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出会いと、お別れの日々 (2)
そして、エスカリーナは光芒の中に消えた(4)
しおりを挟むその泊地に居たのは三週間。
本当に沢山の人が居たんだ。 よくぞここまでって思っちゃった。 もうすでに、「町」なんだもの。 お店は無いよ、でも、船を動かす為の人達が生活できるようになってたもの。
被服廠、造修廠、糧秣炊飯廠、治療所…… あちらの名称なんだって。 服を作る場所、お船や武器を直す場所、お食事を作る場所、そして、治療院の事なんだって。 艦隊を維持する為に必要とする施設が、全部あったのよ。 お船八隻分の人の為の町。 そんな感じなの。
いったい、いつからなのかしら。 こんな大規模な泊地を作っているなんて…… それも、大規模幻覚魔法で偽装してたって…… 侵略行為に当たるわよね、これって…… でも、港町フルーザの人が誰も知らないなんて事は、あり得ないわよね。
誰が手引きして、誰がその偽装に手を貸していたのか……
脳裏に浮かんだのは、フルーゲル=エストの街。
なにか、あの場所には秘密が隠されているって、そんな感じがしてたもの…… だって、娼館への御客様以外「よそ者」を、極端に寄せ付けなかったもの。 往診だって、あちらの指定した時間、指定した場所だけなんだよ?
おばば様のお薬だって、一括して纏めて納入するんだよ?
なにか有りそうなのは、判ってたけど…… でも、そんな闇の部分も、街には必要なんだよって、おばば様も仰ってたし…… おばば様も利用されてたのかなぁ……
なんか、嫌な話だね。
^^^^^
一番大きな船は、ルーケルさんが仰ってたように、あちらの御国の一番大きな戦闘艦。 名前が「ケルベルス」だったわ。 でも、お船の後ろ三分の一が吹き飛んでるから、直しようが無いって、仰ってた。
魔力暴走って怖い……
あんな事になるんだと、思わず身震いしたわ。 その壊れた「ケルベルス」が停泊していた岸壁には、大きな建物が建ってたの。 木造だけど、しっかりしたものよ。 でもそれも半分くらいは、崩壊してたの。 まぁ、魔力暴走の余波で、崩壊しちゃったって事ね。
重傷者の大半が、その建物で働いていたのは事実。 そして、そんな彼等は高級指揮官って事だったの。 水兵さん達は各船に乗っていてね、其処まで大怪我をした人たちは居なかったわ。 魔術師は別なんだけどね。
魔力暴走に置いて一番怖いのが、魔力放射なんだって。 おばば様に聞いたんだ。 ハトの便りを使って、連絡を取り合ったんだもの。 だって、魔術師さん…… 機関魔術師さんとか、竜士の人とか、魔装兵ていう、攻撃を主体にする魔術師さんみたいな、魔力を多く持って、強力な魔法を展開出来る人達が、軒並み意識不明になっていてたの。
おばば様にその旨を伝えて、治療方法について聞いたのよ。 だって、こんな事知らないんだもの。 治療方法も判らないし……
” 魔力暴走で一番怖いのがそれだよ。 周囲に居る魔術師の魔力を攪乱して魔力酔いに近い症状をもたらすのさ。 それに、あんなに大きな魔力暴走だろ? まず一週間は目を覚まさない。 異質な魔力が身体の中に入って、それを輩出するのに、その位はかかるさね…… まぁ、その間、死なない様に水と流動食を与えるこった。 なにも出来ないからね ”
その答えは、こちらの軍医さんも知って居られたわ。 難しい顔をされていたもの。 出来る手立ては、覚醒するまでは、横たえて状況を監視するくらいしか方法が無いって…… 仕方ないわよね……
せめて、竜士さんの一人でも、早く目覚めないかな…… アジールさん一人で、四匹のワイバーンの面倒を見ているんだものね。
^^^^
あの日から三日くらいしてから、重傷者さんと、なんとか立てる上級将官さん達は、みんなダクレールの御城に連れて行かれたの。 一週間後には、水兵さん達――― 傷の重い人から順に、受け入れ準備が整った、沿岸警備隊の治療院に運ばれて行ったわ。 二週間目から順次、残った人も、損害を受けた船と共に、ブルーザの町とか、近隣の船渠が有る街に向って行ったわ。
今、この泊地に残っているあちらの国の人達は、ほんのわずかな人達だけ。 泊地の警備部隊の指揮官さんと、その部下である、小隊の合計二十人程。 その代り、沢山の人がやって来たの。 主に、南方辺境侯爵、アレンティア家の領軍の人だったわ。
ダクレール領からは、特別に沿岸警備隊に復職したルーケルさんが隊長として二個中隊を預かり、アレンティア両軍の指揮下に入っているの。 何をしていたかと云うと、この泊地の調査なんだって。
私は…… もう、すべきことは全部したから、帰らなくちゃ……
あっ…… でも…… 何処に?
エスカリーナのドレスはあろ「写し身」に着せちゃったし、多分あの爆発でバラバラになってるわよね………… ダクレールの御邸には戻れないよね…… それに、この薬師リーナの姿じゃぁね…………。 泊地の海を見詰めながら、どうしようかと思ってたの。 何時までも、此処には居られないし、どうしよう…………
「薬師リーナ様。 どちらに向かわれますか?」
「あぁ…… ルーケル様。 ……あの わたし…… 何処へ行けばいいのでしょうか?」
「浜のおばば様に…… お伺いを立てた方が宜しいでしょうな」
「やはり、ダクレールの御邸には……」
「内々の話ですが…… 見つかってしまいました」
「何がでしょうか?」
「エスカリーナ様がお召しになっていたドレスだったモノが…… 秘匿事項として、男爵閣下の元に送られました。 その事については、緘口令が引かれました。 特に、ハンナお嬢様には絶対にお伝えするなと。 何度か領都アレステンに帰りました折、私が男爵に直接申し付かりました。 ……私が見つけていればよかったのですが。 残念ながら、アレンティアの領兵が先に見つけてしまいました」
渋い表情のルーケル様。 先に見つけて、隠してしまいたかったと、その表情は語るの。 そうすれば、私は何時でもエスカリーナに戻れると、そういう想いなのでしょ? でも、それは、叶わなかった。 事情を知らない、アレンティアの領兵が、私が着ていたドレスを見つけ、不審に思い上官に相談し、そして、ダクレール男爵に届けられた。 そう云う事なんでしょうね。 軍事施設に、少女のドレスは…… おかしいものね。
「つまり…… エスカリーナは誘拐されて、あの大爆発に巻き込まれた……と?」
「一部見解では、そうなります。 しかし、お召し物を剥ぎ取られ、先に国外に送られたとも……」
「その、考えは、何処から?」
「……文書が出て参りました。 エスカリーナ様は、対、ガイスト=ランドルフ=ドワイアル外務卿への切り札となるとの。 よって…… そのような見解も。 可能性として、エスカリーナお嬢様は生きていると。 どの様な状態であるかは……」
「成る程…… 誘拐した者が卑しい者ならば、慰み者にした挙句、国外に連れ出し、大公閣下への脅しに使うと……」
「はい…… 見つかった文書には、そのような記載が有るのです。 誘拐されてから、十分に脱出させられる時間も御座いましたし…… しかし、そのような目に合っていると、男爵様は考えたくない御様子。 あのドレスを見て…… エスカリーナ様はもう…… しかし、真相は闇の中と云う訳です」
「そして、エスカリーナは、光芒の中に消えた…… という訳ですね…… 理解しました。 おばば様にご相談申し上げます。 どうしましょうか、「百花繚乱」までの足は…… なにか、移動手段を貸して頂けますでしょうか?」
「このルーケルがお届けいたします。 未だ、戒厳令は解けておりません。 よって、わたくしが薬師リーナ様を「百花繚乱」まで、お送りする事になります。 職責の一つです」
腕を水平に挙げ、騎士の礼を取るルーケル様。 はて? 何故に? どういった訳で? たんなる一般人の薬師に対して、その礼を捧げるのは、不適切なのでは?
「何故、そんな待遇なのですか? 馬車なりを用意して頂くだけで宜しいのに……」
「あの混乱の中、無駄な戦闘を回避し、大量の負傷者の一次救護と、証拠を保全する時間をもたらした貴方は、我が国、そして、あちらの国でも、相当に評価されておられるのですよ…… 全軍一致の意見です。 あちらも、こちらも…… そうそう、ダクレール男爵が、お逢いしたいと、そう申されておられました」
仰け反りそうになった。 最初の領軍の評価の話と、そして、ダクレール男爵閣下がお逢いしたいという話に。 両方の意味で聴いてみたの。
「……大丈夫でしょうか?」
「ハンナお嬢様への往診のお願いだそうです。 男爵様は…… あれは、多分御存知ないでしょう。 ハンナお嬢様が、エスカリーナ様をエスカリーナ様として…… そう云う風に、御報告されて居られたようです」
「ハンナお嬢様におかれましては?」
「いまだ、エスカリーナ様の行方をご心配には成っておられますが…… 概ね落ち着かれたようです。 それに……」
「はい」
「どう云った訳か、ハンナお嬢様もまた、薬師リーナ様があの娼館からお嬢様を救出した一隊に居た事に感謝を申し上げたいと、仰っておいででした。 ええ、” 薬師リーナ ” 様に対してです。」
つまりは、偽物の経歴が定着したって事ね。 もう、ハンナさんの中では、エスカリーナと、薬師リーナは別人になったって事…… そうね…… そう云う風にしたのは私だもの…… コレで…… 良かったのよね。
「判りました。 「百花繚乱」に帰ります。 おばば様とよくご相談して、今後の事を図りたいと思います。 有難うございました。 ルーケル様」
「薬師リーナ様…… 今なら…… 今なら、間に合います……」
「いいえ、いいの。 薬師リーナは、民の為に働きとう御座いますから」
「………………御意に」
ちょっと、苦虫を噛んだような表情を浮かべられたルーケル様。 お姫様の様な生活と、薬師リーナの生活は、全く違う。 でも、それは、私が望んだ生活だもの。 庶民として暮らす。
もう、御姫様は居ないの。 王族の落し胤として、見られるのは真っ平なのよ。
だから、コレでいいの。
これで…… いいんだから……
ね、ハンナさん……
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