その日の空は蒼かった

龍槍 椀 

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策謀の王都

おやすみなさい。


 とにかく、お風呂問題は、早急にどうにかする必要に迫られたの。 簡単に言えば、汚れたまま寝るのって、とっても嫌なの。 平気そうなラムソンさんには悪いけれど、どうにか、体を清めてもらう事にしたのよ。


 黙っているラムソン。


 いきなり立ち上がる、私。


 見つめあう、瞳と瞳。


 なんか、ラムソンさん―――  面倒くさそうな光が宿っているわね…… 胡散臭げに見ているのよ。 でもさ、私は許せないの、そんな匂いをくっつけたまま、眠るなんてことは!




 ^^^^^





 えっと、まずは、その辺の箱を組み合わせて、外から見えないようにしたの。

 私は、ほら、自分のお部屋っぽい場所もあるし、あそこの水場を使ったら、いい訳だし…… でも、ラムソンさんと共用するなんて事は出来ないわよね。 こ、これでも、嫁入り前の娘なんだからねっ! 

 箱で囲った場所に、二つの魔方陣を書いたの。 私の「闇属性」の魔法でね。 いや、別に属性魔法ってわけじゃないのよ。 ただ、書きやすかったからなんだけどね。 書いた魔方陣の一つは、【温風ポーシスエア】の魔方陣。 下から吹き上がる様になるの。 天井が高いから、上には書けなかったけれど、これで、体は乾かせるからね。 男の子だし、専用に髪を乾かす様な魔方陣はいらないかなっておもったの。

 もう一つ…… 【洗浄クリーン】を使うのもアリなんだけど、それじゃぁなんかラムソンさんが物みたいでね。 それは、嫌だったの。 なんか無いかと、ポーチを漁ると、指先にコロンとした感覚があった。 そうだった、コレがあったんだ。 

 青スライムの核。 ほら、森とか湖沼とかで、時々出会う魔物の青スライム。 ルーケルさんからのご指導で、山刀でコアを狙えるようになったんだけど、青スライムのコアってね、錬金術の素材に成るのよ。 水回りのモノを生成するときに混ぜると、とても効果が安定するの。 その上、コアの一部に手を入れると、かなりの性能を引き出すことが出来たりするわ。

 で、ポーチの中に入れていた、このコア…… 討伐するときに、新鮮な状態で保存できないかなって考えて、【捕縛キャプチャー】の魔方陣で掴まえて、【乾燥ドライ】の魔方陣で水分を抜いっちゃったの。 見る間に縮んで、コアだけになって…… そのままの状態を保持して、「百花繚乱」に帰ってから、おばば様と二人して弄ったの。 

 まぁ、特別な訳よね。 その性能はね。 いっぱい作ったから、ポーチの中にはたくさんあるんだけど、今は一つだけでいいや。 もう、魔物とは言えない位の弄ったから、水と合わせても、襲われることは無いしね。 そのコアと、小さな魔石の欠片と、薬草を少々…… それと、薬草を焼いた灰も…… 錬金魔方陣を紡ぎ出して、水と一緒に上から投入。 


 チャカポコ、

 チャカポコ、




 魔方陣の下から、想定通りの、浄化スライムの円筒が出て来たんだよ。 よしよし。


温風ポーシスエア】の魔方陣の魔方陣の奥側に、単純な【重量検知ウェイデテクト】と【起動アクテヴァイト】の魔方陣を書いて、その上に浄化スライムの円筒を、置いたのよね。

 高さは、私の首位迄だし大丈夫よね。 




 完成…… 簡易野外風呂、青スライム仕様。





 ^^^^





「あの、ラムスンさん」

「なに」

「体を綺麗にしましょう」

「必要ない」

「……むぅ。 あなたは必要ないかもしれませんが、私には必要な事です」

「お前が何を作ったかは知らねぇけど、それは、人族が使うものなのだろ…… いらねぇ」

「……人族だけではありません。 亜人族の人にも有用です」

「見た事ないね」

「森では水浴びはしませんの?」

「清浄な泉はとても貴重な場所。 体を洗うなんてもっての外だ」

「いや、その、なんです。 その、女の人も?」

「母ちゃんや、姉ちゃんは、水を含ませた布で体を拭いていた」

「男の人は?」

「別に…… たまに雨が降るから、それだけだ」

「むぅ!」

「必要ない」

「必要です!」

「何故?」

「主に体表に着いた汚れからの疾病対策です。 いくら強い毛皮が体表を覆っていても、ノミ、ダニ、寄生虫が居れば、いずれ病を患います」

「その時には、薬草を噛めばいいんだ」

「むぅ!」

「お前に何の得があるんだ? どうして、そこまでする」




 言いたくなかったんだけど、仕方ないよね。 このままじゃ、いけないものね。




「……………………臭いんですよ。 一緒に此処でお仕事するんだから、綺麗にしてください。 なにも難しいことを言っているわけではありません。 ただ、服を脱いで、あの箱に囲まれた中に入って下さるだけでいいんです」

「…………   !?   …………」

「獣の匂いとか、そういった意味ではありません。 皮脂が饐えた匂いなんです。 洗えば取れます。 身嗜みです。 貴方の為とか言ってごめんなさい。 主に私の為です。 その饐えた匂いには、我慢がならないのです」

「…………そ、そうか」

「考えてみてください。 貴方が探そうとしている魔術師さんに、お逢いした時の事を。 貴方が想像している通り、その魔術師さんがエルフ族なり、人族だったとします」

「あぁ……」

「まず間違いなく、云われますわよ? ” 臭い ” って!」

「ウムグググ…… そ、そんなに匂うのか?」

「ええ、はっきりと。 だから、洗ってください。 中に入ったらいいだけです。 出来れば、少し屈んで、頭まで入ってください。 さっき倒れられたときに、膝に頭をのせてましたが、服に匂いが付いてしまいました。 後生だと思って…… お願いです」

「……………… ……………… ……………… 判った」




 よし!!


 言質は貰った! 




「お着替えは、ベッドの上に置いておきます。 中に入ったら、脱いだものをこっちに渡してください。 それも、洗います!」

「…………判ったよ ……もう、好きにしてくれ」




 積み上げた箱の向こうに消えたラムソンさん。 ガサゴソ音がして、ぬっと手が出てきた。 脱いだ服をひとまとめにして、こっちに投げて来た。 べ、別にいいけどさっ! 私の云った通り、進んだのね…… かなりの悲鳴が聞こえたの。





 *******************************




 蒼いオーバーオールと、コットンのシャツ。 ベッドの上に置いておいた。 そういえば、長い事、コレ着てないなぁ…… 大きさは、だいぶ大きいから、大丈夫だと思うし、ラムソンさん、私より華奢だし…… なんか、思ってて凹む……

 私は、彼の汚れた服をもって、自分の部屋に行ったのよ。 最初にしたのが、 【洗浄クリーン】の魔方陣を描き出して、ラムソンさんの服の洗浄。 イヤァァッァァ! めっちゃくちゃ、汚れてる!! 完全に綺麗になるまでに、三回もかけ直したわ!! ホントに、どれだけ汚れてるのかしら…… ほんとにもう!!

 自分も…… いいや、水浴びして、 【洗浄クリーン】掛けて、さっぱりしたぁ~~ あとは、眠るだけね。 そうだ、明日の事を聞いておかなくちゃ!!

 ラムソンさんのベッドの方を伺うと、丁度着替えが終わったらしかった。

 ちょこちょこ、歩いて行って、綺麗にした服を渡しながら、聞いてみたの。




「朝は…… どんな感じなんですか?」

「……あぁ 餌をもってやって来る。 いつも【電撃】喰らって、たたき起こされて、餌のバケツを置いたら、消える」

「……酷いものね。 しっかり【施錠】したから、入ってはこれませんから、しっかり眠ってください。 そうですね、朝ご飯は、また私が取ってきますから、それを頂いてから、お仕事のお話をしましょう」

「おい、……なんだ、アレは? 暗くて良く判らなかったが、お前の言う通り進んだら、何かに取り巻かれて…… しゃがめって言われたから、ちょっとしゃがんだら、頭まで取り囲まれて…… 水?なのか?」

「改変した、青スライムです。 体の汚れを落とし、食べてくれます。 薬草も入っていますから、沐浴代わりに使えます。 おばば様と野営の時のお風呂に使えないかと、試行錯誤したモノですわ。 どうでした?」

「……い、いや まぁ…… その…… なんだ…… き、気持ち、よかった」

「それは重畳。 毎日使ってくださいね」

「……そ、その なんだ。 毎日か?」

「ええ、毎日です。 今のラムソンさんからは、とても良い香りがします」

「…………そ、そうか」

「では、お休みなさい。 また、明日!」




 よし、これで、快適になったわ。 饐えた匂いを嗅がずに済むものね。 明日から、本格的にお仕事しなくちゃね。 薬草の入った箱、ほんとにいっぱいあるんだもの。 


 今日は、一日で、いろんな事があったわ。

 ドワイアル大公家に出向いて、お礼申し上げた事。

 本当に久しぶりに、ミレニアム様にお会いした事。

 王宮薬師院の呼び出しに応えて、この外局に来た事。

 いきなり、第十三号棟に厄介者として、放り込まれた事。

 ラムソンさんと出会えた事。

 美味しい食堂を見つけた事。





 同年代の男の人と…… 同じテーブルで……
 二人っきりで、晩御飯を頂いた事……




 ほんとに、色々あった。 


 疲れたわ。


 眠ろう……





 ”「闇の精霊」ノクターナル様。 今日一日を有意義に過ごせました事、感謝申し上げます。 明日も、今日以上に薬師の使命を全うする為に努力いたします。 安らかな眠りに、導いて下さいませ。 おやすみなさいませ ”






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