その日の空は蒼かった

龍槍 椀 

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学院での日々

重き願い。 絡む思惑

 


 モンモンと、そんな考えにとらわれている私の背後に人の気配がするの。 ラムソンさんが私の後ろに立ったのよ。 遠慮してたか、まったく気にしてなかったのか、それまでは、ラムソンさん ベットの方に居たのにね。

 テーブル周辺の、おかしな沈黙と緊張の糸を感じたのか、彼が来ちゃったの。 まるで、私の護衛騎士のようにね。




「この人は、お前のローブの背中に縫い取られている、「薬師錬金術士と、お前の紋章」の事を言っている」




 えっ? なに突然 言い出しの? あのローブは、おばば様から頂いたものよ? 紋章は私が縫い取ったものだけど。 それがどうしたのよ。 ラムソンさん、なにか…… 判ったの?




「この人は、お前に魔法を教えてほしいんだろ。 そう聞こえた。 お前と商工ギルドに行ったとき、ギルドの奴らが話していたのを聞いた。 薬師ならば、この街にも何人もいるが、薬師錬金術士の称号を持つ者は居ない。そして、薬師錬金術士は、錬金釜なしで薬を錬成出来る者だとな。 そんな事を言っていた。 ある意味、最強の魔術師だとな」




 えつ? そ、そうなの ラムソンさん? その上、彼女の言葉を聞いただけで、そんな事判ったの? そりゃ、耳がいいのは知ってるけど、私たちのお話、聞こえてたの? 私の方を見つめていた、ロマンスティカ様が意を決したように話し始められたの。




「確かに、そちらの方のご指摘の通りに御座います。 お恥ずかしい話ですが…… わたくしの先生は、色々と問題のある方なのです。 詠唱をもって、強力な攻撃魔法を使われる方なのですが…… その、わたくしは、攻撃魔法は………… でも、先生は攻撃魔法しか…………」

「ニトルベイン大公令嬢様は、攻撃系の魔法以外の魔法をお使いになりたいのですか? 「光」属性ならば、錬金魔法も使えますが…… 賢女ミルラス=エンデバーグ様の様にですか? あの方も「光」属性であったが故にですか?」

「はい。 わたくしも、王宮薬師院、特別顧問であらせられた、賢女様の様に、生き物を傷つけるような魔法を使いたくはございませんの。 王国の歴史を紐解くと、賢女様は王国の民の安寧の為にそのお力をお使いになったとあります。 幾多のポーションの発明、疫病に対しての特効薬の生成。 何よりも、錬金魔法の研鑽。 あの方の前半生は、良く判っておりません。 私は思うのです、男性の様に戦場に立ち戦かう事も、冒険者の様に魔物を倒すような事も無く、一心に慈しみの心をもって、錬金魔法を高められたと。 戦場働きなど……わたくしには出来ますまい。 その様な事はわたくしには無理にございます。 ……しかし、今の先生からは、攻撃魔法しか…… だから……」




 そうなんだ。 おばば様は、獅子王陛下とご一緒に戦い抜いた、戦い以降、一切戦いには出ておられない。 もう、戦場は御免だと、そう仰っていたわよね。 王宮で陛下のお側勤めを始められた後は、一切の「攻撃魔法」を封印されたと、仰っていたものね。 きっと、その事を仰っているのよね。


 王都の貴族共は、おばば様の功績を隠そうとしてた筈だものね。




 市井の小娘おばば様を、戦場に駆り出し、心を磨り潰す様な戦野に留め置いた事なんか、記録するはずもないものね。




 だけど、実際 おばば様は、そんな方じゃないんだけどね。 弟子を鍛える為に、魔物さんがウジャウジャ居る所に放り込むような人だよ? そうね…… そうだよね。 おばば様は、無駄な戦いは望まれないものね。

 でもね、魔法を教えてほしいって言われても…… そんな事したら、完全に学院の制限を逸脱しちゃうもの…… いくら、ご要望があっても、こればかりは…… 少なくとも学院内では無理ですわよ。

 何も言えない私。 ここで、安易にお返事してしまったら、私だけでなく、この高位の貴族令嬢様まで、何らかの不利益を受けてしまうかもしれないし。 困惑の表情を浮かべて、彼女達をみていたの。 口ごもる私に、ロマンスティカ様が、さらに驚く様な事を口に出された。




「出来れば! …………その、あの……  薬師リーナ様。 どうぞ、わたくしの事は、ロマンスティカと…… いえ、ティカとおよび下されば嬉しいのですが」




 ほえ? 私に貴女の愛称を呼べと?




「で、では! わたくしの事は、シアと!」




 えっ?なに、今度は、ミストラーベ大公令嬢、ベラルーシア=フォースト=ミストラーベ様?!  一体何が起こっているの!?!? のめり込む様にお二人がテーブルから身を乗り出されるのよ。 キラキラした光を眼に宿しながらね。 困惑がさらに広がるの。 一体何を言い出すの? ホントに訳が分からない。




「薬師リーナ様。 わたくし達は、貴女と友誼を結びたく思っているのです。 愛称をお渡しするのも、その証。 わたくしの事は、アンネと…… そう御呼び頂ければ、嬉しく思いますわ」




 い、いや、待って。 待ってよ! 四大大公家のお嬢様が一般庶民と友誼? どういう事? もう、混乱しちゃって、訳が判らないわ。 突然、そんな高位の貴族様が、私と友誼を結びたいだなんて。

 なんで? どうして?

 アンネテーナ様が、落ち着いた声で、お話を始められたの。 ロマンスティカ様、ベラルーシア様の お二方も、椅子に座り直して、アンネテーナ様のお話に耳を傾けている。 なにか、特別な理由が有るのね。




「わたくしは、父より学院にて、『薬師リーナ様のお手伝いをせよ』と、申し受けました。 辺境の薬師なれど、貴方の民を思う気持ちは、大公家の者と変わらぬ者で有ると。 薬師院に来られるとき、ご推薦された、アレンティア南方辺境侯爵様、元聖堂教会枢機卿、フォーバス=ヅゥーイ=デギンズ伯爵様、ダクレール男爵様、その他 南方域の銘家の方々…… 貴女の成した、民への慈しみを称賛されたご推薦の文言の数々。 父より、その書状を、お見せ頂きました。 感銘を受けました。 身分や階層など、度外視して、友誼を結びたく、そう思いました」

「勿体なく。 しかし、わたくしは、只、精霊様との制約を護る事を第一とした迄ですわ」

「それ故にですわ。 薬師リーナ様。 貴女の御手は、あの地の癒しそのもの。 あの地より引き離すべき方ではない筈。 …………「街道の賢女様」の御名代なのですよね」

「…………どうして、それを」

「父のもう一つの役職故に」

「…………」




 そうだった、ドワイアル大公閣下は…… ファンダリア王国の諜報関連の長でもあったんだ。 国外にとどまらず、国内にもその眼と手は張り巡らされているんだった…… なにもかもお見通しって事なんだ……

 蜘蛛の巣に絡み取られた気分がしたわ。




「お友達になって欲しいの。 いけませんか?」




 アンネテーナ様が、涙目になりつつ、そんな事を口走られる。 庶民である私が、それを受けると、トンデモナイ後ろ盾に成るのは判る。 そして、それが、何に対しての護りなのかも、想像がつく。 おばば様の思惑なのかもしれない。 大公家を味方に付ければ、王家にだって対抗できるかもしれない。

 おばば様だったら、そこまで考えられていた可能性もある。

 それに…… 一介の庶民には…… 拒否権など、在りはしない。




「……お申し出、勿体なく。 わたくしが、お嬢様方の愛称をおよびするのは、差し障りが御座いましょう。 アンネテーナ様、ロマンスティカ様、ベラルーシア様…… 宜しくお願い申し上げます」

「……頑固なんだから。 リーナ様は」




 全くもって、有難く無い友誼を結ぶ事になってしまった。 魔法のお話もなし崩し的に、約束させられてしまった。 まぁ、学院内ではダメとは、お伝えしたんだけれど、それでもいいと仰られたらねぇ…… 先触れは、直接第十三号棟に送るって仰られた。 「礼法の時間」は、出来るだけご一緒する事も約束させられたわ。 

 強引なんだから!



^^^^^



 にこやかに、微笑みながら御三方は、帰られて行ったの。 護衛の方々に囲まれて、にこやかに手を振りながら、お帰りになった。 私は、彼女たちをお見送りして、しっかりと【施錠】したあと、重い足を引きずるようにして、テーブルに戻った。 状況を整理したくてね。 

椅子に腰を下ろしたとたん、どっと疲れが出たの。 その場から、立ち上がる気力すら残っていなかったわ。 テーブルに突っ伏して、隣に座ったラムソンさんの方に顔だけ向けたの。 




「お前…… なんだか、巻き込まれているな」



 フフンって、顔のラムソンさん。 私がこんなに精神的に消耗しているの、初めて見たのかもしれないわよね。 疲れ切ったわ。 殿下のお手紙といい、アンネテーナ様のお申し出といい。 普通じゃないのよ、普通じゃ。 追い込まれ、絡み取られた、哀れな獲物のようね。 半分ほどしか開かない目で、ラムソンさんを睨みながら言ったのよ。




「ラムソンさんにも判る? そうよ…… 巻き込まれて、鎖を付けられ、頸木を掛けれら…… どこかへ連れ出されようとしている…… 碌でもない、沼の様な場所にね」

「それでも、行くんだろ? 命ある者を助ける為に」

「ええ、行くわ。 精霊様と約束したんですもの」

「そうか。 ならば、仕方ないな」

「う~~~。 ラムソンさん」



 連れないんだから! お仕事仲間が困っているのよ。 助けてくれたっていいじゃないの。 精霊様とのお約束が無ければ、すぐにでも辺境に帰りたいわ…… ねぇ、なんとか言ってよ。



「なんだ」



 面白げに私を見ているラムソンさん。 私の事、嫌いなの? そりゃ、貴方の種族に酷い事ばかりしている人族だけどさ。 私は何もしてないのに…… ふっ…… そうだ……




「貴方も、巻き込んであげる」

「やめてくれ」

「嫌よ。 私だけなんて」

「………………仕方ないか」




 肘をテーブルに付き、頬に手を当てたまま、溜息をつくラムソンさん。 彼のその答えを聞いて、私は、テーブルに突っ伏したまま……









 ニンマリと笑ったの。







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