい」

「はい、聖修道女マルエル様。 大聖女様の御様子が少々気掛かりです」

「そうね。 大事な貴方が、まるで大聖女様の身代わりの様に王都に召喚されたのですもの。 あんなに、大聖女様の影響力を削ごうとしていた大聖堂なのに、いざ大聖女様が隠居されると、王都大聖堂の薬師院がまともに動かなくなって、此方にまで『合力』依頼がくる始末なのよ。 快く合力されていたのに、そんな大聖女様の大事な貴方をあちらになどと…… 気落ちされているの。 でもね、ちょっと、わたくしが『良いお話・・・・』を、して差し上げたわ。 きっと、気持ちを高めて下さる筈よ」

「ええ…… はい…… だと、いいのですが……」

「大丈夫よ、任せてッ!」



 軽くウインクして私を茶目っ気たっぷりの笑顔で見詰めてくる薬師院の聖修道女マルエル様。 何の『お話し』を、したのかしら? 妙に ” 自信たっぷり ” の笑みなのよ。 その後、薬師院に顔を出したら、聖修道女マルエル様の仰る通り、大聖女様が俄然やる気をお出しになられていたの。 ほんと、何のお話をされたのかしら?




  ―――― § ――――




 勿体ない事に、大聖女様は、私の王都行きの為の装束やら装備やらを整えて下さったの。 移動用の修道女装束とか、頑丈な革のブーツとか、祈りを込めて下さった『 聖丈・・ 』とか…… 本当に、色々な『モノ・・』を準備して下さったわ。


 その際たる物が『地図・・』と、『挨拶状・・・


 リッチェル侯爵領から王都までの地図よ。 王国南部を貫く、ベルクライス街道を通り、王領へ至る道。 途中にある領地の詳細とか、街、川、橋、危険地帯、徒歩でのおおよその時間まで書かれていたの。 

 別紙に旅程の途中に有る領地の領主様達の一覧とか、その領の領都名前とか、領都にある聖堂の位置とかが記載されていたわ。



「アルタマイトから王都ガングレーバス迄の間に八家の領地を通り抜ける。 各領都には聖堂があり、其処には勿論薬師院もある。 ここに紹介状をしたためて置いた。 私の名代として、ご挨拶をしてね」

「はい、大聖女様」

「それから、同じく十六有る小聖堂の司教にも、挨拶状をしたためたわ。 こちらも、宜しくね」

「は、はい…… 承知しました」

「王都は遠いの。 急いでいく事は無いわ。 いくら、大聖堂からの召喚とはいえ、期限は綴られていないような、ふざけた召喚状には、相応の対応でいいのよ。 ゆく先々で困った事が有れば、各地の教会をおたずねなさい。 大体三十二程、リストに載せておきました。 ちょくちょく合力をお願いされる場所よ」

「つまりは…… 薬師が足りないのですか?」

「ええ、そうね。 民は病み、傷つき、倒れる。 教会はそれを癒す場所でもあるのよ。 神様の思し召しである事の一つ。 この国に住まう、全ての民が安寧に心安らかに暮らせることを、神様は望んでお有られるのですから」

「理解しております」

「神の御手先であるわたくし達は、その役目を負います。 此処に、一冊の書が有ります。 コレを、エルに差し上げましょう」

「有難く…… これは?」

「ええ、考課簿・・・と呼称される物です。 まぁ、貴女がどれ程の研鑽を積んだかを、示すもの。 挨拶状と共に、各地の神官達にお渡しなさい。 貴女の成した事を彼らが記載してくれます」

「はい、有難く」

「宜しくて、絶対に無くさないように。 王都大聖堂の薬師院に到着したら、その別當べっとうにに、私の挨拶状と共に渡しなさい。 あちらでも、きっと、考慮に入れてくれるはずですから」

「はい…… そのように」



 なんだろうなぁ…… どういう事だろうなぁ…… 大聖女様がとってもいい顔で、そのノートを渡して下さったのよ。 それと、どっさりの挨拶状。 正式な大聖女様の挨拶状だから、粗略には出来ないもの。 きちんとした書類挟みと、保管箱を用意して背嚢の底に格納したわ。

 王都に行くとなると、相応に必要となるモノもあるの。

 薬師院に配属されている私は、薬師の免状もまた保持しているのよ。 ただし、第五級薬師。 まぁ、お手伝いに仕えるよ、くらいな階位の免状だけど、無いよりはまし。 それに伴い、携帯必須なモノも有るのよ。 それが、薬師の巻物スクロール。 お薬を生成する『レシピ』が綴ってあるもの。 標準的な調合杯率が綴られているわ。 必須携帯巻数は、五巻。 

 まぁ、大聖女様がご褒美に下賜して下さったモノが五十巻以上も有るから、その中から厳選して、重要な薬品が記載されている巻物スクロールを十巻選び抜いて、持っていく事にしたの。 準備は着々と進み、最初は小さかった背嚢が段々と膨れ上がってきたのよ。

 もうね…… 

 ほんとに、もうね……

 みんな…… 過保護すぎて、私が反対に辛くなっちゃうわ。 


  ――――― § ―――――


 ようやく準備が整い、出立の日が来た。

 足取り重く、教会の門前に行く。 門前には何故か、大勢の神官様達が佇んでおられた。 皆様何故か、ホッとした顔をされ、街の大通りを行く豪華な馬車を見詰めれらていたの。


 ――― あぁ、そっか、も今日出立だったわね。


 ええ、王都の『聖女様・・・』を導くために、王都大聖堂を含め、全国の聖堂に『導師』と成る方を探して居られたって、噂になって居たモノね。 大々的に、周知されて、それこそ蜂の巣をつついたような騒ぎだったわ…… でもまぁ、決まったみたい、

 あの『託宣ハングアウト』が決め手になったって…… 童女仲間アコライト仲間が囁いてたなぁ…… つまり、ジョルジュ=カーマン導師が選ばれたって事ね。 まぁ、『記憶の泡沫』も、そうだと云っているし、順当な人選なんだろうな。

 だって、『託宣《ハングアウト》』を受けた、『導師・・』様なんだものね。 でも、あの豪華な馬車は、教会が用意したモノじゃ無いわ…… あんなの、大司教様でも乗っていらした事無いもの。 ん~~ どこかの高位貴族家からの迎え?

 リッチェル侯爵家から?

 領都の御邸には、あれほどの馬車は無かったわよ? 王都から直々に? 凄い待遇ね。 きっと、護衛もお供もたくさんいらっしゃるんでしょうね。 ふーんだ。 わたしは、歩きだよ……



 大清浄様を筆頭に、薬師院の皆さん、孤児院の皆さん、貧窮院の聖修道女達、修道士の皆様も見送りに来てくれたわ。 いっぱいの荷物を背負い、私にはまだ長い『聖丈』を携え、皆様を見詰めてから大きく頭を下げる。



「皆さん、ありがとうございました。 行ってまいります」

「行っておいで。 そして、また帰っておいで」

「はい!」








 踵を返し、大きく足を踏み出して、王都への道を行く。

 行きたくは無いけれど、行かなきゃならない。

 だったら、自分らしく。

 第三位修道女エルとして、胸を張って……






     『運命』になんて、怯まずにッ!






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