その日の空は蒼かった

龍槍 椀 

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従軍薬師リーナの軌跡

そして、解放される、ジュバリアンの末裔達(2)



 面談しつつ、五十人の獣人さん達全員の奴隷紋を消し去ったの。


【奴隷紋】の魔方陣は、そこまで複雑なモノじゃないわ。 ちょっとつつくと、崩壊するし、強度だって、思ったほど強くなかったし…… ね。 【制限鑑定】を少しだけ緩めてね、各人の特性も確認しておくの…… 良く判らモノも沢山あったけれどもね。

 もう、この人達を縛るものはなにも無いわ。 全員を解放して、彼等の獣人族としての尊厳を取り戻した。 中には人族に対して、物凄い敵愾心を持っている人もいた。 解放した途端、爪を出して来た森猫族さんとか、牙を剥いた森狼族の人とかね。



 甘んじて、その攻撃は受けた。 腕は ” 二回 ” 噛まれた。 



 ラムソンさんが、引きはがしてくれたから、大したこと無くて良かったわ。 シルフィーが怖い顔して私を見ているんだけど、それは、予測の範囲内。 でも、魔法を扱う様な人は誰一人いなかった。 それは、亜人族さん達の特徴なの。

 人族や魔物みたいに、魔法を扱う事には慣れていないものね。




「おい、気を付けろと、言われただろ…… 全く……」




 ラムソンさんも、ちょっとお怒り。 でもね、人族にここ迄ヤラれた人達の心情を思うと…… ね。 そして、皆さんを集め、私は聞いたの。 誰一人残らなくていいと、そう思いながらね。




「皆さんは、コレで自由になりました。 居留地の森に帰る事も出来ます…… 直ぐにではありませんが。 ただ、皆さんがもう奴隷では無いと、それだけは申し上げたいと思います。 王国ジュバリアンの民の末裔。 あなた方は、皆、誇り高きジュバリアンの民なのです。

 一つ、提案が有ります。 強制はしません。 いずれ時が来れば、あなた方は森に帰る事に成るでしょう。 ただ、それまでの間…… 貴方達の ” 力 ” を、貸してもらえないでしょうか? あなた方の森を守る意思を…… 私に……

 衣食住は、第四軍は保障します。 義勇兵として、共に敵の暴虐に抗う者を私は欲します。 勿論、森に帰る未来は…… 私が死なない限り、護りたいと。 精霊様に誓約を掲げたるわたくしが護る、あなた達への「お約束」です。 共に居て貰える方は…… 挙手してください」



*******



 獣人さん達は互いに顔を見合わせ、そして、困惑の表情を浮かべる。 突然、そんな事を云われても、困ってしまうよね。 でも、此処で決めてもらわねば…… 私は…… みんなが森に帰り、笑って暮らせるそんな未来が欲しいの。 強欲なのよ。 じっと見つめる皆さんの顔、顔、顔……



 ――― 兎人族の人が手を挙げたの。




「兎人族の ウーカル って言います。 一つ、質問が有ります」

「何なりと」

「私の親は、人族に殺されました。 姉妹は…… まぁ、そう云う境遇にあります。 もし、助け出せる状況になれば…… 貴女はどうされますか?」

「勿論、救いの手は差し伸べます。 精霊様とのお約束です。 違えるわけにはいきません」

「軍の命令があったとしても?」

「この第四四〇特務隊は…… わたくしの指揮下にあります。 そして、軍とはちょっと違った場所です。 軍令に服しながらも、ある程度の自由度は保っております。 なにより、わたくしの意思を曲げる様な命令は、出ない事に成っていますし、仮そういう命令が出たとしても、わたくしには拒否権が与えられておりますから。 それは、上位組織も認めているところです」

「…………ならば! その未来に! 私の姉妹を助け出せる未来に掛けたい!! 協力はします。 貴女は人族。 嘘つきなのは、知ってます。 でも、でも…… 首に打ちこまれた奴隷紋を消し去ったのは事実。 貴女の言葉…… 今一度…… 人族と云うモノを…… 信じてもいいかと…… 思わせました。 私は、その ” 義勇兵 ” とやらに、参加の意思を示したいと思います!」

「ありがとう…… 信じる事など出来はしませんよね。 わたくしは人族ですものね。 もし、貴女が姉妹を見つけ、その解放を望むのならば、わたくしは全力を持って、応えましょう。 わたくしは、精霊様に誓いを立てている身。 その誓いに沿う事ですから。  信を…… 結べるかどうかは、わたくしの行動に掛かっていると…… そう理解します。 ―――ようこそ、第四四〇特務隊へ」




 一人がそう言葉にした。 兎人族の皆は、顔を見合わせ、挙手する…… 今度はプーイさん。




「なんかよくわかんねぇけど…… 喰って眠れる場所があって、痛くないのか?」

「ええ…… その様に努めます。 ただ…… 状況如何では、戦闘も有り得ます。 痛くないと云うのは、保証出来かねます」

「ふーん、嘘は吐きたくないってのかい? まぁ、そうだろうねぇ…… こっちから積極的に戦うのは…… 守るべきものがある時だねぇ…… ウーカルよ…… こいつに、「 護る価値 」は、有るかい?」




 傍らにいる、兎人族のウーカルを優しく見るプーイ。 でも、言ってる事は辛辣よね。




「プーイ…… 判らない…… でも、姉妹を助け出す手助けをしてくれると、「精霊様」に誓いをたてられた。 誓いを破る人族は一杯見て来たけれど…… この人族は、なんか違うから…… もう一度、信じてみようと思った」



 兎人族のウーカルは、挙手したまま、私の顔を見詰めつつそう、言葉を紡ぎ出したのよ。 コレは…… 頑張らないと! そういう状況になれば、私は全力をだすわ。 きっとね。



「そうかい…… なら、うちは、そうだね…… 穴熊族の巣穴を護ってくれるならって所かな?」

「巣穴?」

「あぁ、森の奥深く…… 魂の帰る場所が有るんだ…… 今は、汚濁にまみれちゃいるがね。 それを取り戻してくれるかい?」

「……その場所を見てみないと、確約は出来ません。 ですが、その意思を示す事は出来ます。 「精霊様」への誓いは、この世界に生きとし生けるもの安寧を護る事ですから」

「……いいねぇ。 とっても、いい。 判ったよ。 ウーカル達と同じだ。 信用はまだ出来ないけど、賭けてみる事は出来るねぇ。 いいよ、うちも、その義勇兵とやらに参加するよ」




 兎人族に続き、穴熊族も五人全員が挙手するの…… なんか、涙が出てきそう…… でもね、やっぱりと云うか、それでもと云うか…… 人族に信を与える事を良しとしない人たちもいる。 特に森狼族の人達。 相当にマグノリア兵と遣り合ったらしいものね……

 彼等の家族を殺し、一族の女性たちに凌辱の限りを尽くした人族を、目の前で見せ付けられた人は…… 無理だよ。 人族を一片も信じる事なんて出来ないわ。 怖い視線が私に集中しているの。 でも、逃げない。 逃げていては、なにも始まらない。




「なぁ…… アイツら殺せる力を貰えるのか?」




 突然、一人の森狼族の青年が口を開くの。




「力…… ですか。 此処は軍ですから、その為の力を得るには、よい環境かと」

「そうか…… 俺にはもう森に帰る理由は無いんだ…… あの時…… 逃げちまったんだ…… もう、帰る場所もねぇんだ…… そんな俺に…… 居場所をくれないか?」

「居場所…… ですか。 もし、貴方が第四四○○護衛中隊を居場所とするなら…… 私は、全力を持って、中隊を護ります。 これで、答えとなりますか?」

「あぁ、十分だ。 今度は逃げない…… いろんな奴らが居るけど、俺は…… もう一度…… 守りたいモノを作りたいんだ…… いいかい?」

「ようこそ、第四四〇特務隊へ。 貴方の未来に光あらんことを」




 私と、森狼族の青年 ――― 森狼族の ツェナー ――― との会話を聞いて、挙手したの人達が五人も居た。 もう、群れには帰れない…… そんな人たちだったみたい……


^^^^^


 真っ白な毛並みの、狐人族の人が挙手するの。 侵しがたい気品を漂わせているの。 なぜ、こんな人が、奴隷になっちゃんだろう…… とても…… 私には理解できない。




「我はナジール。 貴女に尋ねたい義が有る。 良いか」

「はい、なんなりと」

「貴女の信ずる神は、森を愛しているのか?」

「神はこの世界を作りたもうた尊き御方。 愛さない筈は有りません。 悠久の時を経ても、それは変わりないと、そう信じております」

「精霊は…… 森を、愛するか?」

「木、土、水の精霊様の御座所。 それが、「森」と、そう信じております。 愛さぬ訳はないでしょう。 現に、西の禁忌の森には、精霊様の息吹がとても強い。 荒れ果てた、北の荒野にも…… 微かではございますが、精霊様の徴も御座います」

「…………精霊に誓いを立てられたと、そう口にされた。 その精霊様は、どなたか?」

「『闇』の精霊様、ノクターナル様に御座います」

「―――ノクターナル様か。 つまりは『闇』の属性の持ち主と?」

「はい。 左様に」

「ならば、この様に面倒な問答をせずとも、その力を用い、我らの心を縛ればよかろうに」

「「意思」の力はそのようなモノで、縛る事など不可能で御座います。 あなた方の尊厳と、矜持をもって、参加してもらわねば、意味は無い。 わたくしは、そこまで驕慢では、御座いません。 己の正義が、他者の悪と成る事も、存じております。 よって、あなた方の意思を問うている迄。 わたくしの意思が、あなた方の意思と違うならば、いつでも申し出て下さい」

「どこまでも、我らが意思を尊重するという訳か。 そうか…… 判った」




 狐人族の中で五人の人が挙手された。 この言い方…… 言葉の使い方…… もしかしたら……




「ナジールさん。 貴方は…… 神官様であらせられたのですか?」

「遠き昔の事成れば、今は詮索無用」

「はい…… そうですね。 判りました」




 やっぱり…… そうなのかもしれない。 この雰囲気…… 辺境の神官様達によく似ているもの。 強く優しく、慈しみの心を持って、神様に祈りを捧げる…… あの清冽な人達ににね。

 わたしも、可愛がってもらったっけ…… 

 そんな神官様達と同じ感じを受けたの。 その時にね、突然頭の中に声が響く。


 優しい、そして、厳かな声がね。


 左腕のシュトカーナが囁くの。



  


   密やかににね。





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